ラーメン専門「ほんや」で年季の入った平屋に飽きのこないラーメン鹿児島路面電車で

路面電車の走る街はいい街だ。
昨夏、沖永良部島へと渡った際に経由したのが鹿児島空港でありました。
帰りがけの羽田へ飛ぶ便までの時間を使って、お久し振りの天文館へと足を伸ばし、老舗の一軒のラーメンを一杯いただいた。
それから半年経ったこの冬のこと。
ふたたび鹿児島市街への空港バスに乗っていました。

空港バスを降りた鹿児島中央駅前から早速市電に乗る。
ホテルに荷物を降ろすために路面電車を降りたのは、
中央駅前からたった3つ目の電停「高見馬場」。高見馬場電停は、ちょうど谷山電停方面へ向かう系統との分岐点で、
交叉点を曲線を描いて折れ進んで行く路面電車の姿が見られる。

こうして併用軌道を走る様子はやはりよい(笑)。
そんなことを思いながら今度は、
1系統側の電停から電車車内へと乗り込みます。到着したの終点、鹿児島駅前。
ここでは形式や塗装色、車体を彩る広告が異なる、
3編成が狭いホームを挟んで並ぶ様子が観察できる。

そこから鹿児島本線の踏切を渡り、
ふらふらっと駅前らしからぬ住宅地を往くと、
板壁をベニヤで覆い、崩れた瓦屋根にブルーシートを被せた、
如何にも年季の入った小さな平屋の建物が目に留まりました。軒先には大容量のプロパンガスボンベが5本も並ぶ。
煤けたテント地には、ラーメン専門「ほんや」とあります。

新調したらしき赤い暖簾を払って、
窺うようにアルミサッシを引き開ける。
入ってすぐの小さなテーブルに腰掛けて、
情緒たっぷりのカウンターや止まり木を眺めます。厨房をL字に囲むカウンターにふたり掛けの小さなテーブル、
そしてそのさらに左手には特殊なサイズの畳を敷いた、
小上がりというべきか少々悩ませるスペースに、
これまた小さな折り畳み式の座卓が用意されているのです。

壁に貼られた品札からお姐さんに註文を終えるとすぐさま、
お茶の入った急須と漬物の皿を載せた湯飲みが配される。天文館の「くろいわ」本店でも、
カウンターに漬物の用意があったことを思い出します。

ご註文は「ラーメン(中)」と「チャーシュー」「ギョウザ」。
別皿で届くのかなと思ったチャーシューは、
ちゃんとトッピングされてくる。決して強く迫ることのない、
すーーっと飲めるスープに安堵する。
豚骨臭がお店の脇に漂っていたのに、
スープにはそんな押し出しはなく、
鶏ガラや野菜、そして課長の助けも借りて、
いい感じのバランスの軽やかなスープになっている。
何気ないけど、また食べたくなる、
そんな魅力を思います。

そんなスープと相性のよい中太麺をつるっと啜る。餃子のあんがこれまた、何気なくも旨い。
黒豚挽肉を使っているそうで、
齧った瞬間から濃い目の旨味が迸る。

裏を返して翌日のおひる時(笑)。
「みそラーメン(中)」を所望する。これまた決して濃くならないように、
微妙なバランスで成立させている、
でも間違うことなき味噌ラーメン。
飽きの来ない、毎日でもいただける一杯を意識しているようだ。

鹿児島路面電車の終着電停近くにラーメン専門「ほんや」がある。この枯れた情緒は簡単に再現できるものじゃないけれど、
鹿児島を直撃した台風の威力に倒壊してしまわないか、
雨漏りしたりしやしないかと正直心配になる。
女将さんもご高齢で、厨房の裏方に回られている。
家族経営の飲食店が抱える切なさを刹那思ったりするものの、
どこからともなくわらわらっと集まってくる常連さん達の様子に、
妙な安らぎを覚えたりもするのでした。

「ほんや」
鹿児島市上本町7-3 [Map] 099-223-1302

column/03778

もんじゃ焼参鶏湯「あゆむ」で冷麺プルコギ豚チゲ参鶏湯韓国料理のランチタイム

築地駅の4番出口を背にして、聖ルカ通りを行く道程は、歩き馴れた経路のひとつ。
築地川公園を右脇にし乍ら進んで、あかつき公園冒険広場の中を突っ切って「つきじ治作」を見据える裏道へ入る。
そうそれは、左手にある築地「たぬきや」本店へ向かう道。
その道すがらに、その都度横目で眺めていたのが、「あゆむ」の暖簾でありました。

絶賛日照りの盛夏に訪れたなら、
Tシャツ姿も羨ましい男子を含むお三人が店内を物色中。月島から居留地中央通り沿い、
そして現在地へと居場所を変えた「あゆむ」は、
夏でも藍の暖簾であります。

真夏にはやっぱりこれでしょうと、
ランチメニューから「冷麺セット」を選ぶ。みずから炊いたものかそうでないかは不明ながら、
牛骨ベースであろうスープに遜色なく、するする呑める。
つるつるなばかりでない麺には、麺そのものにも旨味が潜む。
すっと汗がひいていくよな夏に渇望の一杯であります。

フレンチもんじゃか参鶏湯の店かと思いきや、
ランチタイムともなれば韓国料理が目白押しの「あゆむ」。
季節を問わない定番のひとつ「プルコギ」も勿論、ある。熱したお皿に盛ってくれるのが「あゆむ」流。
牛肉な炒め気分だったならこれがいい。

豚肉な炒め気分だったなら「豚キムチ野菜炒め」がいい。一日でどのくらいの量の豚ばら肉を使うのかなぁなんて思いつつ、
カウンターの眼前に掛けられた暖簾の下から、
ふたり稼動の厨房の中を観察してしまいます(笑)。

季節が秋ともなればだんだんと石焼鍋が恋しくなってくる。熱々のうちに鍋の底の方からひっくり返すように、
半ば炒めるように混ぜ合わせるひと時がいい。
玉子の黄身もコチュジャンも必要なエレメント。
おこげの芳ばしさもまた然り。

どうしてやっぱり冬場も人気となるようで、
タイミングによっては満員御礼しばしお待ちくださいと、
そうなることが増えているような気がします。それはきっとちょっと辛いめグツグツ系のアイテムが、
そこに控えているからなのかもしれません。

まずはお店の冠メニューのひとつ「参鶏湯」。
一羽まるごとでもいただけますが、
きっとほとんどのひとがハーフを註文するのでしょう。ふーふーふー。
ひるからサムゲタンをいただくことなんて、
割とまぁ珍しいことなんじゃないかと思うところ。
どこまで本格派かの議論はあるやもしれないけれど、
啜るスープに滋味を思えば、
それだけで効験明らかとなるやしれません。

ぐつぐつぐつ。
「豚チゲ」の鍋が煮え滾ったまま、
厨房のコンロの上から目の前に直行してくる。熱々の、辛過ぎず何処かに甘さを含んだスープがいい。
業務用らしきペットボトルから器に注ぎ込むのが見えてしまうけれど、
だからといって咎めるようなものでは勿論ない。
ふーふーふー。
器の底の方に潜むのは、熱にもへたらないうどんだったり、
追加でお願いしたトッポギだったりします。

築地は居留地中央通りから「治作」へ向かう裏通り。
移転したもんじゃ焼&参鶏湯、韓国料理の「あゆむ」が佇む。或る日修学旅行の高校生らしきグループのひとりが、
入口の扉を開けてこう訊いた。
もんじゃ焼き、食べられませんか?
ほぼ満席の状況からか一旦断った店のお姐さん、
折角わざわざ来たのに可哀そうねと改めて招き入れて二階席へ。
ランチタイムにはもんじゃ焼きは食べられないのかと、
勝手にそう思っていたけれど、
場合によってはいただけるのかもしれません。
そう云えば、移転前のお店でのフレンチもんじゃ体験は、
果たしていつのことだったのだろうと、
みずからの記事を振り返ったらなんとそれは、
13年程も前の2006年のことでありました(笑)。

「あゆむ」
中央区築地7-14-3 [Map] 050-5869-9017
http://frenchmonjaayumu.jp/

column/03777

肉汁うどん「うど吉」でウルトラもち麺肉汁うどん進化系にして土着の武蔵野うどん

西武池袋線の狭山ヶ丘駅を西口に出て、463号所沢入間バイパス方向へ向かうと、途中に水路の名残か暗渠と思しき緑地帯が斜めに交差する。
そんな辺りにあったのが、自家製麺無添加を掲げたうどんの店「うど吉」。
出色の肉汁うどんを喰わせるその「うど吉」が移転したのが、16年11月のこと。
移転先はそこから100m程南に進んだ住宅地の一角でありました。

縦格子で囲んだ家屋の周囲を
“うどん””肉汁うどん”と掲示する幟や懸垂幕が賑やかす。それはご自宅を改造改築してお店に仕立てたものに違いない。
松の枝が飾る門には白い暖簾が揺れていました。

門の脇に建てたお手製と思しき掲示板。
例えば、2017年06月には、
定番の「肉汁うどん」「カレー肉汁うどん」「赤肉汁うどん」の他に、
「塩肉汁うどん」や「ひやかけ」のご案内。すっかり冬場となった2018年12月の或る日には、
「あつもり」のご案内に並んで、
月1限定の「竹炭ブラック麺の日」のポスターも掲示されていました。

ずいっと通されたお座敷は、ふた間ぶち抜き。
中央に欄間が渡り、窓際には板張りの廊下が通る。厨房側には、座卓に座り難いひと優先の椅子席カウンターがあり、
いつぞやの猫のキャラクターも大事に飾られています。

そんなメニューあれこれの中から17年の某日にお願いしたのが、
「カレー肉汁うどん」大盛りひやあつ揚げ茄子トッピング。この頃には、デフォルトたる田舎麺に加えて、
“もち麺”という選択肢が登場。
堂々たる量感と麗しく褐色を帯びた麺にしばし見惚れます(笑)。

トッピングの所為で具沢山になっちゃったのが、
微笑ましくも嬉しい汁の椀。しっかりした出汁と加減のよいコク味のカレー汁は、
出来そうで案外なかなか出来ない仕立てとお見受けします。

カレー仕立てがあれば勿論ミソ仕立てもあるよということで、
「味噌肉汁うどん」を田舎麺でいただく。武蔵野うどんの麺として何気に完成度最高峰のうどんを浸すのは、
濃密なる味噌のつけ汁。
今はなき馬込「醤屋」以来、所々で見かける、
玉葱の粗みじん切りや一味を混ぜ込みつついただく、
つけ麺エッセンスも多分に含んだ肉汁うどんであります。

そんな、つけ麺であるところの「味噌肉汁うどん」も、
寒さ厳しき折には”あつもり”という手もある。湯気の立つ湯殿から引き上げたうどんは、
冷水に〆たうどんとはまた違う、活き活きとした表情をみせる。
うーん、どちらにするかまた悩みが増えるではありませんか。
そうじゃなくてもメニューからの選択に迷っているのにぃ(笑)。

そうこうしている裡に、さらなるもちもち麺、
ウルトラもち麺たるうどんが登場した。この辺りも日々進化を伺う「うど吉」の真骨頂。
ただコシがあるとかふわふわしているとかいう、
そんなテクスチャとは別世界の麺。
麺としてのエッジを保ちつつ、
ムニュムニュンとした妖艶な食感で迫る。
勿論、余所でいただいたことのないうどんだ。

そんなウルトラもち麺で偶には辛目のヤツをと、
「赤肉汁うどん」なんて気分の日もある。決して辛過ぎず、辛さを旨味に纏わせた汁がいい。
辛さ一辺倒のつけ麺店店主には、
ぜひ参考にして欲しいと思ってしまいます(笑)。

ふたたびスタンダードな肉汁をと訪ねた或る日。
その日が偶々月末近くの29日であったなら、
見るからに趣の異なるうどんとの僥倖と巡り合うこととなる。そう、毎月29日は、限定”竹炭ブラック麺の日。
食用竹炭粉をたっぷりと練り込んだ麺は、
どこかぬらぬらとして不思議な気分にさせるけれど、
その味わいに炭の気配はおよそなく、
つるるんといただける。
果たしてデトックス効果がありやなしや。

限定と云えば、時季により思い付き(?)により色々出現するのが、
疑いなき凝り性の店主を擁する、
「うど吉」が「うど吉」たる側面のひとつで、
例えば「鹿肉汁うどん」なんてのがいただける時がある。臭みとは勿論別ものの香りと滋味が汁にも滲んでいるような。
そんなつけ汁には、スタンダードな田舎麺がいい。
一緒にいただいた「ミニもつ丼」のモツも、
その処理と質の良さが滲み出た佳品であります。

入手できた食材などなどによっては、
より限定性と創作性が高まることもあるようで、
数量限定「カルボナーラうどん」なんてお皿を拝める時もある。ポイントのひとつが産直で入手したという、
極稀少、国産厳選極小玉の乾燥黒トリュフ。
桜の薫香芬々のベーコンの彩りやよし。
思いがけず軽やかにいただけたのは、
豆乳仕立てにするというアイデアの成功であります。

進化系にして土着の武蔵野うどん店「うど吉」ここにあり。基本形のうどんにも、限定のうどんにも、
柔軟な着想に試行錯誤創意工夫を加えて、
入念に練り上げた奥行きがある。
その一方で土着の気概を忘れずにいてくれる。
我々は狭山ヶ丘の住宅地を訪ね、
自信をもって繰り出してくれる器に、
ただもう身を委ねればよいのです、
なんちゃって(笑)。

「うど吉」
所沢市和ヶ原1-691-62 [Map] 04-2947-0500
http://udokichi.favy.jp/
https://www.facebook.com/udokichi/

column/03776