「INACASA」で再構築する茄子のパルミジャーナ軽やかティラミス幸福豚と珈琲豆

横浜でレストランへと思えばまず、横浜駅の南側、みなとみらい線沿線のみなとみらい駅とか馬車道・日本大通り辺りの所在をなんとなく思い浮かべる。
それに対して、ちょうど一年前、そのお店へと向かうため初めて降りた駅は、横浜駅から反対側の川崎寄りにひと駅目に位置する京浜急行電鉄の神奈川駅。
神奈川県内にそのまんま県の名と同じ呼称の駅が現存することすらよく認識できていませんでした(笑)。

上下ともとても狭い相対式ホーム。
その間を特急電車が轟音とともに駆け抜けていく。
そんな神奈川駅を背にして、
旧東海道に当たるという商店街を通り抜け、
首都高速高架下にもなる第一京浜を辿り、
滝の橋信号を海側へと渡る。

JRの操車場を工場・倉庫群が囲んでいる。
漠然とそんな様子を想像していたら然にあらず。運河近くっぽい空気はあるものの辺りは静かな住宅街。
その角地に目的地「INACASA」の灯りが見えてきました。

「INACASA」のメインステージは、通常7席のカウンター。
その奥に陣取れば、どっしりとした薪窯が目に映る。前日までの予約によるコースは、 ペアリングのワイン付き。
「INACASA」二度目の今宵。
まずは、ブルゴーニュのスパークリング、
「Crémant de Bourgogne 2016」でグラスを合わせます。

削り出した木製の匙に載せた透明つるんのジュレでスタート。塩梅のいい生ハムは、サンダニエーレの23か月熟成もの。
塩辛くなく、その分旨味が自然に伝わってくる。
そんな生ハムで覆うようにその下に、
クリスピーなパン、ニョッコ・フリットが潜ませてある。

お次のフィンガーフードは謂わば、玉蜀黍のピッツァ。シュガーコーンの上に、玉蜀黍のピュレ、焼き玉蜀黍、
そしてキノコやトリュフの粉末やパルミジャーノが飾る。
一体感と薪窯で炙ったであろう玉蜀黍の香ばしさがいい。

最初の前菜は、夏野菜たっぷりの爽やかなガスパチョ的冷製スープ。
パプリカ由来と思わせる鮮やかなオレンジ色。
西瓜を濃縮させたものも織り込み、瓜の青っぽさも夏っぽい。そのスープの真ん中にゴロンと佐島のタコが潜む。
柔らかくかつ旨味のしっかり沁みた蛸の魅力は、
減圧調理によって香味野菜や蛸の出汁をたっぷり浸透させた、
下拵えの手間と工夫の賜物だ。
ルッコラやナスタチウム、檸檬のオリーブオイルパウダーのトッピング。
粉末にすることで檸檬の香りだけを添えるという手法が面白い。
そんなスープに合わせてくれたロゼは「Grayasusi Ceraudo」。
パプリカの風味に野生のベリーのような味わいがよく似合います。

なにやら薄く焼いた円盤状のものを被せたようなものが、
器の真ん中に浮いている。
そこへ若葉色のパウダーが追って振り掛けられた。これが茄子のパルミジャーナだとは、同業者でも判るまい(笑)。
イタリアの郷土料理を再構築した器には、
揚げ焼きした茄子や薪窯の熾火で焼いた茄子が、
トマト、チーズと重ね焼きされたものが収まる。
揚げ焼きした千両茄子も減圧調理で出汁を含ませた煮浸しの進化型だ。
トッピングの円盤はなんと揚げた湯葉。
バジリコに代わる若草色のパウダーはと云えば、
花穂紫蘇と大根をつかった大葉のアイスパウダー。
旨味の凝集した茄子に湯葉のシャクシャク、
大葉や穂紫蘇の風味の三位一体がいい。

お次は、琵琶湖の鮎とズッキーニのパスタ。
鮎の肝を大蒜とアンチョビとに合わせてソースにしていて、
ズッキーニはピュレと刻んだものとを織り込んでいる。
なんせめちゃめちゃ鮎が香って、いやはや旨い旨い。
川魚やその肝のえぐみなんか皆無。
ズッキーニの青みにふと蓼酢や胡瓜を連想したりなんかして。


パスタに合わせてくたワインは、カリフォルニアのピノノワール。
鮎やズッキーニが持つほの苦さを清涼感に変えてくれる。胡麻のパンが焼き立てあっつ熱っ。
でもその熱々が美味しい。
世のパン屋さんはこれが自分で食べたくてパン屋になったに違いない!
なんてね(笑)。

酸の利いたシャルドネのグラス越しにシェフが、
ピンセットを手に四角い皿に正対している様子が映る。届いたお皿が本日のメイン、豚のロースト。
鹿児島の黒豚とイタリアのチンタセネーゼ豚を掛け合わせたという、
ハッピーな名前の幸福豚。
まずは、塩だけでそのハッピーな豚のローストいただく。
うん、旨い。

そして今度は、皿の隅に配されたローストされたコーヒー豆を齧り、
空かさず幸福豚を口に含み咀嚼する。
あれれれ、コーヒーのフレーバーがこんなに豚肉に合うなんて!
ローストした幸福豚の旨味や甘みをさらに引き出し、引き立てる。こりゃいいやと更には、
コーヒー豆を豚ローストにのっけてしまう。
はい、これもまた美味しかったのは、云うまでもありません(笑)。

お肉料理の後には、
ヨーグルトと沖縄のシークヮーサーのソルベットでさっぱり。何気なくトッピングした自然塩がいい。
砂地に柄杓で海水を振り撒く、
あの方法で作るミネラル感たっぷりの塩だ。

ここでやってきたのがボルドーの貴腐ワイン、
「Cateau Violet Lamothe 2016」。貴腐ワインには、蜂蜜のようにがっつり甘いものもあるけれど、
これは若い木の葡萄によるものらしく、フレッシュ感があり、
檸檬のコンポートのような、という例えにぶんぶん頷きます(笑)。

デザートのお皿には、色々なテクスチャのーティラミス。
バナナにナッツの風味にセミフレッド。
まったりと重厚なはずのティラミスの定義をぶち壊して、
あくまでも軽やかなのが痛快にして美味しい。プチフールのプレートには、
フローズンにした横浜醤油のみたらしフィナンシェに
アーモンドのアマレット 新生姜のクッキー。
チョコレートコーティングしているのは、そう、食用の鬼灯だ。

「INACASA」でのひと時のエンディングは、
シェフの奥様にしてワインご担当の彼女が淹れてくれる、
紅茶による安らぎタイム。
台湾の千m以上の高地で有機栽培された烏龍茶。
紅茶製法によるものであれば、それは紅茶?
そんなことをぼんやりと考えながら、何杯もおかわりして、
ゆるゆるとするのがいい感じなのです(笑)。

神奈川県神奈川区神奈川二丁目の住宅地の一隅に「INACASA」はある。オーナーシェフは稲崎匡彦氏。
店名「INACASA」は、”料理人稲崎(ina)の家(casa)”であるという。
成る程、シェフのご自宅に招かれてカウンターに陣取って、
雑談を交わし乍ら、居心地よく手の込んだ料理を堪能する。
立地も店のレイアウトもそのコンセプトを体現したものになっています。

イタリア料理を分解して再構築する過程に、
日本の旬の食材を織り交ぜつつ、
減圧調理機などの最新調理器とアナログな薪窯とを駆使して、
美味しく楽しく興味深くお皿の上に表現してくれる稲崎シェフ。
「ダルマット西麻布」に6年程いてシェフも務められていたそうで、
稲崎シェフの料理はその時にも口にしていたのかもしれません。
また次回、どんな進化や工夫がお皿の上に盛り込まれているか、
今から愉しみです。

「INACASA」
横浜市神奈川区神奈川2-1-1 [Map] 045-577-6500

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手打うどん「庄司」で川島町の田園風景と武蔵野うどん夏のすったて胡麻汁もいと旨し

それは確か、国際免許を取得しようと鴻巣の免許センターへ出掛けた帰り道のことだったと思う。
何故自動車で行かなかったのか不思議なのだけれど、免許センター前から乗り本川越駅へと向かうバスの中。
その車窓に見た光景は、これぞ日本の農村の原風景!と思わず唸るものでした。
広く一面に青々とした稲穂が茂り、ぽつぽつと送電線の支柱だけが点在してる。

なぜか埼玉にして翔んで埼玉だもんねと云われれば、
まぁそうなのかもしれないけれど、
川越の隣町にこんなに突き抜けた田園風景が残っていたなんてと、
なかなかに衝撃的な心持ちで窓の向こうをずっと眺めたのでありました。

そんな川島町(かわじままち)に大人気のうどん店があると聞き、
納車の済んだばかりの車でディーラーから直接、川島町へ(笑)。入間川に合流する越辺川の川岸も近い道路沿い。
駐車場にずらっと並ぶ車の列が目印。
酷暑の下、交通整理のオッちゃんが大活躍するほど、
なかなか盛況の毎日であるようです。

空席を待つ間、硝子越しに麺打ち場を覗いたりする。
そこにはうどん玉が幾つも出番を待っています。丸太をぶった斬って仕立てた椅子が並ぶ店内。
もうすぐそのひとつに潜り込めそうです。

最初のご註文はやっぱり「肉汁うどん」。全粒粉使用であり、ふすまの粒子も手伝って、
やや太めのうどんははっきりとした飴色だ。

豚バラ肉は勿論のこと、長葱、玉葱と具沢山のツユ。
甘過ぎず辛過ぎず、出汁のしっかり利いた万全のツユがいい。そんなツユに飴色のうどんをどぶっと浸して啜り込む。
固過ぎず軟過ぎず、噛めば小麦の風味がふわとする。
嗚呼、旨い、旨過ぎる(笑)。
旨い正統派の武蔵野うどんの店として早速認定だ。

暫し後、裏を返すように川島町を訪れる。
相変わらずの人気振りに待つこと半時間。
調理場に正対するカウンターに滑り込む。調理場では、3基の羽釜がフル稼働。
忙し過ぎる所為なのか、揚げ物メニューは休止しているようで、
フライヤーだけが静観しています。

肉汁うどん、きのこうどん、とろろうどん等の品書きに並んで、
ひと際存在感のあるのが「すったてごま汁うどん」。赤文字で追記のある”B級グルメ優勝メニュー”というのは、
ご存じ「B-1グランプリ」優勝ではなくて、
「埼玉B級ご当地グルメ王決定戦」での優勝であるらしい。

厨房からどんどんホールへと繰り出されるお皿の多くが、
飴色のうどんの上にこんもりと薬味のとんがり山の載るお皿。茗荷に胡瓜、大葉に大根に玉葱。
水に晒していたであろうそれら薬味が細かく千切りされ、
印象的な姿に積み上げられています。

そして、この胡麻ダレが、いい。
赤味噌を含むであろうさらっとコクのあるツユに、
胡麻がたっぷりと浮かぶ。
肉汁同様、出汁の利いたツユがきりっと冷やされている。小麦香る艶っぽいうどんに添える、
夏野菜のシャキッとした歯触りと風味。
すっきりと冷えた味噌と胡麻のコク味のツユとの三位一体が、
成功の秘訣だ。

川越の北側に隣接する田園地帯川島町に、
正統派にして旨い武蔵野うどんの店「庄司」はある。いつもひとを寄せているのが玉に瑕だけど、
茹で上げるにも時間の掛かるうどん店なのに客の回転はいい。
11月~03月の季節メニュー「呉汁」の登場も今から楽しみです。

「庄司」
埼玉県比企郡川島町上伊草743-9 [Map] 049-297-7703
http://www.m-macs.com/33661/shoji/

column/03820