江戸蕎麦「ほそ川」

hosokawa.jpg仕事納めの晩はやっぱり蕎麦屋で、と足を伸ばして両国まで。江戸東京博物館近くの北斎通りから若しやここかと路地を入った先で、小豆色の大ぶりな暖簾で迎えてくれるのが江戸蕎麦「ほそ川」です。質素な蕎麦屋の風情とはひと色違う表情をみせる店内の様子を眺めながら、一脚追加してもらった奥のテーブル席へ。隠れ家的立地と雰囲気がお忍びっぽい客筋にもウケそうだ。付き出しの塩豆をカリカリしつつビールを干して、フウとひと息。お品書きで目星をつけた「山葵の醤油漬け」「生ゆば刺身」をお願いすると、厨房から戻ってきたお姐さんは「ない」と云う。じゃぁ、お品書きにはないけどひょっとして「海苔」くらいないかなぁと云うと再び厨房から戻ってきてそれも「ない」と云う。うむむ。気を取り直してお願いした、太い牛蒡を長く薄切りにした天ぷらの「ごぼう」、「穴子煮こごり」あたりでさらっとした辛口「越乃松露」のぬる燗をやっつけることに。山芋をたっぷり織り込んでいると思しき滑らかな「そばがき」を含め、焼いた石に載せられてくる香ばしき「焼きみそ」、ふるふるとして出汁味も豊かな「玉子焼」などは、なかなかいい蕎麦前だ。〆にと玄そば自家製粉生粉打ちの10割だという「せいろ」。蕎麦の風味と甘みが外連味なく伝わるようで、辛過ぎず甘過ぎずスッと鰹が香る辛汁も、別に仕立てていると思われる蕎麦湯も、悪くない。こうしてみると、折角拘って誂えている酒肴や蕎麦を心意気に欠ける応対や配慮が台無しにしているのがなんとも残念に思えてしまう。「水茄子」「焼きそらまめ」などの季節モノを載せっぱなしのお品書きひとつを見ても、肝心なところで気が利かないと諭されても致し方ないのかもしれない。たまたま厠が空くのを待っていると、エキセントリックな口調で捲くし立てる厨房の大将の様子がじっくり窺えてしまった。象徴的だったのは、「厨房のヒト、気難しい?」と訊いた時に無言のまま頷いたお姐さんの偽りなき表情。ホールのお姐さん方が悪いンじゃない。大将が客の目線をもって、スタッフとの有機的なコミュニケーションを図らないことには気持ちのいい蕎麦店にはなり難いってことなんじゃないのかな。 「ほそ川」 墨田区亀沢1-6-5 03-3626-1125 http://www.edosoba-hosokawa.jp/
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炭火焼肉「深山」中目黒店

miyama.jpgお肉が食べたいっ!ってことで、東山方面へ。焼肉屋さんなんかなさそうな静かな住宅街。「コム・ダビチュード」というフレンチの角を左に折れると小洒落たデンタルクリニックが目に留まる。目的の焼肉屋さんはその階下にあるのです。イルミネーションで飾られた階段の中途には「本日予約で満席」のサイン。予約できててよかったー。焼肉ダイナーといった装いの店内。奥のカウンターへと案内されました。やっぱり最初はビールをプハッっと。味噌でバリバリといただくキャベツが甘くて妙にウマイ。まずは「ユッケ深山風」。ユッケが海苔巻きになってるんだ。これは折角のユッケが海苔の風味と食感に負けちゃっているゾと剥がし開いて中を食べちゃう事態に(笑)。ただの「ユッケ」の方が良かったね。七厘がやってきて、続いておススメの「きわみ盛り合わせ」が届いた。きわみカルビー、特上ロース厚切り、特撰上タン厚切りの3品が横長のお皿に載っている。肉厚にカットされたそれぞれが見るからに旨そうだ。焼き過ぎてはイケナイとちょっと勇み足になってしまったけど、やっぱりいい肉は旨いことと厚切り肉の焼き加減の難しいことを同時に思ったりもする。どっぷり味の強いタレではなくて、ヒマラヤの岩塩で、というのもいいね。なんだろと思っていた、カウンターの正面に備え付けられたパイプオルガンのミニチュアみたいな装置は、排煙のためのものだとやっと気づいた。キノコ類もたっぷりの「野菜焼き盛り合わせ」を挟みつつ、「特撰上ハラミ」をいただく。そこそこしっかり焼いた方が旨味が活性して弾ける肉汁との合わせ技にも凄みが増すのねン。ウマイ。コリコリ食感が妙味の「ガリ」とは気管軟骨のことらしい。「深山」は牛ばかりではなくて、鶏もあれば豚もいる。「ほろほろ鳥モモ肉」は、鶏の滋味がギュギュっと詰まったこれまた唸る味。「信州放牧豚バラ」は、迸る脂が甘くそそる。うむうむ。〆にと「ネギご飯」と「コーネ」のスープ。はぁ~、苦しいほどの満腹満足であります。 「深山miyama」中目黒店 目黒区上目黒3-16-13CUBE-M B1F 03-5722-3805
column/02078

明治屋直営レストラン「モルチェ」銀座店

mortier.jpg耐震補強工事のため年内いっぱいで約半年の休業に入るという明治屋階上の直営レストランへ。テーブル間をゆったりとった店内はガランとした印象も抱かせ、積年相応に草臥れてはいるけれど、どこか懐かしさに似た和やかさと品格が漂っています。中央通りに面した開口一杯の窓から冬の日の陽射しがさわさわと射し込んでいる。ちょうどTIFFANYの向かいになるンだね。メニューにある“カキフェアー”の4品をゆっくり眺める。「カキのチャウダー」も旨そうだし、「カキのピラフ」は小粋な予感。「カキのグラタン」も充分そそる。うー、いっそ全部いったろか(笑)。でまぁ、初心(?)に帰って、「Huitre Friteカキフライ タルタルソース添え」をいただくことに。届いたプレートには、ぶりんと大ぶりなフライではなく、ちょっとスマートな見栄えのカキフライが7片載っています。添えられたタルタルをちょんとのっけて、いただく。お、おお。なんだこの軽さは。こんなに軽妙な印象のカキフライは初めてだゾと思いながら、齧り口をしげしげと覗いてみる。ひと手間を施して牡蠣の身の暗緑色の部分を除いているようにも見える。あの部分があっての牡蠣の風味だよなぁと思いつつ、主張し過ぎないタルタルソースも含め、ライトな味わいの中に旨味をしっかり内包している感じが嬉しくも、いい(親指上向)。コーヒーを啜りながら、耐震工事が入るってことは、この気持ちよく開放された窓は再現されないのだろうなと、ふと、思う。takapuさんのエントリーから。 「モルチェ」銀座店 中央区銀座2-6-7明治屋銀座ビル2・3F 03-3563-3601
column/02077

すし「鮨つかさ」

sushitsukasa.jpgフリで出掛けて断られること3度。10席に満たないカウンターだけを見えればそれまた仕方ないかもね、と前日に予約を入れての訪問となりました。この時季は「ばらちらし」などのランチはなく、お昼のおきまり的メニューになっているそう。正午に訪れると、既に2組の先客がある。促されるままカウンター奥へ。どうやらこの日もフリでの訪問は困難な様子だ。冒頭の中トロに始まって、ひらめ、すみいか、赤貝のひも、あじ、こはだ、しめさば、などが急く事のないペースで続きます。小ぶりで描く流線型が端正なその姿が、いいね。どれもがおてしょうを使わずに済むにきりを施したにぎりで、きりっとしたシャリとタネのバランスを思わせて、悪くない。妙に肉厚に包丁したタネは、一見贅沢そうでいて実は無粋なことだったりするのかもね。澱みないふんわりと煮つめのコクを伴ってすっと解ける穴子をいただき、鉄火、干瓢と巻物で仕舞いとなる。お椀がちょっと塩辛いのが気になるところか。ここは率直にと「大将、不躾ながら、写真撮ってもいいっスか」と訊くと、「駄目です」。やっぱり写真NGという噂は本当だった。初見参の一見客としては、抗う方策はないもんね。こいつぁ通わなくちゃダ。 「鮨つかさ」 中央区築地3-12-1多喜川ビル1F 03-5565-8334
column/02076

上海手打そば「銀座 ヤンヤン」

yangyang.jpg三原橋近くで朴訥そうな表情の看板が誘う手打ち麺と中華のお店「ヤンヤン」に寄ってみました。お隣の「銀座元楽」は何度も利用しているのにその並びにあるこちらには、どゆ訳か食指が動かず、今夜が初めての訪問です。硝子越しに様子の窺える1階は、左手に麺打ち場が収まっていて、客席のある2階への階段へ向いつつ手打ちの所作が眺められる寸法になっています。その2階は、どこか古の喫茶店チックな雰囲気もあるフロアだ。疲労回復・貧血予防と記された「韮菜湯麺(にらきくらげそば)」にしようか、それともいっそ老化防止と書かれた「担々麺(四川胡麻そば)」にしようかなどなどと悩みつつ、やっぱりこの時季、美肌効果(?)に風邪予防だと「白肉湯麺(白湯スープそば)」を選んでみました。当地上海の白湯スープが、正しくその名の通りこんなに真っ白いのかどうかを知らないのが無念に思える白いスープであります。無造作に浮かんだ鷹の爪の辛さよりも底のほうに沈んでいた山椒の風味がぴりっと利いている。ま、全体にはほんのちょっとクリーミーさのあるタンメンといったところでしょうか。で、手打ちの麺。くにゅんという柔らかい歯応えと口元を滑る感覚の中にある、不揃いな部分に手打ち麺の醍醐味を思う。ただ、同じ醍醐味だったら刀削麺の方がいいぞ、ともね。階下からは、どーんどーんと麺の玉を板に打ちつける音が聞こえてくる。箸袋には三軒茶屋すずらん通りのお店情報も記載されています。 「銀座 ヤンヤン」 中央区銀座4-10-12 03-3542-8989
column/02075