居酒屋「百味」プロぺ店で新じゃが煮鯨竜田揚げと脳裏に残る賑やかさの光景と

所沢駅西口から北の方角へと伸びる所沢プロぺ商店街。
普段のひとの流れはそれ相応に多いけれど、通りの左右に林立するサインが示すのはチェーン店や大資本の銘柄ばかり。
今やどの駅の周辺でも同じような傾向は否めないものの、古くから賑わっていた街には、どっこいインディペンデントな、資本の匂いのしない、個人の個性と胆力で営んでいる店が歴史を刻んでいて、嬉しくなる。

所沢にも僅か乍らそんなお店があって、
その最たる居酒屋がご存じ「百味」だ。マツキヨとカラオケ店の間を降りる階段の脇にはいつも、
墨と朱の毛筆で書かれた「本日のおすゝめ品」の立て札。
それ以外のおススメ品を白墨で示した黒板の並びには、
「地元密着、足かけ五十年、新鮮味安さで」と謳うポスターが、
そっと、でも目に留まるように貼られていました。

貼られていました、と過去形なのは、
特に飲食店を根底から攻め立てているコロナ禍の影響によって、
突然閉店してしまったから…。
なんとも悲しくて切なくて堪りません。

ごろごろっと小振りのじゃが芋がまるのまま入っていた新じゃが煮。お刺身のあれこれも竜田揚げも揚げ出し豆腐も、
がやがやと兎に角賑やかだった店の様子も思い出になってしまった。

黒板のお目当てのメニューは、
ささっと註文しておかないと消されてしまうと焦ったこともある。揚げ焼売も竹輪の磯辺揚げも思い出になってしまった。

ダイビングショップの仲間たちとの宴会は、
一番奥か左手前の、小上がりというには広い座敷に陣地を構えた。揚げ銀杏に素揚げした小海老などなど。
なんだか揚げ物も沢山いただいたけれど、
それももう思い出になってしまった。

「百味」の凄いところのひとつが、
無休にしてひるから通しでやっていたこと。おひる時に牡蠣フライの定食でちょっと呑んでやれ!と、
そう思いついてトントンと階段を下りていく。
周囲のテーブルは当たり前のように既に呑んでいて、
定食を注文すると、お酒は?という顔で二度訊きされたのも、
思い出になってしまいました。

所沢はプロぺ通りの真ん中に、
歴史を刻んだ正統派な大衆居酒屋「百味」があった。気が付けば、所沢駅近くに「百味」があるのが、
ほんの小さく灯る誇りのようなものでありました。
「ひょうたん別館」近くにあったお店も憶えています。
そんな「百味」の突然をとても残念に悲しく寂しく思っている、
先輩諸兄紳士淑女が沢山おられることと思います。
所沢に地元密着の足かけ50年、お疲れ様でした。

「百味」プロぺ店
所沢市日吉町4-3 [Map] 04-2921-0100

column/03811

人形町「かつ好」でロースにヒレ牡蠣にしゃぶ巻き武骨系カウンターでゆったりと

いつの間に名代「富士そば」が四叉路の代表的アイコンとなってしまっている人形町交叉点。
ひる時の行列がひと際目を惹く鳥料理「おが和」の様子を今日もまた覗いてみようかなぁと思って足を向けかけてふと、逆の方向へ行ってみようと踵を返します。
鰻蒲焼の「人形町 梅田」があるのはどの筋だったかなとか、油そばの人形町組は健在だななどと思いつつ、目的地のある路地へと潜入します。

路地の目印は、居酒屋「ポンちゃん」の突出看板。「ポンちゃん」の店前を通り過ぎ、下町ックな路地を往くと、
風景に馴染みつつも凛とした気配も漂わせる建物に辿り着きます。

なかなかな料理屋の風格に一瞬躊躇した後、店内のひととなる。店内の造作の基調は、古民家から排出されたであろう武骨系の古材。
油殿の頭上に置いた排気フードも赤銅色の個性を魅せています。

厨房に正対する1階のカウンターは、6名様限定。
肉厚でガッシリとした天板が迎えてくれる。厨房をちらと覗けば、
恐らく温度の違うであろうふたつの油殿が待機しています。
例えば、豚肉と牡蠣や海老などと、
食材によって鍋を替えているのかもしれません。

まずは、メニューの中心にあるであろう、
「ロースかつ200g」をお食事セットでいただきます。丸く編んだステンンレスのとんかつ網に鎮座したかつは、
肉厚にして端正な佇まいであります。

火を入れ過ぎない、絶妙な揚げ具合であることが断面から判る。まずは塩でいただけば、うん、
期待通りの歯触りと旨味、脂の甘さが口腔に溢れる。
醤油差しをいただいて、山葵醤油でいただくのも好みであります。

一階のカウンターが満席につき、二階へと案内されることもある。二階の造作もまた古材による武骨系を漂わせています。

ひるの限定を謳うメニューに「キャベツメンチ&カレーライス」がある。
二階のテーブル席に陣取って膳を受け取ります。「キャベツメンチ」の”キャベツ” って、
盛り合わせてくれた千切りキャベツのことではないよなぁと、
断面をじっとみる(笑)。
成る程、例えば玉葱の微塵切りとかではなく、
キャベツのシャキシャキっとした歯触りを活かした、
そんなメンチなのであります。

ヒレかつ150gはおのずと四角いフォルムになる。やっぱりカツはロースだよなと、
ちょっと若ぶって自分に言い聞かせるのが常なのだけれど、
段々と大き過ぎない、かつ、ヒレがいい、
というのがしっくりくるようになって参りました(笑)。

「かつ好」のおひるのメニューには「正味一貫」と題した行がある。
車海老に並んで、神帰月~花見月の時季と注釈のあるのが「牡蠣」。とんかつ網の上に末広がりに配された大振りの牡蠣フライ3つ。
やや厚めの衣でしっかりと包み込んで、
牡蠣エキスを閉じ込めた端正な逸品。
火傷しないようにそっと嚙り付けば忽ち三陸の牡蠣が、
正に牡蠣が溢れ出すのもお約束(笑)。
ちなみに神帰月というのは、神無月の翌月、陰暦11月の異称で、
花見月は陰暦3月の異称であります。

「かつ好」には、ロース、ヒレ以外にも創作的お品書きがある。
それは例えば「しゃぶ巻きかつ」。ご想像通り、薄めにスライスした豚肉をそれ相応のサイズに巻いて、
ミルフィーユ状のとんかつに仕立てたヤツ。
いつものロースやヒレとも違う柔らかな食感と溢るる脂がいい。

武骨なるカウンターのセンターやや右寄りに陣取れば、
大将がカツをカツに仕立てる一連の所作が眼前にて眺められる。大事そうに乾かぬように布巾で包んだ肉塊から、
必要な量に相当する厚さに豚肉を切り出し、
竹串の先で引っかけるように保持した肉を玉子液にさっと浸し、
パン粉のベッドへとその身を投げ出す。
決して強からず必要最小限の圧力で全身をパン粉で包み込む。
透かさず油殿へとそっと滑り込ませる。
単純なようでいて、幾つもの手練を含んでいそうだ。

揚げ上がったのは「かろみかつ」。幅のやや控えめなカツにおろし山葵やおろし大根を載せていただく。
こうして軽やかにいただくカツが似合うお年頃に、
いよいよなって参りました(笑)。
そうそう、搾る檸檬は不織布で包んでくれている。
種が落ちなくて、嬉しいひと手間だ。

ちょっと驕って「すっぽんカレールー」を導入するという手もある。そうとなれば、器のご飯にカツを載せて、
カツカレーにしてしまうことをどうかお赦しください(笑)。

人形町の路地裏に凛とした気配のとんかつ屋「かつ好」がある。例えば何れかの「檍」の行列に並ぶのではなく、
ゆっくりとゆったりと旨いトンカツの膳をいただきたい。
「かつ好」はそんな気分によく似合います。

「かつ好」
中央区日本橋人形町3-4-11 [Map] 03-6231-0641
http://katuyoshi.com/

column/03810