「惜別の移転閉店またいずれ」カテゴリーアーカイブ

レストラン「たいめいけん」でコンソメスープハヤシライスボルシチコールスロー

既設の1、2、3に昨年グランドオープンしたテラス、と室町エリアでの拡充が目覚ましい商業施設コレド。
ただ、ご存じの通りコレドCOREDOが初めて日本橋地区に登場したのは、中央通りと永代通りの交叉する日本橋一丁目のビルにおいてでありました。
コレド日本橋のある日本橋一丁目ビルが建つ前に、あの広い区画に何があったのか、今となってはすぐに思い出せない……。
あ、そうですね、元白木屋であるところの、東急百貨店の日本橋店があったのでした。

COREDO日本橋は一丁目ビルの裏側北側の別棟ANNEXには、
スペイン料理のレストラン「サンパウSANT PAU」があったものの、
平河町のホテル内へと既に移転している。
中央通りに面した寝具専門店 日本橋西川も既に、
コレド日本橋の地階に一時移転して営業している。
以前から何度もお世話になった「九州じゃんがら」日本橋店も閉店し、
同じ裏通り沿いにあった京都銀閣寺「ますたにラーメン」日本橋本店も、
移転先を昭和通り沿いに決めて一時閉店している。

一体全体なにが起きているのか!
そうとなれば真っ先に気になるのが、
「ますたに」向かいの「たいめいけん」。9月の或る週末に嫌な噂を携えつつ、
お久し振りにお邪魔しました。

ホールのお姐さんに訊ねれば、
まだ広く公表はしていないけれど、
10月の中旬以降に閉店することになっているという。
中央通りから昭和通りまで、
そして野村證券の旧館・新館を含む日本橋川までと、
現状の区画を大きく跨いだ大規模な再開発が実行に移されるらしい。

そんな風にバッサリと旧来の町並みをぶっ壊す、
阿漕な発想を最初に抱いたのは、一体どこのどいつだ?
そう憤慨しつつ、こちらでどうかしらと案内された席に着く。椅子の背に刻んだ「たいめいけん」マークや、
天井近くに設えた棚の道具たち。
カトラリーで時刻を飾った時計や配膳台を囲んだサブウェイタイル等々。
遠からずなくなってしまうと思うと勝手なもので、
今までなんとなく眺めていた店内のあれこれが新鮮に目に映ります。

「たいめいけん」と云えばやっぱり、
ご存じ「タンポポオムライス(伊丹十三風)」。
ハムライスの上にこんもりと載せられたオムレツの背に、
一直線にナイフの先を引き入れる儀式がひとつの見せ場。
ただそれは、薄い膜で包まれた玉子のトロトロとハムライスとを
バランスよく混然と美味しく味わうための手法でもある。ただ、もうひとつのタンポポオムライス「ビーフ」は、
同じ所作でオムレツを割き開いてもあんまり美しくはありません(笑)。

「たいめいけん」での飲み物は、瓶や生の麦酒やギネスもあれば、
レモンやライムの「チューハイ」という選択肢もある。
グラスに刻まれた”三代目”の文字に、
松崎しげるバリのガン黒シェフの尊顔を思い浮かべつつ、
当のグラスを傾けます。レバーのコク味が愉しめる「レバーフライ」には、
グラスの赤ワインや黒ビールを合わせてもよいけれど、
下町チックにチューハイでやるのが好みであります。

小瓶なギネスのお相手に「玉子サラダ」は如何でしょう。ひと心地ついてのメインディッシュは「昭和の紙カツカレー」。
叩いて伸ばしたのであろう薄手のカツにチープさなんて、なし。
サクサクと軽快な歯触りの紙カツ。
コックリとした何気に手の込んだカレー。
いいね、いいね。

「たいめいけん」のザ・名物と云えばそれはご存じ、
お代それぞれ50円の「コールスロー」に「ボルシチ」だ。加減よく乳化して酸味ほど良いマリネのコールスロー。
さらっと優しい味付けで料理をそっと支えるボルシチ。
ふわっと柔らかな「ビーフコロッケ」にも勿論よく似合います。

洋食店の矜持が垣間見れる料理のひとつが「ハヤシライス」。例えば、まったりと濃いぃ印象もあった、
丸善~MARUZEN caféのハヤシライスに比べると、
旨味とコク味と酸味の三位一体なバランスが心地よい。

お邪魔するのはいつも一階フロアばかりで、
敷居の高そうな二階は訪れたことがありませんでした。
一階の定休日にノコノコやってきてしまったと或る月曜日。
これを機会と二階への階段を昇りました。お値段も違うお二階は、やっぱり、シックな装い(笑)。
真っ白なクロスが各テーブルを覆っています。

「たいめいけん」が用意するウイスキーが何かと問えば、
その答えは、サントリーオールド。
長くそうしてきたからこその、シブさであります。割り材が、ポッカサッポロの業務用リターナブル瓶、
「Ribbon タンサン」であるところもまた、シブい(笑)。
一階では見掛けることのなかったコースターには、
カラフルなデザインがなされている。
「コールスロー」も二階用にと特製されたものだ。

「ハヤシライス」以上に洋食店の矜持が窺えると思うのが、
本格なる「コンソメスープ」1,500円也だ。浮かべてもらったポーチドエッグの白にコンソメの褐色が映える。
あくまでも穏やかな、それでいて複雑な滋味をゆっくりと味わいます。

お二階の「スパゲッティナポリ風(海老)」もまた、
一階のそれとは格式が異なってくる。残念ながら、ノーモアアルデンテの精神からは外れる、
シャツに飛ぶかも系ではありますが、
個別に用意された粉チーズをふんだんに振り掛けて、
美味しくいただきます。

数ある「たいめいけん」の名物のひとつが、これまたご存じ、
「たいめいけん 特製ラーメン」であります。縁をピンクに染めたチャーシューも、
ピンクがかった煮玉子も特製の証。
コンソメスープとは勿論異なるものの、
大きな寸胴から汲み上げられたであろうスープには、
洋食店の手法と感性が生み出す魅力がやっぱり宿っている。
麺の形状は変わったような気がするなぁと、
ラーメンコーナーで立ち喰いしたあの頃を思い浮かべます。

10月になったならばコレも食べておかねばなりますまい(笑)。猛暑による海水温の高さの影響か、
今年は真牡蠣の身入りがまだ良くない模様。
ともあれ、駆け込みで食べられたことを倖せに思いましょう。

老舗洋食店「たいめいけん」ここにあり。「たいめいけん」の創業は、1931年(昭和6年)、新川でのことという。
「たいめいけん」のルーツは、京橋にあった西支御料理処「泰明軒」。
1948年(昭和23年)に日本橋に移転した際に、
「たいめいけん」とその名を改めたらしい。
つまりは、70年以上もここ日本橋一丁目にあることになる。
そんな「たいめいけん」が、
この地区の大規模な再開発により一時休業する事態となった。
再開発ということは、単なる休業では勿論、ない。
嗚呼、また、老舗の一軒が取り壊されようとしています。

「たいめいけん」
中央区日本橋1-12-10[Map]03-3271-2465
https://www.taimeiken.co.jp/

column/03824

炭火焼とり「羅生門」で煮込みポテサラしのえ焼き二葉橋高架下トンネルの暗がりは今

港区・中央区を代表する通りであるところの、外堀通り、第一京浜、昭和通り、中央通りとが交叉する港区新橋一丁目。
外堀通りは、そんな大きな交叉点を背にして進み、JRの線路下を抜けて西新橋・虎ノ門方向へと抜けてゆく。
幾つものレールを潜るそのJRのガード下、新橋駅の対面は、二葉橋高架下舗道。
何もなければ少し怪しい暗がりになりそうなトンネルに面して、炭焼きの煙とともに明るさと賑わいを供してくれるのが、炭火焼とり「羅生門」だ。

まだまだ明るい夕方。早くも満席の気配もするオープンエアな佇まいが、いい。

大将にいつも叱られながら新規客を捌き、
舗道側の客の註文や配膳に忙しい小柄なオヤジさんの姿も印象的。正真正銘の炭火焼きであり、
排煙のための大きな煙突を取り付けたい頭上は、線路。
それ故、勿論のこと、煙モクモクなのだ。

麦酒に煮込みにポテサラにではじめて、焼鳥の串、でもいい。しのえ焼きってナニ?と問えばそれは、手羽先餃子。
くりからな串ってな選択肢もある。

煙と油とその他諸々に燻されたお品書きの木札。ひやのお酒は、清酒両関。
ニラ玉子スープもあれば、ニラのおひたしもある。

煤んだ額装には「バッカスが夜警をつとむ羅生門」とある。ギリシャ神話の酒の神にして、
酒に付き物の狂乱の神様でもあるとされるバッカス。
その神様が夜な夜な警護してくれているのはなんとも心強い。
それで安心して呑んでヘベレケになって節度を失うと、
酒での乱痴気も程々にせい!
と強い戒めも下してくれていたのかもしれません(笑)。

新橋は外堀通りのガード下、
二葉橋高架下舗道のトンネルに炭火焼とり「羅生門」の賑わいがあった。「羅生門」のオープンは1947年(昭和22年)のことだという。
それが、ちょっとのご無沙汰とコロナ禍に感けている裡に、
シャッターが一向に上がらない事態になってしまった。
舗道側担当だった小柄なオヤジさんは、
今頃何をされているのでしょうか。

「羅生門」
港区新橋1-13-8 JR高架下 [Map] 03-3591-7539

column/03822

定食「美松」で菜種油の牡蠣フライ鰆の味噌焼立田揚げ池袋駅前大通りでこの風情

東京芸術劇場のリニューアルに続いて、そのアプローチともなる公園にも改修の手が入った池袋西口界隈。
愛称とされる「グローバルリンク」はピンと来ないけれど、浮浪者や酔客の姿が目に留まり、切なくも複雑な心境を齎す光景もみられたエリアの様子も変わってきているように映ります。
舞台棟では演奏音を50%だけ反射する反射板などを用いて、屋外では難しいとされるクラシックの生コンサートを可能にした、というのは本当にそう機能するのでしょうか。

そんな西口公園から西口五差路を渡って、
立教通りとの二又を過ぎた辺り。
植栽の陰で何気なく「ごはん」と示す木札のサインが見付かります。池袋駅前と云ってしまってもいいような大通り沿いの舗道にあって、
水盤にも似た睡蓮鉢が涼しさを誘う。
木札の裏側には、「ふくはうち」とあるのが微笑ましい。

ちょうど満席ゆえ、入口の暖簾の裏でしばし待つ。ふと右手の棚を眺めれば、雑誌・書籍が並んでいる。
熊谷守「虫時雨」、水上勉「精進百撰」「折々の散歩道」、
NHK「江戸の食・現代の食」などのタイトルに、
「山手線ひとり夜ごはん」「dancyu」といった文字も並ぶ。

カウンターの頭上を見上げれば、下がり壁に沿って張り出す小屋根。
竹天井には千社札が処狭しと貼られている。これまたふと奥の壁に目を遣れば、器の図画とともに、
「Teishoku MIMATSU」と標す銘板が何気なく、ある。

開け放った扉の暖簾の向こうは池袋の大通り。
焙じたお茶の湯呑みにも何気ない味がある。

カウンターから正面に見据える竹編みの壁に、
その日の品書きを白墨で整然と書き留めた黒板が掛かる。
晩秋に訪れれば、品書きの筆頭はカキフライ。
既に横線一閃で消されてしまっている行もあって、
急に気が急いてくる(笑)。使用している菜種油が国産100%であること。
使っている卵が、白州の平飼いのものであること。
そのことが味のある文字で木札に示されている。
そして、茶碗に盛り込むごはんは、
雑穀米、玄米、白米から選べる。

品書き黒板の縦長な二枚目には、
単品のお惣菜メニューが並んでいる。何気なく「やっこ」を註文すれば、この風情。
右手の先あたりにお猪口がないのが不思議でなりません(笑)。

やっぱり註文んでた「カキフライ」は、
大き過ぎないサイズがジャストフィット。
カラッとした軽やかな揚げ口の衣の中から、
牡蠣の滋味が素直に零れてくる。「美松」の牡蠣フライの特徴は、その揚げ口に留まらず。
ホロホロしっとりと甘いカボチャのフライなんぞを、
合いの手を入れるように用意してくれるのが粋じゃぁありませんか。

別のおひる時には「サワラのみそ焼き」の定食をいただく。西京チックに味噌に包まれて味の沁みた鰆が美味しい。

雑穀米に潜む甘さを探す感じがなんだか妙に嬉しい。味噌汁はと云えば、「カキのみそ汁」への変更が出来たりするのです。

おひるのザ定食的「鶏の立田揚げ」なんて選択もいい。ピュアな菜種油の恩恵をたっぷりと受けているような端正さがある。
菠薐草の小鉢を添えたりするのも秘かな贅沢でありますね。

池袋西口の大通りに面して、粋な定食屋「美松」はある。いや、あった、というべきか。
今度こそは、空席を待つ人にたとえ白い目でみられようとも、
此処のカウンターでひるから呑んでやるんだ!と、
そう思っていたのに、この春、店を閉めてしまった。
今は、3年程前から「美松はなれ」として営業していた、
裏通りの店へと移って、
コロナ禍の最中ながらも盛業中です。

「美松」
豊島区池袋2-18-1 タムラ第一ビル1F(移転前)
https://teishokumimatsu.wixsite.com/teishokumimatsu

column/03816

居酒屋「百味」プロぺ店で新じゃが煮鯨竜田揚げと脳裏に残る賑やかさの光景と

所沢駅西口から北の方角へと伸びる所沢プロぺ商店街。
普段のひとの流れはそれ相応に多いけれど、通りの左右に林立するサインが示すのはチェーン店や大資本の銘柄ばかり。
今やどの駅の周辺でも同じような傾向は否めないものの、古くから賑わっていた街には、どっこいインディペンデントな、資本の匂いのしない、個人の個性と胆力で営んでいる店が歴史を刻んでいて、嬉しくなる。

所沢にも僅か乍らそんなお店があって、
その最たる居酒屋がご存じ「百味」だ。マツキヨとカラオケ店の間を降りる階段の脇にはいつも、
墨と朱の毛筆で書かれた「本日のおすゝめ品」の立て札。
それ以外のおススメ品を白墨で示した黒板の並びには、
「地元密着、足かけ五十年、新鮮味安さで」と謳うポスターが、
そっと、でも目に留まるように貼られていました。

貼られていました、と過去形なのは、
特に飲食店を根底から攻め立てているコロナ禍の影響によって、
突然閉店してしまったから…。
なんとも悲しくて切なくて堪りません。

ごろごろっと小振りのじゃが芋がまるのまま入っていた新じゃが煮。お刺身のあれこれも竜田揚げも揚げ出し豆腐も、
がやがやと兎に角賑やかだった店の様子も思い出になってしまった。

黒板のお目当てのメニューは、
ささっと註文しておかないと消されてしまうと焦ったこともある。揚げ焼売も竹輪の磯辺揚げも思い出になってしまった。

ダイビングショップの仲間たちとの宴会は、
一番奥か左手前の、小上がりというには広い座敷に陣地を構えた。揚げ銀杏に素揚げした小海老などなど。
なんだか揚げ物も沢山いただいたけれど、
それももう思い出になってしまった。

「百味」の凄いところのひとつが、
無休にしてひるから通しでやっていたこと。おひる時に牡蠣フライの定食でちょっと呑んでやれ!と、
そう思いついてトントンと階段を下りていく。
周囲のテーブルは当たり前のように既に呑んでいて、
定食を注文すると、お酒は?という顔で二度訊きされたのも、
思い出になってしまいました。

所沢はプロぺ通りの真ん中に、
歴史を刻んだ正統派な大衆居酒屋「百味」があった。気が付けば、所沢駅近くに「百味」があるのが、
ほんの小さく灯る誇りのようなものでありました。
「ひょうたん別館」近くにあったお店も憶えています。
そんな「百味」の突然をとても残念に悲しく寂しく思っている、
先輩諸兄紳士淑女が沢山おられることと思います。
所沢に地元密着の足かけ50年、お疲れ様でした。

「百味」プロぺ店
所沢市日吉町4-3 [Map] 04-2921-0100

column/03811

ポークジンジャー専門店「Ginger」で豚バラ生姜かポーク生姜かサワーな夜の顔

西口じゃなくて東口にあるのが池袋西武で、西口にあるのが池袋東武となんだかちぐはぐな気がするのもどこ吹く風(笑)。
そんな池袋の西武口を出て右方向、明治通りを千登世橋方面へと向かい、南池袋一丁目の交叉点を左手にジュンク堂書店池袋本店を見乍ら渡り、そのまま進んだ通りが東(あずま)通り。
ご多分に漏れずチェーン店大資本系の店舗が幅を利かす大都会池袋にあって、多少なりともインディペンデンスな店の姿を見掛けて気になる通りなのです。

ずずずいっと進んで右手が寺院を囲う塀となる辺り。
歩道の頭上に「GRIP PROVISION」と示す
プレート状の小さな突出看板が見つかる。服飾雑貨のお店かしらと思いつつ、
店の正面に廻ると店先に白く大きな暖簾が提げられているのが判る。
暖簾の中央には、豚の顔皮チラガーならぬ、
豚面のアイコンが掲げられています。

覗き込むように暖簾を払うと迎えてくれるのは、
大振りなコの字のカウンターと快活そうな女性陣。
右手の壁沿いには野菜類を主軸とした様々な食材が並んでる。
八百屋さん?と訝るもそれで間違いではないようで、
無農薬・無添加そして無化調の食材庫を併設していて、
勿論のことそれら食材の販売もしているそう。天井を見上げれば、構造材が剥き出しで、
元の建物はなかなか年季の入った木造であることが判る。
訊けば、改装前は理容店、そしてケーキ屋さんであったそうだ。

Gingerちんといえば、それは勿論、
ご存じ「しょうが焼きに恋してる」のあの御仁
何を隠そうこちらはその名の通り、
生姜焼き、ポークジンジャーの専門店なのであります。

然らば早速と「豚バラ生姜焼き」を所望いたします。千切りキャベツと生姜焼きが美しきバランスで皿の上に載る。
おおおお。
生姜の風味がひりっとたっぷりとして、好みの味付け。
奇を衒わず素直に飾らず直球に仕立てるあたりが、
専門店の矜持を漂わせるようで、それもまた嬉しいところ。

カウンターに添えてくれた、
大葉と玉葱のドレッシングがなかなか美味しい。オーガニックな野菜をどうドレッシングに仕立てるか、
きっとあれこれ試行錯誤したのだろうね。

フリーな昼上がりには、マスターズドリームから始めちゃう。そんなゆるっとした午後もあっていいよね(笑)。

マスターズドリームをくぴっと飲み干した後にお迎えしたのは、
「ポークジンジャー」の150gもの。山形の特上ロースと謳う豚肉の厚みや頃合いよし。
ナイフでさくさくっと切り分けて、
上に載せかけられたジンジャーなソースをたっぷりと掬って口へ。
脂のノリが云々というよりは、
しっかりとした繊維質の歯応えの中から旨味がじわじわっと滲んできて、
それが生姜風味たっぷりのソースに引き立てられて倍加する感じ。
周囲をやや焦がし気味しているところもニクい(笑)。
サラダは例のドレッシングでこれまた美味い。

そんなポークジンジャー専門店「Ginger」に宵闇の頃にやって来ると、
なにやら微妙に雰囲気が違うのに気づく筈。
そう、夜の部は「SOUR HOUSE」の暖簾へと掛け換わるのであります。

暖簾越しの外が暗くなると、
カウンターの内側に置かれたおでん鍋が急に目に留まる(笑)。お飲み物はと訊かれれば、それはやっぱり、
どのサワーにいたしますかとの問いに近い。
まずは基本中の基本「搾りたてレモン」から。
甘くない、かといって酸っぱ過ぎないフレッシュな吞み口がいい。
他にも、麦焼酎割の「麦香るレモン」とか、
「生はちみつレモン」に塩漬け果肉の「塩レモン」とか、
レモンの皮ときび砂糖のリキュールによる「レモンチェッロ」と、
レモンサワーにもバラエティに豊む工夫がされているんだ。

この店の酒肴のありように探りを入れるべく「ポテトサラダ2019」。
マッシュの具合も織り交ぜた玉葱の塩梅も好みの路線。
西暦表示を添えているのは、
毎年の進化と研鑽が故のことなのでしょか。醤油とザラメだけで煮込んだという「肉豆腐」は、
西の生まれかポークでなくって牛肉仕様の濃い目の仕立て。
味の沁みた木綿もそそります。

長野産の葡萄をそのまま使うという「巨峰サワー」は勿論ブドウ色(笑)。新定番!と謳うは「欲張り鶏つくね」。
串のつくねを想像していたら然るにあらず。
鶏ハンバーグ状のつくねを箸の先で崩せば、
出汁の利いたツユに解れてズルい感じになるのですな。

今度ウチで真似しちゃおーと思わせるのが、
「キャベツのアンチョビ炒め」だ。
こりゃいいや(笑)。おろし生姜をいただいてやってきたのは、
摺り胡麻をびっしりと纏った「ごま鯖」。
これって、鯖がゴマサバだということじゃなくて、
例の福岡のあれでありますね。

おひる時はGingerなお店なんだもの、
当然あるよねとも思ってニヤリとさせる一杯もある。「日光生姜サワー」のグラスに浮かぶスライス。
日光生姜の日光は、”日光を見ずして結構と言うなかれ”の、
その日光かと思ったら、そうではないと云う。
メニューには、”400年の伝統のある生姜つくり”とあって、
鳥取市気高町の日光集落で特別に栽培される生姜。
集落に今も残る生姜穴で何か月もの間熟成させるらしい。

ちょいと〆てしまおうかなぁなって時には「豚生姜丼」。 茶碗盛りな量感がなんだか嬉しい。
ポークジンジャー専門店のカウンターなら、
夜となっても得意技でありますな(笑)。

少なくとも都内唯一いやいや本国唯一かもとも思しき、
ポークジンジャー専門店を冠するは、その名も「Ginger」。豚バラ生姜焼きかポークジンジャーかは、どうぞ気分次第で。
「SOUR HOUSE」と名を換えた夜の部には、
気の利いた酒肴・惣菜をお供に、
有機無添加な工夫を施したサワーたちを呑りましょう。

「Ginger」
豊島区南池袋2-12-12 [Map] 03-6903-1917
https://grip-ginger.com/

column/03802