つきじ鴨料理「鴨正」で鴨焼丼美深鴨丼に鴨雑煮鴨ハンバーグ専門店ならではの

例えば、六本木の「HONMURA AN」で嘗ていただいた「鴨せいろそば」がとっても美味しかったことをふと思い出す。
手打ちそば「根津 鷹匠」の「鴨せいろ」も旨かったし、桜の古木のある戸越「正乃家」でいただいた「鴨せいろ蕎麦」もオツなものだった。
今はなき会社の別荘近くの嬬恋村「あさぎり」の「かもせいろ」残念ながら閉店してしまった長原の「ちしま」の「鴨せいろ」も佳き蕎麦であり、佳き鴨の料理だった。
そんなこんなで、やや値が張るものの、蕎麦店で「鴨」の文字を見付けると、ついつい註文したくなるのは、鴨肉の美味しさに何気に魅せられているからなのかもしれません。

そんな鴨料理の専門店が築地にあると知って足を運ぶ。処は、新大橋通りから明石町側へ二本裏手の通り。
その先には築地本願寺の横顔が見える。
ちょうど中国饗房「弘喜楼」や鳥「辰の字」の向かい側に、
「鴨」と示す突出看板が見付かります。

アプローチにある案内を眺めつつ、
階下の様子を見下ろしてみる。
吊り下げられた二本の提燈のひとつには、
朱の円に”と”とだけ白抜きしたアイコンが描かれています。階段を下り、暖簾越しに引き戸を開ければその正面に、
「鴨正」と大書した書が迎えてくれます。

まずは基本形と思しき「鴨焼き丼」。焼き炙った国産合鴨を寄り添うように円周上に並べ、
さらした刻み葱をあしらっています。

メニューの中の「鴨正のこだわり」と題したページにはこうある。
鴨肉本来の鴨のコクのある味を楽しんでいただくため、
こだわりの素材を生かしたお料理をご用意いたしております。
鴨肉は、ミネラル豊富な竹炭水や何種類もの発酵菌を与え、
じっくり育てた当店専用農場の「蔵王深山竹炭水鴨」です。-
冷凍は一切使用せず、当日仕入れた新鮮な素材を提供するという。

うんうん、焼き目麗しく芳ばしく。
噛めば鴨独特の香りと旨味、脂がじゅっと解ける。部位によって歯触り歯応えが異なって面白い。
鮮度のよいものを焼き上げているのが、
端正な切り身の表情から窺えるような気がしてくる。
成る程、こふいふどんぶりは、専門店ならではのもの。
何処でも容易に出せるものではないのでしょうね。

その専門店ならではが、ランチにしていただけるのが、
通常の合鴨より1ランク上のものだという、
“美深鴨(びみがも)”という合鴨を使った「美深鴨丼」。“シャラン鴨のような別格の合鴨”と謳う美深鴨の身は成る程、
切り身にして先の「鴨焼き丼」の鴨とは違う。
より柔らかく、旨味に深みがあると喩えたくなる瞬間がある。
これもまた「鴨正」だけで食べられるものらしい。

年明けにふたたび訪れてみるとなんと、
新年恒例という「鴨雑煮」が店頭メニューになっていました。
鴨せいろ好きにとっては絶対に見逃せませない汁モノだ(笑)。鴨の胸肉にもも肉を浮かべた鴨出汁の汁。
搗き立てという肌理の細やかなお餅に、
根っこはないけれど、たっぷりの芹。
鮮度と仕立ての良い鴨肉の香りや脂が、
品よく汁に滲んで、これまた旨い。
毎年の恒例で足を運んでしまいそうです。

鴨肉の魅力が直球で迫るメニューに並んで、
挽肉を用いたメニューもある。火入れによってか、ぷっくりと膨らんだ「鴨ハンバーグ」。
鴨らしい脂を内包して、ジューシーなままいただける。
どちらかと訊かれれば断然「鴨焼き丼」と応えるけれど、
気分次第でハンバーグ選択もありかと思います。

創業1919年(大正8年)、老舗鴨問屋「鳥上商店」直営「鴨正」。暖簾の隅にもある朱の円に”と”とだけ白抜きしたアイコンはどうやら、
「鳥上商店」の”と”であるらしい。
「鴨焼き丼」をはじめとするランチメニューも十分魅力的な「鴨正」。
そうとなると、前菜から〆に至るまで鴨を使用するという、
「厳選女将」「美深鴨ロース焼き」「美深鴨鉄板焼き」、
「特選美深鴨」「特選シャラン鴨」と五題の並ぶコース料理も、
やっぱり断然気になってきます。

「鴨正」
中央区築地3-12-5 小山ビルB1F [Map] 03-5550-1220

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