「饂飩はズルっといこう」カテゴリーアーカイブ

うどん家「一」で肉汁うどん牛すじカレーふわふわ納豆デゴイチ撓やかうどん旨し

越谷市と入間市とを結ぶ一般国道463号線は、埼玉県内のみを通る唯一の国道だとされている。
463号線の北浦和駅入口から航空公園の北西角にあたる西新井町交差点までの区間は、ずっとケヤキ並木が続いていて、その距離約17kmにも及び、「日本一のけやき並木」であるらしい。
浦和所沢バイパスを経て、西武新宿線のガードを潜った463号線は、そのまま所沢市内を抜けて入間市へと向かって行きます。

所沢入間バイパスの開通によって多少緩和されたものの、
463号線の旧道は混み合うことが少なくない。
島忠ホームズ所沢店の開業、
そして大幅な増床による集客もその一因と云えましょう。

そんな島忠ホームズからも程近い、
小手指公園という小さな公園に面して一棟のアパート建っています。木造モルタルと思しきアパートの一室に掛かる白い暖簾。
暖簾には真一文字に描いた「一」の文字。
そう其処が、うどん家「一(かず)」の在り処であります。

お品書き筆頭にあるのは、やはり「肉汁うどん」。
肉増し、でお願いするのが定番になっています。麺は、生き生きとして量感たっぷりのやや太め。
武蔵野うどんの典型的な、薄い褐色や灰色を帯びてはいない。
といって如何にも讃岐うどんぽさ漂うものとは異なる印象であります。

コシのある、とただそう云うには言い足りないような、
弛みのないしっかりとした、でも決して固くない、
撓やかな食感がいい。
実に旨い。ご註文必須の「野菜天盛り」は、端整な揚げっぷりだ。

時計の針を二年ほど巻き戻した、
当時の「肉汁うどん」はこんな風情。今は当時と笊の上のうどんの盛り込み方が違っているのは、
うどんが絡まないように、などの配慮なのかもしれません。

季節の生花を飾ったテーブルの上から横の壁へと、
視線を動かせばそこには「饂飩」の書を収めた額。時に読めないお客さんもおられるのか、
小さくルビがふられるようになりました。

「肉汁」以外に定番メニューにあるのは例えば、「牛すじカレー」。
牛すじ増しでお願いしたりします(笑)。辛さ加減・スパイシーさにとろみ具合、出汁の加減に酸味の程度。
うどんによく絡み、所謂そば屋のカレーとは一線を画す、
塩梅のいいカレーうどんになっています。

これまた例えば「ふわふわ納豆」。納豆と入間地卵を丁寧に攪拌したふわふわがどんぶりを覆う。
メニュー名を知らされないまま出されたら、
ななななナニ?と一瞬目が点になるかもしれません(笑)。

よく掻き混ぜてのご指南通り、
ふわふわの納豆玉子をうどんに絡めるようにさらに攪拌!ほーらね、これが美味しくない訳ないですよね(笑)。

うどん家「一(かず)」のお品書きには、定番の品に並んで、
季節限定の、季節に似合うメニューが用意されている。

例えば、秋冬版には「肉みぞれあんかけ」。とろーんと如何にも温まりそうなあんに、
大根おろしが軽やかに風味を添える。

夏には「冷やしデゴイチ」。
「デゴイチ」は所謂かけうどん。
目の前の小手指公園に展示されている蒸気機関車D51。
そのことからの命名であるらしい。その「デゴイチ」の冷やしバージョンは、
努めて細くの仕様となっている。
冷たく〆た細麺が旨味たっぷりのひえひえ汁に泳ぎ出す。

「冷やしデゴイチ」に添えてくれるのが「おかひじきの天ぷら」。
おかひじきを天麩羅にしちゃったのって、初めて見た。天麩羅は他にも、半熟地玉子とか、かしわサクサク天とか、色々と。
歯触り最高の蓮根の天麩羅でもお酒が欲しくなる(笑)。

「饂飩」の額とは対照的にひっそりと掲げているもうひとつの額。
そのお題は、”「一」の意味”。人生で最初のお店であり、
毎日が一からの新たな挑戦であり、
一生懸命につくった一本一本のうどんと、
一からつくった出汁で良い一時を過ごして欲しい。
そんな想いが、店名「一(かず)」に籠められているようです。
まぁ、大将のお名前がカズタカさんだから、
ってこともあるみたいですけど(笑)。

国道463号線沿いは島忠ホームズ所沢店あたり。
デゴイチ佇む公園に面して、うどん家「一(かず)」はある。カズタカ大将は、讃岐うどん店で修行されているよう。
でも、うどん家「一(かず)」のうどんは、讃岐一本遣りではなくて、
武蔵野うどんとの良いとこどりのハイブリットのようにも思える。
客席を行き交うスタッフの皆さんの表情も、
厨房から聞こえる声も朗らかにして心地よい。
いつの日か此処で一杯呑るのもきっといいなといつも思うものの、
此処で呑むには徒歩でとことこ出掛けるか、
いっそ近所に住まなくちゃいけないね(笑)。

「一(かず)」
所沢市小手指町1-29-3 [Map] 04-2008-1501

column/03814

釜揚げ「牧のうどん」本店で湯上りの艶かしく火照ったごぼ天うどん侮り難し

それは確か、二度目の居酒屋「さきと」をどっぷりと堪能して、大満足のまま屋台のラーメンも食べずにホテルへ戻ったその翌日のこと。
いまの福岡県飯塚市生まれだという井上陽水が、2ndアルバム「陽水II センチメンタル」に収録した「能古島の片想い」を突然思い出す。
そうだ能古島へ行ってみようと思い立ち、レンタカーを借りて姪浜渡船場へ。
能古島の船着き場周辺を徘徊して、小魚料理「雑魚(ざっこ)」で刺身や煮付の定食を美味しくいただいた。

フェリーでふたたび姪浜へ戻り小休止。
お腹が熟れてきたところでふたたびレンタカーのハンドルを握る。
着いたのは福岡の西方、糸島市神在。
JR筑肥線「加布里駅」から徒歩10分の場所だ。

頭上に羽釜らしきフォルムのオブジェを頂いた自立看板が迎える。
サインが示すは「牧のうどん 加布里本店」。 駐車場の隅にある看板では「牧のうどん」の店舗網を案内している。
福岡の近郊・郊外に20店舗弱が盛業中だ。

平屋建ての建物にぐるっと鉢巻き状に看板を回した佇まい。入口引き戸の脇に提げた赤提灯でも”釜揚げ”を明示している。
大きな羽釜でゆったりとうどんを湯掻く様子が脳裏に浮かびます。

おひとりさまはきっと、カウンターの椅子に座って、
そんな羽釜から上がる湯気を眺めるのがよいかもしれないけれど、
広々とした座敷に誘われて思わず上がり込む。鉛筆を差し立てたクリップには註文を書き込む用紙が挟まれている。
あれこれ組み合わせて、ずらっと並んだメニューが迷わせる。
卓上の器にたっぷりと盛られた刻み葱もホレまだかと急かせます(笑)。

ぐるぐる迷ったものの、
ここは素直に「ごぼ天うどん」と参りましょう。成る程、まさに今湯から上がったばかりであるかのように、
火照って艶かしいうどんの肌艶がぐぐっと誘う。

中途半端な時間帯にお邪魔したためお客さんは少なめだったけれど、
お願いしたどんぶりは想定外に素早くやってきた。
この太めの麺を註文を受けてから柔らかく湯掻いていたら、
こんなに早くどんぶりを届けることは難しいよなぁと思っていたら、
どうやら、客の多さに関わらず、常に麺を茹で続けているらしい。
ロスが心配になっちゃう一方で、
それだけお客さんが回転しているのだろうとも思う。

お待ち兼ねの刻み葱をたっぷりと中央に載せれば、嗚呼、美しい。ごぼ天は、カリッとしっかりした衣の中から、
牛蒡の歯応えと独特の風味が溢れ出す素朴な逸品だ。

うどんはと云えばやはり、ムニュムニっとして芯が熱く、
想像通りに艶かしく、ひと肌感がぐいとくる。
柔らかさは確かに一瞬伊勢うどんんも想起させるけど、
嫋やかなだけでない量感がいい。
釜揚げのまま水で締めないからこその個性なんだろね。出汁のよく利いた薄口のツユとの相性もよろしく、
あっという間に完食・完飲してしまいました。

福岡のうどんの三大チェーンのひとつと云われる、
釜揚げ「牧のうどん」加布里本店へやってきた。本店から1時間半以内で移動できる場所に絞って出店しているのは、
生地の質とスープの風味旨味が保持できる範囲に、
テリトリーを限定しているかららしい。
福岡のうどんチェーン侮り難し。
頑張れ、負けるな、武蔵野うどんの店たちよ(笑)。

「牧のうどん」加布里本店
福岡県糸島市神在1334-1 [Map] 092-322-3091
https://www.makinoudon.jp/

column/03809

うどんそば処「勢川」本店で豊橋カレーうどん土鍋の底からとろろご飯のひと捻り

路面電車の走る街はいい街だ。
新幹線のひかり号もしくはこだま号で降り立つことになる豊橋駅。
愛知県内にあるはずのその位置がどうもいつも曖昧なままなので、改めて地図を眺めてみる。
すると、鈎針のような形をして対岸の三重県の鳥羽辺りへ向けて突き出し、知多半島とのコンビで三河湾を構成している渥美半島のその根っこ、東三河の中心にあるのが豊橋であることが判ります。

そんな豊橋の駅東口からデッキに出る度に、
豊橋鉄道市内線のプラットホームを見下ろすのがお約束。豊鉄市内線は、広告主によって車輌の彩りが七変化。
ご存知、走る屋台”おでんしゃ”にはなんと、
電停に正午前集合の昼便もあるようです(笑)。

白黒ツートンの”パト電”なんてのもあるのかと感心しつつ、
路面を走る電車に揺られて終点まで行ってみる。小じんまりとひっそりとした操車場に郷愁を覚えつつ、
今来た経路を乗り戻る。
交叉点を大きく曲がる姿はなかなか見応えがございます(笑)。

テッチャン気分を充分満喫したならば、
駅前の電停からの足をいつぞやの割烹料理店の方向へと向けてみる。
この角を曲がれば「千代娘」の横丁だというその角に、
気になるネオンサインがあったのです。扁額示すは、うどんそば処「勢川」本店。
以前訪れた際の夜の景色とはまた違い、
蒼空の下に佇む建物は、朗らかにして枯れた味わいが実によい。
空席待ちのひと達で賑わうことも少なくないようです。

そうとなれば店内もまた活気があって、
ホールのお姐さんたちが忙しそうに立ち動く。
そんな店でのお目当てはやっぱり、
豊橋名物だと伝え聞く「豊橋カレーうどん」であります。注文を終えてから、卓上のご案内をしげしげと眺める。
豊橋カレーうどんと名乗るには、
次の5箇条に適うものでなくてはならないらしい。
①自家製麺を使用する。
②器の底から、ご飯、とろろ、カレーうどんの順に入れる。
ふむ。
③豊橋産ウズラの卵を使用する。
④福神漬けまたは壷漬け・紅生姜を添える。
そして、⑤愛情を持って作る♡。
なるほど!

全身が店内に漂うカレーの風味に浸り切るに時間はいらない(笑)。
間もなくお目当ての土鍋がやってきました。大振りに三角に刻んだお揚げにお約束の鶉の玉子がみっつも。
具沢山の表情の裡には、
熱々の想い(?)が秘められていると推察する(笑)。

そこへやおら割り箸の先を突っ込んで、
秘めた想いを引き摺り上げる。然すれば忽ち立ち昇る湯気。
ふーふーふーふー、ずるずる、つるりん。
あ、汁が跳ねた(笑)!

如何にも黄色いカレー色。
特段辛い訳ではないものの、じわりと汗を掻かせるヤツ。
蕎麦屋のカレーの中でも素朴な仕立て。
その材料たるやS&Bの赤缶かしらと思いつつ、
ご指南に沿うようにまずはうどんを平らげる。改めて福神漬けをトッピングして彩りを整えていざ。
ご飯を鍋底に仕込むだけではなくて、
とろろを咬ませたひと捻りに感心だ。

“教義”に適う豊橋カレーうどんの店は、
この界隈に40軒を超えるお店で供されているらしい。お店毎に色々と工夫が施されて、
バラエティーに富んでいる模様。
他の店では全然違う様子の豊橋カレーうどんと出会えるかもしれません。

「勢川」本店もまた、豊橋カレーうどんを供するお店を代表する一軒だ。Webページによると「勢川」は、
1914年(大正3年)に割烹旅館「勢河」の屋号で創業。
1951年(昭和26年)頃に「勢川」と改名したという。
今や、東三河にグループ11店舗を数えるまでになったその本店は、
成る程、割烹旅館の頃の残り香を感じさせる佇まいを魅せています。

「勢川」本店
豊橋市松葉町3丁目88 [Map] 0532-52-3360
http://www.segawaudon.com/

column/03801

肉汁うどん「うど吉」でウルトラもち麺肉汁うどん進化系にして土着の武蔵野うどん

西武池袋線の狭山ヶ丘駅を西口に出て、463号所沢入間バイパス方向へ向かうと、途中に水路の名残か暗渠と思しき緑地帯が斜めに交差する。
そんな辺りにあったのが、自家製麺無添加を掲げたうどんの店「うど吉」。
出色の肉汁うどんを喰わせるその「うど吉」が移転したのが、16年11月のこと。
移転先はそこから100m程南に進んだ住宅地の一角でありました。

縦格子で囲んだ家屋の周囲を
“うどん””肉汁うどん”と掲示する幟や懸垂幕が賑やかす。それはご自宅を改造改築してお店に仕立てたものに違いない。
松の枝が飾る門には白い暖簾が揺れていました。

門の脇に建てたお手製と思しき掲示板。
例えば、2017年06月には、
定番の「肉汁うどん」「カレー肉汁うどん」「赤肉汁うどん」の他に、
「塩肉汁うどん」や「ひやかけ」のご案内。すっかり冬場となった2018年12月の或る日には、
「あつもり」のご案内に並んで、
月1限定の「竹炭ブラック麺の日」のポスターも掲示されていました。

ずいっと通されたお座敷は、ふた間ぶち抜き。
中央に欄間が渡り、窓際には板張りの廊下が通る。厨房側には、座卓に座り難いひと優先の椅子席カウンターがあり、
いつぞやの猫のキャラクターも大事に飾られています。

そんなメニューあれこれの中から17年の某日にお願いしたのが、
「カレー肉汁うどん」大盛りひやあつ揚げ茄子トッピング。この頃には、デフォルトたる田舎麺に加えて、
“もち麺”という選択肢が登場。
堂々たる量感と麗しく褐色を帯びた麺にしばし見惚れます(笑)。

トッピングの所為で具沢山になっちゃったのが、
微笑ましくも嬉しい汁の椀。しっかりした出汁と加減のよいコク味のカレー汁は、
出来そうで案外なかなか出来ない仕立てとお見受けします。

カレー仕立てがあれば勿論ミソ仕立てもあるよということで、
「味噌肉汁うどん」を田舎麺でいただく。武蔵野うどんの麺として何気に完成度最高峰のうどんを浸すのは、
濃密なる味噌のつけ汁。
今はなき馬込「醤屋」以来、所々で見かける、
玉葱の粗みじん切りや一味を混ぜ込みつついただく、
つけ麺エッセンスも多分に含んだ肉汁うどんであります。

そんな、つけ麺であるところの「味噌肉汁うどん」も、
寒さ厳しき折には”あつもり”という手もある。湯気の立つ湯殿から引き上げたうどんは、
冷水に〆たうどんとはまた違う、活き活きとした表情をみせる。
うーん、どちらにするかまた悩みが増えるではありませんか。
そうじゃなくてもメニューからの選択に迷っているのにぃ(笑)。

そうこうしている裡に、さらなるもちもち麺、
ウルトラもち麺たるうどんが登場した。この辺りも日々進化を伺う「うど吉」の真骨頂。
ただコシがあるとかふわふわしているとかいう、
そんなテクスチャとは別世界の麺。
麺としてのエッジを保ちつつ、
ムニュムニュンとした妖艶な食感で迫る。
勿論、余所でいただいたことのないうどんだ。

そんなウルトラもち麺で偶には辛目のヤツをと、
「赤肉汁うどん」なんて気分の日もある。決して辛過ぎず、辛さを旨味に纏わせた汁がいい。
辛さ一辺倒のつけ麺店店主には、
ぜひ参考にして欲しいと思ってしまいます(笑)。

ふたたびスタンダードな肉汁をと訪ねた或る日。
その日が偶々月末近くの29日であったなら、
見るからに趣の異なるうどんとの僥倖と巡り合うこととなる。そう、毎月29日は、限定”竹炭ブラック麺の日。
食用竹炭粉をたっぷりと練り込んだ麺は、
どこかぬらぬらとして不思議な気分にさせるけれど、
その味わいに炭の気配はおよそなく、
つるるんといただける。
果たしてデトックス効果がありやなしや。

限定と云えば、時季により思い付き(?)により色々出現するのが、
疑いなき凝り性の店主を擁する、
「うど吉」が「うど吉」たる側面のひとつで、
例えば「鹿肉汁うどん」なんてのがいただける時がある。臭みとは勿論別ものの香りと滋味が汁にも滲んでいるような。
そんなつけ汁には、スタンダードな田舎麺がいい。
一緒にいただいた「ミニもつ丼」のモツも、
その処理と質の良さが滲み出た佳品であります。

入手できた食材などなどによっては、
より限定性と創作性が高まることもあるようで、
数量限定「カルボナーラうどん」なんてお皿を拝める時もある。ポイントのひとつが産直で入手したという、
極稀少、国産厳選極小玉の乾燥黒トリュフ。
桜の薫香芬々のベーコンの彩りやよし。
思いがけず軽やかにいただけたのは、
豆乳仕立てにするというアイデアの成功であります。

進化系にして土着の武蔵野うどん店「うど吉」ここにあり。基本形のうどんにも、限定のうどんにも、
柔軟な着想に試行錯誤創意工夫を加えて、
入念に練り上げた奥行きがある。
その一方で土着の気概を忘れずにいてくれる。
我々は狭山ヶ丘の住宅地を訪ね、
自信をもって繰り出してくれる器に、
ただもう身を委ねればよいのです、
なんちゃって(笑)。

「うど吉」
所沢市和ヶ原1-691-62 [Map] 04-2947-0500
http://udokichi.favy.jp/
https://www.facebook.com/udokichi/

column/03776

麺類「信濃屋」で多治見の炎天下ころかけにうどんに支那そばころは香露の発祥の店

記録的、と叫ばれ続けた暑い夏。
ガツンと頭を殴られるような、全身を熱波の圧に絡め取られるような、そんな瞬間が何度もありました。
例年、同じようなクソ暑い日が何日かは勿論あるのだけれど、それが何日も続いたのが、この夏の暑さが異常と云われるところなのでしょう。

近年では、熊谷市が観測史上最高を更新する41.1度を観測し、
「日本一暑い街」の称号を奪還したと云われ、名を上げた(?)。
その一方で、暑い町の常連だった岐阜・多治見は、
観測史上歴代第5位と、やや地味なポジションにあるらしい。

そんなことを思いつつ、初めてJR多治見駅に降り立ったのは、
盛夏にして晴天の八月上旬のことでありました。
ちょっと地味な順位だからって暑くない訳は決してなく、
路傍に佇んでいるだけで全身から汗がどっと噴き出してきます(汗)。

所用を済ませて向かったのは、中央本線の線路沿い。
ギラギラとした陽射しに照らされた踏切の向こうに、
人影がちらほらと窺える。もしやと思いつつ近づけば案の定、
麺類「信濃屋」さんの行列でありました。
この炎天下に行列するなんて自殺行為に近いものがありますが、
此処まで来たのだもの!という気概だけで汗を拭う。
その後屋根の下に誘導してくれ、ホッとひと息つけたのでした。

いい具合に年季の入った店先には、
これはそう、”手打ちうどん””ころかけ”と読むのでしょう。“ころかけ”の”ころ”と云えば真っ先に思い浮かべるのが、
旗の台「でら打ち」の「ころうどん」。
名古屋・岐阜方面をその発祥地とするものなんだろうなということは、
なんとはなしに思っていたので、
お、やっぱりそうなんだとニンマリなんかして(笑)。

暑いがゆえに長く感じられた待ち時間から開放されて、
外観に違わぬいい味の滲みた店内の小上がりに入れ込みとなる。
座布団にお尻を半分載せたような半身の格好で、
垂れ壁に掲げた天然木の扁額を見上げます。
「信濃屋」さんのメニューは、潔くも三品のみであるようです。

座卓の上へとまず受け取ったのが、
冷たいうどんであるところの「ころかけ」の小。伊勢うどんのような見掛けでもあるなぁと思いつつ、
数本のうどんを箸の先に載せて、啜る。
伊勢うどんようなふわんとした口触りが一瞬して、
その後から一転しっかりした歯応えが過ぎる。
ツユは濃そうでいて、さらっと仄かに甘い。
成る程、余所では知らない、素朴にして端正なうどんだ。

温かい方の「うどん」も小盛りにて頂戴する。「ころかけ」に比べて、うどんのしなやかさが増し、
ツユの出汁と醤油が柔らかくそれを引き立てる。
並盛りの半額っていうのもなんだかとっても申し訳ない(笑)。

申し訳ないついでに「支那そば(小)」もいただいてしまう。透明感のあるやや幅広の麺が独特。
ワンタンの皮の生地を細長く切ったようなテクスチャーで、
少しポソっとして、案外ツルっとした感じが不思議な気持ちにさせる。
たとえ年老いたとしても、朝から毎日いただる、
そんなどんぶりでありました。

「ころかけ(小)」「うどん(小)」、
そして「支那そば(小)」をぺろっといただけた。食べ終わり際に実直なるご主人が顔を出してくれ、
味の濃い薄いなど調整いたしますので等々を声を掛けてくれる。
実際に味を調整するのはタイミング的にも難しいとは思うものの、
行列が出来る店になってもなお、
お口に合いますか?と訊ねるような姿勢は、
なかなか真似のできることじゃない。
信奉者が増えて然るべきでありますね。

いまもなお暑い町多治見の踏切の向こうに、麺類「信濃屋」はある。そう云えば、”ころ”ってそもそもなんだろうと調べてみると、
Wikipediaに、その発祥についての件があった。
-現在は岐阜県多治見市にある信濃屋の初代店主が戦前、
名古屋市中区にあったうどん屋を任されていた際、
当時まかないとして食べられていた冷たいうどんを
「香露かけ」と名付けて客に提供したことが、
「ころ」の名称の由来である-
あああ!信濃屋さん初代が「ころ」の起源だったのですね。
御見逸れしました。申し訳ありません。
お邪魔できて良かったと、改めてじわじわ思っているところです。

「信濃屋」
岐阜県多治見市上野町3-46 [Map] 0572-22-1984

column/03761