文化横丁「源氏」で横丁の奥の路地の縄暖簾お通し付きのグラス4杯がしみじみ佳い

全国的にみても大規模なことで知られる仙台駅西口のペデストリアンデッキ。
此処の上に立つと、その視界のずっと先にある国分町通り沿いの歓楽街の喧噪を思い出す。
復興景気に沸いていた通りでは、目の血走った客引きが酔客を搦め捕ろうと躍起になって右往左往していて、異様な雰囲気だったのであります。

今は落ち着きを取り戻しているように映る国分町。
そのひと筋手前のアーケード、サンモール一番町から、
脇道を覗けば拝める情景がある。そうそれは、文化横丁(ブンヨコ)の薄暗がりとゲートの灯り。
誘われるまま足を踏み入れるのが、正しい挙動でありますね(笑)。

左右の店々の表情を愛で乍ら、横丁をクランクして進み、
左手の様子に気をつけ乍ら歩みを進めると見付かるものがある。間口一間もない、これぞ路地という狭い通路の入口に燈る看板には、
文化横丁「源氏」とあります。

突き当って更に左に折れる狭い路地の奥に縄暖簾。
恐る恐る縄を払って半身に身体を入れ、
少々ガタつく気配の引き戸をずずっと開ける。

薄暗がりに眼が慣れるまでほんの一瞬。
お好きな場所へどうぞと女将さんが目配せしたような気がして、
その晩の気分に従って、コの字のカウンターの右へ行ったり、
正面の椅子に腰掛けたり、左の奥へ回り込んだり。使い込まれたカウンターの造作がいい。
それを眺めるだけで一杯呑めそうであります(笑)。

壁には「お通し付き」に始まるお品書き。一番最初はどふいふことなんかなと一瞬戸惑ったけれど、
日本酒三種と生ビールから選ぶ盃に、
それぞれ酒肴を添えてくれるという、
そんな流れに身を任せるのが、
「源氏」でのひと時の基本形なのであります。

梅雨の終わりにお邪魔した際には、
まず生麦酒を所望した。
業務用の樽には「モルツ」の文字。
「プレモル」ではなくて「モルツ」であるところが、
「源氏」のちょっとした拘りなのでありましょう。

「浦霞 特別純米 生一本」を冷やでとお願いすると、
一升瓶から手馴れた所作でグラスに注いでくれる。コの字に囲むカウンターには20人程が腰掛けられそう。
厨房にどなたかが控えているものの、相対するのは女将さんひとり。
そんな女将さんの一挙手一投足も酒肴のひとつに思えてくる。
そこへ例えば、ホヤの酒蒸しなんが添えられます。

酒肴の定番が冷奴。
木綿豆腐一丁がどんと何の衒いもなくやってくる。
それがいい。二杯目の盃は例えば、
「高清水 初しぼり」がいい、それでいい。

定番と云えば、小鉢に載せた刺身の盛り合わせも、
定番の酒肴のひとつ。鯛の湯引き、鰆、鰤、鮪、帆立、銀鱈、蛸、サーモン等々。
日により時季により、その内訳は勿論違ってくる。
棚で出番を待つ一升瓶たちを眺めながらグラスを傾けます。

勝手が次第に判ってくると、
半切した半紙に筆文字で示した、
壁の品書きたちが俄然気になってくる(笑)。
「自家製しめさば」もある日ない日が勿論あって、
三度目の正直であり付けた。艶っぽい〆鯖をいただきたつつ、
高清水のお燗をぐびっと呑る。

呑み比べる中で一番のお気に入りになったのが、
「浦霞 特別純米」の燗酒だ。寒くなってくれば、壁の品書きから例えば、
二杯酢に洗った「かき酢」を選ぶ。
場所柄、三陸の牡蠣なのでありましょう。
「のどぐろ一夜干」なんかもオツであります。

コの字カウンターの左手奥に席を得て、
振り向けばピンク電話が控えてる。カウンターの隅に据え付けられていた珍妙な機器は恐らく、
電話代をカウントするものではなかろうかと思うのだけど、
どうでしょう。

そして、定番の流れの最終コーナーでは、
おでんか味噌汁のどちらお好きな方が供される。なんとなく味噌汁で仕舞うというのが粋じゃないかと、
そう勝手に合点して(笑)、
味噌汁をいただくようにしております。

文化横丁と呼ばれる横丁のさらに路地の奥に居酒屋「源氏」はある。訊けば、1950年(昭和25年)の創業であるという。
なかなか得がたい枯れた雰囲気と女将さんの所作がいい。
そして、それぞれにお通し付きとしたグラス4杯がまた、
しみじみと佳い。
「仙台文化横丁」のWebサイトには、
横丁の店々が紹介されていて、気になる店が幾つもある。
でも結局また、此処「源氏」に来てしまうような、
そんな気がいたします(笑)。

「源氏」
仙台市青葉区一番町2-4-8 [Map] 022-222-8485

column/03765

麺や「七彩」で限定あれこれクラタ塩から夏のもみじに担々麺だだちゃ豆に唐黍に

日本橋・京橋エリアから怒涛の勢いで押し寄せる再開発の波は、八丁堀界隈にも到達している。
八重洲通りと平成通りが交叉する八丁堀二丁目交差点の角地にあった第一長岡ビルもすっかり解体され、無機質な万能鋼板が敷地を囲む。
再開発を目論む側はきっと、区画全体で新しいビルをおっ建てたかったのであろう。
ところがどっこい、ソレハナンノコト?とばかりに従前からの佇まいのままの建物がそこにある。
そうそれは、今やすっかり日常の光景となった八重洲通り沿いの行列の先頭が立つ処でもあります。

行列が長くありませんようにと祈りつつ(笑)、
八重洲通りの舗道を往く。
日により天候により多少の多寡はあるものの、
11時半にはそれ相応のひとの並びとなっています。

充実の定番品「喜多方らーめん」の煮干や醤油に、
いつの間にか塩味が加わったんだねと、
初めて「塩肉そば」をいただいたのは、17年の10月のこと。煮干しも醤油も勿論絶品なのだけど、
塩仕立ては七彩のスープの魅力を直裁に堪能できる。
たっぷりチャーシューとの相性も想像以上であります。

今年18年の03月頃の限定だったのが、
「限定 小豆島海の水とクラタペッパーの塩らーめん」。滋味深い胡椒をフィーチャリングした塩らーめんは、
より輪郭がくっきりしてまた旨い。
KURATA PEPPERを検索すると、
カンボジアの胡椒農園の情報が確認できる。
そんな七彩の塩胡椒らーめんは、数ヶ月後には、
生胡椒グリーンペッパーのせバージョンへと進化したのでありました。

券売機の「気まぐれご飯」をポチとすれば、
「山形のだし」を載せた茶碗飯がいただける。築地の場外で初めて目にしたことを思い出す「だし」。
ご飯によく合うのは先刻承知の助で御座います(笑)。

この夏の七彩は、再開発ラッシュ以上に怒涛の限定祭り。
7月には、ジビエらーめんシリーズの口火を切って、
「夏のもみじの冷やしらーめん」が登場。ここで云う”もみじ”とは鹿肉のこと。
トッピングには象徴的に艶っぽい赤身肉。
いつもの喜多方仕立てとは違う、
どこかつるんとした冷たいスープを啜って、
そのすっきりとしつつも深い味わいに思わず目を閉じる(笑)。
いつもの手打ち麺を冷たいスープでいただくのも、
何気に嬉しいのであります。
噛めば青い香りと刺激の弾ける生グリーンペッパーが、
ここでも活躍してくれています。

晩夏の限定の定番と云えば、
その第一弾が「だだちゃ豆の冷やし麺」。擂り流しただだちゃ豆の滋味がもうそのままいただける。
トッピングのチャーシューがいい合いの手を入れてくれる。
短く切った手打ち麺と一緒に蓮華で啜りたい、
そんな妄想も頭を擡げてきます。

ご飯ものの定番と云えばご存知、「ちゃーしゅー飯」。どこか芳ばしいチャーシューもズルいけど、
かけ廻したタレがまたズルいんだ(笑)。

続く限定にはもみじの冷やしが進化して、
「夏のもみじの冷やし担々麺」となってしまう。トッピングにはたっぷりのそぼろ鹿肉に砕いたナッツ系。
辛そうでいて加減の絶妙なラー油にはただただ感心してしまいます。
こうくるんか~。

そして、晩夏限定の定番第二弾が、
ご存知「とうきびの冷やし麺」。高山の農家さんから届いたというタカネコーンの魅力炸裂!
摺り流しの裏手から麺を引き上げれば、むんずと絡まる。
これぞ大地からの甘さだと思う恵みをたっぷりと味合わせてくれます。

鹿肉によるジビエシリーズの第三弾が、
お待ちかねの「もみじの担々麺」。冷やし担々麺も洗練された美味であったけれど、
こちらも世の担々麺のいずれにも引けを取らない完成度。
クリーミーさと辛みと芳ばしさの塩梅が素敵。
手打ちぴろぴろ麺が担々スープにもよく似合います。

八丁堀の手打ちらーめん店と云えば、
謂わずと知れた麺や「七彩」。食材の探求にも怯みなき両雄が、
珠玉の定番喜多方らーめんに飽き足らず、
季節季節の限定らーめんでもまた唸らせる。
行列の長さが気になるものの、
近くにあって良かったと八重洲通りを歩くたびに思います(笑)。

「七彩」
中央区八丁堀2-13-2 [Map] 03-5566-9355
https://shichisai.com/

column/03764

リッチなカレーの店「アサノ」で揚げ立てカツカレー美味しさに潜むリッチな手間

町田市と云えば、都下エリアの最南端。
北は丘を越えて八王子市と多摩市、東は川崎市と横浜市、西は相模原市と大和市に接している。
神奈川県に食い込むように突き出していて、明治元年当時は神奈川県の管轄だったというのも頷ける。
改めて地図を眺めてみると、西方へ向けて角を伸ばすように細長く領地が伸びていて、それは遠く高尾山近くまで。
町村の合併によるものなんだろうけど、どうした訳でこんな特異な形状になったのでしょうね。

そんな町田市は町田駅周辺を随分と久し振りに訪れた。
小田急の駅からすぐの裏道に何気なくある、
酒蔵「初孫」の軒先に連なる提灯に惹かれるも、
それにはまだちょっと時間が早い(笑)。

そのまま流離うように商店街を往くと、
急に懐かしい気分にさせてくれるアーケードの前に出た。町田仲見世商店街と大きく文字書きされている。
開業から60余年という大屋根の下への入口には、
大判焼きのお店に小陽生煎饅頭屋。
通路を奥へと進むと沖縄料理の「ニライカナイ」や、
タイ料理店や洋食「モナミ」等々の店が並ぶ。

ふたたび商店街の入口前に立ち、少し左手を見遣ると、
また別の小さな入口があって、
仲見世飲食街という看板を掲げている。その幅半間の狭い通路を往くと、
小さな突出しの看板に目が留まると同時に、
カレーの匂いに気付く。
壁の看板には、リッチなカレーの店とある。

短いカウンターに沿ってカバーを掛けた丸椅子が並ぶ。元々は小料理屋のようなお店だったことが偲ばれる。
そんな食器棚に小さめの紙に認めて、
メディアへの露出をお知らせしている。
なかなかの人気店であるようです。

メニューに麦酒のアテを見付けて所望する。ラッキョウでビール呑ってはイケナイでしょか(笑)。
貼紙にあるようにカツは註文を受けてから揚げてくれるので、
それを待つのにちょうどいい一杯になりそうです。

「カツカレー」のお皿がやってきた。火傷しないように齧り付くカツが、やっぱり旨い。
揚げ立てに勝るものなしだ。

サラサラのカレーには、玉葱の甘さに似た旨味と、
贅沢にとったと思しきスープストックの旨味がたっぷりと潜む。色々なスパイスの香りがふつふつと顔を出しつつ、
全体としては角がなく、辛過ぎずに旨味を倍加してくれているみたい。
いいねいいね、美味しいね。

そんなこんなでおよそひと月後にまた、
裏を返すようにお邪魔した。ぐるっと思案したものの、註文は同じ「カツカレー」。
勿論、ラッキョウとビールでカツが揚がるのを待つのでありました(笑)。

町田駅から程なくの昭和の色濃い仲見世商店街に、
リッチなカレーな店と謳う「アサノ」がある。店内に掲示した届け出のお名前を拝見するに、
飄々とした雰囲気のご主人がどうやら浅野さん。
なんとはなしに筋金入りの凝り性でいらっしゃるようにも窺える。
そんな御仁が供するカレーが兎に角旨い。
ここで云うリッチとは、過分な素材というよりは、
旨いカレーに必要十分な手間がかかっている、
ということではなかろうか。
ああ、思い出してまた食べたくなっちゃった(笑)。

「アサノ」
町田市原町田4-5-19 町田仲見世飲食街 [Map] 042-729-7258

column/03763

築地「たぬきや」本店で刺身系煮付系竜田揚げ系天麩羅系等々で迷わすひる時の民心

聖路加国際病院の本館と旧館とを結ぶ空中廊下の下を走る道路沿いに、いつの間にか「居留地中央通り」とする道標が立っています。
中央区 町会・自治体ネットによると、2013年(平成25年)に設定した愛称であるという。
居留地は、入船二丁目等の江戸時代に大名屋敷だったところには整地が行われ、明治3年に完成。
入船二丁目は居留地に付属する相対貸し(外国人が家屋を借りる)を認める雑居地として開設したもので、多くの外国人が住んでいたようです、とも当サイトは示している。
「居留地中央通り」は、明治時代の初めに開設された築地外国人居留地の中央を貫く通りとして開通し、現在に至っているものであるようです。

そんな居留地中央通り沿いから辿る、
八丁堀寄りに位置する入船二丁目界隈よりもずっと旧築地市場寄り。
これまたいつの間にか道標が示すようになった聖ルカ通りを横切り、
あかつき公園脇の信号を左折する。

ちょうど正面の先に水炊き「つきじ治作」の大屋根を望む場所。
さらにその向こうはもう隅田川。そんな裏道のおひる時に、
10種類以上の定食メニューを黒板に並べる店があります。

定番中の定番「刺身定食」が黒板の筆頭にあり、
それ以外にもお刺身系メニューが幾つかあるのがお約束。例えば、或る日の「ぶりホタテ丼」。
程良く脂ののった鰤の切り身がたっぷりで、
自ずとご飯が足りなくなるくらい。

お刺身系以上におススメなのが煮付系。
堂々とした「金目鯛煮付定食」が850円などという、
お得なお値段でいただけちゃう。そりゃ、煮付けたばかりのとろっとしたものって訳にはいかないけれど、
ちょっと贅沢な気持ちになるのは間違いない。

こっくりとした仕上がりだったのが「きんめ煮付定食」。他には例えば「黒ソイ煮付定食」等々、
いただけばしっかり満足の煮付系が必ずラインナップされています。

その一方で、竜田揚系もなかなかどうして捨てがたい。例えば、ありそでなさそな「まぐろ竜田揚げ定食」。
豪快にぶつ切りにした鮪にたっぷり目に粉を叩いて。
盛大に揚げる様子がなんだか目に浮かぶ(笑)。

鮪があれば勿論鯨の日もあって、
「ミンク鯨竜田揚げ定食」の頻度も低くない。
さくっとした身の柔らかさと鯨肉の風味がいい。
齧り付けば衣が閉じ込めた旨味がじわーんと弾ける。日によっては、竜田揚げのお相手が鰤だったりもする。
「ぶり竜田揚げ定食」にも、
たまり醤油なタレが効果的に働いてくれています。

揚げ物で云えば勿論、天麩羅系もある。「穴子てんぷら定食」には、大きな天つゆの器が添えられて。
ふんわりとした穴子の身を十二分に堪能できる嬉しいボリュームだ。

「さんま塩焼定食」「さば塩焼定食」も勿論あるのだけれど、
少々珍しいところでは「鰯生姜漬け唐揚げ定食」なんて日もある。一瞬、東山の「草喰なかひがし」の目刺し一匹を思い浮かべる、
質素な佇まいが愉しい(笑)。
ただ、すっかり干物の目刺しと違って脂っ気が程よく残り、
しっかり浸った生姜の風味と相俟って、
なかなかにイケるのであります。

居留地中央通りから隅田川へと向かう裏道に、
築地「たぬきや」本店がある。刺身系、煮付系、揚げ物系に焼き物系とお魚料理あれこれで、
界隈の民心を迷わす店であることは間違いない(笑)。
何故に「たぬきや」と名付けたのですかと帰り際訊ねたならば、
他を抜く、他に抜きん出たお店でありたいということからだそう。
ちなみに、今はもう支店はなくて、ここ本店に集約済。
夜の宴会もきっとゆるっといい感じじゃないかなぁとそう思います。

「築地たぬきや 本店」
中央区築地7-9-14 [Map] 050-5570-5837

column/03762

麺類「信濃屋」で多治見の炎天下ころかけにうどんに支那そばころは香露の発祥の店

記録的、と叫ばれ続けた暑い夏。
ガツンと頭を殴られるような、全身を熱波の圧に絡め取られるような、そんな瞬間が何度もありました。
例年、同じようなクソ暑い日が何日かは勿論あるのだけれど、それが何日も続いたのが、この夏の暑さが異常と云われるところなのでしょう。

近年では、熊谷市が観測史上最高を更新する41.1度を観測し、
「日本一暑い街」の称号を奪還したと云われ、名を上げた(?)。
その一方で、暑い町の常連だった岐阜・多治見は、
観測史上歴代第5位と、やや地味なポジションにあるらしい。

そんなことを思いつつ、初めてJR多治見駅に降り立ったのは、
盛夏にして晴天の八月上旬のことでありました。
ちょっと地味な順位だからって暑くない訳は決してなく、
路傍に佇んでいるだけで全身から汗がどっと噴き出してきます(汗)。

所用を済ませて向かったのは、中央本線の線路沿い。
ギラギラとした陽射しに照らされた踏切の向こうに、
人影がちらほらと窺える。もしやと思いつつ近づけば案の定、
麺類「信濃屋」さんの行列でありました。
この炎天下に行列するなんて自殺行為に近いものがありますが、
此処まで来たのだもの!という気概だけで汗を拭う。
その後屋根の下に誘導してくれ、ホッとひと息つけたのでした。

いい具合に年季の入った店先には、
これはそう、”手打ちうどん””ころかけ”と読むのでしょう。“ころかけ”の”ころ”と云えば真っ先に思い浮かべるのが、
旗の台「でら打ち」の「ころうどん」。
名古屋・岐阜方面をその発祥地とするものなんだろうなということは、
なんとはなしに思っていたので、
お、やっぱりそうなんだとニンマリなんかして(笑)。

暑いがゆえに長く感じられた待ち時間から開放されて、
外観に違わぬいい味の滲みた店内の小上がりに入れ込みとなる。
座布団にお尻を半分載せたような半身の格好で、
垂れ壁に掲げた天然木の扁額を見上げます。
「信濃屋」さんのメニューは、潔くも三品のみであるようです。

座卓の上へとまず受け取ったのが、
冷たいうどんであるところの「ころかけ」の小。伊勢うどんのような見掛けでもあるなぁと思いつつ、
数本のうどんを箸の先に載せて、啜る。
伊勢うどんようなふわんとした口触りが一瞬して、
その後から一転しっかりした歯応えが過ぎる。
ツユは濃そうでいて、さらっと仄かに甘い。
成る程、余所では知らない、素朴にして端正なうどんだ。

温かい方の「うどん」も小盛りにて頂戴する。「ころかけ」に比べて、うどんのしなやかさが増し、
ツユの出汁と醤油が柔らかくそれを引き立てる。
並盛りの半額っていうのもなんだかとっても申し訳ない(笑)。

申し訳ないついでに「支那そば(小)」もいただいてしまう。透明感のあるやや幅広の麺が独特。
ワンタンの皮の生地を細長く切ったようなテクスチャーで、
少しポソっとして、案外ツルっとした感じが不思議な気持ちにさせる。
たとえ年老いたとしても、朝から毎日いただる、
そんなどんぶりでありました。

「ころかけ(小)」「うどん(小)」、
そして「支那そば(小)」をぺろっといただけた。食べ終わり際に実直なるご主人が顔を出してくれ、
味の濃い薄いなど調整いたしますので等々を声を掛けてくれる。
実際に味を調整するのはタイミング的にも難しいとは思うものの、
行列が出来る店になってもなお、
お口に合いますか?と訊ねるような姿勢は、
なかなか真似のできることじゃない。
信奉者が増えて然るべきでありますね。

いまもなお暑い町多治見の踏切の向こうに、麺類「信濃屋」はある。そう云えば、”ころ”ってそもそもなんだろうと調べてみると、
Wikipediaに、その発祥についての件があった。
-現在は岐阜県多治見市にある信濃屋の初代店主が戦前、
名古屋市中区にあったうどん屋を任されていた際、
当時まかないとして食べられていた冷たいうどんを
「香露かけ」と名付けて客に提供したことが、
「ころ」の名称の由来である-
あああ!信濃屋さん初代が「ころ」の起源だったのですね。
御見逸れしました。申し訳ありません。
お邪魔できて良かったと、改めてじわじわ思っているところです。

「信濃屋」
岐阜県多治見市上野町3-46 [Map] 0572-22-1984

column/03761