「ところ谷根千文京区」カテゴリーアーカイブ

洋食「マロ」でナポリタンカキフライオムライスよみせ通りマロさんのカウンター

或る日のおひる時、千駄木駅の駅上、不忍通り沿いにいた。
何の所用だったか何故かまったく思い出せないのだけれど(笑)。
団子坂下にあった焼鳥「今井」はもう外苑前に移転してしまったのだよなぁなどと考えつつ、谷中銀座方向へふらふらっと歩いて行きました。

この先をもうひと足進むと、
「谷中 鳥よし」の界隈だなぁと思いつつ、
よみせ通りと標したゲートを潜る。と、左手にちょっと掠れたオレンジ色のテントが目に留まる。
そうだ「鳥よし」へ向かう時にも眺めていた光景だ。

酔っ払いにでも蹴っ飛ばされたのでしょうか、
三本珈琲協賛のスタンド看板は、
哀れ真っ二つに割れてしまってる。町の洋食屋さんにショーケースがあればやっぱり、覗き込む(笑)。
そこにあるのは、期待に違わぬ草臥れ具合のサンプルたち。
ふと鮫洲の洋食「木の葉」のショーケースを思い出します。

洋食屋の軒先に架かった和食屋な暖簾を潜れば、
右手に厨房とカウンター、左手に小さなテーブル。
その奥には小上がり風のスペースも覗けます。カウンターの止まり木に腰を下ろして入口を振り返れば、
ブラウン管のテレビでちょうど、
片肌脱いだ桜吹雪のお約束シーンが流れていました。

“昼のランチタイム”メニューから「スパゲティナポリタン」。年季の入った白髪単発のマスターが、
コンロに向かいジャッジャと炒める。
トマトソースやケチャップを使い過ぎることのない、
カラッとしたナポリタンは、
シャツに飛ばない系(©イートナポちん)。

季節柄こいつも試さなくちゃとお願いしたのは勿論「カキフライ」。添えてくれたタルタルはお手製のマヨネーズに近いものだけど、
なんかね、いいんだよね、飾らない感じがね。
「蜂の子」のタルタルやカキフライと決して比べてはいけませんと、
心の内なるものが囁きます。

ふたたび宵闇の中にお邪魔して「オムライス」。世に玉子たっぷりのトロトロバージョンもあれば、
薄衣バージョンのオムライスもある。
テクニックを要するのはきっと、こうして薄衣で綺麗に包むヤツ。
自宅でのフライパン使いが上手くなりたいな、
なんてことをスプーンを動かしながら思うのでありました。

谷根千の一角、千駄木はよみせ通りの一隅に洋食「マロ」はある。マスターに店の名の由来を訊ねたならば、
ヒデマロってぇ名なんだよとのお応えをいただいた。
ふと見上げた頭上の額装には「司厨士等級認定証」が掲げてあり、
そこにヒデマロさんの名が確認できる。
きっと、子供の頃から「マロ!」「マロさん!」と、
親しみを込めて呼ばれてれてきたのでしょうね。

「マロ」
文京区千駄木3-41-12 [Map] 03-3822-0036

column/03782

手打そば「根津 鷹匠」で 燗酒酒肴に焙炉の板海苔 鴨せいろ

takasho千代田線を根津の駅で降りて地上に上がると、
そこは不忍通り沿い。
そのまま千駄木方面へ進むと、
バー「根津BAR」のある懐かしい路地が見つかる。
根津神社入口の信号に佇んで、
神社の裏手方向を見遣れば、
讃岐饂飩の「根の津」を思い出します。

それとは逆方向に信号を渡り、そのまま歩みを進めて、
ココを左手に進むと津軽の味の「みぢゃげど」があるなぁと思う処。
そこをふいと右手に折れる。

折れてすぐに、染物の「丁子屋」さんの佇まいが目に留まるけれど、
その手前に一間にも届かないような狭い間口が奥へと続く門構えがある。takasho01払う絣の暖簾には、「鷹匠」の文字が透けています。

両側を竹塀にみっしりと挟まれながら、
奥の暖簾を目指してずずずいっと侵攻する。takasho02暖簾の奥から温かな灯りが洩れてきます。

店内に入ると、右手の硝子越しにゆったりとした打ち台があって、
その手前に、うどんを打つ姿を被り付きで眺められそうなカウンター席がある。
下足を脱いで上がった板の間には、
八人掛けほどの長座卓が三つの川に分かれて置かれてる。
促されるまま一番奥のテーブルの座布団に腰を下ろしました。

まずは蕎麦前をちょろっと引っ掛けようと、
宇都宮の「四季桜 黄ぶな」を燗にして。takasho03気がつけば、複数の女性ひとり客がお蕎麦の茹で上がりを待っているようです。

燗酒のお供にと、「酒肴盛り合わせ」。takasho04板わさに玉子焼き、白菜漬け、蓮根の金平に小女子、そして味噌などが、
いい具合の量感で載っています。
うーん、お酒のお代わりしようかな(笑)。

やっぱりどうしても気になるのが、テーブルの隅に置かれた和紙張りの箱。
正面の取っ手を抓んで抽斗を引き開けて、届いた「板海苔」を挿し入れる。takasho05そして、おずおずと焙炉(ほいろ)の電燈をスイッチオン!
海苔が熱せられパリッとなったところをいただくってぇ寸法です。
小さな炭かなんかで炙る方が、そりゃ粋だけど、なかなか管理が難しいものね。

大事に大事に舐めてたお銚子が空になったところにお蕎麦の膳が到着しました。takasho06ご注文は、「鴨せいろ」であります。

ほんのりと翠色がかった蕎麦は、
ドンと蕎麦切り包丁が落ちてスパッと切れたのが窺えるようなエッジの立ったもの。takasho07もっさりせず、すっすと粋に啜るのが似合う蕎麦だ。

お相手の汁もまた、じっくりと旨味を湛えながら、
濁りなくすっきりと迫る。takasho08鴨肉も柔かだなぁと思っていたら、その脇からつくねが顔を出す。

どちらかと云うと、脂がたっぷり滲む鴨汁が好みなのだけど、
これはこれで、何の文句もなく、美味しくいただけます。takasho09

タイミングよく蕎麦湯の湯桶をいただいて、お猪口に注ぐ。takasho10わざわざ拵えたものではなさそうで、辛汁の出汁の旨味が改めて開いてきます。

根津の静かな裏通りに、手打そば「根津 鷹匠」の暖簾が揺れる。takasho11月曜・火曜定休の「根津 鷹匠」は、営業時間が若干変わっていて、
営業時間は、朝7:30~9:30と昼12:00~18:00まで。
気合の入ったパン屋さんか、はたまた市場御用達のお店のような朝営業が、
手打ち蕎麦の店として特筆ものでありましょう。
例えば、朝7:00から営っている場外の「長生庵」も、手打ちではないよな気がするしね。
そして、早起きの因果は巡ってか、通しで営んだ午後の仕舞いが夕方6時。
勤め帰りに寄り道してってな訳にいかない時間割りが、
わざわざやってくる、その気のある客のみを選別することになってるようにも思います。

口 関連記事:
  バー「根津BAR」で 酩酊グレンモーレンジはマデイラフィニッシュ(10年04月)
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「根津 鷹匠」
文京区根津2-32-8 [Map] 03-5834-1239

column/03509

あんこう鍋「谷中 鳥よし」で 熟成酒竹鶴と鮟鱇鍋すっきりとした滋味

toriyoshi昔のままの町並みが残る界隈として、
夙に知られた、ご存知”谷根千”。
山手線の内側にありながら、
太平洋戦争の被害を余り受けることなく、
そして大規模な再開発の爪牙にかかることなく、
今にある下町情緒が人気を呼んでいるところ。
南に言問通り、北に道灌山通り。
その真ん中あたりを不忍通りが縦に貫いています。

そして、谷中といえば、「谷中ぎんざ」を見下ろす構図が、
定番中の定番となっている。toriyoshi01平日の宵の口ということもあってか、人影は疎らです。

惣菜「いちふじ」の店先を横目にしつつ、
突き当たりのよみせ通りを右に折れる。toriyoshi02すずらん通りと呼ぶ横丁のゲートがちらっと見えてきた辺りで、
右手の袋小路の先を見遣れば、目的地の提灯が見付かります。

通路に沿って続く縄暖簾の内側が座敷になっている。
奥にはベンチシートの小ぢんまりしたカウンター。toriyoshi03皆の到着まで、厨房の下がり壁の品札や黒板のメニューをゆっくりと眺めます。

最初の乾杯のあと、お迎えしたのが「特製かにサラダ」。toriyoshi04思わず「カニカマにそっくり!」と云いそうになりますが(笑)、
それだけたっぷりと蟹足の身肉が載ってる。
甘さを逃さぬよう、ゆっくりと咀嚼して愉しみます。

続いて、登場は、「白子ポン酢」。toriyoshi05クリーミーな魚介の旨さで云えば、牡蠣のそれよりも明快そのもの。
なにかイケナイことをしているような背徳感が微かに過ぎる。 
紅葉おろしが一番似合うのが「白子ポン酢」じゃないでしょか。

「刺身盛り合わせ四種」には、
千葉の〆鯖、宮城の真蛸に岩手の帆立、勝浦の鮪と率直なラインナップ。toriyoshi06toriyoshi12熟成の黄褐色が印象的な「竹鶴」のお代わりをお願いします。

勘亭流の文字が象る品書きから「自家製さつま揚げ」。toriyoshi07平たい小判型や四角形などといった形状ではなく、
不揃いながらもコロンと俵型なのが特徴のひとつ。
そして、揚げ焼いた外周を愛でつつ齧れば、
練った魚の旨味が香ばしく弾き出る。
オツだね、美味しいね。

黒板に読むこの日の生牡蠣は、気仙沼・唐桑からやってきた、
その名も「ど根性かき」。
震災を乗り越えたことからこの名前を付したものらしい。toriyoshi08勿論生でいただけるものを敢えて酒蒸しにしてもらう。
程よくたっぷり身入りした牡蠣の旨味が酒に蒸されて活き活きと内包されて、
あああ、うんうんと頷き合います。

そして、メインのお鍋の具材が届けられました。toriyoshi09大皿の頂に鎮座するのは、おにぎり状に丸めたあん肝だ。

順番も特になく、どんどん鍋に入れちゃってください、とのご主人のご指示に従って、
既に沸き始まっている鍋の湯へと鮟鱇の身のあちこちを投入します。toriyoshi10sepp先生と某有名作曲家との裏話なぞを聞きながら、しばし待つ。
ぱかっと鍋の蓋を返せば、湯気とともに煮え端のあんこう鍋が姿を現しました。

スープの色合いからも白味噌混じりの仕立てが窺える。
ほくほくした身やつるんとした身を交互にいただきつつ、時折スープの恩恵に与る。toriyoshi11全体に鏤めた刻みあん肝が絶妙の効果を発揮してる。
しっかり豊かな滋味なのにそれがすっきりと軽やかなのがまさに出色。
月島「ほていさん」のあん肝大サービス攻撃には少々食傷する瞬間もあったけど、
此処ではそんな心配もなく、さらっと満足、そんな「あんこう鍋」。
勿論、おじやにしてもらい、皆で鍋底まで浚うのでありました。 

     

谷中の袋小路に創業昭和二十八年のふぐ・あんこう鍋「谷中 鳥よし」がある。toriyoshi13品書きの勘亭流の文字は、
趣味で習っているご主人の手によるものらしい。
「鳥よし」というと、目黒や西麻布、銀座などの焼き鳥店が有名だけど、
三代目とともに家族経営しているという此方のお店は、
どんな経緯で「鳥よし」と名付けたのかな。

口 関連記事:
  海鮮酒処「ほていさん」で てんこ盛りあん肝逆説的美味しさの方向(06年01月)
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「谷中 鳥よし」
台東区谷中3-14-6 [Map] 03-3823-6298
http://www.yanakatoriyosi.com/

column/03496

軽食喫茶「愛玉子」で つるりんと涼しげ檸檬色谷中の夏の風物詩

ogyochi.jpg上野駅の公園口で待ち合わせ。 改札向かいの東京文化会館は、 改修工事のため休館中。 まだまだ眩しい陽射しに照らされつつ、 動物園方向へとのんびりと歩きます。 沢山のテラス席のあるスタバを横目にし乍ら進むと、 藝大の学生らしき若者たちが、 手作りした小物なぞを売っている。 その先、藝大美術学部の構内を門から覗けば、 力強く勇壮な造形の手作り神輿が目を惹いている。 藝祭と呼ばれる文化祭が盛り上がりはじめている頃みたい。 成る程、そんじょそこいらの学園祭とはちと違う、 クリエイティビティを想わせるものでありますね。

藝大の敷地を離れて、言問通りの上野桜木の信号に出て、 交叉点の角にある「カヤバ珈琲」の佇まいをいいねと眺める。 古民家をリノベーションしたカフェのひとつとして有名みたい。 「カヤバ珈琲」のかき氷、「谷中ジンジャー」に後ろ髪を引かれつつ、 ほんのもう少し足を伸ばします。

そこに現れたのは、これまたなんとも素敵な佇まい。ogyochi01.jpg ogyochi02.jpg檸檬色の帯に大きく描いた文字は、「愛玉子」。 冬瓜绿のストライプの軒先テントがいい表情だ。 古びたペンキ塗りの硝子戸も、 その前に下げた暖簾と「喫茶」の文字の味わいもいい。

こんにちは、を戸を引いた店内もなかなかの風情。ogyochi03.jpg右手の背凭れの高いボックスシートにお邪魔しましょう。

ogyochi04.jpg木目化粧合板の壁に貼られたメニューは、 これまたなんとも味のある手書き文字。 そして、卓上の懐かしきカードケースに入ったメニューも癖のある手書き文字。 角の千切れた、雑誌の切り抜きが貼り込んであります。 「チーウィスキー」「チーワイン」なんかも気になりますが(笑)、 ここはやっぱり「オーギョーチー」でしょうね。

二代目さんなのでしょうか、お兄さんが運んでくれた硝子の器に瞠目する。ogyochi05.jpgなんとも鮮やかな檸檬色。 都立大学の「Hibusuma」でいただいた以来の「愛玉子」だ。 どれどれと、掬ったスプーンを口にすると、 つるりん!と口元を滑って、シロップのレモン風味とそれ相応の甘さが追い駆ける。 その、つるりん!がなんとも涼やかで、いいですなぁ。

食感は、みつまめなんかの賽の目の寒天のそれに近く、 やや大きめやや柔らかめゼリー寄りといったところでしょうか。 寒天質そのものに味があるというよりは、シロップとセットで愉しむもののよう。ogyochi06.jpgogyochi07.jpgogyochi08.jpg壁の額には、「愛玉子」の効能書きを掲げてる。 「愛玉子」とは、台湾の高山植物で、 新高山(現玉山、海軍の暗号電文「ニイタカヤマノボレ一二〇八」のニイタカヤマ)の、 山麓あたりに密生するものらしい。 瓜のような無花果のような、 その果実を裏返すと粟粒みたいな種子のツブツブが外側に出て、 それをナイフでこそぎ落とし、さらしに入れて、カルシウムを含む硬水の中で揉む。 すると、種子に多く含むペクチン質によって寒天状に固まるという。 黄色いのはやはり、主として檸檬のシロップの色のようだ。 冷やして美味しい「愛玉子」は、 彼の地台湾の屋台なぞで今も、庶民の味として親しまれているようです。

台湾の、そして谷中の夏の風物詩、愛玉子の専門店、 その名もそのまま「愛玉子(おーぎょーちい)」。ogyochi09.jpg「愛玉子」は、台湾語で「オーギョーチ」。 昭和9年(1934年)の創業とも云われる「愛玉子」だけど、 雑誌の切抜きには、大正2年から「愛玉子」を売っていたが、 戦時には原料が入らなくなり、その後昭和54年に復活、とある。 今の建物は、いつ頃のものなのかなぁ。 谷中散策の休憩処として、他の古民家カフェに負けない風情を想います。

口 関連記事:   南翔小籠包「Hibusuma」で台湾啤酒小籠包海南鶏飯辣椒麺(08年11月)


「愛玉子」 台東区上野桜木2-11-8 [Map] 03-3821-5375
column/03445

津軽の味「みぢゃげど」で 煮なます黒豆じゃっぱ汁石場家の味

mijyagedo.jpgtakapuと行こう青森料理の店! 大井町の「なか村」に引き続き、その第二弾としてやってきたのは、所謂谷根千エリアのど真ん中。 うねうねと続く、俗にいう”へびみち”のとば口にあるのが、在京の津軽料理の店として夙に知られた「みぢゃげど」だ。 既に電話でのやりとりでも和ませてくれた女将さん。 お逢いできるのが愉しみです。
谷中の一隅にすっとある藍の暖簾。mijyagedo01.jpg気をつけてみていなければ通り過ぎてしまいそうな、そんな飾らない佇まいの「みじゃげど」。 鄙びた風情が早くも郷愁を誘います。

左手の階段から上がる二階にも座敷があるようだけど、今はもう暖簾を払ってすぐの座敷が「みぢゃげど」の客間。 実質的に一日ふた組、ということになりそうです。

福福しい笑顔で迎えてくれた女将さんと朴訥とした雰囲気が愛らしい旦那さん。 今夜はよろしくお願いします。 mijyagedo02.jpgすると、丁寧に認めた「御献立」が手渡されます。 「御献立」には、日付や予約者の名前が入り、落款まで署してある。 なんだかこれだけで、有難い気分になってきます(笑)。

名家の品ある女将さんは、津軽で十九代続く旧家、御用商人「石場家」のご長女。 弘前城の亀ノ甲門近くにある屋敷は、重要文化財に指定され、観光スポットのひとつになっている。 「しまや」を訪ねる前、takapuの車で雪の弘前城の回りを廻った時に車窓から眺めたのが石場家だったと思い出します。 幼い頃から、津軽伝統の節句料理の手ほどきを受けたという女将さんは、包丁さばき、味付けなどなど、津軽の伝統をそのままに、津軽の風土文化を多くのひとびとに伝えたいと今も奮闘中なのであります。 なにかふと、琉球の宮廷料理をいまに伝えようと頑張ってくれている「山本彩香」の彩香おかぁさんとダブってくるね。

mijyagedo03.jpg口取りの角皿を受け取って、ちょっとだけ麦酒をいただきます。 紅白蒲鉾、伊達巻、みかん、新巻鮭、昆布巻、菜の花。 お正月にお祖母ちゃんちへよばれたような錯覚が一瞬過ぎります。

皆で囲んでいるのは、長方形に設えた囲炉裏端。 その囲炉裏を借景に映えるのが、「煮なます」のグラスです。mijyagedo04.jpg一般に「なます」といえば、大根や人参の千切りを塩もみした酸っぱいヤツって感じですが、女将さんが仕立てくれたのは、「煮なます」。 新巻鮭のアラを出汁にひくのも要諦で、シャクっとした歯触りとともに丸く、優しいお味です。

胡麻を振られた「黒豆」の小鉢。mijyagedo05.jpg一見何気ない黒豆なのだけど、これが感嘆するほどの美味しさ。 今までお惣菜でいただいていた黒豆はなんだったのだろうとも思っちゃう、鮮やかで小粋な味わいだ。

そして、青みを帯びた表情を晒しているのが、「黒生子」。mijyagedo06.jpgコリコリシコとした歯応えと磯の風味が醍醐味。 なんていままで特段意識したことがなかったけど、 海鼠には、赤か、青か、黒かなど色々あるのだね。

こうなるともう、麦酒呑んでる場合じゃないねと(笑)、女将さんに日本酒を所望する。 やっぱり「豊盃」だよねと呟きつつ、takapuが目聡く「くらぶあるですか!」と声を発した。 takapuが云う”くらぶ”とは、限定醸造「豊盃 倶楽部」のこと。mijyagedo07.jpg「豊盃米」を50%まで精米して仕込んで、その1つのタンクから春夏秋冬の年4回に分けて絞るというものらしい。 碧く澄んだグラスでいただいたのは、その「豊盃 倶楽部」の春の生酒。 すっきりした豊穣さが心地いい。

そこへまた、お酒にぴったりの酒肴が届く。 「真だらの子のしょう油づけ」。mijyagedo08.jpg滑らかなぷつぷつと沁みる滋味に、嗚呼なんてお酒を呼ぶのだろうと膝を打つ(笑)。 一般的に思う”タラコ”はつまり、スケトウダラの子、助そ子のことだけど、こちとら真鱈の子。 どーんとボリュームのある腹子を抱えた真鱈が冬の青森で、北の海で揚がるンだ。 青森で云う”子”のつく魚卵・珍味、七子八珍のひとつでもあるンだね。

mijyagedo09.jpg羨ましいことに、つい先週青森を回ってきたというのむちゃんのお土産が、 やっぱり「豊盃」。 「倶楽部」に続いてお願いした、同じ特別純米「豊盃」の一升瓶と並べてみたりしちゃいます(笑)。

新雪をいただいたようにも見映えるのは、「鮭の押しずし」。mijyagedo10.jpg所謂、飯寿司で、女将さんは、一ヶ月漬けるのよと丁寧に解説してくれる。 「豊盃」の蔵元、三浦酒造から大吟醸の麹を分けてもらって仕込みに使っているそう。 「豊盃」と相性ぴったりな筈だよね。

澄んだ白が清らかな「青森やりいかの刺身」。mijyagedo11.jpgりんご酢でも知られた津軽のカネショウの醤油をちょんづけしていただきます。 ひと噛みすれば炸裂する、烏賊の甘み。 あははは、思わず笑ってしまいます(笑)。

そして、囲む囲炉裏が間違いなく似合う料理が運ばれてきました。 ご存知、「真鱈のじゃっぱ汁」!mijyagedo12.jpg“じゃっぱ”というのは、津軽で云う魚のアラのこと。 鱈の頭や骨、胃袋やあぶらと呼ぶ肝臓なんかを煮込んだ鉄鍋だ。 けー、とひと声、女将さん。 “け”というのは、津軽弁で”食べなさい”。 はい、早速いただきます。 勿論のこと、白子もたっぷり。 大きな鍋の中身がどんどん減ってゆく(笑)。 当地の山本製麺から取り寄せるみじゃげど専用の蒸しそばもあるからね、と女将さん。 mijyagedo14.jpgmijyagedo15.jpg なにより、アラのあっちこっちから滲み出た出汁がしみじみとはふほふと旨い。 あー、身体も気持ちも温まるとは、このことを云うのだね。 そうそう、こうして真鱈を一匹まるまる使うからこそ、「みじゃげど」へはそこそこの人数で参じなければいけなのであります。

mijyagedo16.jpg 皆で水を所望すると、彫刻のある渋くて粋な薬缶を傾けてくれる旦那さん。 随分呑んじゃったこともあってか、なんだかお水も旨い(笑)。

デザートのりんご、サン富士。mijyagedo17.jpg自然な優しく豊かな蜜な甘さが沁み入ります。

津軽郷土料理「みぢゃげど」、ここに在り。mijyagedo18.jpg「みじゃげど」は、商号登記のみならず、商標登録も済ませているそう。 お店の名前の由来について、Webサイトに示されているので引用します。 “みじゃげど”は、今は干拓されてございませんが、その昔は弘前市民に馴染み深い沼の名でございました。 つがることばで「みぢゃ」は水屋(台所)、「げど」は街道でございますから、如何に住む人々にとって馴染み深く、役に立っていたものかが分かります。 この名をいただく谷中「みぢゃげど」は、皆さまの心と体のお台所として、お役に立ちたいものと存じております。 津軽郷土を味わいに、女将さんと旦那さんに逢いに一度、行かれませんか。 口 関連記事:   青森料理・割烹「なか村」で 田酒呑る素焼みずしゃこほや亀の手(10年08月)   郷土料理「しまや」でゴロ味噌和え津軽そば若生にぎりと女将さん(10年01月)   琉球料理「山本彩香」で 豆腐よう豚飯どぅるわかしー魅力に再び(10年07月)


「みぢゃげど」 台東区谷中2-5-10[Map] 03-3823-6227 http://www.k2.dion.ne.jp/~yumeko/mijagedo/
column/03105