台所「Haisai」で絶佳なる豚足生きくらげ天ぷら沖永良部の海とオバチャン達の笑顔と

ちょうど二年前に訪れた奄美大島では、国直海岸の民宿にお世話になって、凪いだ思勝湾を縦に横に泳いだり、雨上がりの朝のダブルレインボーを嬉々として眺めたり。
また来たいなぁと思うと同時に奄美群島の他の島々も訪ねてみたいと、そう思っていたのでした。
そんなこんなのこの夏に、JALグループのアイランドホッピング路線に沖縄発着の新路線も開設された沖永良部島を訪れました。

ゆっくり目に羽田に向かい、鹿児島経由で降り立ったのは、
愛称:えらぶゆりの島空港。
沖永良部島がテッポウユリの原産地で、
「イースターリリー」として輸出された「えらぶゆり」が、
世界的に有名な花であったなんて、
JAL機内誌を読むまで知らなかったのです、恥ずかしながら。

島の南部、知名町役場近くのホテルに荷を降ろして早速、
近くの屋子母(やこも)海岸へ。陽が傾きつつある中海に浸かり、
水平線に沈みゆく夕陽を眺めるひと時。
島の海辺はマジックアワーもまたよいものですね。

翌日は、レンタカーを駆って、
島北側にあるワンジョビーチへ。伊延港へと入るフェリーの姿が見えるほど、
港の近くなのにこの美しさ。
やっぱり南の島の浜辺は素晴らしい!

お世話になったホテル「おきえらぶフローラル」がある、
島の南側エリアの知名町役場周辺は、
フェリーの旅客ターミナルのある和泊町に比べると飲食店が少なめ。
そんな中で土地の食べ物がいただけるかもと足を向けたのが、
ホテル裏手の施設、フローラル館にある「Haisai」。
肩書きに”台所”とあるのもなんだかそそられます。

浴場もある施設一階の暖簾を払えば忽ち、
なぜだかより穏やかな気分になる。迎えてくれたオバサマたちの、
活き活きとした表情と動きを眺めつつ、
「じ豆」で麦酒を始めます。

お品書きでまず目を惹いたのが「生きくらげの天ぷら」。やや塩辛かったものの、これが旨い(笑)。
裏を返した際、ふり塩なしにしてもらえば、さらに佳し。
乾燥きくらげとは歯触りや風味が違う。
生のきくらげをいただける機会ってそうあるものでもないこともあって、
実によい佳肴のひとつだと、そう思うのであります。

一緒に註文んだ「しょうがの天ぷら」も負けてない。シャクと噛めば、生姜の風味がふわっと弾ける。
仄かに残る辛味もまたよい。
駅そばにのっける紅生姜天もオツだけど、
一品料理にはなり難いものね。

そして、一番目を瞠ったのがご存知「豚足」。見た目がややグロテスクなのは豚足だもののお約束。
丁寧に下処理したと思しきその御御足。
無造作に噛り付けば、とろんと解けるコラーゲン。
塩梅よく煮込んだタレ味と渾然となった旨味が優しく届く。
沖縄本島あちこちのテビチとか、
石垣島の島料理「ひゃみく屋ぁ」の唐揚げとか、
五反田韓国家庭料理「王豚足家」とか、
あちこちで豚足テビチをいただいたけれど、
そんなこれまでの豚足体験で一番旨い!って、
思わず唸ってしまいました(笑)。

麦酒に続いていただいたのが、
沖永良部の黒糖焼酎「天下一」。
奄美大島でいただいた「里の曙」然り、
ほんわりと甘い風味に和む飲み口。烏賊が含んだ塩分もそのまま伝わる「島イカソーセージ」や、
「島野菜チャンプル」なんかをつまみに呑み進みます。
グラスを運んでくれるオバチャンたちの雰囲気が、
やっぱりいいンだなぁ。

大型の颱風に出くわして、ダイビングどころか外出もままならず、
ずっと部屋に籠っていた日の晩にもお邪魔しました。
ホテル裏手の通路を抜けて(笑)。

「生きくらげの天ぷら」や「豚足」「豆腐サラダ」に続いて、
テーブルに届いたのが「焼きとび魚」。海面近くを跳ねるように飛んでいる様子を思い浮かべつつ、
干物にしてたっぷりと脂の乗った身をご堪能。
他のテーブルの註文を盗み見てお願いした「水餃子」も、
美味しくいただいたのでありました。

風は残っていたものの台風一過の沖永良部に陽射しが戻り、
ホテル近所の屋子母海岸はやっぱり心地いい。そうそう西郷隆盛が収監されていた牢屋跡や、
西郷隆盛(西郷南洲翁)を祭神とした南洲神社へも寄り道を。
NHK「西郷どん」オンエア中にもかかわらず、
ひと気なく蝉の声のみが聞こえる境内でありました。

沖永良部島の知名町エリア、
フローラルホテルの裏手に台所「Haisai」はある。いらっしゃい、お元気?
オバチャンたちが「はいさい!」と朗らかに迎えてくれる。
さも当然のように美味しい郷土料理とともにその空気感が、
地元のひと達にも愛されている理由なのでしょう。

「Haisai」
鹿児島県大島郡知名町知名520 フローラル館1階 [Map] 0997-93-0122

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くしろ「炉ばた」で烏賊刺きんき茄子椎茸炉端焼き喜ばしき烏賊味噌しま海老

たんちょう釧路空港から釧路市街へは、阿寒バスが運行する空港連絡バスに揺られておよそ45分。
停留所のひとつ、JR北海道の釧路駅は、懐かしさと寂寞が交叉する佇まい。
赤煉瓦色の三層のラインが飾る駅舎は、その建設を国鉄と地元が共同で行い、代わりに商業施設を設けた、所謂民衆駅の道内で現存する最後のものであるらしい。
民衆駅地下には嘗て釧路ステーションデパートがあったが、2004年(平成16年)に閉店。
駅真ん前のホテルのひとつは今、廃墟のようになっています。

釧路駅開業90周年を記念して設置されたという、
D51の動輪越しに駅舎を見遣る。陽が落ちてから出没するのはそんな釧路駅前ではなくて、
釧路川も程近い末広町・栄町の繁華街。
舗道に埋め込まれた鮭のレリーフを拝み、
鮭を手に掲げる漁師に手を合わせてから向かうは、
炉ばた発祥の店と謳う、
その名もずばり「炉ばた」であります。

それは街灯の色味も手伝ってか、
古色然とした佇まい。寒さの抜けぬ頃まではどうやら、
窓にビニールで目張りをして隙間風を凌いでいるようです。

暖簾を払い、格子戸を引き囲炉裏をコの字に囲む炉端へ。竹で組んだ火棚越しに、
「たらの三平汁」に始まる品札が望めます。

北海道ご当地「サッポロ クラシック」をいただいて、
まずはひと息つく。
「いか」の刺身の按配のいい透明感と、
規則的な包丁の軌跡を暫し眺める。心地よくもねっとりとした甘さが溜まりません。

囲むカウンターの中心には、囲炉裏の主の姿がある。白髪に朱の頭巾の小母様が、煙の向こうに佇んで、
時折焼き物なぞの世話をする。
仰ぎ見た天井のコールタールを塗り込めたような表情に、
炭火の煙に燻し続けた積年を想います。

そんな炭火で焼いておろし生姜を添えた茄子が旨い。ちょいと醤油を垂らした椎茸も勿論のこと。

同時にお願いしていた「きんき」も焼き上がる。やや小ぶりな干物にも喜知次らしい脂の甘さがあって、いい。
そこへ釧路の地酒「福司」の冷やを。
囲炉裏端で呑ってる感、満載であります(笑)。

そしてそして「いか味噌」が喜ばしき佳品。ふんわり炙るように焼いた烏賊の中に、
やや甘い味噌のあん。
その甘さに嫌味なく、
烏賊の身の甘さを倍加させるように引き立てます。
そこへ「福司」をきゅっとね。

「ときしらず」は残念ながら直前で売り切れてしまったものの、
「しま海老」には有り付けた。紅い殻に縞模様がうっすらと浮かぶ。
外した殻の中のミソを吸い、白い身にしゃぶり付く。
これまた上品な甘さを想う旨味に、
ぶんぶん首を縦に振ることになりました。

品書きの「一品」の項にあった「めふん」は、
雄の鮭の中骨に沿って付いている、
血腸(腎臓)を使って作る塩辛であるようで、
これぞ呑ん兵衛の酒の友。「うに丼(小)」をいただいて大団円。
茶碗を飾る雲丹にミョウバンの気配なし。
澄んで濃いぃ旨味にじっと目を閉じます(笑)。

港町釧路で炉ばた発祥の店と謳うは、その名もくしろ「炉ばた」。“炉端焼き”という呼称の発祥は、
1950年(昭和25年)に仙台で開かれた「炉ばた」である、
というのが通説のようではあるものの、
当店が炉ばた発祥の店であり、
60余年の歴史があると品書きの裏にも明示している。
少なくともそれがただのハッタリではないと思わせる佇まいが、
今もここにあるようです。

「炉ばた」
釧路市栄町3-1 [Map] 0154-22-6636
http://www.robata.cc/

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