そば処「美良」で 白き一番粉の山形そば嬉し楽し旨し

miyoshi.jpg第一京浜と平行する、新橋の裏通り。 前を通るたび、そのどこか朴訥とした佇まいが気になるそば処がありました。 壁のプレートmiyoshi01.jpgには「蕎麦と山菜と地酒の店」とあり、 スタント看板には「山形のそば」とある。 なるほど、山形蕎麦のお店なんだね。 すっと暖簾を払ったご隠居さん風爺さまに釣られるようにお邪魔してみました。
「えっと、おろし、よね」。 オバチャンは、常連と思しきオッチャンに向けて客が口を開く前に勝手にオーダーを決めて、厨房の方へと引っ込む。それがなんの嫌らしさもなく朗らかなんだ。 またまた釣られるように、「おろしそば」を大盛りでお願いしました。 左に「つめたいそば」、右に「あたたかいそば」と書かれたお品書きに載るメニューは極めてスタンダードなタイトルです。 miyoshi02.jpg 「はい、おろし大盛り、ね」。 あれれ、意外や真っ白いそば。 miyoshi03.jpgなんとなく野趣ある田舎もしくは板そば系統のそばなんだろねという勝手なイメージを見事に裏切る見映えだ。 花鰹の下に大根おろしを潜ませて、笊でもせいろでもなく、どんぶりに盛られている。 じっと顔を寄せて蕎麦を凝視すると、miyoshi04.jpg透明感のある中に蕎麦の粒子が活き活きとしているかのように見て取れて、不思議な説得力を思う。 小粋に澄んだ旨味の辛汁に払って啜れば、甘さに似た薫りがふっとする。それでいて、しなやかな弾力で噛み込む歯の先を押し返してくる。うん、嬉し楽し旨し。 miyoshi05.jpg頭上の額によると、西蔵王、尾花沢、雫石、幌加内といった国内産の蕎麦の実を石臼で挽いた一番粉(小さなそばの中心部、ほんの僅かな部分から取る粉)を使って製麺しているのだそう。 そば湯がしみじみ旨いのがなによりも、一方ならぬ蕎麦だと思わせます。 「美良」と書いて、「みよし」と読む。miyoshi06.jpg 夜の部には、山形の山菜の和え物、おひたし、油炒め、天ぷらなどを肴に山形の地酒がいただけるという。山菜は、4月下旬から6月初めが最盛期、とも。 ゆるゆるとそんな夜もいいかも、ね。
「美良」 港区新橋5-16-8 03-3431-0718
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Restaurant Cafe「テラスジュレ」で 少し切ないお花見コース

gelee00.jpg午前中の春の日差しが薄曇りに変わり、 花冷えが忍び寄って来たそんな夕暮れ近く。 洗足の池畔にいました。 水面には何艘ものスワンや手漕ぎボートがゆっくりと滑って、どこからかはしゃぐ子供の声が聴こえてきます。 その奥には遊歩道に沿って屋台が並び、提燈のほの赤い灯りは桜山の方へと繋がっています。
ほぼ満開の桜。gelee01.jpg その儚げな花弁をちょっと愛でてから、駅の方へと戻り、池に浮かぶテラスにお邪魔しました。 お花見シーズンのピークだけあって、予約で満席らしい。 陽の明るさのまだ残ったテラス席で、「お花見コース」の始まりです。 前菜3品のうちのひとつが「桜ますのディルマリネ」。gelee02.jpg ハウスワインを舐めているうちに夜の帳が降りて、 暗がりに「小海老と菜の花のトマトクリームパスタ」。 gelee03.jpggelee04.jpggelee05.jpg 「グリーンサラダ」を挟んで、メインの「真鯛と蛤のスープ仕立て 春野菜添え」もしくは「プラチナポークとキャベツの白ワイン煮込み」。 デザートに「パンナコッタ 苺添え」。gelee06.jpg 最初に”桜”にひっかけた前菜があって、お?っと思わせたものの、以降は別段”お花見”な洒落もなくって、春っぽさ含みの普段着なお皿が淡々と届く、そんな印象がちょと残念。 雰囲気優先とも受け止められる暗さは、料理を美味しく見せようという配慮には欠けるものだしね。

金曜の夜には、ジャズやクラシックのライブがあるらしい。gelee07.jpgそんなお皿以外の”惹き”を思うと、食事もできる観光地的カフェだと思って出掛けるのが穏当な使い方なのかもしれない、なんてことになる。 夜ともなれば骨太で軸のしっかりした料理がいただけることで粋筋に根強い人気がある、なぁんてお店であればいいのに、とも思うけど、それって、池の畔のテラスには似合わないかなぁ。


「テラスジュレ」 大田区南千束2-1-6[Map] 03-3748-1166 http://www.boreas.dti.ne.jp/~gelee/
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とんかつ・割烹「三友」で 旨味ぐぐぐいっ玉子型かきフライおおお

santomo.jpg友人曰く、 人形町にイケるカキフライを供するお店があるという。 ところがはたと気付けば、真牡蠣の時季が終焉を迎えようとしているところじゃん。 こいつぁいかんと慌てて、「まだ、カキフライやってますか?」と電話確認してみると、 「はい、やってますよ~、あと一週間ですね~」との嬉しいお応え。 早速、人形町の裏道までやってきました。
お店は、以前お邪魔した下町風天麩羅のお店の並び。その先の角は懐かしのカレーラーメンの店「菊水軒」だ。 秋冬仕様の「お定食」には、「上ロースカツ定食」から「しょうが焼き定食」、メンチカツ・エビ・あじの「盛り合わせ定食」といったとんかつ店的メニューがひと揃い。 santomo01.jpg 雨天ゆえ店内に引っ込めていた黒板には「他店では味わえぬ三友のかきフライ」と書かれていて、期待が高まります。「かきフライ定食」をいただきましょう。 きりっとした表情やお顔立ちがどこか鯔背な大将の背後から揚げ音がしてきました。 おおおおお。届いた牡蠣フライは、コロンとした玉子型がみっつ。 santomo02.jpgsantomo03.jpg ここにもボール・タイプの牡蠣フライがあったのね。 空前絶後と唸った「廣田」のものよりは小振りではあるものの、なかなかの量感と端正な表情を魅せています。粒子大きめなパン粉、使ってる。santomo04.jpg なにもつけず、一応ふーふーしてから無造作に齧りつく。 はふ、はふ、ほふ、……。 おおお、うううううンまぁぁいぃ!! 中身レアな揚げ口だった「日本橋 今泉」とは対照的に、齧ったフライの中身にはいい加減に火が通っていて、迸るは濃厚なる牡蠣エキス。santomo05.jpg ジューシーなそれではなくて、はふほふと味わう牡蠣の身そのものの濃厚さ。 磯っぽさなんてどこへやら。牡蠣に含む濃密な旨味がぐぐぐいっと引き出されているンだ。 そして、その強い旨味が揚げ立てサっクサクの衣と渾然となって口腔を味蕾を襲うのであります。 いやはや、真牡蠣シーズンの最終コーナーでこんな感激に出会えるとは思わなかったなぁ。 お値段も実直なる「三友」の「かきフライ」。santomo06.jpg来シーズン、また来なくっちゃ。委員長、都合どうかな(笑)。 口関連記事:   食堂「廣田」田園調布 で牡蠣料理の醍醐味を識る(08年02月)   日本料理「日本橋 今泉」 で多粒型カキフライはレアな揚げ口(08年02月)   天ぷら「中山」 で蓋の謎と黒いタレとくたっと天ぷら(06年06月)
「三友」 中央区日本橋人形町1-10-8 03-3666-1684
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展望カフェ「CAFE la TOUR」で 束の間夜景とブリオッシュ

cafelatour.jpg 村田和人の声を聴きに、今度は東京タワーまで。 東京を象徴するような観光スポットのひとつに数えられてきた東京タワーも、夜ともなればひっそりしちゃってンだろなぁと思いつつ足を運ぶと、さにあらん、展望階へのチケット売場には行列ができていました。 なんか、意外ぃ。 修学旅行チックな一団やカップルたちに挟まれつつ、大展望台までのチケットを購入します。
改めて見上げる曲線に始まる勇姿。 東京タワー登るなんていつ以来だろうと考えても、なはは、思い出せません(笑)。 cafelatour01.jpg cafelatour04.jpg大展望台1Fの「Club333特設ステージ」がこの夜のムラタの舞台。 いつもと同じ調子の肩の力の抜けたMCと拍子を変えたビートルズナンバーから13年振り(!)のオリジナルアルバムの曲までを伸びのいい声と洒脱なギターで奏でてくれる。再び身近で聴けるようになって嬉しいな。 第2部も聴かなくちゃと、その束の間を過ごしたのが特設ステージの横に構える「CAFE la TOUR」です。ぶっちゃければ、“喫茶 タワー”ってなところでしょうか。 火を使う調理が不可なのか、メニューにある食事は、サンドイッチやデザート系統のみ。 仕方なく、ビールと「テリヤキチキン&タマゴ」のブリオッシュ、なんてあたりで急場を凌ぐことに。 齧り始める前に、ふと、もう当分ここからの夜景を眺めることもないだろうな、と眼下の通りで流れる車の灯りを見下ろしてみたりする。cafelatour05.jpg新しいタワーではきっと味わえない情緒がここにはあるのだね。 さて、Tokyo Tower、Club333のThursday’s Concert、 ムラタによる第2部cafelatour03.jpgがそろそろ始まる時間だ。cafelatour02.jpg
「CAFElaTOUR」 港区芝公園4-2-8東京タワー大展望台1F http://www.tokyotower.co.jp/
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カレーの店「スマトラ」で 家庭的カレー大盛りとはにかみ笑顔

sumatra.jpg新橋二丁目信号から日比谷寄りすぐにある、オレンジの看板が目印の「スマトラ」。 「スマトラカレー」というと神保町の「共栄堂」が思い浮かぶけど、こちらのカレー、さてどんなかな。 そして、「スマトラ」は、なんとも云えない表情の”顔”がマスコット。 御大ヒロキエ画伯が着目したのもその”顔”で、 スタンドサインの微笑んでいるような嘲笑しているような微妙な表情はまだしも、頭上のファサードにある”顔”は、明らかにご機嫌ナナメでなにか文句を云いたそう(笑)。
sumatra01.jpgsumatra02.jpg ヒロキエさんによると、さらにお店のどこかに第三の”顔”があるのだという。 どこにあるのかなぁ。そしてどんな表情なのかなぁ。 店内は、昭和な地下街にありそうなカウンターがUの字に構えています。 メニューは基本、「スマトラカレー」か「カレー大盛り」のみ。 「玉子」50円に加え、「らっきょ」60円、「キャベツサラダ」50円と健気なサイドメニューが微笑ましいね。今日のお腹と相談して、大盛りをお願いしました。 sumatra03.jpg普通盛りはルーがかかった状態のお皿になるようだけど、大盛りはルーがグラタン皿のような器に別盛りされてきます。 えーーぃとばかりにライスに回しかけると、おおっとイケナイ、両脇から零れそうになる。なるほどそれで別盛りにしているんだね。 ひと口したカレーの印象は、どこにでもありそうな懐かしき家庭のお味。sumatra04.jpg小さめに角に刻んだ豚が噛み解けるあたりが嬉しい感じ。 小麦粉を控えめにしているのか、見た目に反してさらっと軽い印象もあるなぁと思ったあたりで、胡椒系と思しき辛みがすううっと忍びよってきて、じんわりと汗を掻かせます。 胡椒の辛さがあと寄せるところは、内神田「共栄堂」に通じるところもあって、そんな仕立てが”スマトラ風”ってことなのかな。 sumatra05.jpg卓上では赤色がカラフルで、 福神漬けにピンクな漬け物に紅生姜、細かく刻んだ福神漬けもある。 「キャベツサラダ」はばしゃばしゃなコールスローだ。
さて、”顔”の探索もしなければ。 写真撮ってるだけでも怪しいのに、さらに首振って店内を不用意にキョロキョロしたらますます挙動不審かもと、主に視線だけ動かして、サーチする(笑)。 ところが意外に店内の壁廻りは小ざっぱりとしていて、それらしい”顔”見あたらない。ナプキンの顔sumatra06.jpgは、表の看板の“顔”と同じみたいだし…。 うむむ、無念。ヒロキエさんの課題は想定外の難問だったのか。 ところが、会計を済ませてドアから出ようとしたところで、看板にも使っている小さなオレンジ色が目に留まりました。ん?もしやと拾いあげると……。 あははは、みぃつけた♪ ヒロキエさんが世に問うたクエスチョンの答えは、古びたデザインが味なマッチの意匠にありました。sumatra07.jpg優しく微笑みはにかんだような表情が、いい(笑)。 sumatra08.jpg裏を見ると、芝西久保桜川町の住所と「電」で始まる7桁の電話番号が、シブい書体で入っている。その、芝区が港区に統合してしまう前の古い町名はもうない。 今の虎ノ門界隈のようで、電話番号は違うけれど閉店してしまった虎ノ門店に残っていたマッチを置いている、ってことなのかな。 sumatra09.jpg
客先が虎ノ門にあった頃にお世話になっていたことを思い出して、遠い目になりました(笑)。 口関連記事:   スマトラカレー「共栄堂」 で見た目意外なあっさりポーク(06年05月)   スマトラ風カレー「共栄堂」内神田 で胡椒が辛いメンチカレー(07年05月)
「スマトラ」新橋店 港区新橋1-16-10 03-3501-3826
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