季節料理「三原」で 鯵なめろう三原橋地下街昭和の景色がまた

mihara.jpg東京の沿岸部やその周辺を巡っていた掘割りは、 終戦時の大量の瓦礫を処理するために埋め立てられたものや空堀りになったものが多い。 今や橋梁の面影もないのに、 交叉点の名前に”橋”がつくのは、 そんな掘割りに架かっていた橋の名残なのでしょう。 今の中央通りと昭和通りとの間を流れていたという十三間堀川も埋め立てられた堀のひとつ。 その川に架かっていた橋のひとつが三原橋だ。

今の三原橋交叉点は、昭和通りの上にあるけれど、 かつての三原橋そのものがそこに架かっていた訳ではなくって、 もう少し中央通り寄り、今の三原橋地下街の上に架かっていたのだ。 つまりは、三原橋の橋を利用して、その下に出来たのが三原橋地下街だということらしい。 確かに、晴海通りに忽然とこんな地下街があるって、 それだけでなんか特異な設えだものね。

色々な変遷を経て、三月終わりの三原橋にも、 シネパトスのネオンサインが灯っていて。 ただ、両脇には閉館を知らせる塔が立つ。mihara01.jpgmihara02.jpgmihara03.jpgmihara04.jpgmihara05.jpgそんなシネパトスに、その劇場そのものを舞台にした映画かかると知って、 とても久し振りにシネパトスのチケットを手にしました。

映画のタイトルは、”途中休憩”を意味する「インターミッション」。 閉館の決まった古い名画座を舞台にしたショートストーリーをオムニバスに綴るもの。 自分が座っている劇場がまさにスクリーンの中の舞台でもあり、 鏡を見せられているような不思議な感覚。 時折訪れるゴゴゴゴという振動が、自分が今地下鉄のすぐ上にいることを気づかせます。

佐野史郎氏と樋口尚文監督によるトークショーに立ち会って、 もぎりのカウンターの脇を通り過ぎて、地下街の通路へ。 シネパトスの入口のすぐ脇にある「三原」の暖簾の隙間から空席を覗くように。

ちょうどカウンターを離れる動きがみてとれて、暫く。 使い込まれた風情のカウンターに居場所を得ました。mihara06.jpgmihara07.jpgmihara08.jpgmihara10.jpg振り返った硝子戸の表情や宴の後の小上がりの様子に不思議と癒される。 温燗、いただいちゃおうかな。

mihara09.jpg お猪口を傾けながら眺めるは、 ホワイトボードの横や下にもぶら下げたお品書き。mihara11.jpgお燗に寄り添う、おでんでもうちょっと温まりましょう。

お品書きに見つけたら、注文しない訳にはいかない牡蠣メニュー(笑)。mihara12.jpgmihara13.jpg広島産牡蠣による「かきのバター焼き」。 薄く篩った程度の粉化粧でソテーしたバター焼きもよいけれど、 こうしてしっかりと衣を纏った、芳ばしきバター焼きもまた佳き哉。 ちょっぴり搾った檸檬が似合います。

ひとりで奮闘の女将さんが、 他のお客さんへの対応諸々の狭間でトントンと俎板を叩く。 お願いしていた「真あじなめろう」がやってきた。mihara14.jpg田舎味噌の加減も生姜の具合も文句なし。 お銚子のお代わり頂戴な(笑)。 鯵ではなくて、鰯のなめろうもお願いしちゃいたい。

お愛想をして、暖簾を背にするとそこはガランとした地下通路。mihara15.jpgmihara16.jpg四丁目側に階段を上がって振り返り、 地下街の案内看板に二軒の「三原」を確かめます。

三原橋地下街の歴史のひとつ、季節料理・食事処「三原」。mihara17.jpg既に閉館した銀座シネパトスの後を追うように、遠からず閉店してしまうのでしょう。 またひとつ、昭和の景色がなくなります。


「三原」 中央区銀座4-8-7 三原橋地下街 [Map] 03-3564-1587
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武蔵野手打ちうどん「みんなのうどんや」で 正統派な肉汁うどん

minna.jpg東久留米の黒目川沿いにある菩提寺からの帰り道。 野火止用水に沿った通りから小金井街道に抜けようとする車窓に「武蔵野手打ちうどん」と綴る看板の文字が映りました。 おお、こんなところに武蔵野うどんのお店がと振り返ると、その店名がまたいい。 武蔵野手打ちうどん「みんなのうどんや」。 後日改めて足を運んでみました。

清瀬駅から小金井街道を南下して、徒歩凡そ10分強。 野火止用水に沿って右折して、 移転前の手打ちうどん「福助」があった辺りを通り過ぎる。minna01.jpg水辺の雰囲気にやや乏しいのがちょっと残念かもなぁと思ったところで、 “武蔵野名物”と謳うA看板が見えてきました。

いらっしゃいませ、と揮毫された暖簾からこんにちは。minna02.jpg奥のテーブルに座って眺める店内は、 朴訥とした外観の印象に違わぬ気の置けない雰囲気です。

minna03.jpg武蔵野うどんは、まずそのボリュームを決めるべし。 「みんなのうどんや」では、ミニ、小、中、大、特盛がラインナップ。 それぞれ3玉、4玉、5玉、7玉、8玉となっている。 女性基準が4玉の小、男性基準が5玉の中と目安を提示してくれているのが、 正しい気遣いだ。

やってきたのは、「武蔵野うどん」中盛りのミックス。minna05.jpgミックスというのは、刻み海苔トッピングと掻き揚げを添えたもの。

湯気を上げるつけ汁の器には、当然の如くバラ肉が浮かぶ。minna04.jpgminna07.jpg小皿には、刻み葱やおろし生姜はもとより、 “糧”として湯びいた菠薐草あたりが載ってくるのもまた武蔵野うどんの定番だ。

微妙な不揃いや捻じれなど、 如何にも手打ちの表情をみせるうどんは、地粉色。minna06.jpgminna08.jpg鷲掴みするように箸を動かして、どっぷり漬けた汁諸共、啜り上げます。 ああ、いいね。

量感と背中合わせのコシつきは、讃岐のそれとは明らかに違う。 うどんはコシがあってナンボと考えているヒトには、素直に伝わらないかもしれないけれど、 わしわしと地粉を味わうのが武蔵野うどんの醍醐味であることを再確認できました。

「きくや」との縁があると聞けば納得の正統派武蔵野うどんの店、 その名も「みんなのうどんや」。minna09.jpgminna10.jpg武蔵野うどんってなんやねん、という方のために、 店頭と店内に掲げた武蔵野うどんの説明書きの一部を記しておこう。
武蔵野うどんは、お祝い事やお祭りなど、人が集まる際には必ず振る舞われ、それぞれの家庭の味として代々受け継がれてきました。 国産小麦100%で作られた地粉、名水と謳われる上質の水、ゆっくりと時間をかけて水と掛け合わされた塩。 これらの素材を練り上げた生地が、すっかりおいしくなるまでじっくりと寝かせます。 茹でたて麺を冷水で締め、たっぷりの肉汁に浸して食らう。 うどんそのものの旨さを存分にお楽しみください。

口 関連記事:   手打うどん「福助」で 讃岐系白うどん武蔵野系田舎うどん合盛り(07年08月)


「みんなのうどんや」 清瀬市竹丘1-3-13 [Map] 042-493-5245
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和食居酒屋「籠りや」で 肌理泡の表情眺めるプレモル超達人店

komoriya.jpg今はもうすっかり定番となった、略して”プレモル”。 モンドセレクションの最高金賞を続けて受賞したことも認知の後押しとなり、以降何人のひとが、アロマホップの華やかな香りに悦び唸ったことでしょう。 そしてそんなプレモルを扱う飲食店の中に、 「樽生達人の店」があることを知ったのは、 プレモルがそのブランドをより確かなものにする、 かれこれ5年程前のことでした。

今宵、サントリーのお招きでやってきたのは、神谷町の裏通り。 此方のお店も勿論、「樽生達人の店」の札が下がっているねと、 扉を開けていただきながら確かめる。komoriya13.jpgあれ? でも、”超”達人店と書いてある! はてこれはまた、どふいふことなのでしょう。

……、わざとらしいイントロはこの位にして(笑)、 わざわざ京都のビール工場からお越しの氏による、 樽生「超達人店」についての解説に聞き入ります。

樽生「超達人店」は、端的に云えば、樽生「達人の店」のスペシャルティ・コース。 「達人の店」以上に徹底的なこだわりをもってプレモルを提供している店として、 サントリーが認定した店のみが掲げる看板だ。

例えば、想像以上に汚れやすいディスペンサーのホースは、 毎日洗浄するのが”樽生三原則”のひとつなのだけれど、 日に何度も、店によっては一時間置きに、 小さなスポンジをホースに通す洗浄を行っているという。

徹底的に洗浄したディスペンサーにだけ装着された、 「超達人店」専用のコックがより微細なクリーミーな泡を生む。komoriya16.jpg決して目詰まりしない、その前提がより頻度を高めた洗浄に委ねられているのです。

用いるクロスの微細な繊維さえもクリーミーな泡の天敵となるので、 グラスは当然、自然乾燥。komoriya05.jpgkomoriya06.jpgそうすると、3割の比率に注がれた泡の下層に、 あの、スモーキーバブルスの活躍が確かめられる。

すぐに乾杯してしまうので(笑)、 ビールの泡をしげしげ眺めることって意外なほどすくないもの。komoriya07.jpgけれど、そのクリーミーさ加減が美味しさの一番の秘訣と改めて認識すれば、 グラスの表情を確かめる機会も増えようというもの。 ビールの泡は、その口当たりや飲み口以外にも、ビールの蓋の役目も担っていて、 炭酸を維持し、酸化を防いでくれている。 肌理の粗い泡ではそれすら果たされ難いと知れば自ずと、 泡の出来映えが気になってくるよね。

サントリーが抜き打ち検査訪問までして認定した「超達人店」では、 そんな”泡遣い”に徹底してこだわったビールを当然のことのようにいただける。 でもそれはきっと、美味しいビールを提供したいとする気概と、 より手間や労力や時間を費やしてのことだから、簡単なことではないのです。

komoriya08.jpgkomoriya09.jpg komoriya10.jpgkomoriya11.jpg

くいくいっとプレモルを傾けた足跡がグラスに描かれる様子に対しても、 しげしげと眺める機会は意外と少ない。komoriya12.jpgグラスやジョッキに”エンジェルリング”がどう描かれるかも、 プレモルを愉しむことの一要素に加えたい。 そうとなれば、こんなマークの刻まれたグラスでいただくのがよろしいかと(笑)。

神谷町の裏通りに和食・居酒屋「籠りや」がある。komoriya14.jpg都内では今のところ数10軒程しかないという、貴重な「超達人店」のひとつとして、憶えておきたい。

口 関連サイト:   超達人店 ~究極のプレミアム・モルツ樽生が飲めるお店~   籠りや|サントリーグルメガイド
口 関連記事:   旬菜工房「一福」で おいしい樽生達人の秘密とキメアワ(08年06月)

「籠りや」神谷店
港区虎ノ門3-7-14 [Map] 03-3431-8606

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もつ焼「金ちゃん」で ホッピー煮込もつやき鯔背な大将常連の煙

kinchan00.jpg西武線練馬駅の改札を出て、地上に降りる。 こうして練馬駅が改装されて高架の駅となったは何時のことだったっけと考える。 もうそここその時間が過ぎたような気がします。 千川通りを渡って右手に回り込み、目白通り寄りにあるつけ麺の某店へ。 ところが営業している様子がない。 已むなく辺りを徘徊しました。

ちょうど駅前に真っ直ぐ通じる横丁の角に、 いい雰囲気の暖簾を認める。kinchan01.jpg暖簾の中央には、円に”金”の文字。 二箇所ある入口と暖簾にどちらから入るべきかちょっと悩んでから(笑)、 まずは向かって左手の暖簾から、こんばんは。

ざわざわとした賑わいに包まれながら、 ここのテーブルでねーと居場所が決まる。 座りながら見つけた品札で、「にこみ」。 そして、「ホッピー」を所望します。kinchan02.jpg煮込みは、あっさりとして、 ゆるやかな味噌仕立てとゆうか、塩仕立て。 ああ、「煮込み」と「ホッピー」とは、どうしてこんなに似合うのでありましょうか。

ホールの姐さんたちは、やや片言のアジア系のひとが多い。 どこか知らん振りな表情なのに(笑)、いいタイミングで「中?」と訊いてくれるのが、 妙に嬉しい。

「とり皮酢味噌」、旨し。kinchan03.jpgこりっとしゃくっとした歯触りが酢味噌の風味に昇華する。

焼き台の前では、眼光鋭き大将が炭の機嫌を窺い、焼き目を確かめる。kinchan04.jpg鉢巻を鯔背に結び、その鉢巻にボールペンを挟んだ大将が、 凛々しくも恰好いい。 ほいきた、とばかりに皿に盛っては、姐さんたちに声を掛ける。 折角の焼き立てをちょっとでも放っとこうものなら、厳つい指示が飛んでいきます。 オヤジさんが焼く串なら間違いないや。 ライブな背中にみんな、そんな安寧を覚えていることでしょう。

もつやき2本にとりにんにく。kinchan05.jpg とりにんにくは勿論、間にニンニクを挟んだ串。 いひひ、これがこれまた妙に旨い。 大将の背中に、小さくそう呟きます。

別の宵闇にふたたび暖簾を潜って、 今度は細長いコの字カウンターの一席に交ぜてもらう。 やっぱり「ホッピー」と、「にこみ」ならぬ「煮込豆腐」ではじめます。

肉だんご、とりかわ。kinchan06.jpgタレの串もよいけれど、塩の串がより呑兵衛らしい(笑)。 塩で一人前ね、なんて手もある模様。

紫煙漂うカウンターも、そこにホッピーが林立している様が愉しい。 ふと「家族ゲーム」のシチュエーションを思い出す。 余りに表情豊かな面々ゆえ、 誰が問う訳でもないのに、その中の一員に自分はなれているのだろうかと思ったりして。 カウンターの皆さんの心象観察をちょっとするだけで、小説が書けそうな気になる。 常連さんの中にはきっと、注文の順番とその呑み代の計算とが席に着く前から出来上がっているひとが少なからずいるような気もします。

焼き台に向かって左手の壁上には、 長年の煙や油に燻されて判読不能となりかかった額がある。kinchan07.jpg創業時に酒の値段を示したものらしいけれど、 上段は、”ビール30″、”下段は二級酒55″と読める。 中段の90円は、何の値段だろうね。

昭和39年創業のもつ焼き「金ちゃん」。kinchan09.jpgホッピー1本、中みっつで結構出来上がる(笑)。 今度は、もうひとつの暖簾から常連さんたちの隙間に潜り込もう。


「金ちゃん」 練馬区豊玉北5-16-3 [Map] 03-3994-2507
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食堂「うさぎ」で 生姜焼き鶏唐揚げ竹の子御飯兎さん家お品書き

usagi.jpg亀島川の水門近くを渡る南高橋。 銀に塗られたトラスの鋼材を眺めつつ、新川方向へ。 対岸で風に揺れた桜の木からはらはらと、 花弁の幾つかが橋上に舞って、 そのまま川面へと散ってゆく。 桜の時季が終わろうと急いてるようでした。
今来た橋を桜の花越しに振り返る。 よくみると、なかなか表情のある橋なのでありますね。usagi01.jpgusagi02.jpg橋の袂には、そっと小さな祠と石造りの鳥居がある。 その名を、徳船稲荷神社。
案内板によると、 徳川期の新川地区は、越前松平家の下屋敷が三方を掘割に囲まれて、 広大な敷地で構えられていた。 その中に、切り取った徳川家の遊船の舳を彫ったものと伝えられる御神体を祀る、 小さな稲荷があったという。 そのお稲荷さんが、巡り巡って此処に鎮座しているということらしい。

そんな南高橋を背にして、 残念ながら閉めてしまった洋食・居酒屋「とおさんぼ」の前を通り、路地を右に折れる。 中央大橋の特徴的な橋脚を望む辺りを通り過ぎたところで、あれ?って思う。usagi03.jpgusagi09.jpg一般の住宅と思う建物の玄関脇に、 お品書きらしき黒板のスタンドが立っている。 引き返して見定めればそれは、間違いなくおひる時メニューなのでありました。

恐る恐る扉を引くと意外や、ほぼ満席の混雑具合。 皆さん、もう、疾うにご存知なのですねー(笑)。

usagi04.jpg数席のカウンターの隅に席を得て、 お品書き筆頭の「豚しょうが焼き」をと声を掛ける。 目の前から炒める音と生姜の匂いがふふんと漂ってきます。usagi05.jpg薄過ぎず厚過ぎずの心地よい厚みの均質なロース肉。 それがこんもりとドーム状に盛り付けられています。 一見肉二枚っくらいのちょっぴりボリュームにも見えますが、 その下にしっかりお肉が隠れてる。 鼻先の匂いに同調するように、生姜のきゅっと利いた、 スペサルプッシュなイケる生姜焼きでございます。

usagi06.jpgより麗らかなおひる時。 今度は、テーブルの隅っこに入れ込みでお邪魔する。 ご注文は、食堂の定番定食「鶏から揚げ」だ。usagi07.jpgカラっと竜田揚げ的衣でもなく、如何にもフリッターちっくでもない、 いい具合にそそる衣の表情。 齧れば期待通りの鶏の旨味と脂が零れます。 茶碗のゴハンがまた、美味しいね。

またまた出掛けた新川の路地の角。 「ぶり照り焼き」か「あじフライ」か思案していたところに、 「竹の子ごはん」の文字を発見してしまう(笑)。usagi08.jpg至極当然のことなのでしょうけれど、 一緒に口にした時にご飯と上手に融和する竹の子の刻み方に妙に感心。 決して濃くしない味付けが出汁の風味を活かして嬉しい竹の子ご飯でありました。

新川の路地に知るひとぞ知るおウチ食堂「うさぎ」がある。usagi11.jpg店名表記は外観にも見当たらない、兎さん家(ち)。 店内の其処此処に、うさぎの置物やうさぎ絵柄が見付かって、 うさぎLOVEな気持ちがじわじわっと伝わってくる。 姐さんが卯年生まれだったりするのかな。

口 関連記事:   洋食・居酒屋「とおさんぼ」で 町角のカキフライとナポと生姜焼き(12年01月)


「うさぎ」 中央区新川2-28-4 [Map] 03-3553-6012
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