「するする蕎麦の粋」カテゴリーアーカイブ

元祖かきそば「玉川庵」で釧路の冬空に厚岸の牡蠣ごろごろのかきそばで温まる

冬の釧路はやっぱり寒い。
どん曇りの空から今にも雪の結晶が舞い降りてきそう。
そんな時には、地元釧路の老舗ラーメン店へ足を向けて温まるのも悪くないなと吐く息で両手を温めつつふと思う。
何気なく地図を広げて、縮尺をひいて眺めれば、そうだ!
釧路は牡蠣の産地として夙に知られた厚岸にも近いではないか。
ここで牡蠣をいただかない訳にはいかないと、
そう思い直すのでありました(笑)。

そんなこんなで釧路市街から足を伸ばしたのが、
新釧路川を西へと渡った鳥取大通り沿いから少し外れた辺り。

目的地を眼前にして、その粋な佇まいに嬉しくなる。鰊番屋をイメージして建てられたもののようで、
屋根の隅には望楼と思しき櫓が載っている。
屋根に塗られた紅とポストの朱の挿し色もいい。
空色地の幟は、元祖かきそば、の白抜き文字で誘っています。

黒の暖簾のその先もよい風情の佇まい。雪見障子のような障子の硝子越しに、
座卓に置かれた鍋から立ち上る湯気が見える。

入れ込みの座敷には、小屋根が設えてある。座敷の奥の壁へと目を凝らすと、
お面の下に木版が掲げられているのに気づく。
“百歳の命ささえるかきそばや 味と誇りは命一代”
忠輝とありますが、どなたが詠んだ短歌なのでしょう。

振り返って店の奥へと眼を遣ると、
蕎麦打ち場と思しき小部屋の囲いが見付かる。そろそろ註文の品が届きそうな、
そんな気配がしてきました。

まず手許にやってきたのは「牡蠣フライ」。決して大振りではないけれど、
衣に閉じ込められたその身が解けて小さく弾ける滋味は、
太くそして澄んでいて、旨い。

フライを追い駆けるように届いたのが、
名物と謳う「かきそば」のどんぶり。
厚岸の牡蠣がごろごろっと載っています。ふーふーふー、ずずずず。
甘めのかえしの汁には、
牡蠣から滲み出たエキスと若布の風味が滲みている。
ふーふーふー、ずずずず。
磯の野趣を含むどんぶりには太め田舎の蕎麦。
ふーふーふー、ずずずず。
あー、いやー、温まる温まる。

釧路の郊外に地元厚岸の牡蠣による、
元祖かきそばを謳う手打ちそば「玉川庵」がある。「かきそば」を啜って温まりながら、
このどんぶりはもうひと超え職人技の一杯になってもいいのじゃないか、
なーんて思ったりもした。
厚岸からは綺麗な牡蠣が届くはず。
流石に剥き立ての牡蠣という訳にいかないかもしれないけれど、
新鮮な牡蠣をいただけることが期待できる。
そんな牡蠣と若布と出汁なぞが齎す、
澄んだ磯の風味をより活かしたい。
潮汁のようにとなったら極端だけれど、
かえしの甘さや醤油をぎりぎりまで抑えたらどうか、とか。
そんなつゆには、骨太な蕎麦よりも、
つなぎを減らしたやや細めの蕎麦がきっと合う。
あ、でも、やっぱり磯っぽいのが苦手なひとも少なくないし、
一定量を手打ちするための事情もあるだろうしな、
などとグルグルと余計なことを考えつつ、
鰊番屋な建物を後にしたのでありました(笑)。

「玉川庵」
釧路市鳥取大通5-17-17 [Map] 0154-51-4628

column/03771

山口県郷土料理瓦そば「瓦.Tokyo」で熱々ぱりぱり抹茶含有高め茶そばの瓦そば

新川へと渡る亀島橋の手前に何気なくある堀部安兵衛武庸の碑。
その脇から亀島川に沿って、川の西側を永代通りへと向かう裏通り。
霊岸島へと渡る新亀島橋を横目にぷらぷらとさらに歩みを進めると、右手に黒板張りの小屋のような造作が見えてくる。
このまま真っ直ぐ往けば「ニューカヤバ」の提灯に至ります。

ずっと前には確か、
ショットバーのようなお店ではなかったか。
壮健なる頃の「以と宇」の大将のお姿を見掛けたことがある。その後、「きゃりこ」という居酒屋になり、
それがいつの間にか黒いファサードとなっていました。
看板には、瓦.Tokyo。
少なくとも瓦屋根施工の工事会社ではないようです(笑)。

案内させた席に落ち着いて改めてお品書きを眺める。ひる時のメニューは「瓦そば」一本勝負。
お品書き裏側には、瓦そばの解説に始まり、
美味しい食べ方のご指南が載せられています。

瓦そばと云えば一度だけいただいたことがある。
山口県ゆかりの麺料理のとして紹介されていたのだけれど、
いただいたのは何故か名古屋で(笑)。
伏見の裏道を歩いていて見付けたお店「PIN」でのことでありました。

唯一メニュー「瓦そば」を肉大盛り、麺大盛りでご註文。名古屋で拝んだ様子とおよそ同じ風情で瓦が届く。
お熱いのでお気をつけくださいと付言されるのもお約束。
天辺に頂いた辛味の上へと湯気が立ち上ってゆきます。

瓦をある程度熱してからそばや具を載せるのかなぁなんて思いつつ、
湯気の向かう上方よりその表情を眺める。熱い瓦の扱いは軍手を手に嵌めて行うのかなぁなんて、
さらに余計なことを考えてしまいます(笑)。

檸檬のスライスともみじおろしをたっぷりのつゆに投入し、
手順に従って牛肉や金糸玉子などなども追い駆ける。パリパリっとしたところとズズっといくところとが、
交互に現れる茶そばをつゆに浸ったお肉と一緒に口に含む。
お抹茶含有率高めを思う茶そば、そのものもいい。
この感じはなるほど独特で面白いであります。

瓦に熱されてそば同士がくっついてしまいそうな気もするけれど、
案外そんなことはなくて、割と思うように解れてくれるところにも、
一種のノウハウがあるのかもしれません。

再訪してもご註文は同じ「瓦そば」肉大盛り麺大盛り。
周辺の茶そばがパリパリッとしているのが見た目からも窺える。お、店名を型に凹ませたオリジナルの瓦を使う場合もあるんだね。

亀島橋を背にした茅場町の裏通りに、
山口県郷土料理と瓦そばの店「瓦.Tokyo」がある。瓦の文字の後に「.」があるけど店名はどう読むの、と訊ねたら、
そのまま瓦トウキョウでいいみたいですよとお姐さん。
未だ訪ねたことのない山口県を訪れるのが先か、
こちらの夜の部で山口県の郷土料理をいただくのが先か、
どちらになるか、今からちょっと愉しみです(笑)。

「瓦.Tokyo」
中央区日本橋茅場町2-17-5 [Map] 050-5592-9443
http://kawara.tokyo.jp/

column/03767

そば處「水天宮 長寿庵」で熱ソーメンカツカレーそば自慢オリジナル愉しきお品書き

茅場町の蕎麦屋と云えば、まず思い浮かべるのが「更科 丸屋」。
何故って、呑み過ぎてしまった翌日にちょくちょくお世話になっているから(笑)。
その次に思い浮かべるのはやはり、市場通りと永代通りの交叉点、茅場町一丁目信号角地にずっとある「茅場町 長寿庵」でありましょう。
牡蠣南蛮や柚子切せいろあたりが印象的な蕎麦の老舗。
社用にもしっかり向き合った佇まいもまた、
「茅場町 長寿庵」の個性であります。

数多ある”長寿庵”は、近く新川一丁目にもあり、
さらには水天宮のお宮さん近くにもある。日本橋蛎殻町の裏通りに足を運ぶと、
若竹色の暖簾が静かに風に棚引く。
街角の蕎麦屋感が実に好ましい佇まいであります。

「水天宮 長寿庵」。
暖簾の頭上には、立派な扁額が迎える。どなたが揮毫した文字なのでしょう。
十分な厚みと立体感のある彫刻文字は、
金箔様に彩られています。

割と細かい文字でずらずらっと行の並ぶお品書き。
ざっと40種類程はあるでしょうか。
その筆頭の一群のタイトルは、
“当店自慢オリジナル”。
蕎麦屋の品書きではなかなかお目にかかれない、
特異なフレーズではないでしょか。

当の”当店自慢オリジナル”ブロックで、
まず目を引くのが、”熱”の文字。
「熱野菜そば」をお願いすると、
卓上に届いたのは想定外の桶。厚焼き玉子に海老の剥き身。
油揚げや蒲鉾に玉子で綴じた野菜あれこれが、
たっぷりした装いで載っている。
あがる湯気からは桶に籠った熱気が、
ひしひしと伝わってきます。
掘り返すように汁の中の蕎麦を手繰り揚げると、
一気に熱気が開放されて、ハフハフさせる。

「熱野菜そば」と同じに見える桶の正体は、
お品書き筆頭の「熱ソーメン」。熱々の汁にとっぷりと浸っているので、
ソーメンはヘナヘナかと思ったら然に非ず。
しゃきっとした歯触りをしっかり維持していていい。
冬場に嬉しいオリジナルメニューです。

“自慢オリジナル”のラインナップには、
「揚餅うどん」に並んで「揚豆腐うどん」がある。厚揚げうどんではなくて、揚げ豆腐うどん。
註文を受けてから揚げたのであろう豆腐は熱々で、
これまた冬場の似合うメニューで御座います。

そして品書き筆頭の「熱ソーメン」に続いて、
第二行目に示されているのが「カツカレーそば」。土鍋風のドンブリの湖面を湛えるカレーのとろみ。
カツをしっかと受け止めて浮かべる和出汁のとろみは、
汁の熱気をたっぷりと内包してる。
そこから引き摺り出した蕎麦が茶蕎麦色なのが、
なんだかちょっとシュールではありませんか(笑)。

10席ほどのコンパクトな客席ゆえ、
既に満席のタイミングとなることもある。
空席を待っている間にショーケースを覗くと、
納豆そばらしきサンプルがあったりする。それもいいなぁと、
そう思いつつ硝子戸を引いたのに、
註文したのは温かい「納豆そば」。
ネバネバの堪能には至らずも、
納豆の粒を掬いつつ蕎麦に絡めていただく感じもまた、
どうして悪くない。

またまた”自慢オリジナル”からと、
「ワカメそば」を選ぶおひる時もある。そうかと思えば今度は、
“特製品の部”からその末尾を飾る、
「椎茸そば」なおひる時もある。

そしてそして、お蕎麦やさんの「生姜焼き定食」も侮り難し。生姜の風味がぴりっと利いた、
まったりコクのあるタレがゴハンを誘う。
「さば味噌定食」あたりもきっと、
なかなか佳いのではないかと狙っています(笑)。

水天宮エリアの裏道に、
立派な扁額を額に掲げた街角のそば處「水天宮 長寿庵」がある。少なくとも創作意欲という点では明らかに、
茅場町の店を凌駕してると思うところ。
「冷納豆そば」に「鴨カレー南蛮」。
「開花丼」に「親子丼」も気にかかる。
あ、そうそう「熱ソーメン」はあっても、
「ソーメン」が品書きには見当たらないのが、
ちょっと不思議なところです。

「水天宮 長寿庵」
中央区日本橋蛎殻町1-33-7[Map]03-3667-3365

column/03746

蕎麦處「大坂屋 砂場 本店」で高層ビルと登録有形文化財老舗の安定感を思う蕎麦

それなりに年嵩を積んでから砂場と聞けば、幼稚園や公園に敷設のそれではなく、即座に蕎麦屋と応える。
そう、それがオトナの嗜みというものであります(笑)。
秀吉の大阪城築城の際に工事用の資材置き場、砂置き場としていた場所周辺に開業した二軒の蕎麦店が所在の俗称から「砂場」と呼ばれ、それが蕎麦店の代名詞となっていった、というのが「砂場」発祥の通説とされる。
そんな「砂場」の何軒かは知っていても、訪れる機会はそう多くない。
はてさて、そんな「砂場」を冠する蕎麦屋はいま、東京に何軒あるのかしらんなどと考えつつ、外堀通りを背にして琴平町方向へと歩きます。

分厚い板木で設えた銘板の前に佇めば、
その向こうに虎ノ門ヒルズの威容を望む。和装の軒先と楓の葉と無機質な超高層ビルとのコントラストに、
ほんの少し眉を顰めます。

旧大名家から譲り受けたといわれる、
「虎ノ門大坂屋砂場」が佇む角地は、
今も一等地であることに変わりはない。これまた高いビルに背後から攻め立てられているようでいて、
決してビルになぞしないという決意の表出のようにも映ります。

暖簾の右手には手水鉢。柄杓に手を清めてから暖簾を払うのもよいかもしれませぬ(笑)。

案内される儘、向かって右手の一席へ。酒の肴の件の中で何故だか「焼き鳥」が目に留まり、
「〆張鶴 純」を冷や(常温)で。

一本だけお銚子をやっつけて、
手繰るお蕎麦の到着を待つひと時がいい。届いた「芝海老のかき揚げせいろ」の、
掻き揚げのフォルムに一瞬だけ目を瞠り、
揚げ立ての芝海老の薫りを軽妙な歯触りの中に愉しみます。
求道系蕎麦とはまた違う端正にして安定感を思う蕎麦。
出汁の旨味風味をしっかり湛えた、
甘さ辛さの加減も絶妙のつゆだ。

それから間もなく、
すっかりお腹を空かせてお邪魔した昼下がり。
大葉にアスパラ、茗荷に空豆の天ぷらなぞの載った、
「夏野菜天そば」をつるんと平らげる。腹ペコの勢いのまま註文してしまった「親子丼」も、
厨房に丁寧にして熟練の手があることを明瞭に窺わせてくれます。

陽の落ちる頃に再び、
かつて琴平町と呼ばれた辺りを眺め遣る。格子戸の内側から振り返って、
大坂屋と染め抜いた暖簾の隅を目に留める。
歴代何垂れ目の暖簾なのかなぁなんて考えたりいたします(笑)。

定番「沢の井」をぬる燗でいただいて、
「いかうに和え」あたりをあてに和む。老舗蕎麦屋で呑るのはやはり、
乙にして贅沢な時間でありますね。

「桜切り」は疾うに売り切れていて、
然らばと「生姜切り」。なはは、生姜の風味がきりっとした輪郭で迫る蕎麦。
いいね、美味しいね。

わざわざそのために拵えたのではない蕎麦湯が、
塩梅のいい辛汁と相俟って、老舗の店の地力を魅せる。何処の「砂場」もこの丸に砂を印した湯桶なのでしょか。

1872年(明治5年)、
暖簾分けにより「琴平町砂場」として生まれた、
虎ノ門「大坂屋 砂場」。1923年(大正12年)建築来、
何度かの改修を経て今もそこにある、
「大坂屋 砂場」の建物は、
登録有形文化財(建造物)の指定を受けている。
また、暮れ泥む空の下の夕方辺りに、
訪れる機会のあらんことをと思います。

「大坂屋 砂場 本店」
港区虎ノ門1-10-6 [Map] 03-3501-9661

column/03730

そば処「巴屋」で映画あんの桜並木のある舞台牡蠣南蛮に天ざるに

西武新宿線に久米川という駅があります。
ひとつ新宿寄りの駅が大きな霊園があることでも周知の小平駅。
ひとつ先が志村けんの出身地にして”音頭”でも有名な東村山駅だ。
そんな久米川駅を新青梅街道とは反対側の南口に出る。
ロータリーを背にして進んでT字路の信号に至ればそこはちょうど、曇天の下ながら桜の花が満開でありました。

通りの両側に羽根を広げるように、
薄紅色のベールを捧げる桜の木たち。この桜並木やその周辺が、
’15年公開のある映画のロケ地となっていました。

先程のT字路の処にも桜の枝々。交叉点を渡る横断歩道の正面にあるのが、
そば処「巴屋」です。

店頭の品書きを覗き込むとその隅に、
その映画「あん」についての一行がある。そば処「巴屋」もまた店名もそのままに、
映画「あん」に登場しているのです。

どら焼き屋「どら春」の雇われ店長役の永瀬正敏が、
座っていたと同じテーブルに腰掛けて、
壁に掛かる品札なぞを眺め上げます。大き目で骨太な捏ね鉢が飾られているね。

お品書きに「カキ南ばん」を見付けて、
名残りの一杯とばかりに註文の声を掛けます。どんぶりに載る牡蠣は勿論、加熱用の牡蠣。
割ときりっとした甘汁に二八辺りの素直な蕎麦。
町のそば屋さんの蕎麦をきっちりと体現してくれています。

去年訪れた時はもうひとつ奥のテーブルへ。円で囲んだ巴の文字を標した朱色の湯桶が印象的でした。

映画「あん」で、「どら春」店主千太郎が注文した、
「天ざる」に刻み海苔載る景色。千太郎は確か、麦酒一本と一緒にやっつけていたっけね。

天保元年(1830年)創業、そば処「巴屋」は久米川の南口。Webページによると、
麹町に創業し、戦時の疎開で久米川に移転したという。
疎開以来70年、今は五代目と六代目で頑張って営業しているとある。
また来年、桜の時季にお邪魔して、
昼から燗酒呑っつけたいなと思います。

「巴屋」
東村山市栄町2-21-29 [Map] 042-391-0313
https://tomoeya.jimdo.com/

column/03717