そば「歌舞伎そば」で ざるかき揚げ場所は変われどあの芸な所作

kabuki.jpg振り返れば今年の4月の閉場をもって休館し、 解体の始まった歌舞伎座。 歌舞伎座の解体とともに、 何軒かの飲食店がその場からなくなりました。 残念ながら、幕間に典雅なお膳やお弁当をいただくことは終ぞできなかったのだけど、新館にあったベトナム料理「チョウ ベトナム」や塩ラーメンの「本丸亭」、間際の一時出店していた「玉ゐ」など。 お世話になったお店もありました。
そして、あの行列が懐かしい一軒が、その名もそのまま、「歌舞伎そば」ですね。 建築現場の仮囲いを定式幕の三色縦縞で飾る木挽町通りを進み、仮囲いに沿って左の路地に折れ、昼は牛丼の「雄」の前を通り過ぎる。kabuki01.jpgつまりは、かつての歌舞伎座の裏手に廻れば、移転した「歌舞伎そば」に出会えるのです。 小料理屋の居抜き、なのでしょうか。 そんな佇まいがもうすっかり板についた風情だなぁと思いつつ、小さな暖簾をぱらりと払う。 狭い通路を往けば、きっとあそこにあったものと同じ券売機。 やっぱり、「ざるかき揚げそば」の大盛りをいただきたい。 かき揚げダブルにしちゃいましょう(笑)。 オバチャンにチケットを渡して、カウンターに着けば忽ち、あの場所の空気が彷彿とする。 一番それを感じるのは、大笊からから個々の笊へ小分けするときの、オヤジさんの膝を使ったリズミカルな動き。kabuki02.jpg従前より一種の芸の域に達しているなぁと思っていた所作があの頃のまま、ここにあります。 こんもり盛ってくれた茹で立て〆立てのそばに、キレのいい辛汁が旨い。kabuki03.jpg kabuki04.jpgkabuki05.jpg およそ揚げ立てを四つ割りした掻き揚げを汁に浸してガリっといけばもう、 能書きなんかいりません。 ああ、「歌舞伎そば」のそば、だ。 kabuki06.jpgコップに刻まれた「歌舞伎座」の文字をすっと眺めてからお冷を飲み干すのが、満足なお昼の仕上げです。

あの場所のあの雰囲気を色濃く残して今もある、歌舞伎座の銘店「歌舞伎そば」。kabuki07.jpg13年春の完成の新しい歌舞伎座にはきっと、「歌舞伎そば」がある。 そこでもまた、オヤジさんのリズミカルな膝使いを拝みたいな。 口関連記事:  そば「歌舞伎そば」で 大もりかき揚げ歌舞伎座脇の行列の意味(07年06月)  ベトナム料理店「cho VietNam」で フォーと歌舞伎座の雄姿と(10年04月)  ステーキ「雄」で お昼の唯一メニュー牛丼物足りなさの行方(08年09月)


年内最後の日記です。 皆さま、良い年をお迎えくださいませ。


「歌舞伎そば」 中央区銀座4-12-2 [Map] 03-3543-4510
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とんかつ「さんきち」で 大盛り生カキフライはカキフライの大盛り

sankichi.jpgいつもの、武蔵小山「Again」での村田ライブのあと。 勝手知ったる飲み屋街の路地を抜けて、東急ストアの脇を辿る。 目指すのは、昼下がりにも足を向けたとんかつ「さんきち」だ。 正午をとっくに過ぎているというのに、空席待ちする数人の人影に驚いて思わずスルーして、夜に再びやってきたという訳なのです。
入口の前に昼間のような空席待ちの姿のないことに安堵して扉を引き開けると、なんと店内におふたりが、席が空くのを待っている。 どうやら昼夜通じての人気のようです。 タイミングがよかったのか、ほとんど待たずにカウンターの隅へ。 改めて見上げる黒板にびっしりと書き込まれたチョークの品書きやそこここに貼り込まれたメニューにきょろきょろする。sankichi01.jpgコロッケあれこれにニンニクステーキやハンバーグ、とんかつは勿論のこと、マグロかつやイカ丸生姜焼きにミートソーススパゲティ、エビフライ丼に鯵カレーなどなどなど。 きっと普段であれば、迷うこと必至なのだけど、明快なお目当てがあれば気持ちがふらつくことはありません。 お兄さんにこう告げましょう、「カキフライを大盛りセットで」。 「さんきち」の「生カキフライ」の定食セットは、小盛りに普通盛り、そして大盛りがあって、それってご飯の盛り具合でしょ?と思うところ然にあらず。 カキフライの盛りに3種類があるのです。 嗚呼、その大盛りがやってきました。sankichi02.jpgそれは、素っ気なくも圧巻な盛り付け。 まさにごろごろごろと、中振りのカキフライが寄り添うように。 一体幾つ載っているのか、ついつい数えたくなってきます。 どうやらこの日この時の「大盛り」は、小さいのも含め都合14個のカキフライとなっています。 檸檬を勢いよく搾りかけ、早速いただきます。 sankichi03.jpgsankichi04.jpg 箸に載せたその身が意外と軽いのは、火を入れたことによる縮みが少々多い牡蠣だからか。 そしてそれがそのまんま軽い食べ口の牡蠣フライにさせているようです。 ポスターをみるに、ここ「さんきち」では、石川は能登半島産の牡蠣を使っているらしいね。 脇に添えた牡蠣殻にはちょっと弛めのタルタルにオーロラちっくなソースと練り芥子。 sankichi05.jpgsankichi06.jpg カキフライには、檸檬のみかタルタルか、はたまた醤油をちょっと垂らすか。 芥子やソースは似合わない、というのが持論ゆえ、芥子やソースを使わずにちょっとずつ味わいを変えながら、自分でもびっくりするほどあっと云う間に食べ切っちゃった(笑)。 “あー、カキフライ、喰ったなぁー”というこの量的満足は、 案外他所では味わえないものでしょう。

武蔵小山で人気のとんかつと洋食の店「さんきち」。sankichi07.jpgいつも混んでいそうなのが心配だけど、武蔵小山でガッツリめしを喰いたくなったら真っ先に思い浮かべる店になりました。 「カキフライ、エビフライ、ホタテ貝柱フライの3品盛りセット」なんてのもあるよ(笑)。


「さんきち」 品川区小山3-12-10[Map] 03-3787-0124
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ワイン酒場「AHIRU STORE」で ワインとパンとカキと嬉々として

ahiru.jpgNHKホールでの達郎ライブのあと。 これを好機と空席を祈りつつ駆けつけたのが、 神山町~富ヶ谷の「アヒルストア」でした。 ところが、寸でのところで満席となってしまい、やむなくバス通りを物色することに。 まぁでも、「アヒル」さんの場所は分ったのでまた今度、と考えていました。
ある週末、思いつきのように代々木公園駅へ。 渋谷のお店に連想が飛ぶ、台湾料理の「麗郷」をはじめ、結構気になる店があるなぁと思いつつ、商店街を往く。 その先の角の建物を回り込むように右に折れれば、「アヒルストア」だ。 空席はあるかなぁ。

おずおずと扉を開けると、右手のカウンター席はやはり一杯。 でもなんとか、所謂”樽席”のひとつにお邪魔できました。 ahiru01.jpg そこそこボディの白を所望して、受け取ったグラスを樽の脇の棚下に置く。 硝子面の棚には、値段を急ぎ書いたボトルがずらずらっと並んでいて、それぞれに産地や栽培者・醸造者、葡萄品種やdry-sweetとlight-heavyの軸に☆をプロットした札をぶら提げています。ahiru02.jpgうん、それなりに分り易くて、訊くでもなくこれ頂戴、ってこともできるね。 グラスを手に、キッチン頭上の壁に貼られた黒板メニューを探索します。 黒板の右隅は、「低温長時間醗酵のフランスパン」にはじまるパンあれこれのラインナップ。 mi_wa@パンちゃんが通う理由のひとつがここにあるのだね。 どうしても気になってしまうのが、「豚肉と鶏レバーのパテ」。ahiru03.jpgahiru04.jpgバゲットにのっけて、マスタードのソースをちょっと垂らしていただけば、 うん、イケる。 グラスをくぷっとして、パテonバゲットをかじかじっとして、の繰り返し。 いいぞ、いいな。 ahiru05.jpg同じものをお願いしたら、そのボトルはもう売れちゃったとのことで、 今度はシャルドネの「LES BRUYERES」に。 こうして、どんどん捌けていくことは、開けたてのワインがグラスで呑めるのということでもあるね。 も一度黒板メニューを凝視すると、あるある、牡蠣メニューがあるじゃないですか(笑)。 ついでにワインもお代わりと告げると、白が順当かもしれないけど、魚介にも合う感じの赤はいかがです?となって、その赤を所望。ahiru06.jpgビオっぽく想う、くすんだ透明感の赤は、なるほど牡蠣にもぴたっときそうです。 そして、これが「カキとしいたけのオーブン焼」。ahiru08.jpg逆さまに置いたどんこのような椎茸の傘のところにサラミを敷き、そこへ牡蠣を乗せてオーブンで焼いている。 あふはふと齧れば、牡蠣の汁と椎茸の汁とが湯気とともに混交して、えも云われぬ旨さ。 十分想像できたことだけど、牡蠣と椎茸って、よく合うね。

最後にもう一杯だけ、と赤のグラスをいただいて、ふーとさらに肩の力を抜いてみる。 すっとご馳走様して手を振る客、空いたカウンターに攀じ登る客、空いた樽席にやっとありつけた客。 入れ替わるお客さんたちが一様にどこか嬉々としているのがなにより、このお店の魅力を顕しているようです。

神山町・富ヶ谷の隠れ家ワイン酒場「AHIRU STORE(アヒルストア)」はもう、 隠れてられない人気店。ahiru09.jpgお店の名の由来が、パン焼きもしているという妹さんの口が「アヒル口」だから、とか、アヒルに似た兄妹がやっているからとか、というどこかで読んだレビューは、ホントなのかな(笑)。 口関連記事:  和菜伊食「OH!NO!BUONO!」で 揚げPIZZA意外にイケる和伊の皿(10年12月)


「AHIRU STORE」 渋谷区富ヶ谷1-19-4[Map] 03-5454-2146
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中華料理「福島屋」で 胡麻油風味タンメンとチャーハン町場風情

fukushimaya.jpg市場通りと鉄砲洲通りを結ぶ筋。 そういえば、「Singapore Seafood Emporium」にはちょっとご無沙汰しているなぁと思いながら歩みを進めます。 すると、小学校北の信号の先に如何にも町場の中華料理店が見つかる。 横手の路地にある入口へと廻り込みましょう。
スライドする扉を開けると早速、いらっしゃい!と迎えてくれるオバちゃんの様子もメラミンのテーブルもやっぱり町場中華の正統派。 古いながらも掃除が行き届いています。 fukushimaya01.jpgメニューは、壁の中央上部にパネルがひとつ。 勝手知ったる常連以外は、皆がここへ向けて顔を上げることになります。 紙を貼って伏せてあるところが気になりつつも、この風情のお店で真っ先にお願いしたいのは「タンメン」だよねと、そう思う。 何気なく覗ける厨房では、年嵩のオヤジさんがせっせせっせと調理中。 活気と勢いのあるキッチン、という訳にはいかないのは仕方のないことでしょう。 オバチャンが運んでくれた「タンメン」は、正しき野菜のこんもり盛り。fukushimaya02.jpgシャキッとしたモヤシやキャベツをやっつけては、 どんぶりの脇から澄んだスープを蓮華で掬う。 決して強く訴えるスープではないけれど、 啜るにつれ野菜たちの優しい旨みがゆるゆると滲んでくる。fukushimaya03.jpg化調の気配と胡麻油の風味が不思議なアクセント。 ちょっとかん水臭い感じもする麺には改善の余地があるけれど、その辺りは町場の中華共通の課題でもある。 いずれにせよ、荒ぶるタンメン、古川橋「大宝」とかとはベクトルの違うタンメンだ。

別のお昼にもオバチャンに案内されたのは同じ席。 「タンメン」の次にはと、「チャーハン」をお願いしました。 ちょっとゆったりした動きで鍋を反すオヤジさん。 改めて見上げる壁のメニューの右側は、13時から対応のお皿たち。 「野菜炒め」も「五目ヤキソバ」も午後からメニューだ。 そうこうしているうちに届いた「チャーハン」は、外からの陽の明かりにご飯粒がテラっと光る。fukushimaya04.jpgどれどれと蓮華を動かすと、ご飯のひと粒ひと粒がパラパラとしている。 でもそれは、ほとんど油のコーティングで、玉子の薄い膜でコーティングした黄金色のチャーハンとは趣を異にする。 でもね、なんか雰囲気には妙にマッチした「チャーハン」なのだ。

鉄砲洲神社近くの町場中華「福島屋」。fukushimaya05.jpgちょっと早い初夏の夕暮れに、此処の「からあげ」や「きくらげ」で、壜の麦酒をやっつけたいなぁ、なんてふと思うのでありました(笑)。 口関連記事:  シンガポール料理「Singapore Seafood Emporium」で 肉骨茶(09年05月)  中華料理「大宝」で ビール餃子と焼飯とニンニク匂いに包まれて(09年06月)


「福島屋」 中央区湊1-3-3[Map] 03-3551-8539
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イタリアン「IL GHIOTTONE CUCINERIA」で 大人カジュアルの小粋

cucineria.jpg麗らかな陽光の射す鴨川の川辺。 思えば、四条大橋の橋上からや川端通りの漫ろ歩きで眺めたことはあっても、こうして河原を歩くのは初めてだ。 遠くで鳶が鳴いています。
四条から河原を下り歩いて、団栗橋を潜り抜け、cucineria01.jpg松原橋のその先は五条の大橋だなぁと目を細める。 土手の上を振り向いて、ちょうど仏光寺公園という小さな公園のところに見つかるのが、 鴨川に面した「イル・ギオットーネ」の新店「クチネリーア」のテラスです。cucineria02.jpg 扉の前に立つと、中から扉が開いて、迎えてくれる。 cucineria03.jpg数段の階段を降りる前はもとより、 案内されたテーブルからも鴨川の景色が間近に感じられます。 PRANZO(ランチ)のメニューは、 AコースBコースにシェフおまかせのスペシャルコースの3種類。 ここは大人しく、Aコースをお願いしましょう。 酸味控えめしっかりめでとおススメのシャルドネの白をいただいて、 改めて窓越しの鴨川を眺めます。cucineria04.jpgうん、いい心地。 そのグラス片手に覗き込むのは、 アンティパストの「カラ付帆立貝とほうれん草のスフレグラタン」。cucineria05.jpg帆立とホウレン草とのグラタンはカジュアルにしてポピュラーだけど、そのソースがスフレ状にふわっと柔らかなのがキモ。 エスプーマ的手法なのでしょうか。 ふた品めは、 「もどりガツオとリンゴのミッレフォーリエ、たっぷりの和サラダとフェイクキャビア」。 首を傾けて横から眺めると、なるほど葉サラダと林檎のスライスと鰹の切り身が断層をなしている。 cucineria06.jpgcucineria07.jpg ドレッシングと一緒に振り掛けられているのは、唐墨のフレーク。 どうやって食べるのが真っ当なのだろうと少々悩みながら、真っ直ぐナイフを入れてみる。 うん、食べやすくはないね(笑)。 そして、それってなーに?だった「フェイクキャビア」は金のスプーンの上に。cucineria08.jpg林檎で作った、との説明通り、粒々が優しく弾ければ林檎の甘み酸味風味が広がるという仕掛けです。 陽の明かりに透けた表情が綺麗だね。 パスタはというと、 「ささがきごぼうとベーコンのトマトソースのバヴェッティーネ、七味の香りで」。cucineria09.jpg確か丸の内のお店でもこのバヴェッティーネだったような気がすることから、シェフお気に入りのパスタなのかもね、などと考える。 cucineria10.jpg湯掻いたささがき牛蒡の柔らかくもどこかに芯のある感じとパスタの食感が似て非なるところが面白い。 そして、トマトソースのパスタに所謂レッドペパーでなくて、七味の風味をもってくるところもまた愉しからずや。 セコンドは、「とろとろに煮込んだ3種類のお肉を巻いた鶏肉、ちょっと風変わりなボッリート・ミスト仕立て、インゲン豆のクレマと白菜添えマスタードソース」。 お皿の中央に鎮座しているのは、牛ホホ、牛タン、豚バラ肉をとろんと煮込んで、それを鶏モモ肉で包み、炭火で炙り焼いたもの。 八坂の塔脇の本丸でいただいたもののアレンジだ、これ。cucineria11.jpgその形状にふと、与那国島の「軍艦岩」を思い出す、自分が可笑しい(笑)。 cucineria13.jpg 洒落たナイフで押し切るように二分して、マスタードの風味に白隠元の甘みが交叉するソースでいただきます。 cucineria12.jpgcucineria14.jpg あれこれお肉の旨みが渾然として、そこへ柚子の香りが色を注す。 うん、いいね。 ドルチェは、ココナッツのブランマンジェに洋梨のソースとミントのシャーベット。cucineria15.jpgポイントは、シャーベットのミントの風味。 ブランマンジェのほの甘い滑らかな食感や洋梨独特の素直な甘さを品よく引き立ててくれています。

笹島シェフのみっつ目の店「CUCINERIA(クチネリーア)」は、 「IL GHIOTTONE」のカジュアルライン。cucineria16.jpg cucineria17.jpgcucineria18.jpgcucineria19.jpg いただいたリーフレットによると、「クチネリーア」は造語で、キッチンを意味するイタリア語「クチーナ」から創造したもの。 特別な日の「リストランテ」と日常の「トラットリア」の中間的な、普段使いできる「大人のカジュアル」がコンセプト、ともある。 なるほど振り返ってみると、それぞれの料理に対する”ひと工夫”が判りやすく伝わってくるお皿たち。 当然ながらもそれが、下世話なちょい足しに留まらないところがシェフゆえの采配と仕立てなのでしょう。 口関連記事:  RISTORANTE「IL GHIOTTONE」京都で お肉たちやわらか煮(08年06月)  RISTORANTE「IL GHIOTTONE」丸の内で 京都縁な食材との妙(07年02月)


「IL GHIOTTONE CUCINERIA」 京都市下京区木屋町松原上ル2丁目和泉屋町160フジタ・ランブラス館1F[Map] 075-353-8866 http://www.cucineria.jp/
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