酒肴「柿一」で 気風のいいまぐろ漬定伴助鯖定生姜焼定煮魚定

kakiichi.jpg水天宮前交叉点の南側は、 住所でいうと日本橋蛎殻町。 唯一お昼メニュー「鳥わさ丼」の「よね家」や、 昭和な中華「来々軒」のある日本橋公会堂の周囲をぷらぷらと散策してみると、 鼻白むよなチェーン系店がない代わりに、 気になる家族経営・個人経営の飲食店がぽつぽつと見つかります。

そんなお店のひとつが、 日本橋公会堂の正面口近くの酒肴「柿一」。

一間間口の入口右脇の足元に品札が立て掛けてある。kakiichi01.jpg使い込まれた木札は、何処かの壁に引っ掛けていたもののようだけれど、 それをこうして並べているのが、なんだか風雅だ。

kakiichi02.jpg袖が触れ合いそうな間隔で並べられた椅子のひとつに納まって、 さっき眺めた木札のひとつが知らせる品を口にする。 「生姜焼定食」の生姜焼きは、北京鍋で炒めるスタイル。kakiichi03.jpgたっぷりのロース肉に丁寧に火が入って。 キリッとしたタレ味と豚の旨味に茶碗のご飯が甘く感じられます。

目を惹く品書き「伴助鯖定食」。kakiichi04.jpg「伴助鯖」とは、福島県いわき市の干物専門店による鯖の干物であるらしい。 干物にして見るからに、立派な鯖。 凝集した旨味と脂の甘さ。 なんだかとっても贅沢な気分です。

とある日の「煮魚定食」は、金目鯛のお皿。kakiichi05.jpg金目鯛らしいふんわりとした白身に滲みる煮汁。 煮汁を吸った大根には、金目鯛の旨味。 これもまた、素朴にして贅沢な気分にさせてくれます。

お隣さんの手元を眺めて気になっていたのが、「まぐろ漬け定食」kakiichi06.jpg注文を受けてから、ボウルの醤油タレに潜らす鮪は、赤身や中とろか。 魚介を沢山、無造作に盛り込んだ何処かの海鮮丼にはない、 気風ある美味しさであります。

kakiichi07.jpg 急がず、慣れた所作でおひるの定食を供する大将の背には、 夜のお品書きと思しき酒肴たちがホワイトボードに書かれてある。 実に何気ないメニューなのだけど、なんだかとっても佳さそうな、 そんな予感がいたします。

日本橋公会堂近くの一間間口、酒肴「柿一」。kakiichi08.jpg夕暮れ時に訪れて、ぬる燗のお猪口を手に酒肴の並ぶホワイトボードを眺めたい。 ゆったり解けた時間が過ごせると想います。

口 関連記事:   和食「よね家」で 昼の一本勝負鳥わさ丼その表情や味や佳き哉(13年10月)   中華料理「来々軒」で 昭和なラーメン醤油やきそばニラレバ炒め(13年06月)


「柿一」 中央区日本橋蛎殻町1-32-1 [Map] 03-3667-7375
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Drive In「白保食堂」で 鬼糸巻鱏舞う川平前と名残のソーキそば

shirahoshokudo.jpg沖縄本島や八重山諸島は台風の通り道。 南の島に出掛ける予定を組むときは、 当然台風の襲来に遭うこともあると心得ては、いる。 何週間も前から台風がやってくるかどうかなんて、 そもそも予報も予測もできないもの。 勿論、ピーカンで凪いだ海に繰り出したいけれど、 こればっかりはどうにもならない。 それゆえ、妙に気を揉んでも仕方がないと帰りの飛行機の心配だけするようにしています。

過日訪れた、いつもの石垣島は、まさに台風襲来前夜。 雨はさほどでもないものの、強い風が吹き回っていて、海は時化ている。 結局翌日のダイビングの予定はキャンセルとなって、ホテルでのんびりと。 そうそう、そういうこともあるんです。

その翌日は、川平の前の海の上。 ポイントは、マンタスクランブルを押し退けて人気のマンタシティ。 エントリーできるのは5隻までという制限がかけれているポイントで、 順番待ちとなるのです。

のんびり待ってからエントリーしたなら早速、マンタたちがお出迎え。shirahoshokudo01.jpg3枚、5枚、いやそれ以上のマンタが優雅に力強く舞うように滑るように。

マンタ(オニイトマキエイ鬼糸巻鱏)は、 じっと待っていると向こうからやってきてくれる。shirahoshokudo02.jpg頭の先に一対である頭鰭(とうき)がぐるぐると巻いている時は、少々警戒中。

頭鰭が伸びている時は、リラックスしている状態なのだそう。shirahoshokudo03.jpgコバンザメが何匹かお腹に張り付いているのもお約束。 ああ、文句なしのマンタな一本。 秋がマンタのトップシーズンなのでありますね。

充実の3本のダイビングを愉しんだ翌日はもう、残念ながら帰路につく日。 以前の空港と比べて遠くなってしまった新石垣空港へは、 流石にタクシーは乗り難いということで、初めてのバスターミナルへと向かいました。

空港方面へのバスを途中下車したのが、白保小前。shirahoshokudo04.jpg真夏のような陽射しがギラギラと照らす中、 ちょうど開店時間の「白保食堂」に寄り道です。

shirahoshokudo05.jpg禁断のひる前瓶麦酒をいただいてから、 じっと見つめるお品書きには、食堂らしく「そば」「丼物」に続いて「定食」がある。 「豚肉生姜焼き」や「ナポリタンスパゲティ」まであって、迷わせます(笑)。

それでも、暫くは八重山そばは口にできないものなぁと思い直して、 「ソーキそば」をお願いしました。shirahoshokudo06.jpgごろごろっと載るソーキ。 黄色がかった麺は勿論、八重山らしい丸い断面のストレートであります。

透明なスープは、やや頼りなさも残るあっさり仕立て。shirahoshokudo07.jpgソーキも載せない「八重山そば(小)」をオヤツにいただく、 なぁんてのが似合うかもねとも思うドンブリでありました。

新空港へ向かう道すがらに、Drive In「白保食堂」がある。shirahoshokudo08.jpgそれは、ドライブインと謳うのがどこか気恥ずかしいような、 部活動帰りの高校生の姿も良く似合う、地元の食堂でもありました。


「白保食堂」 石垣市白保205-6 [Map] 0980-86-7941
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Brasserie「Iizumi」で サフラン色リゾットはふはふブイヤベース風

iizumi.jpg中央区新川のビール会社といえば、 かのキリンホールディングスでありました。 過去形で語るのは、キリンが中野駅北口に集約・移転してしまったから。 植栽に立つ楕円の硝子サインからKIRINの文字が消えてから、なんとはなしにおひる時の周辺が静かになったような気がしないでもない。

お向かいの「LATINO」で、マスターにお別れの挨拶をする女性がいたことを思い出す。 キリンホールディングスのビルや関連する建物にどのくらいのひと達が勤務していて、 どのくらいのひと達が外で昼食をとっていたのか判らないけれど、 周辺のお店たちに少なからず影響があるのだろうなぁと思うところ。

元キリンのビル裏手の角地にあるBrasserie「Iizumi」。iizumi01.jpgこちらにも多少の影響はあるのかもしれません。

iizumi02.jpg 店頭の黒板A看板にみる「Iizumi」のランチは、 アミューズ、パンorライス、デミコーヒーがセットの4種類。iizumi03.jpg小じんまり感と明るさが心地いいカウンターもテーブル席も、 正午に向け埋まっていきます。

まず供されるのが、様々なアミューズ。
iizumi04.jpgiizumi05.jpgiizumi06.jpg iizumi07.jpgiizumi08.jpgiizumi09.jpg 冷たいスープだったり、イクラを載せたムースだったり。 ひと口のアクセントが意外と嬉しいものです。

一応迷ってからのご注文は、結局「いつもの!」と云いそうになるメニュー。iizumi10.jpg「サフランの入ったリゾット ブイヤベース風」であります。

ふつふつと沸いたサフラン色のスープ。iizumi11.jpgふーふーして、はふはふしてから啜るスープに魚介の旨みが滲み出る。

バターのまろみをも含んだリゾットがいい。iizumi12.jpgふーふーはふはふ。 真夏の猛暑のお昼にも注文していたのでありました。

12年10月に新川の裏通りにオープンのブラッスリー「Iizumi」。iizumi14.jpgはにかむような笑顔の伊泉シェフは、 目黒にあった「エルガーハウス」という一軒家レストランの厨房を守っていた方らしい。 「エルガーハウス」が目黒の再開発でクローズした後、 気軽にフレンチを愉しめる小さな店をと開いたのが、「Iizumi」。 なるほど、ふらっと夜にも寄り道したくなるような雰囲気を持っています。

口 関連記事:   Curry Bar「LATINO」で ドライ欧風にカシミールにマーボーカレー(13年10月)


「Iizumi」 中央区新川2-8-8 八丁堀第2プラレールビル1F [Map] 03-6280-4819
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手打ちそばうどん「国分寺甚五郎」で 今はなき本店と中華そば

jingo6.jpgたっぷりの蔦に覆われていた、 国分寺駅前の「甚五郎」本店。 初めて訪れた時にはもう、 駅前の再開発事業により閉店を余儀なくされていることの告知がされていました。 ただ、幸いなことに近くに2号店を構えており、 そこへの移転という形で存続して、 「国分寺甚五郎」の名で営業を始めています。

それはまだ、駅前の「甚五郎」本店が閉店する前の5月下旬のこと。 たまたま本店の臨時休業にぶつかって、それならばと2号店へと向かいました。

突き当たりに如何にも甚五郎な懐かしのホーロー看板。jingo6_02.jpg手作り感たっぷりなファサードが存在感を示しています。

お願いしたのは、「合盛り3麺」を「肉汁」で。jingo6_03.jpg本店を閉め、「国分寺甚五郎」に統合して営業を再開するまでは、 そば、うどん、そして中華麺を提供していて、 その3種類の麺の合い盛りが注文できたのです。

「鴨汁」や「ラムづけ」も気になりつつも、やっぱり選んでしまった「肉汁」の湯気。jingo6_07.jpg豚の脂が甘く誘います。

そこへとっぷりと投入するのは、まずはやっぱり手打ちのうどんから。 武蔵野地粉うどん農林61号100%と店先の幟が知らせてる。 なんら遜色のない武蔵野うどんで御座います。jingo6_04.jpgjingo6_05.jpgjingo6_06.jpg対して、蕎麦は歯触りしっかりの挽きぐるみ田舎風。 中華麺はというと、期待が過ぎたのか、割と凡庸な印象拭えず(笑)。 営業再開後には、廃盤となっています。

ふたたび国分寺を訪れたのは、9月初旬のこと。 嘗ての「甚五郎」本店の前を通ると、 ネットフェンス越しに解体された木材の山がみえた。jingo6_01.jpgとうとうぶっ壊してしまったのですね。

暖簾の奥のテーブルの一辺に腰掛けて、今来た道を眺める。jingo6_08.jpgお向かいさんの炭火焼「いっぱいやっぺ」も気なります(笑)。

あれこれ悩んで、ご注文は結局「肉づけうどん」。jingo6_09.jpg具増し(肉増し)でお願いしたつけ汁には、くたっと甘い葱もたっぷり。

湯掻き立て〆立てのつるっとした口触りと確かな地粉の香り。jingo6_10.jpg「本店」で味わったと同じ、熟練の武蔵野うどんだ。

再開発の準備が進む国分寺駅北口に統合移転した「国分寺甚五郎」。jingo6_11.jpgやっぱり、「鴨汁」や「ラムづけ」も気になるところ。 冬場には、温かいどんぶりも恋しいところ。 そして今はもう、「中華そば」の文字が看板から消えています。

口 関連記事:   手打うどん「甚五郎」で 正統派武蔵野うどん蔦覆う店迫る立退き(13年05月)


「国分寺甚五郎」 国分寺市本町3-12-2 [Map] 042-325-6916
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中華「こばやし」で 昭和なラーメンのコク味とオヤジさんの心意気

kobayashi.jpg武蔵小山にはちょくちょく足を運んでも、 そのお隣の不動前駅や西小山となると、 下車する機会は意外と少ない。 不動前駅の改札を右へ出る。 ぽつぽつと見つかる居酒屋やラーメン店を横目に、 攻玉社という中学・高校の敷地を回り込む。 静かな住宅地のその先に、 飲食店らしき灯りが見えてきました。

紅いテントの庇に紅い暖簾。kobayashi01.jpg夕闇迫る頃、中華「こばやし」が営業中です。

深い飴色の木製引き戸をがらっと引けば、ゆったりした昭和の匂い。kobayashi02.jpg厨房に向かうカウンターの丸椅子もいい味わいです。

カウンター上の下がり壁には、お品書き。kobayashi03.jpgkobayashi04.jpg視線をさらに左にずらすと、”店主拝”で結んだ貼紙が幾つも見つかります。

直近のものと思われるものにはこうある。 「生涯現役、創業50年近くになり、まだまだ現役続行を心掛け、 新たに挑戦の意気込みで向かいます。 お客様に可愛がってもらい、生涯現役を目指し、これからもチャレンジです。」

ご自身での創業となれば、少なくとも御歳70才台であることは想像できる。 その心意気や頼もしく、そっと応援したくなるではありませんか。

盛夏真っ盛りの夕暮れのこと。 開け放った扉の厨房でオヤジさんが作業中。 汗を拭き拭きテーブルに座ると、扉を閉めてエアコンを入れてくれました。 暑さにも向き合い付き合うのもオヤジさんの身上なのでしょう。

そんな日にはやっぱり、「冷やし中華」。kobayashi05.jpgkobayashi06.jpgクラゲに缶みかん、刻んだチャーシューに錦糸卵、胡瓜に若布。 酸っぱ過ぎないタレが好き。 ニッポンの夏の風物詩を体現しているようでありますね。 kobayashi07.jpgあっという間に「冷やし中華」を平らげちゃって、 もう少し食べられるかもとお願いしたのが、「半カレーライス」。 もちょっと欲しい!に見事に応える心意気。 「半チャーハン」は世に数多あれど、「半カレー」をお品書きに挙げているお店はそう多くないと思います。

別の夕暮れには、定番をいただきに。kobayashi08.jpgモコモコとして手作り感十分の「餃子」には、 ちょっと多めにラー油を使ってみたりして。

そして、「ラーメン」500円也が素敵。hyotan09.jpgkobayashi10.jpg脂に頼らないコクが澄んだスープに湛えてる。 きっと結局こふいふ中華そばが一番になる日が訪れる予感がしたりする。 何気なくもよく似合うストレート麺は、どこの製麺所の麺なのかなぁ。

お腹を減らしてまたまた訪れた不動前。 瓶の麦酒をいただいて、「ポテトサラダ」をあてにする。kobayashi11.jpgマッシュしっかりめのポテサラがたっぷり。 お新香や梅干しの突出しも嬉しいな。

ちょっと珍しいところでと「とんかつラーメン」に挑んでみる。kobayashi13.jpgkobayashi14.jpgま、シンプルにとんかつを載っけたラーメンなのだけど、 衣がバラケるようなとんかつではないのにまず感心。 そして、スープの滲みたとんかつって妙に旨いと独りごちます。

一緒にいただいた「半チャーハン」の微妙な焦げがいい。kobayashi15.jpg塩加減もパラパラ加減にもオヤジさんの円熟を想います。

昭和40年創業、この道半世紀。 中華「こばやし」のオヤジさんは今なお意気盛ん。kobayashi16.jpg80歳にならんとするオヤジさんのラーメンをいただきに、また寄り道したくなりそう。 「旨かった、ご馳走さま」をまた伝えにね。


「こばやし」 品川区西五反田5-23-9 [Map] 03-3491-2447
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