活魚料理「観音食堂」で東丼鰺フライ方々刺に鰯つみれ牡蠣バター此処がかんのん

JR東日本の東海道線、横須賀線に根岸線・京浜東北線、横浜線さらには湘南新宿ラインと多くの路線が乗り入れていて、湘南モノレールの起点ともなっている大船駅。
ぼんやりと横浜市内であるような鎌倉市内であるような気がしていたけれど、どうやら横浜市と鎌倉市の境界にある模様。
2006年に共用を開始したという北側の笠間口を出ると横浜市栄区で、西口や東口を出るとそこは鎌倉市だ。

西口を出ると目に飛び込んでくるのが、大きな観音様の横顔。
大船観音は、曹洞宗の寺、大船観音寺に築造されたもので、
大船のシンボルのひとつになっているという。
駅前を柏尾川が流れ、静かな印象の西口に対して、
比較的賑やかな商店街となっているのが東口側だ。

東口の交番の脇を抜けてすぐの角地のお店の暖簾が気に掛かる。
木造モルタルの二階家の額には、
昭和の懐かしさを漂わすコークとスプライトの広告看板に挟んで、
活魚料理「かんのん」とあります。紫色の暖簾の先、建物左手を眺めると、
ああ、鮮魚店があるではないですか。
活魚料理「観音食堂(かんのん)」は、
鮮魚店が併設する居酒屋のようです。

門前仲町の「富水」を思い出しつつ、
壁沿いの小さな小上がりに上が込み、
おひるの品書きを物色します。「東丼」に「あら汁」を添えて。
ホールの姐さんにそう註文の声をかけました。

成る程、赤身の漬けの鉄火丼という表情ではなくて、
中落ちを含めて鮪の身の端材を大切に上手に寄せて軽く叩いた感じ。
そんな鮪を惜しげもなく満載してくれていて、いい。あら汁もまた具沢山で、
あらがいい出汁のためにあるに留まらない、
素直に嬉しい一杯だ。

別のおひる時には鰺フライ。まだちょっと小振りの鰺の身は、ふっくらとして軽やか。
こんな素朴な鰺フライの定食をふと、
豊かで贅沢なものだと思うのは、変でしょか(笑)。

用事の済んだ黄昏近く、
とうとう「かんのん」で一杯呑る機会に恵まれたのはまだ春浅い頃。ホワイトボードにぎっしりと書き込まれたおすすめ品書きを眺めながら、
まずは瓶の麦酒から始めましょう。

いただいたお造りは「方々」。
淡い桜色の身は如何にも淡泊そうで、
どこか愛想のないようなフリをしつつ、
じわじわっと脂の甘味や淡い旨味を滲ませてきて美味しい。汁物も欲しいなとお願いしたのは「鰯のつみれ汁」。
挽き立てを思わせるつみれはふわっと滋味旨い。

燗のお酒も良いけれど、此処ではコップ酒もよく似合う。ご同輩たちの丸まった背中も、
何処か少し愛おしく眺められてしまいます(笑)。

こんなメニューを品書きに見付けたら思わず註文してしまう。
それは「かきねぎバター焼き」。バターの風味で包むようにほど良く焼いた牡蠣が、ただただ旨い。

鮮魚店営むであろう活魚料理「観音食堂」は、大船駅東口すぐにある。常連さんたちはもとより周辺のみんなもきっと、
「観音食堂」とは呼ばずに「かんのん」と、
短い愛称で呼んでいるに違いない。
そう、大船で「かんのん」と云えば今や、
此処の暖簾のことなのです(笑)。

「観音食堂」
鎌倉市大船1-9-8 [Map] 0467-45-1848

column/03817

定食「美松」で菜種油の牡蠣フライ鰆の味噌焼立田揚げ池袋駅前大通りでこの風情

東京芸術劇場のリニューアルに続いて、そのアプローチともなる公園にも改修の手が入った池袋西口界隈。
愛称とされる「グローバルリンク」はピンと来ないけれど、浮浪者や酔客の姿が目に留まり、切なくも複雑な心境を齎す光景もみられたエリアの様子も変わってきているように映ります。
舞台棟では演奏音を50%だけ反射する反射板などを用いて、屋外では難しいとされるクラシックの生コンサートを可能にした、というのは本当にそう機能するのでしょうか。

そんな西口公園から西口五差路を渡って、
立教通りとの二又を過ぎた辺り。
植栽の陰で何気なく「ごはん」と示す木札のサインが見付かります。池袋駅前と云ってしまってもいいような大通り沿いの舗道にあって、
水盤にも似た睡蓮鉢が涼しさを誘う。
木札の裏側には、「ふくはうち」とあるのが微笑ましい。

ちょうど満席ゆえ、入口の暖簾の裏でしばし待つ。ふと右手の棚を眺めれば、雑誌・書籍が並んでいる。
熊谷守「虫時雨」、水上勉「精進百撰」「折々の散歩道」、
NHK「江戸の食・現代の食」などのタイトルに、
「山手線ひとり夜ごはん」「dancyu」といった文字も並ぶ。

カウンターの頭上を見上げれば、下がり壁に沿って張り出す小屋根。
竹天井には千社札が処狭しと貼られている。これまたふと奥の壁に目を遣れば、器の図画とともに、
「Teishoku MIMATSU」と標す銘板が何気なく、ある。

開け放った扉の暖簾の向こうは池袋の大通り。
焙じたお茶の湯呑みにも何気ない味がある。

カウンターから正面に見据える竹編みの壁に、
その日の品書きを白墨で整然と書き留めた黒板が掛かる。
晩秋に訪れれば、品書きの筆頭はカキフライ。
既に横線一閃で消されてしまっている行もあって、
急に気が急いてくる(笑)。使用している菜種油が国産100%であること。
使っている卵が、白州の平飼いのものであること。
そのことが味のある文字で木札に示されている。
そして、茶碗に盛り込むごはんは、
雑穀米、玄米、白米から選べる。

品書き黒板の縦長な二枚目には、
単品のお惣菜メニューが並んでいる。何気なく「やっこ」を註文すれば、この風情。
右手の先あたりにお猪口がないのが不思議でなりません(笑)。

やっぱり註文んでた「カキフライ」は、
大き過ぎないサイズがジャストフィット。
カラッとした軽やかな揚げ口の衣の中から、
牡蠣の滋味が素直に零れてくる。「美松」の牡蠣フライの特徴は、その揚げ口に留まらず。
ホロホロしっとりと甘いカボチャのフライなんぞを、
合いの手を入れるように用意してくれるのが粋じゃぁありませんか。

別のおひる時には「サワラのみそ焼き」の定食をいただく。西京チックに味噌に包まれて味の沁みた鰆が美味しい。

雑穀米に潜む甘さを探す感じがなんだか妙に嬉しい。味噌汁はと云えば、「カキのみそ汁」への変更が出来たりするのです。

おひるのザ定食的「鶏の立田揚げ」なんて選択もいい。ピュアな菜種油の恩恵をたっぷりと受けているような端正さがある。
菠薐草の小鉢を添えたりするのも秘かな贅沢でありますね。

池袋西口の大通りに面して、粋な定食屋「美松」はある。いや、あった、というべきか。
今度こそは、空席を待つ人にたとえ白い目でみられようとも、
此処のカウンターでひるから呑んでやるんだ!と、
そう思っていたのに、この春、店を閉めてしまった。
今は、3年程前から「美松はなれ」として営業していた、
裏通りの店へと移って、
コロナ禍の最中ながらも盛業中です。

「美松」
豊島区池袋2-18-1 タムラ第一ビル1F(移転前)
https://teishokumimatsu.wixsite.com/teishokumimatsu

column/03816

グリル「おおつ」で見栄え麗しきカツカレーよく炒めナポあれば生姜焼きもある

松本へ向かうルートには、新幹線で長野経由という手もあるけれど、乗り換え不要の中央線特急の方がやっぱり便利。
中央線特急と云えば、それはつまりはあずさ号。
そうすると毎度毎度のことながら連鎖的に想起するのは例の唄(笑)。
あずさ号の偶数号は松本駅発の上り列車に割り振られていて、8時ちょうどに新宿駅を発車するあずさ2号はもうないというのは、夙に知られたことで、今のあずさ2号は、松本駅6時半発の列車となっている。
JR東日本におかれましては、上りと下りの割り振りをひっくり返すくらいの洒落があってもいいのになと時々思ったりはいたします。

国宝松本城の城下町として発展した松本の市街地を眺め遣る。穂高岳を始めとした山並みの連なる飛騨山脈などを望む盆地にして、
中央高原型気候の都市部は、冬はしっかり寒いけれど雪は多くなく、
梅雨時でもカラッとして湿度が低く過ごしやすい。
何処か欧州的気候の風土も感じるところです。

そんな松本の市街地を南北に真っ直ぐ貫く道路、平田新橋線は、
北は、本町通り、大名町通りを経て、松本城へと至る。
南は、栄橋で薄川を渡る。
その手前、通り沿いの長野エフエムの入居するビル近くの横道に、
一軒の喫茶・軽食の店があります。

外観は町並みに溶け込んで実に普通なのだけれど、
一歩店内に歩み入ればなかなかの趣に感じ入ることになる。二階へと吹き抜けるように天井が高く、
シーリングファンの向こうで窓から射す明るさが天井を照らす。
ステンドグラスの傘の彩りがいい。

使い込んだウォールナットのような色味の造作にくすんだ壁。
L字にRを描くカウンターのカーブもいい。 腰壁には厚さの違うサブウェイタイルのような設えがあったりする。
気の利いた避暑地の別荘をデザインするように、
そんな意図で設計されたものなのかもしれません。

初めて開いたメニューから選んだのが、
ポークカレーの「カツカレー」。麗しい揚げ色の衣で横たわるカツ。
お皿を覆うように流しかけられたカレーもシズルを誘う。
まずサラダからと思うのにフォークの先は、
カツとカレーとにまっしぐら(笑)。
うん、いい、うまい。

三面鏡仕様のお品書きの一行に「おおつ風スパゲティ」ってのがある。
どれどれと註文してみればそれは、
ナポリタンにカツを載せちゃった豪華版だ。こんもりと盛りがったナポリタンは良く焼き仕立て。
そのこんもりを更に盛り上げるようにカツが載る。
ベシャメル風ホワイトソースとトマトソースとのWソースも面白い。
いやはや満足満腹であります。

別のおひる時にはシンプルに「ナポリタン」。註文すると空かさず厨房の扉の向こうから、
ガコガコガコと鉄鍋の底を五徳にぶつけるような、
リズミカルな音が聞こえてくる。
フライパンなのか、北京鍋なのは判らないけれど、
ナポちんにも聞かせたい心地いい音だ。
やっぱり、ささっとよく炒めたナポリタンは、美味しいいね。

ナポリタンがあれば、生姜焼きもある(笑)。
豚バラ肉による「しょうが焼き」とは趣を異にして、
それは、ポークソテーの佇まい。
Gingerな風味もっとくっきりが好みなるも、
これまたなんとも満足満腹。
サラダには、店オリジナルのオニオンなドレッシングを。
具沢山の熱々味噌汁も嬉しい限りであります。

松本の市街地の一隅に洋食・喫茶の店、グリル「おおつ」がある。どこか愛らしい外観の内側には、
如何にもゆるりとと過ごせる、
落ち着いた避暑地の別荘のような空間がある。
おひる時には、ゆったりと配置したテーブルやカウンターが、
ゆっくりと埋まってゆきます。

「おおつ」
松本市本庄1-12-1[Map] 0263-34-2406

column/03815