
丸の内の仲通り。
おそらく開店直後のことだったんじゃないかと思い出すのは、富士ビルの角にあった、
「LES CAVES TAILLEVENT」。
「タイユヴァン」と「エノテカ」とが組んで開いたワインショップにBAR & LOUNGEが併設されていて、
一度だけランチしたことがありました。
その後「タイユヴァン」とのコラボは解消されたらしく、
今はワインショップ「ENOTECA」の「THE LOUNGE」となっています。
そんな丸の内の「THE LOUNGE」を久し振りに訪ねることとなったのは、
殻付き生牡蠣の伝導師氏からのお誘いがあってのこと。
静かに落ち着いた日曜日の仲通りを参ります。
いつぞやの富士ビルの角。
Closedの札が掛かる木目の扉。

閉じた扉の中で繰り広げられようとしているのは、題して「シークレットオイスターバー」。
真っ昼間から怪しいでしょ(笑)。
見憶えのあるコの字に配した硝子のカウンター。


壁には、エチケットを中心に用いたデッサンの額。

と、サーブされたシャンパンのグラスの向こうに、
ひとが集まり始めてるのに気がついた。
みんなの目線を集めていたのが、この秘密の会の主役たち。

小粒で端正な殻付き牡蠣が寄り添っているのに早速、好感です。
さて、真昼のSecret Oyster Barは、
「THE LOUNGE」のオーナーソムリエである濱岡さんが、
殻付き生牡蠣の伝導師こと佐藤Gen氏とタッグして、こっそり催すもの。
主の濱岡さんが選んだ乾杯のシャンパンは、
「ANDRE ROBERT CUVÉE DE RESERVE BRUT」。
白葡萄のみで作るすっきり系のシャンパンが牡蠣に一番合うのではとの思いから選んだ、
シャルドネのblanc de blancだ。
そこへ早速やってくるのは当然殻付き牡蠣かと思いきや、
それは意外なショットグラス。

グラスの底に潜んでいるのは、
4ヶ月から半年ほどの、謂わば真牡蠣の幼稚園児「ヴァージンオイスター」。
小さな小さな牡蠣を殻から丁寧に外してくれている。

幼生ゆえに未熟な味わいなのだろうかと思案げにグラスを逆さに傾ける。
ところがこれが、吃驚の美味しさ。
牡蠣の味わいと旨味の宇宙をとっくに内包していらっしゃる。
小さい分だけ焦点がブレず、よりヴィヴィッドに感じられる。
伝導師は、これを美味しい牡蠣の味の基準にと仰る。
うん、なるほどだー。
と、厨房から大きな銀のトレーを手にしたお兄さんがやってきた。
トレーには、どどんとデッカイ牡蠣が鎮座坐している。

これが大分豊後水道から届いた、1キロオーバーの岩牡蠣「弁天プレミアム」だ。
支えたままのお兄さんの両手が微妙にぷるぷるし始めるほどの重量感。

当然ひと口で食べられる訳もなく、小分けにしていただくことになり。
すると当然、部位がバラけて配られることになり。
正直云って、大味な想いをすることになる。
ふと、築地共栄会ビルの「地下の粋」で特大の牡蠣を無理して頬張って、
目を白黒させたことを思い出したりなんかして(笑)。
ま、極端な例ではあるけれど、
大きな牡蠣は、楽しい牡蠣。
そして、ひと口ですっと食べられるのが美味しい牡蠣。
牡蠣が、貝柱や内臓やヒラヒラに海水を交えた構成のバランスが絶妙にとれた、
殻をお皿にしたひとつの完成された料理であるには、
ひと口で味わえるサイズであることが必須なのであります。
フランスでは、法律で牡蠣の大きさについて6段階の規定があるそうだけど、
日本にはまだそれがない。
サイズの規定規制がないのだから、オイスターバーで日本の殻付き牡蠣をオーダーして、
テーブルに届く牡蠣の大きさにバラツキがあっても現状では仕方のないこと。
いつか、好みの大きさで日本の殻付き生牡蠣をオーダーできる日が来るのかなぁ。
ワイングラスがパスカル・ジョリヴェがなすロワールの「SANCERRE」に。
ソーヴィニヨン・ブラン100%であることも、濱岡さんのリコメンド。
極小の牡蠣、特大の牡蠣に続くサプライズが、
白い蓮華的スプーンに載ってやってきた。
それは、岩牡蠣のヴァージンオイスター「岩牡蠣SS」。

日本固有の岩牡蠣の、幼稚園児のものを供することは今までなかったことから、
一般の食べ手としては、世界で初めて口にするものになるという。
これがまた、旨い。
牡蠣の味わいの宇宙が凝集しつつ、歯応えも加減良く含んでいる。

これを食べると、ますます小さい牡蠣を選んで食べたくなってくるよね。
さて、ここでクエスチョン。
日本のオイスターバーでは、殻を開けた生牡蠣の身を”洗う”なんてことをしているかどうか。
答えは、保健所の指導があって、水やナノバブル水なんかでなんらかの洗浄をしなければならないことになっているらしい。
安心安全にいただくための指導そのものには異議はないけれど、そのために失っているものもちょっとあるよな気がします。
目に前にふたつ用意されたのは、
広島の大黒神島からやってきた若牡蠣「大黒神」。

星形にも見える牡蠣の、ひとつは洗ったもの、もうひとつは洗っていないもの。
ちゃんと管理された牡蠣ゆえ、自己責任で心配なく食べ比べてみます。
ポイントは、洗うことにより牡蠣の身が水でコーティングされて、
それが生臭ささや味わいの素っ気なさに繋がっていないか、どうか。
正直なところ、食べ比べての差異はあまり感じなかったのだけれど、
例えば水に晒した刺身が美味しいかと考えると、
洗ってない方が滋味をそのまま味わえる気がするよね。
ただ、そのためには、雑菌やウィルスが混入することのない、
混入していない牡蠣を養殖する必要がある。
牡蠣を塊りで垂下していると殻の洗浄がし難いので、
結果、殻に付着物があるまま流通に乗せてしまうことになる。
シングルシード方式なんかは、その答えとしての一面もあるのだろうね。
そしてなにより、海の環境、そこへ流れ込む川とその流域の環境が問われるは当然のこと。
ああ、清浄なる日本の海よ。
ワインが変わって、今度はニュージーランドのシャルドネの。
シレーニSILENI社が供する「CELLER SELECTION CHARDONNAY」。
今度は一転、シアトルからやってきた牡蠣「至極オイスター」。
今や世界的なブランドとなっている「クマモト」に憧れてつくったという、
新しい種類の真牡蠣だ。


小粒でカップが深くて、味わいは濃いめ。
これも日本の牡蠣のDNAが為すものでもあると思うと、
なんだか不思議な気分になる。
シングルシードで作っていて、ひっくり返して眺める殻が綺麗だ。
殻付き生牡蠣の伝導師は、
“産地100点の法則”というキーワードも繰り返し説いてくれている。
産地まで足を運んで、そこで採れて間もない牡蠣をいただくのがやっぱり100点で、
そこから流通に乗り運ばれしていくうちに残念ながら劣化していってしまうもの、と。
それは、石巻の牡蠣小屋「渡波」で実感したこととも符合する。
牡蠣小屋では焼き牡蠣だけどね(笑)。
同じ、大黒神島からやってきた「かき小町」は、3倍体の牡蠣。
卵を作らず産卵しないので、養分やグリコーゲンを失わず、
それゆえ四季を通じて美味しくいただける。
その「かき小町」に添えられたワインが意外や!赤ワイン。

8割のメルローにカベルネ・フランのボルドー、「レ・ロゾーLES ROSEAUX」。
さらに小皿には輪切りしたチョリソーが載っている。
ちょっと悪戯っ子な表情で(笑)、濱岡さんが説明するのは、
生牡蠣好きの多いボルドーでは、ダース単位で牡蠣をパクついて白ワインを合わせる。
ただ白ばかりでもと途中から赤に切り替えるンだそう。
その時に登場するのが、チョリソーだというのだ。
炙ったチョリソーを齧って、牡蠣を食べ、赤ワインを傾ける。

牡蠣に赤ワインを合わせると、生っぽさや鉄っぽさが鼻につく感じになっちゃうけど、
こうして油脂、動物性脂肪を補ってやることで、意外やイケてしまうというね。
うーん、面白ーい(笑)。
〆は、牡蠣でちょっと冷えた体を温め、欲する脂を含んだリゾットで。

牡蠣と浅蜊で採った出汁で玄米を炊いたもの、山菜のフリットを添えて。
牡蠣をいただくと体が油脂を欲しがる感じを明快に感じつつ、
ぺろっといただいてしまいます(笑)。
産地100点の法則がより叶う牡蠣を丸の内で愉しめる「THE LOUNGE」。

ワインショップのラウンジでありつつ、牡蠣の提供にも秀でているとは刮目に値するところ。
盛夏には、シャンパンと生牡蠣のイベントも開くそうだから、予約してぜひ出掛けよう。
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