所沢名物焼だんご「奈美喜屋」で 焼き立て湯気と醤油の芳ばしさ

namikiya.jpg所沢駅前のプロペ通り。 和菓子屋「松月堂」の前を通り掛かると、 いつも漂う醤油の焼けた馨しい匂いがない。 振り向けば、まだお昼過ぎだというのにシャッターが閉まっている。 ムムムと想いシャッターに近づくと、 その中央に貼り紙がある。 70有余年の愛顧に対するお礼を示す貼り紙の文字。
同じように貼り紙を覗き込んだオバちゃんが、 やめちゃったってことかしらねぇどうしちゃったのかしらねぇ寂しいわねぇ、 と心境を代弁してくれる。

いつまでもあると思うな…。 そんなことを呟き乍ら、足はその先へと向かっていました。 俗に云う、”ねぎしの交叉点”を旧き銀座通り方向へと渡り、すぐの脇道を右へ折れる。 鄙びた中華料理屋を横に進むと路傍に水色の看板が見えてくる。 看板にはこうある、”所沢名物焼だんご”。namikiya01.jpg焼きだんごが所沢の名物だと知るヒトは、多くはないでしょう。 そうなのです、名物なのです。

そして、ここ「奈美喜屋」も老舗焼きだんご屋のひとつ。 以前は、今のダイエーの並びの茶舗「丸政園」の脇で炭火で炙った煙と芳ばしい匂いで誘う、 人気の焼きだんご屋台だったのだ。 どうも追い出されるように立ち退くことになったらしいけど、 その後今の住居兼店舗で営んでいる。namikiya02.jpg店の脇で観葉植物のケースのようになっているのが、往時の屋台だ。

店の中でおだんごをいただいたことは、今までなかった。 お遣いの女性の背中越しに訊いてみる。 中ででもいただけますか?

頷くオヤジさんに従って、古びた椅子が数脚並べられた扉の中へ。 雑然としている感じは、やっぱりテイクアウトがほとんであることを教えてくれます。 持ち帰る分と頂く分とをお願いしました。

炭のご機嫌を窺ってから焼き台に団子を載せる。 馴れた手付きで紅い団扇をそよそよっと力まず扇いでだんごに焼き色をつけてゆく。namikiya03.jpg面を代えて、また団扇を軽く叩く。 そして焼き台の脇に用意した甕の醤油にとぷっと浸して、ひと炙り。 出来上がりです。

湯気をあげる焼き立てにだんご。namikiya04.jpg既に醤油の焼ける芳ばしさに鼻先は擽られまくり。

持ち帰りすると温める直したりすることが多くて醤油の風味も控えめになるけれど、 焼き立ては醤油がキリッと利いている。 叩いた米の表面を極く薄い膜が覆っていて、それが歯の先で弾けます。 うん、素朴に美味い。

焼きだんご一筋60年、所沢名物焼きだんご「奈美喜屋」。namikiya05.jpg「松月堂」の貼り紙のことを伝えると、ええっ!?と驚くオヤジさん。 ぜひその分も含めて、これからも沢山の焼きだんごを焼いてください。


「奈美喜屋」 所沢市御幸町6-5 [Map] 04-2922-7512
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居酒屋「赤垣屋」で てっぱい酢がきひろうすくも子意気な心地よさ

akagakiya.jpg鴨川に沿って走る川端通り。 京阪を神宮丸太町で降りて、三条方向に南下する。 すると川端二条の信号の向こうに赤い提灯の仄かな燈と四角い白地に紅い文字の看板が見えてくる。 それが、居酒屋「赤垣屋」の在り処です。
入れますように!と念じ乍ら、縄暖簾を払い、障子戸を引く。 温かい空気と湿り気に一瞬にして包まれて、眼鏡が曇る。 案の定満席も、少々お待ちくださいとなって、入って右手の暖房機脇のひととなる。 ややあって、小上がりの真ん中に案内されました。

満席のカウンターを背中越しに眺める。akagakiya01.jpg和気に満ちたこの空気感がこの店の魅力のひとつなんだろうことがすぐさま感じとれます。

経木に描かれた品書きには、ざっと40種類ほどが並ぶ。akagakiya02.jpg狭い幅に記そうと、スリムな書体になって、 ン?なんて書いてある?ってところが処々にあるのが微笑ましい。

「てっぱい」ってなんだろうとお願いすると、それはつまり分葱の”ぬた”。akagakiya03.jpgしゃきしゃくっとした分葱の歯触りに馴染んだ濃さの塩梅のいい酢味噌。

「しめさば」は、鯵酢を連想するような仕立て。akagakiya04.jpg二杯酢様の汁に浸って、おろし生姜をぴりっと利かせて。 しまった、こりゃ麦酒じゃなくて端から燗酒じゃなくっちゃだ。

「酢がき」には、一味と大根おろし。akagakiya05.jpg酢で洗った牡蠣をもみじおろし的薬味でいただくってのも、 オツなものだと改めて感じ入ります。

カウンターが空いたので移られますかと誘われて、おでんの鍋の前。akagakiya06.jpgakagakiya07.jpgakagakiya08.jpg みっつに区切った大きな鍋には澄んだ出汁がなみなみと張られてる。 使い込んだ風情の長く平たい匙が個性的。 鍋の脇には酒タンポが挿し込めるようになっている。 大根とひろうすをいただきましょう。

丁寧にひいた出汁がことこと滲みた大根を口にしては目を閉じる。akagakiya09.jpgお猪口の燗酒をつつっと口に含むように追い掛けてはまた目を閉じる(笑)。 ひろうすには銀杏やささがきの牛蒡や刻んだ昆布などなどを織り込んで、たっぷりと出汁を煮含んで。

akagakiya10.jpg おでんの鍋の向こうに見える樽が「赤垣屋」のお酒「名誉冠」。 当然のことのように京都のお酒だね。

ちょっとボディのあるヤツもと「かもロース」。akagakiya11.jpgしっとり艶っぽい鴨が噛むほどにじっくりと旨味を湧き出させてくる。 あっさりめに仕立てたソースには、酸味も含んでいて、和芥子ともよく似合う。 飯尾さんのところの富士酢使いだったりするのかな。

お銚子のお代わりをいただいて、「くも子」を所望。akagakiya12.jpg雲子とは鱈の白子。 ここでももみじおろしならぬ一味おろしを重用しています。

京都の居酒屋此処に在り、川端二条「赤垣屋」。akagakiya13.jpg朗らかに温かい心意気ある応対がなんとも心地いい。 足を運ぶひと達に正に有意な時間を過ごして欲しいとの想いが店の隅々にまで行き渡っているよう。 素敵で粋な赤提灯です。


「赤垣屋」 京都府京都市左京区孫橋町9 [Map] 075-751-1416
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ビアレストラン「レバンテ」で かきフライかきピラフ的矢かきフライ

levante.jpg有楽町から東京駅にかけての敷地に広がる東京国際フォーラムは、各々にホールを抱えた四つのブロックと船を題材としたガラス棟とで構成されている。 ここに都庁があった頃の記憶はないよなぁなどと考えつつ気がつけば、そもそも国際フォーラム自体が今年で15周年を迎えているらしい。 もうそんなに経つのか、角松のコンサートを聴きに訪れたのはいつのことだっかなぁと考えつつ久し振りにやってきたのは、ビア&レストラン「レバンテ」です。

広場には、ひとを寄せるケータリングカーが何台か。levante01.jpg宙空に突き出した硝子の匣を見上げながら、「レバンテ」への階段を昇ります。

既に7割方、テーブルの埋まった店内。levante02.jpg硝子越しに、向かい側のガラス棟や線路を隔ててPCPのビルが望めます。

levante03.jpg 「レバンテ」が名物と謳う”かきランチ”は、3種類。 まずは、スタンダードな「かきフライ」からいただきましょう。

「レバンテ」の牡蠣フライは、定説の5個載せではなく、4個載せ。levante04.jpgただ、牡蠣の身の大きさからの遜色はありません。

levante05.jpg 細かなパン粉の衣の表情を愛でつつ、ナイフの歯をすすっと挿し入れます。 うんうん、牡蠣の旨味の凝縮感よろしく、程々な迸りをみせてくれる。levante06.jpgタルタルのヒキの強さにグイグイと貪るようにいただいてしまいます(笑)。

やたら冷え込むおひる時に訪れて。 多少お時間かかります、の但し書きを踏まえてのご注文は、「かきのピラフ」だ。 それって、一から炒め炊いたってことだよねーと思いつゴハンたちの表情を窺う。levante07.jpgパラパラではなく、ややしっとりな中にバターの風味が残る感じはそふいふことなのでしょう。

そこへ牡蠣のエキスが仄かに滲んで、むほむほといただく感じになる。levante08.jpg牡蠣は片栗叩いてからしゃっと炒めてある感じ。 ソースパンからソースを垂らしていただけば、それはなんだかとってもズルいお味。

そして、お値段なんと2,000円という牡蠣フライが「的矢がきのフライ」。levante09.jpglevante10.jpg見た目で何処が違うかというと、タルタルソースの量がたっぷりなことぐらい。 あ、ちょっと平たいようなフォルムではあるね。

それでは食べ口の違いはというと、 咀嚼してほら、牡蠣の旨味がより深いような気がしませんか。levante11.jpgいや、間違いなく深い、と思いたい(笑)。

冬場は何故か、牡蠣の料理でも知られるビアレストラン「レバンテ」。levante12.jpglevante13.jpg「レバンテ」は、有楽町駅前に昭和22年(1947年)に創業。 国際フォーラムに移転したのが、2003年7月のこと。 訊けば、「レバンテ」というのは、 スペイン語で”日の昇る方、東方”といった意味だそう。 スペインのクラブチーム、レバンテUDは、地中海に向けて東方を望むバレンシアのレバンテ海岸からその名を取ったらしい。 つまりは、”日出る國日本”を店名に冠していることになるね。


「ビアンテ」 千代田区丸の内3-5-1 [Map] 03-3201-2661 http://www.okr-j.co.jp/
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レストラン「グリルエフ」で かきソテーかきチャウダーかきフライ

grillef.jpg五反田駅東口のロータリー。 駅を背にして正面に見据えるのは例えば、傾いた文房具店の建物やその並びの廣東料理「亜細亜」。 左手の路地の奥正面には、やきとん「和田屋」。 その並びには、肉料理居酒屋の佳店「日南」。 そして、L字を描くその路地の角地に蔦の絡まる建物がある。 路地の裏手を照らす袖看板に浮かぶは、 「グリルエフ」の文字だ。

古びた硝子戸を開くと、右手に薄い硝子の仕切りで囲んだ厨房が見える。 右手手前と左手に小さなテーブルが幾つか。 一瞬ドラマのセットに紛れ込んでしまったかのような、 そんな錯覚を憶えるほどのレトロ感もこの店の魅力。grillef01.jpgおひとり様は、厨房を囲むL型のカウンターの止まり木のいずれかに収まります。

grillef02.jpgお目当ては、「グリルエフ」の牡蠣メニュー。 いつぞやもいただいて、やっぱり一番気になる「かきソテー」から所望することといたします。

覗く厨房には、ふたりの料理人。 使い込んだコックコートが身体によく馴染んでいます。

楕円のお皿一面の茶褐色のソースに載った牡蠣たち。grillef03.jpg引っ掛けるようにフォークを刺して、やおらはむッと齧り付く。 酸味を利かせたソースが具合いい。 食べてしまうと、クリーム使いでも、たっぷりバター使いでもなく、 つまりはこふいふことになるのかなぁ的な気がしてきます。

grillef04.jpg 素朴なところだけど、足らずでもなく過ぎずもしない火入れの加減が、 牡蠣のソテーでも大事なのだなぁと独り言ちです。

日を改めて、五反田駅前L字路地。 この晩は、テーブルもカウンターもご盛況。 空いていたカウンターの一席に座ると両隣は、カツレツ系のお皿に向き合っているところ。

「かきチャウダー」で食事って思ったらどうしたらいいかなぁ?とホールの女性に訊いてみる。 ライスかパンをつけることになりますが…、ハーフもできますよ。 チャウダーライスってもなんだよなぁと思っていたので、ハーフができると聞けたのも収穫と思案して、「かきフライ」と「かきチャウダー」のハーフをお願いすることにいたします。

クラッカーを浮かべた「かきチャウダー」。grillef05.jpgスプーンひと口、ああ、旨い。 きっとずーっとこふいふレシピで提供し続けてきたのだろうなぁなんて思わせる実直なスープ。 玉葱の甘さに蜆のエキスも含んでる気配のする。

「グリルエフ」の「かきフライ」は6個のせ。grillef06.jpg細かめのパン粉に包んだそれは、牡蠣の身の柔らかさがそのまま伝わるような揚げ口の。 檸檬をさっと搾っただけで十分な感じ。

歯の先を受けて解き放つ牡蠣の旨味はそこそこに濃いぃ印象。grillef07.jpggrillef08.jpg訊けばなんと、三陸に残った、岩手の牡蠣なんだそう。 この冬貴重な牡蠣に此処で出逢えるとは正直、思っていませんでした。 やるなぁ、きっとずっと其処の牡蠣を使ってきたのでしょうね。

五反田駅前にして、路地の老舗洋食レストラン「グリルエフ」。grillef09.jpggrillef10.jpggrillef11.jpggrillef12.jpg 蔦の絡まる煉瓦造りの外壁もエントランス廻りの造作もレトロな味わいに十分なもの。 フランス料理店として創業したのが、今を60余年遡る昭和25年のこと。 「グリルエフ」の”エフ”って先代のお名前の頭文字かなにかだろうかと訊ねたら、然にあらず。 亡くなった先代が三重・伊勢の、夫婦岩でも有名な二見浦のご出身で、 その”二見浦”の頭文字をとって「グリルエフ」としたのだそう。 ね、結構意外でしょ(笑)。

口関連記事:   肉料理居酒屋「日南」で 無菌豚生ベーコン牛タン串焼ハンバーグ(08年08月)   フランス料理「グリルエフ」で かきソーテーとコンソメスープ(06年02月)   廣東料理「亜細亜」で 干炸生蠣かきのてんぷら五反田駅前老舗(11年04月)


「グリルエフ」 品川区東五反田1-13-9 [Map] 03-3441-2902 http://grillf.rgr.jp/
column/03233

洋食「Happiness」で 羨望ナポ&カレスパかきフライにハっピネス

happiness.jpgゼームス坂のもつ焼き「しげちゃん」を後にした、 “ボンクレーの会”ご一行様は、 ふたたびさっき来た東小路を泳ぐように縫うようにスタスタと抜けてゆきます。 東小路を核とした東急大井町駅東側エリアから向かうは、大井三ツ又交差点方面。 すっかりご無沙汰しちゃってる「ajito」の辺りといえばわかる人には判るかも(笑)。 そんなこんなでやってきたのは、城南エリアの隅っこに暮らしていながら今回初めての「ハピネス」だ。

細微なヘアラインに仕上げたステンレスの箱文字も煉瓦調のタイルも真新しい。happiness01.jpgすっかり新装した様子の店内へ、ゆっきーとっくりんに続いて、いざ突入です。

早速のオーダーにやってきたのが「レモンサワー」。 檸檬スライス浮かべ、ずらっと並んだグラスそれぞれに一斉に手を伸ばします。happiness02.jpghappiness03.jpgいぇーぃ、と乾杯! 檸檬の香りたっぷりの酸っぱほろ苦い、美味しいレモンサワーだ。

きっと例年のことながら、やっぱりこれからと「ナポリタン」。happiness04.jpgナポちんリコメンドのひとつと憶えるナポリタンは、なるほど旨い。

お約束の太麺に絡むは、炒めるにつれ濃度の増したケチャップその他。happiness05.jpg甘さと酸味が香ばしさに包まれて、堪らん感じに昇華しています。 鉄鍋の脇っちょに添えたポテサラも「レモンサワー」のアテになる(笑)。

柱に何気に貼られた「かきフライ定食」の文字。 チラチラと横目に見ていると、グヤ兄さんが発注してくれる。 「かきふ、喰わなきゃあかんがな」。 この夜の「ハピネス」の「かきフライ」は、 小振りな身をこんがり揚げたヤツが幾つもコロコロと載るお皿。happiness06.jpg たっぷり添えたタルタルが嬉しいわんと早速噛り付く。 ああ、牡蠣のグリコーゲン的昆布的旨味が相乗して凝縮して。 小振りな牡蠣でもこんなにイケる、 そんな見本のような牡蠣フライだと酔った頭で想います(笑)。

「ハッピネス」といえばこれもでしょうという逸品が言わずと知れた「カレースパゲティ」。 どろどろと滴り落ちるは、黒褐色のカレーソース。happiness07.jpg件の太麺が鉄鍋にこんもりと盛られ、ジャンクな魅力、だくだく。 大盛りにするともっと凄いことになるらしい…。 処々に鏤められた角肉も極力手中に収めるように取り皿に移して、 ハネないように一応気をつけながら、ズリズリと啜る太麺。

カレーのコク味とほどよくスパイシーな風味、そして量感を想う麺。 口の廻りにカレーソースとその脂が纏わり付く。happiness08.jpgああでも、そうなるのもコレの魅力の裡と合点する。 すると、ハネなんか気にしてる場合じゃないよな気になってきて、 啜るスピードが増すのであります。

「カレースパ」が流れ落ちる溶岩ならば、「海老グラタン」はまさに溶岩ドーム。happiness09.jpghappiness10.jpg焦げ色のついた粉もんのドームにスプーンで斬り込むと、 ぽふっと湯気を洩らして膨らんだ緊張が一気に解ける。 あとはもう、取り皿に取り分けた白い溶岩の断片をホフハフ云いながらいただくのみ。 しっとりクリーミーの熱々ゆえ、慌てて食べると火傷するぜ(笑)。

地元のみんなはきっと誰もが知っている洋食のテーブル、 大井三ツ又「Happiness ハピネス」。happiness11.jpg古い店の頃にも来たかったなとも思う自分もいるけれど、 もつ焼き「しげちゃん」と同じく、装い新たに店が続くのは祝うべき素敵なこと。 建物は新しくなってもその魅力を保ち続けていくお店は貴重な存在ですものね。

口 関連記事:   もつやき「しげちゃん」で にこみたんしろこぶくろと熱いお茶割酎(12年01月)   つけ麺「ajito」で ajitoのつけ麺専用Ζ型装備やっぱりやるなぁ(08年10月)


「Happiness ハピネス」 東京都品川区大井3-4-1 [Map] 03-3775-5825
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