米国風洋食「センターグリル」でカキフライに生姜焼きナポリタン健在野毛のアイコン

一時はいっそ此処へ転居してしまおうかとさえ思った野毛の町。
まぁ静かに暮らすには向かないのは誰もが思うところではある。
下町とはまたちょっと違う、ちょっとヤサグレタ空気を悪くないと思った時季があったんだ。
野毛の町中ではなくて、県立音楽堂のある紅葉坂を上がり切った辺りとかもいいのじゃないかとなんとなく考えたりしたものです。

焼鳥「野毛末広」の混雑具合を横目に見ながら、
そうだ、お久し振りに「センターグリル」へお邪魔しようと、
足を向けたあの日。
お店のある区画の角に立つと左手と右手の両方に、
お店の入口を覆う庇の青いテントが見える。右手の店の間口もまた小じんまりしていて、
こちらがつまりは、別館であるようです。
入口の硝子戸に「センターグリル」のエンブレムを飾っています。

コップ立てを兼ねたメニュースタンドを初めて見た。ありそうでいてなかなかお目にかかれないのが、
洋食店のコンソメスープ。
きっと想像以上にコストと手間がかかり、
かつ割と味わいの劣化が早いのかもしれないな。
そんなことを考えつつ、カップのスープをいただいて、
ゆるゆるっとした気分に浸ります。

冬の時季のご註文は、勿論「カキフライ」。ステンレスのお皿が苦手だったオッちゃんは、
今頃どうしているかななどと思いつつ、盛り付けの姿を眺める。
アイスクリームディッシャーを使って載せたポテサラに、
刻み立てを思わせる千切りキャベツとトマト。
そしてお約束の素ナポ。
大きさ丁度よいカキフライは、大サービスの6個盛り。
王道の揚げ上がりであります。

お皿ごとに素ナポがあるのは承知しつつ、
併せてオーダーしてしまう「ナポリタン」。ノーモアアルデンテをそれが基本と実践する。
ニッポンの正しきナポリタンの姿の一端はそこにあるンだなぁと、
そんなことを独り言ちつつ(笑)、
横に持ったフォークをくるくる駆使してペロンと平らげるのです。

それから二か月後にふたたび、今度は本館の方へお邪魔する。なんのことはないのだけれど、
異国情緒をほんの少し帯びた佇まいがいい。
カップのスープは、ポタージュにしましょう。

カキフライ、ナポリタンに続くお目当てはやっぱり「しょうが焼き」。鉄のフライパンをガコガコして手早く炒め焼く、
そんな厨房の様子が容易に想像できるよなロースの生姜焼き。
おろし生姜の利きも程よく、
なによりちまちましていないのがいい。

それからあっという間に二年余りの月日が過ぎたこの春。
またまたお久し振りに野毛の町の「センターグリル」へとやってきた。
するとなんと、別館のファサードが、
別のお店のそれになっているではないですか。まさかなくなっちゃったってことはないよなと、
慌て気味に本館前に行くと、あの頃のままの店の顔があって、
妙な安堵を覚えたのでした(笑)。

ドアを引き開け、そのまま二階への階段を上がると、
以前とはなにやら店内の様子が違う。
別館があった右手方向が閉じている代わりに、
左手方向が開けているのだ。’18年の2月頃にリニューアルしたようで、
隣の角地にあった洋服店部分を使って拡張していたのです。

まずは、グラスのビールと一緒に改めて「ナポリタン」を。うんうん、これや(笑)。
店のwebページによると、
麺は日本初のスパゲッティ「ボルカノ」の2.2mm極太麺。
ゆでて一晩寝かせてもっちり感をだしてます、とある。
ナポリタン元祖の「ホテルニューグランド」の「ナポリタン」は、
生トマトを使ったソースで作られたもの。
しかし当店では創業時からケチャップを使用しています。
当時、ホテルで使っていたような生トマトは希少な高級品で、
街の洋食店では手に入りずらく、ケチャップで代用していた、と。
ニッポンの正しきナポリタンの姿のもうひとつの側面は、
調理についての以下の一文にある。
ケチャップを入れてからしっかりと炒めることにより酸味が飛び、
甘みが引き出されています。

腹ペコが手伝ってまた、無茶な註文をしてしまう(笑)。
またまた素ナポかぶりの「しょうが焼き」だ。豚ロースの肉片のひとつひとつが大振りになった様子。
肉の縁なぞに包丁を入れても間に合わないのか、
焼いたお肉が反り返っているけど、
いいのいいのそんな細かいことはね(笑)。

野毛の町のアイコンのひとつ米国風洋食「センターグリル」が、
新しい表情を街角に現した。狭い間口をふたつ持っていた従前の姿から進化して、
柳通りのゲートに寄り添うように建つ姿はなかなか良い。
店名「センターグリル」についてwebページには、
初代・石橋豊吉は「ホテルニューグランド」の初代総料理長、
サリー・ワイル氏が経営していた「センターホテル」で働いて、
「センターグリル」として開業しました、とある。
“センター”の名は、ホテルの名前に由来していたのですね。

「センターグリル」
横浜市中区花咲町1-9 [Map] 045-241-7327
http://www.center-grill.com/

column/03789

御そば打處「野麦」で端正な面持ちのざるの蕎麦五種の具の淡々と旨いかけの蕎麦

中央本線の特急が発着する新宿駅9・10番線ホーム。
あずさ号へと乗り込む外国人の姿を見掛けるのもすっかり定番となりました。
2019年3月のダイヤ改正で、かいじともE353系車輌に統一され、塩山駅、山梨市駅、石和温泉駅を通過することを含めて、松本までの下り列車の平均で6分の所要時間短縮を見込んでいるという。
それに併せて、聞き慣れた「スーパーあずさ」の列車愛称名を廃止したそうだ。

松本駅の驛舎を背にしておよそ真っ直ぐ歩いてゆくと、
何故かその入口に立っていることになる高砂通り。
何時ぞやの蕎麦処「源智のそば」は、
豊かな水の流れに沿う様にゆけば辿り着く。そんな高砂通りを左に折れて離れて、
蔵の在る街並みが粋な雰囲気を醸す中町通りへと向かう。
すると、これまた何時ぞやのカレー店「デリー」が角に見えてくる。

お邪魔したのは、松本で夙に知られた御そば打處「野麦」。食事のメニューは「ざるそば」に「かけそば」。
他には冷酒に燗酒、焼酎のそば湯割などがあるだけという潔さです。

何故だか清らかな水に晒した様子を髣髴とさせる笊の蕎麦。あくまで細い蕎麦切りは不揃いなく端正な面持ち。
箸に載せたそれは、繊細さの中に芯の強さがあるような。

特注品と思しき笊が機能的にして美しい。品書きの隅に記された一文によれば、
戸隠の渡辺さんと仰る方の作であるらしい。

「野麦」初訪問から彼此二年。
ふたたび高砂通りから中町通りへと回り込むように歩く。
蔵の在る中町通りをプチ散策して、
例の「デリー」の店先を眺めて異変に気づく。
ドア硝子の貼紙には、
創業来47年に亘る厚情への感謝の念が綴られていました。

この日は入口脇の入れ込みのテーブルに席を得られた。欲張って「ざるそば」と「かけそば」それぞれ一人前をとお願いすると、
ならば「ざるそば」を先にお出ししますね、とご主人。
早速辛汁の徳利や薬味、
そして切り干し大根の載った小皿が用意されました。

改めて見遣る「ざるそば」は、実に端正な景色出汁のよく利いた決して辛過ぎないつゆに、
素朴な蕎麦の甘さが引き出されるようで、
素直に美味い。

「かけそば」のどんぶりには、五つの具が載る。炙って刻んだお揚げに煮付けた椎茸、
湯通しした菠薐草に海苔、半裁の煮玉子。

甘汁はあくまでも澄んで、それでいて淡々と旨味を湛える。仄甘い滋味や風味、喉越しといった蕎麦そのものの魅力は、
確かに「ざるそば」でこそ味わえるものだけど、
「かけ」の蕎麦の、ちょっとゆるっとした辺りにもまた、
ほっとさせるような別の魅力もあると思うのです。

松本は蔵の在る街中町通り近くに御そば打處「野麦」はある。時に混み合う人気店にあっても、
四人掛けのテーブルが三卓とこじんまりとしているのが、いい。
小さな店内に流れる時間がゆっくりとしていて、
自ずと目の前の笊やどんぶりと素直に向き合うこととなるのです。

「野麦」
松本市中央2-9-11 [Map] 0263-36-3753
http://nomugi.o.oo7.jp/

column/03788