酒蔵「瀬良美」で地酒燗酒一品稲里地物平目に焼き蛤常磐沖の鮟鱇鍋偕楽園の梅の花

serami相当昔のことにはなるけれど、笠間あたりのゴルフ場に時折出掛けたりしていたこともあって、遠いっちゃ遠いけどそのうち訪れる機会もあるだろうと思っていた場所のひとつが、水戸の町。
毎年、梅を愛でようと足を運んだ沢山のひと達で、水戸・偕楽園が賑う様子をニュースなんぞで眺める度に、あ、ここ一年も訪れる機会がなかったなぁと小さく思うのでありました。

漸く水戸を訪れる機会がやってきて、
それが図らずも凡そ梅の花咲く頃。
夕闇迫る時間帯なれど、
名勝の誉れ高き「偕楽園」へと足を運んでみました。serami01serami02もう盛りを過ぎたのか、これからひと盛り上がりあるのか。
全体的には閑散とした表情の梅の花。
狙ってきた訳じゃないので仕方はない、
またこなくっちゃと思いつつ御成門から園を辞することとします。

駅界隈に戻って、
何処かで水戸での一献を呑っつけようと辺りを散策する。
ペデストリアンデッキのある南口よりも、
国道50号線の終点となっている、
北口方面の方が賑っているようです。

例によって(笑)、
駅前から早速、横道へと忍び込む。
佇まいからして、そして店から漂い出る出汁の匂いに一気に惹かれた、
郷土料理の店「環翠」の暖簾を払う。
店の中に身体を入れると更に、美味しそうな空気に包まれるも、
なんと予約で一杯なのだそう。

成る程、人気なのだなぁと思う感心と、
そこにありつけなかったなぁと思う無念を交錯させつつ、
その先の横丁路地へと徘徊範囲を広げます。

ウロウロ歩き回った挙句辿り着いたのが、
国道沿い南町一丁目信号近くの酒蔵「瀬良美」であります。serami03駅から離れていることもあってか、静かな店内。
客間の真ん中に据えた囲炉裏端に腰掛けます。

お通しの長角皿には、
鮟鱇の煮凝り風ゼリー寄せに蛍烏賊、蕗の薹味噌。serami04冬が春の気配を帯び始める、
そんな時季を思わせる誂えでありますね。

水戸の地酒、辛口「一品」をぬる燗でお願いして、
お相手は、茨城は那珂湊の「ひらめ刺」。serami05旨味の廻った白身の歯触りは、むっちり系。
脂を含んだ縁側も艶かしく迫ります。

一個がそんなお値段(797円)なのですかとも思いつつ、
大洗産の「焼きはまぐり」も是非にとご註文。serami06挿し入れてくれた切れ目も嬉しい、
しっかりサイズの蛤くん。
熱々を頬張れば花開く清らかな磯の旨味滋味。
そんな身から滲み出た汁も勿論逃さずに(笑)。

選んだお猪口は笠間焼きですよと訊いて、
そこに注ぐのも笠間の地酒にしてしまおうと、
純米酒「稲里」をクピっといただきます。

おひとりさまで喰らうには量が心配ですねと云いつつ、
折角なのでとお願いしちゃった「あんこう鍋」。serami08調理場で煮立てた土鍋がそろりそろりと到着します。
ふつふつと沸く肝味噌仕立ての汁の湯気に、
燗酒が温めてくれた頬をさらに温くしてくれるような気がしてきます。

しっかりとした旨味を湛えつつ、
決して濃密な加減に転がらない汁がいい。
べったり濃いぃばかりの鍋はもう卒業のお年頃(笑)。serami07常磐もの入荷と品札にあるのは、
常磐沖とも呼ばれる茨城沖の鮟鱇であるという。
最近、何処も獲れなくなっているそうですねと訊くと、
一般には品薄と聞きますが、
ウチは長く培った仕入れ先があるので、
比較的安定していますと仰る女将さん。
常磐沖はつまりは浜通りも近いことをちらっと思いつつ、
一人前を美味しく平らげる。
流石に雑炊までには至れなかったのがとっても残念であります。

そうそう、女将さんによると、
鮟鱇は、雄が専ら小さくて、
偶に見かける唐揚げにしたものは、雄か外国産のものだという。
たっぷりとした鮟鱇鍋になってくれるのは、
主に雌の鮟鱇だということなのですね。

水戸駅からちょっと離れた国道近くの裏通りに、
日本酒専門店を謳う酒蔵「瀬良美」が静かに佇む。serami10日本地図の上に日本酒の銘柄名を認めた箸袋には、
創業昭和46年とある。
きっと半世紀近くの永きに亘って、
茨城や水戸の郷土料理やお酒を供してくれてきて今がある。
女将さんのお名前が、
良美さんであるかどうかは、訊き損ないました(笑)。

「瀬良美」
水戸市南町2-2-32 [Map] 029-227-3701

column/03665

洋食「八丁堀食堂」でいつもの唐揚げ生姜焼きいつの間にか毀れる看板の文字

hacchoborisho時は江戸の頃。
そこに与力や同心の組屋敷が置かれたことから、彼らを指し示す隠語としても使われたという”八丁堀”。
古く”八丁堀”と呼ばれたのは今、ワインと豚の「ぶーみんヴィノム」や イタリアン・バー「BARDIGO」、知多半島エッセンスたっぷりの和カフェ「ハントコCafe」のある新金橋交叉点や首都高の京橋ランプ辺りと京橋の本店が10周年を迎えたご存じ「ど・みそ」の八丁堀店や「ガールドリヨン」なんかのある桜橋交叉点の間を流れていた掘割、桜川のことだという。
時代劇でも馴染みのある方には馴染みのある”八丁堀”を店の名に冠した食堂が、桜川公園も程近い市場通り沿いに佇んでいます。

開業初日の開店早々にお邪魔したのは、
気が付けばもう、かれこれ4年も前のこと。hacchoborisho01縦格子に取り付けられてその名を通りに示していた、
真新しかった看板も風雨と西日にあっという間にやられて、
どんどん文字が毀れていきました。
そして「八丁堀食堂」転じて、
「ゝ食堂」になっちまった時季もありました(笑)。

いつの間にかと云えば、
店内のレイアウトが変更されたこともそう。hacchoborisho02石ちゃんの訪問を受けたちょっと後辺りの頃なのでしょうか。
L字でオバちゃんの陣地を囲っていたカウンターが取り払われ、
両サイドの壁に向かってカウンターをふた筋置いた配置になった。
少しでも多くのお客さんを収容しようと意図した、
変更なのだろうとお見受けしています。

そして恐らく、その改修を機会にして、
何故だか店内がハワイアンテイスト満載になった(笑)。hacchoborisho03今現在接客対応している姐さんの趣味なのではないかと、
何の根拠もなくそう思い込んでいるのだけれど、
果たして真偽の程は如何なのでありましょう。

いつの間にかメニューも増えて、
成る程、ハワイアンの定番「ロコ・モコ」なんてのも出現。hacchoborisho09hacchoborisho10いつものことながら、
兎に角ハンバーグに目玉焼きを添えれば、
あとはどんなんでも「ロコ・モコ」なのかどうかは、
良く分からないなぁと思いつつ、
たっぷりとグレイビーソース漬けになった、
ハンバーグの厚みに感心しつつ、
これまた半分にしてもらったご飯と合わせて平らげます。

毎度お世話になっているメニューの筆頭が、
やっぱりの「からあげ定食」。hacchoborisho04hacchoborisho05気分次第でタルタルか、
ソースを添えないノーマルかを選びます(甘辛ソースもある)。
香ばしく揚がった衣に包んだ、
揚げ立てジューシーの魅力を存分に堪能する瞬間です。

毎度お世話になっているメニューのもうひとつの雄が、
これまた勿論の「しょうが焼き定食」。hacchoborisho06hacchoborisho07開店当初の印象は、
じっくりよく焼いた生姜焼き、というものでしたが、
最近のは、凹みに生姜の利いたタレがたっぷり溜まる生姜焼き、
ってな印象に変わっています。

どちらにしようか毎度毎度迷うのは、
唐揚げか生姜焼きか。hacchoborisho08その一方で、これはしまった!
と云わざるを得ないのが「キーマカレー」。
偶々なのかいつもなのかは不明ながら、
掻き混ぜ過ぎたような挽肉がペースト状になっていて、
なにせもう、脂でねっちゃねっちゃなのであります。
唯一おススメできないのがカレーというのも、
面白い食堂でありますね(笑)。

「ロコ・モコ」のハンバーグを豚かつに代えれば忽ち、
「デミかつ定食」の皿になる。hacchoborisho11濃密なデミグラスではないところが、
反って「八丁堀食堂」らしいと好感をもってただきます。

今はもう桜川のお堀も同心の姿もない八丁堀の真ん中に、
老舗の枯れ味さえ漂わせはじめた洋食屋「八丁堀食堂」がある。hacchoborisho13壁に掲げた看板の文字はすっかりなくなって、
代わりに扉の脇に提げた黄色い札もスチレンボードの安普請。
近いうちにその札も毀損するものと心配しています(笑)。

「八丁堀食堂」
中央区八丁堀3-22-13 [Map]電話番号非公開

column/03664

味処「きく蔵」で大雪渓と特上馬刺しおやき的名物筍饅頭つらら麺松本の宵の口

kikuzo路上に雪が積もり残って凍り付いていても、こっちの人達は平気な顔で自転車を乗り走る。
一面に雪が凍り付いた札幌の舗道上でピンヒールのおねえちゃん達が闊歩していた光景よりは驚かないものの、ちょこちょこコケたりしないのかな、なんて思う松本市街の一日。
時刻が夕方に差し掛かってくるとやっぱり、地べたの底の方から冷気が上がってくるような気がする。
完全防備で訪れていたので、身体や足許は寒くないものの、風に晒した頬っぺたは流石に冷たい。
晴れていてよかったと、冬空の松本での仕事を終えました。

市街地を流れる田川という河沿いを往き、
蕎麦店はおひる時のみの営業の店が多いのだなぁと、
そんなことを思い乍ら例によって路地へ路地へと迷い込む。

ナワテ横丁と示す小さなアーチを掛けた、
妖しげで断然惹かれる路地にも、
灯りを点している店は余り多くない。
一度お邪魔したことのあるビストロ「橋倉」の店先の空気を確かめて、
路地の角にある居酒屋をちらっと覗き込んだりする。kikuzo01その先へと抜けて、大正ロマンの街なんて、
そんなフレーズを掲げた上土通り辺りを徘徊します。

枯れた風情がいい味わいの「本郷食堂」の店先を掠めて、
まだまだ雪の残る裏道を往くと、
右手に料理屋の灯りが見えてくる。kikuzo02「きく蔵」とひらがなに崩した名の看板の横には、
「菊蔵」と篆書体風の書体で藍の暖簾に白抜いてある。
店先の黒板には、本日のお勧め品が並んでいます。

開店早々、混み合う前のカウンター。kikuzo03おばんざいよろしく、
大皿の幾つかがカウンターの上に載せられています。

店先の黒板で認めていた「特上馬刺し」。kikuzo04滋味深そうな見栄えも、
届いたばかりはまだ凍っていて、
つまりはほぼルイベ状態。
暫く放っておいてから愉しみましょう。

御髪もびしっと決まった姐さんに、
「筍まんじゅう」とはと訊ねると、
当店の名物のひとつで、
刻んだ竹の子のあんを包んで揚げた、
自家製の饅頭だという。kikuzo05火傷しないようにしてくださいねと受け取った、
笊の真ん中に鎮座した「筍まんじゅう」。
そこには「きく蔵」と刻印が焼かれている。

どれどれと半切した饅頭の中には成る程、
湯気を上げる竹の子のあん。kikuzo06そぼろな肉や椎茸、
そして竹の子が濃い目の味付けで包まれている。
うんうん、酒のあてにもなるイケる口の饅頭、
いや、饅頭というより謂わば”揚げおやき”でありますね。

冷えた頬っぺたを温めようと、
信州安曇野の山の酒と謳う「大雪渓」の燗酒を舐めていたら、
お品書きの「白子天ぷら」が気になった。
kikuzo07信濃の国で呑る信濃の国のお酒に海のものもよく似合う。
期待通りの生き生きとした白子のクリーミーが、
揚げ立ての衣の中から弾け出ます。

ふと卓上の鉢の中に置かれたムック本の背表紙が目に留まる。kikuzo08その内のひとつは、太田和彦先生の一冊。
先達にはいつもお世話になっております(笑)。

カウンターの向こうで大将が、
いそいそと拵えているものがある。
チーズ状のものを臙脂色のあんで巻いているのだ。kikuzo09それって何です、いただけます?と訊くと、
何か特別な膳に添えるもののようだったけれど、
お裾分けをいただけました。
マスカルポーネと松の実を杏子飴のような生地で巻いて、
それを切り分けると妙にそそる断面。
こふいふのもオツ、というのでしょうね。

お代わりしちゃったお銚子のお相手に、
もう一品とお願いしたのが「新じゃが照煮」。kikuzo10コロコロっと丸くて小さめの新ジャガが、
皮付きのまま、味醂控えめの割とキリっとした煮汁に絡んで。
ホクホクがホイホイと食べれてしまいます(笑)。

新宿へ向かうかいじ号に乗る前に、
〆てしまおうと品書きのお食事欄を眺めると、
「つらら麺」なんて聞き覚えのないフレーズが目に留まる。kikuzo11訊けば、松本から北上した大町温泉郷で、
つららの出来るような寒いところで作っている、
塩を使わず納豆菌で打った麺なのだという。
成る程、このツルルンとした滑らかさはもしかして、
納豆菌の仕業なのかしれません

市街から松本城側に田川を渡る、上土通りとかつて呼ばれた裏道に、
割烹にして季節料理の味処「きく蔵」がある。kikuzo12店内に掲示された「フグ営業届出済証」には、
ご主人のお名前が示されていて、
そこには”菊”の文字がある。
今度もしも機会があるなら、
奥の個室で「ぼたん鍋」なんぞをいただきとう御座います。

「きく蔵」
松本市大手4-7-10 [Map] 0263-36-3728
http://www.matsumoto-kikuzou.com/

column/03663

魚料理「高はし」で初夏暖簾穴子丼秋暖簾牡蠣豆腐冬暖簾越後村上鮭に喜知次煮付

takahashi20年に開催が決まっている東京オリンピック・パラリンピック競技大会。
デザイン設計や予算措置の相変わらずの官僚的ドンブリヌケ作対応具合を露呈した新国立競技場の建設費はもとより、D社の暗躍とそのヘッポコ具合すらも邪推させる問題を起こしたエンブレムにだって相応の莫大な費用が費やされる。
新たに決まった競技場の設計やそもそもの要件の中に聖火台が含まれていなかったなんて聞くと、その基本的な準備すらできないグダグダ具合にもう笑うしかない。
でもただ嗤って済むほどの事柄ならいいのだけれど、”オリンピックのためですから”という大義名分ためにどれだけの関連費用がぶち込まれ、時にネジ曲がった政治差配がまかり通っているかと思うと辟易となる。
それ相応に予算がついていたとしても、なかなか建設土木的な側面の大震災から復興がなかなか進まないのは、なによりも人手不足によるものだそうだけれど、その人材は今オリンピック関連の工事事業に回ってしまっているのではと考えても何の不思議はない。

晴海に建設されるいう選手村。
その晴海に向かって、
既に虎ノ門あたりから汐留まで開通している環状二号線が、
いまの築地市場の敷地を突っ切って、
豊洲方向へ延伸して完成するという。

計画道路が世界的に知られている市場の場所を通るという、
そんな計画をした奴がそもそもアンポンタンなのだけど、
一度計画してしまうと何が何でもとそれに拘泥して、
機を見るに敏の変更なんてできないのが行政の劣悪なところ。

経済効果をゴニョゴニョ謳っていることはさて置いて、
聖火台のない競技場に400億円も支出するのだったら、
オリンピックなんて止めちまって、
その支出を築地市場の改修に回せば、
今の場所で世界の築地市場が存続させることができるだろうにと、
何度も何度も考えてしまうのだけど、
そう考えるのはワタシだけでありましょか。

閑話休題。

いよいよ移転のための閉場をこの11月に控えた築地場内は、
いつものようにターレが行き交う。takahashi01takahashi02押し寄せる観光客の人並みは時に、
魚がし横丁の通路を埋めてしまう。
此処が遠からずなくなってしまうことをちらっと脳裏に瞬かせながら、
行列のひとりとなっているひとも少なくないでありましょう。

そんな横丁の8号館の真ん中辺り。
ご存知「高はし」の初夏の或る日の暖簾は、
くっきりとした苗色。takahashi03止まり木の覗く開けっ放しの扉たち。
魚がし横丁がより一層開放的な場所になる時季なのかもしれません。

「高はし」が耳目を集める品書きのひとつが、
名物と謳う「あなご丼」。takahashi04takahashi05期待に違わぬふっくら状態で供される穴子。
煮含める加減が過ぎず、不足なく。
煮汁の加減も甘過ぎず、辛過ぎず。
毎朝毎朝の仕込み調理にきっと微妙な匙の違いはあれど、
安定して美味しき穴子くんでございます。

別の或る日のおひるには「刺身定食」。
それは、とり貝にヒラマサに本鮪の赤身なぞ。takahashi06takahashi07定食のお供に出してくれるいつもの小鉢は、
切干大根と里芋の煮付け。
いつもの小鉢にいつも和んでしまうのは何故でしょう(笑)。

季節が移ろって秋が深まってきて気が付くと、
「高はし」の暖簾は深い紺色のものになっている。takahashi08誘うようにまだ少しだけ開け放している扉も、
もうすぐ閉じられてしまいそうな、
そんな気配も漂い始めています。

そんな時季にはやっぱり、
お待ち兼ね!とばかりに湯気を上げる、
この器が欲しくなる。takahashi09takahashi10註文を受けてから火を入れた三陸の牡蠣は、
ふるぷるとして艶かしくも滋味深い。
その滋味には白味噌仕立ての汁がぐっと後押し。
牡蠣と交互にいただくお豆腐は勿論のこと、
もうひとつ相棒の鮪の角切りも粋な役回りを演じてくれています。

霜月の或る日には珍しく”兎に角鮪”な気分になって、
生本鮪赤身と中トロの刺身盛り合わせ」を所望する。takahashi11takahashi12思わず見詰めてしまうのは、
切り分けた鮪の断面の肌理がとっても美しかったから。
こんな贅沢はじっくると目を閉じて堪能しなければいけません(笑)。

年が改まったら替えることにしているのか、
新年早々に訪ねた「高はし」の暖簾は、
雅な気配を帯びた臙脂色。takahashi15流石に閉じている扉の前には例によって、
その日におススメの一品や定番名物の品が貼り出されています。

年末から気になっていたのが、
「越後村上塩引鮭」なる短冊。
値が張るもの故、一度躊躇して、
改めてでもやっぱりと努めて冷静に註文を入れました(笑)。takahashi16takahashi17こんがりと焼き込んだ皮目の厚みに、
鮭の身の胆力を思ったりする。
ほろっと解れる艶やかな身は薫り高く味わいが濃いぃ。
塩分気になるお年頃故、
塩引きでない状態ではいただけたらもっと素敵と思うも、
それが叶うのもなのか大将に訊き損ねてしまいました。

値段に躊躇してついでに腰が引けていたものと云えば、
食堂高はしの煮魚四天王の一角「きんき煮付け」。takahashi18takahashi19takahashi20その紅い皮目の鮮やかなこと。
儚き薄皮に包まれた透明感を含む白き身の甘さよ。
深い海がこんな美味しさを育んでくれるなんてと、
改めて驚いてしまいます。

お向かいの店の前によく木製の台車が置かれている。takahashi21これを見る度に、ずっと昔、
実家の隣にあった青果市場のことを思い出す。
台車に乗っかって引っ張って、
市場の中を走り回ってよく怒られたんだ(笑)。

こだわりの魚料理を市場の気風とともに供してくれる、
築地「高はし」ここにあり。takahashi22毎日のように日参するひとあり。
また遠く名古屋から足繁く通うひともあり。
そんな客筋を少なからず生む魅力を持つこの店も、
豊洲への移転を余儀なくされようとしています。

「高はし」
中央区築地5-2-1 築地卸売市場魚がし横丁8号館 [Map] 03-3541-1189

column/03662

北野上七軒「ふた葉」でたぬきうどんお揚げとあんとおろし生姜のトリオがズルい

futaba上七軒、と聞けば真っ先に思い浮かべるのが、北野天満宮の菅原道真公の御歌を掲げた楼門脇の梅の花でも、天満宮の鳥居前で行列をつくる「とようけ茶屋」でもなく、軒と軒とが鍔競り合うような上七軒の路地に潜む廣東料理の店「糸仙」。
五つ団子の紅い提灯やきりっとした藍色の暖簾。
京都の中華料理の個性の片鱗を垣間見させてくれるようなお皿たち。
その「糸仙」へ向かう上七軒通りにもう一軒、ずっと気になる佇まいの店がありました。

久し振りに天満宮にお参りしてから境内の奥から横手に出る。futaba01東門を背にして二岐を右手に往けば、それが上七軒通り。
目当ての店は、過日と変わらぬ佇まいを魅せていました。

小上がり席にひとつだけ空いている卓を得て、
配膳口の上にずらっと並べ掛けられた品札を見上げます。futaba02京都でうどんなら、
祇をん「萬屋」の「ねぎうどん」に代表される、
九条葱のおうどんがいい。
ところがまだその時季(冬季)に至っておらず、
恐らくひっくり返っている品札が「ねぎうどん」のそれなのでしょう。

ならばお揚げさんで参りましょうかと、
改めて黒の品札の並びを見定める。futaba03届いたどんぶりには、
しっかりとしたあんの湖面が張られてる。
半透明のあんの下に刻んだお揚げの並びが窺えます。

京都で”たぬき”といえば、
“お揚げにあんかけ”であるらしい。futaba04futaba05甘辛く炊いたお揚げに、
片栗粉でとろみをつけた出汁が妖艶に滲みる。
そこへおろし生姜の辛味風味が色を挿す。
うどんそのものに特段の妙味はないものの、
この、お揚げとあんとおろし生姜のトリオは、
九条葱のおうどんに負けないズルさがあるのです。

京都北野、上七軒通りに京のうどんの店「ふた葉」がある。futaba06「おぼろ」に「のっぺい」、「けいらん」に「肉カレーうどん」。
「にしんそば」に「中華そば」までもが気になるけれど、
次回の機会があるならぜひやっぱり、
「ねぎうどん」をいただきとう御座います。

「ふた葉」
京都市上京区真盛町719 [Map] 075-461-4573
http://www.futaba-kami7ken.com/

column/03661