あんこう鍋「谷中 鳥よし」で 熟成酒竹鶴と鮟鱇鍋すっきりとした滋味

toriyoshi昔のままの町並みが残る界隈として、
夙に知られた、ご存知”谷根千”。
山手線の内側にありながら、
太平洋戦争の被害を余り受けることなく、
そして大規模な再開発の爪牙にかかることなく、
今にある下町情緒が人気を呼んでいるところ。
南に言問通り、北に道灌山通り。
その真ん中あたりを不忍通りが縦に貫いています。

そして、谷中といえば、「谷中ぎんざ」を見下ろす構図が、
定番中の定番となっている。toriyoshi01平日の宵の口ということもあってか、人影は疎らです。

惣菜「いちふじ」の店先を横目にしつつ、
突き当たりのよみせ通りを右に折れる。toriyoshi02すずらん通りと呼ぶ横丁のゲートがちらっと見えてきた辺りで、
右手の袋小路の先を見遣れば、目的地の提灯が見付かります。

通路に沿って続く縄暖簾の内側が座敷になっている。
奥にはベンチシートの小ぢんまりしたカウンター。toriyoshi03皆の到着まで、厨房の下がり壁の品札や黒板のメニューをゆっくりと眺めます。

最初の乾杯のあと、お迎えしたのが「特製かにサラダ」。toriyoshi04思わず「カニカマにそっくり!」と云いそうになりますが(笑)、
それだけたっぷりと蟹足の身肉が載ってる。
甘さを逃さぬよう、ゆっくりと咀嚼して愉しみます。

続いて、登場は、「白子ポン酢」。toriyoshi05クリーミーな魚介の旨さで云えば、牡蠣のそれよりも明快そのもの。
なにかイケナイことをしているような背徳感が微かに過ぎる。 
紅葉おろしが一番似合うのが「白子ポン酢」じゃないでしょか。

「刺身盛り合わせ四種」には、
千葉の〆鯖、宮城の真蛸に岩手の帆立、勝浦の鮪と率直なラインナップ。toriyoshi06toriyoshi12熟成の黄褐色が印象的な「竹鶴」のお代わりをお願いします。

勘亭流の文字が象る品書きから「自家製さつま揚げ」。toriyoshi07平たい小判型や四角形などといった形状ではなく、
不揃いながらもコロンと俵型なのが特徴のひとつ。
そして、揚げ焼いた外周を愛でつつ齧れば、
練った魚の旨味が香ばしく弾き出る。
オツだね、美味しいね。

黒板に読むこの日の生牡蠣は、気仙沼・唐桑からやってきた、
その名も「ど根性かき」。
震災を乗り越えたことからこの名前を付したものらしい。toriyoshi08勿論生でいただけるものを敢えて酒蒸しにしてもらう。
程よくたっぷり身入りした牡蠣の旨味が酒に蒸されて活き活きと内包されて、
あああ、うんうんと頷き合います。

そして、メインのお鍋の具材が届けられました。toriyoshi09大皿の頂に鎮座するのは、おにぎり状に丸めたあん肝だ。

順番も特になく、どんどん鍋に入れちゃってください、とのご主人のご指示に従って、
既に沸き始まっている鍋の湯へと鮟鱇の身のあちこちを投入します。toriyoshi10sepp先生と某有名作曲家との裏話なぞを聞きながら、しばし待つ。
ぱかっと鍋の蓋を返せば、湯気とともに煮え端のあんこう鍋が姿を現しました。

スープの色合いからも白味噌混じりの仕立てが窺える。
ほくほくした身やつるんとした身を交互にいただきつつ、時折スープの恩恵に与る。toriyoshi11全体に鏤めた刻みあん肝が絶妙の効果を発揮してる。
しっかり豊かな滋味なのにそれがすっきりと軽やかなのがまさに出色。
月島「ほていさん」のあん肝大サービス攻撃には少々食傷する瞬間もあったけど、
此処ではそんな心配もなく、さらっと満足、そんな「あんこう鍋」。
勿論、おじやにしてもらい、皆で鍋底まで浚うのでありました。 

     

谷中の袋小路に創業昭和二十八年のふぐ・あんこう鍋「谷中 鳥よし」がある。toriyoshi13品書きの勘亭流の文字は、
趣味で習っているご主人の手によるものらしい。
「鳥よし」というと、目黒や西麻布、銀座などの焼き鳥店が有名だけど、
三代目とともに家族経営しているという此方のお店は、
どんな経緯で「鳥よし」と名付けたのかな。

口 関連記事:
  海鮮酒処「ほていさん」で てんこ盛りあん肝逆説的美味しさの方向(06年01月)
  焼鳥「鳥よし」で つくねわさびしろたまねぎうずらればちょうちん(05年06月)


「谷中 鳥よし」
台東区谷中3-14-6 [Map] 03-3823-6298
http://www.yanakatoriyosi.com/

column/03496

下町の洋食屋「ながおか」で カキフライにジンヂャーライス美味いナポ

nagaoka中央区湊三丁目。
佃大橋の西詰めに向かう通りで、
“洋食”と小さな赤い文字で記した、
白い暖簾を掛けていたのが、洋食「ながおか」。
すっかりご無沙汰しているうちに、
築地に移転しているとの噂を聞きつけました。
確かに、あの辺りも所々に空き地があって、
纏まった土地にしてビルでもおっ建てたい欲望が、
云わずも漂っていたのを憶えています。

移転先は、デニーズ築地店の裏手すぐ。
緑青色の古びた家屋の角を曲がったその隣。nagaoka01ここは以前、天むすのお店があった場所ではないかしらん。
そこに一軒まるごと新しいお店が建っていました。

店内は、テーブル席が都合16席の小じんまり。nagaoka02早速ランチメニューを拝見すると、
嬉しいことに「カキフライライス」がその筆頭にある。
ここでそれをお願いしない訳がありましょか。

カキフライは、移転前と同じようにステンレスの楕円皿でやってくる。nagaoka03定番定型の5つ盛りであるところも、
蜜柑の半裁が添えてあるところも変わらない。
マカロニサラダのあたりを口開きに、檸檬を搾って、いざいざ。

火傷しないように気をつけながら齧りつく。nagaoka04うんうん、加減よく火が入った牡蠣の滋味の豊かさが素直に伝わってくる。
その揚げ口に気取りのない熟練を思います。
訊けば牡蠣は、三陸・宮城のものだそう。

霧雨の降るおひるには、「ジンヂャーライス」。
これもまたGingerちんが食べていたのとおそらく寸分も変わらない。nagaoka05厚手の豚肉に、短冊というか拍子木というか、
長さが保てるように切った玉葱が特徴のひとつ。
それが火を入れ過ぎてシナっとしないように炒めてる。
そして、おろしたての生姜をたっぷり使っているのがよく判る、
ジンヂャーの利かせっぷりがもうひとつの特徴だ。
旨いね、美味しいね、ご飯が進んじゃうね。

ところが、改めてランチメニューを眺めるとそこにはあの麺料理がない。
ということで、夕餉の時間にお邪魔してみました。

nagaoka06夕餉の時間のメニューには、きちんと載っている「スパゲティナポリタン」。
千切りキャベツのみが一緒盛りというパターンも意外と珍しい。
そこに、荏原中延「ふじかわ」同様、味噌汁が添えられます。

フォークの先をくるっとして、いただくナポリタン。nagaoka07ああああ、これは、うまひ!
実は、客席から厨房のご主人の背中がちら見できていて、
お願いしたナポリタンを炒める音やフライパンをガコガコする音も聞けていた。
それで、ずっとずっとずっと炒めてくれているのを承知していたので、
やっぱり!と膝を打つよな出来映えなのであります。
焦げる寸前くらいまでのよく炒め、
やはりそれが、旨いナポリタンの要諦なのでありますね。

成る程、ランチメニューから外した理由も判るような気がします。
ナポちんの感想聞きたいなぁ。

湊から裏築地の一角へと移転して新装なった下町の洋食屋「ながおか」。nagaoka08在り来たりにも映るニッポンの洋食を、
当たり前のように丁寧に拵えてくれています。

口 関連記事:
  洋食「ふじかわ」で 生姜焼きナポリタンかきフライ町の洋食今日も(14年11月)
  洋食「ながおか」で 破れた衣の揚げ色がソソるカキフライ(08年02月)

「ながおか」
中央区築地3-4-6 [Map] 03-3552-7089

column/03495

FINE RAMEN「AFURI」中目黒で 柚子塩らーめん青の洞窟を背に

afuriそれは秋分の日の前後でのこと。
中目黒駅前にあるGTタワーに寄ってから、
目黒銀座商店街をぶらついて、突き当りを右に折れ、
東横線を潜ってすぐをまた右に折れて、
高架の脇を山手通り方向へと戻りつの散策をする。
ひるのみ営業のうどん「sugita」の前辺りから、
高架下はずっと万能鋼板の白い壁が続いてる。
看板のない店「豚鍋研究室」も炭火焼 「尋」もなく、
道の両脇にあった「鳥小屋」も近くに移転済。
なんだか随分と寂しい通りになってしまいました。

季節は流れて師走の冷え込む夕べ。
今度は、中目黒の駅から山手通りを渡ります。
こちらの高架もやっぱり耐震工事中。
何度もお邪魔した「いろは寿司」ももう跡形もありません。
ただ、そんな感傷に浸る余裕がないのは、
目黒川沿いへと向かう群集の勢いの所為なのでありました。

ひとが集中し過ぎて、土日祝日の点灯中止を余儀なくされたという、
イルミネーションイベント「Nakameguro 青の洞窟2014」。afuri02afuri01朝昼晩に眺められる桜の時季とは違って、
17時~21時の4時間に限定されるイルミネーションゆえの事態を、
さもありなんと思いつつ、やっぱり橋の上から眺めてみたいと思うのもまた、
人情というもので(笑)。
ひとがごっちゃり密集する狭い橋にクルマも通るとなれば、
安全が確保できないと判断するのも妥当なことでしょう。

幻想的な青色の世界を離れて、今度は別の行列に並んでみる。afuri03恵比寿の裏道にあるものとばかり思い込んでいた「AFURI」が、
中目黒にも出店していたのです。

やや待って案内されたのは、厨房囲むL字カウンターの右の隅。
正面では、焼き台に載せられたチャーシューが炭に炙られています。

注文の品「柚子塩らーめん」が受け渡されました。afuri04どんぶりを満たすスープは、
透明感を誇示しながらも、如何にも濃ゆく旨味を含んでいそうな面持ちだ。

そんな期待を飄々と超える濁りのない美味しさが蓮華のひと匙にある。afuri05塩の加減も旨味を引き立てるギリギリのところに置いて、
決してただの塩辛いラーメンにならないよう、そんな配慮を窺わせもする。
このスープもまた、阿夫利山の天然水を使っているのかな。

そして、そんなスープを上手に纏わせて、
自らの粉の旨味と合わせて啜らせるストレート細麺。afuri06国産小麦「春よ恋」の全粒粉を配合しているとのことで、
その粒子が箸で持ち上げた麺の表情に顕れている。
うんうん、安定感のある美味しさに感心頻りです。

中目黒の駅間近にも、あの「AFURI」のカウンターがある。afuri07恵比寿で行列を作っていた「AFURI」は、いつの間にか、
原宿や麻布十番、六本木や三軒茶屋にも店を構えているらしい。
多店舗展開はやはり、ラーメン店が避けて通れない道なのかなぁと考えつつ、
青いイルミネーションのざわめきを背にするのでありました。


口 関連記事:
  うどん「sugita」で のりぶっかけもっちり海苔風味が口一杯(08年04月)

「AFURI」中目黒店
目黒区上目黒1-23-1 中目黒アリーナ1F [Map] 03-5720-2240

column/03494

bistro「l’Etroit fils」で 大胆たんぽぽ的オムライス記憶に残る生姜焼

letroitfils武蔵小山駅を地上に上がって、
都立高で初めて選抜出場(21世紀枠)を果たした、
小山台高校を囲む塀の脇を往く。
時折金属バットが硬球を弾く音が聞こえてきます。
この小路を抜けていく先には、
うどん乃「かわむら」や手打ち蕎麦「ちりん」、
インド茶店「INDIAN CHAI HOUSE」などなど。
そして、その手前に紅いテントがアクセントのビストロがあるのです。

木骨モルタル造の典型的なアパートの一角が白塗りされて、
ちょっと洒落た表情のお店に仕立てられている。letroitfils01店先の黒板メニューを覗き込んでから、
「OPEN」の札の下がるドアを引き開けます。

店内もアパートの一角であることをすっかり忘れさせるシックな装い。
しっとり落ち着いて、居心地のいい雰囲気です。

奥の厨房前に陣取るカウンターで、
カップのコンソメを掬いつつ見上げた右手頭上には、
フィックスの小窓があり、大振りなワイングラスがディスプレイされている。letroitfils02京都のバー「カルバドール」の窓を思い出す。
壁には、錆びた風のカトラリーのオブジェが引っ掛けてあったりします。

目の前でその工程を眺めていた「鶏のオムライス」が手許に届きました。letroitfils04ゴロゴロっと大胆に切り分けた鶏肉が印象的なチキンライスがこんもりと。
その上に横たわるように玉子のふっくらが載っています。

”たんぽぽオムライス”よろしく、真ん中に一文字にナイフを入れて、
左右に押し開けば、半熟の波が広がってゆく。letroitfils05うひょーってなもんであります(笑)。

おずおずとスプーンを動かして、
チキンライスと玉子とをその壺に載せて、いただきます。
うーん、美味しい、文句なし。

夏の日の仕上げには、
フランボワーズのソルベのカクテルグラス。letroitfils06鮮やかな紅色と酸味が涼しさを誘います。

初冬の小雨降る日の昼下がりには、隅のテーブル席へ。
カップのコンソメを温かくいただいて、
のんびりと注文の品の到着を待ちます。letroitfils07スープは、「色々野菜と鶏のコラーゲンスープ」というタイトルでありました。

やってきたのは、なかなかフォトジェニックな”生姜焼き”。letroitfils08しっかり肉厚、ステーキ形状の豚肉に、
飴色のソースが綺麗に載っています。

ナイフを入れると均質な繊維が解けるように切れてゆく感じ。letroitfils09そのまま少し急くように口に運ぶと、
しっかり利いてる生姜の風味。
脂っぽい甘さの代わりに赤身の旨味がたっぷりとしているお肉。
うーん、美味しい、文句なし(笑)。
訊けば、豚の銘柄は、岩中豚であるそう。
記憶に残る生姜焼き、レトロワ特製「ポークジンジャー」でありました。

都立小山台高校脇に沿う小路にビストロ「l’Etroit fils(レトロワ フィス)」がある。letroitfils10ピマンpimentというか、ブリュニョンbrugnonというか。
そんなビストロらしい、紅いテントが目印です。
そのテントに微かに「5」の跡がみえるのは、
以前「ビストロ5番地」というお店であったから。
そして、店名「l’Etroit fils」はどうやら、
武蔵小山の窮屈な店「l’Étroit」の息子「fils」、ということのよう。
息子の方が広くてゆったりしているという、皮肉なことになっています(笑)。

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  うどん乃「かわむら」で 林試の森公園と居間で啜る肉汁うどん(13年10月)
  手打蕎麦「ちりん」で 鴨南蛮青唐だし巻きそばがき蕎麦屋酒冥利(08年07月)
  インド茶店「INDIAN CHAIHOUSE」でラムカリー美味しいチャイ(08年05月)
  Restaurant「L’Etroit」で 讃岐牛ちからこぶワイン煮満足な窮屈(11年03月)

「l’Etroit fils」
品川区小山3-5-19 [Map] 03-3712-6002

column/03493

魚介料理「本種」で 豪快にいこうにぎり寿し1.5丸ちらし鯔背な大将

motodane市場通りとの交叉点を背にして、
いつものように晴海通りを勝鬨橋方向へ。
「鈴木水産」の店先や「河岸頭」の今日の品書き、
「長生庵」の暖簾なんかを横目で眺め乍ら、
旧築地川の帯を越えて二本目の細い路地。
その先左手には、暫くご無沙汰の、
てんぷら「黒川」の看板が見付かります。
久し振りに「黒川」の天麩羅をとも思うものの、
この日の目的地は、そのお向かい。
提灯が示す店名は、「本種」です。

以前二度ほどお邪魔した頃は確か、今と変わらぬ設えで、
「めし丸」というお店だった筈。
いつの間に店名が変わったのでしょうか。
それはさておき、おひとりさまは、
路地正面のサッシュを開けてのカウンターへと侵攻します。
カウンターも以前のまま、6つの丸椅子があるのみです。

頭上に貼られた半紙には、
「刺身定食」「にぎり寿し」の一人前と1.5人前、
「丸ちらし」に「ねぎとろ丼」と4種のランチメニューが書かれています。motodane01にぎりの1.5をお願いしましょう。

あいよってな気風で手許を動かし続ける大将。
その後ろから、もうすっかり出来上がった常連客が、大声であれやこれやと声を掛ける。
それを大将は、去なすでもなく聞かぬでもなく、調子よく受け答えて、時に一緒に大笑い。
捻り鉢巻に白髪の揉み上げが鯔背な大将は、
市場ノリが板について、いい風情であります。

アオサ浮かぶ汁椀に続いて、大き目のお皿が手渡されました。motodane02蒸し海老を中心に放射状に並んだ寿司たち。
都合11貫に玉子が2片という構成です。

鮪をはじめとして、ネタに入れた包丁は豪快そのもの。motodane03お上品に行こうなどというつもりは基本的にないものの、
決してぞんざいなものではなく、
気取らずたーんと召し上がれってな気概が伝わってきて、いい。
舎利もおにぎりみたいなものではありません。
うん、満足満足。

その時にお隣さんが食べていたのが、「丸ちらし」。
まさに色々なタネがソレソレーとばかりに盛られてる。motodane04こんな時には、いちいち小皿の醤油にタネを運んだりすることなく、
練り山葵をたっぷりの醤油に溶いて、割り箸を添えて流し廻す。
そして、端からドンドコやっつけて満足するのが、このどんぶりの醍醐味だよね。
場内の某海鮮丼屋のように鄙びた舎利に凍ったネタを載せるようなことは、
きっと此処ではありません。

てんぷら「黒川」の路地の提灯が目印の魚介料理「本種(もとだね)」。motodane05横手から入るテーブル席で常連さんたちのように、
昼前から酔っ払ってみたいような気もします(笑)。

「本種」
中央区築地6-25-4 [Map] 03-5565-1923

column/03492