「松山高知徳島伊予四国島」カテゴリーアーカイブ

焼肉「かなざわ」でだるま夕日の女将さん朗らかなる焼肉店美味し愉し

宿毛でのお宿は、二階の窓から片島港を見渡す民泊のお家。
港界隈を散策するとすぐ近くに、煙突からもうもうと煙を吐いている工場のような建物がある。
ガルバリウムの真新しい外装の工場に近づくと、煤けた硝子越しに焔の揺らめきが見える。
壁のサインが示すは「沖の島水産」
焔と煙は、鰹の藁焼きのものだったのです。

よくよく訊いてみればその「沖の島水産」は、
二日間お世話になった、
宿毛のダイビングサービス「黒潮」の親会社でもあるという。
残念ながら海況は優れなかった、
沖の島周辺の海の中を案内してくれた若きガイドくんは、
ガイド仕事のその足で工場へ向かい、
鰹の藁焼き仕事をしていたのです。

身体の潮っけを洗い流してさっぱりしたら、
ふたたびご近所探索をする。
港沿いは小さな集落で、割とすぐにひと廻り。何より暗がりに浮かぶ紅い看板と提灯が気に掛かります。

目が慣れたところで店先の看板を読むとなんと、
映画「パーマネント野ばら」のロケ地であると書かれてある。そしてそこから左手に目を移すと今度は、
ドラマ「ダルマさんが笑った。」のロケ地でもあるとある。

映画「パーマネント野ばら」は、西原理恵子の漫画が原作で、
菅野美穂、池脇千鶴、小池栄子、夏木マリ、
江口洋介、宇崎竜童、ムロツヨシといった面々が出演。
「ダルマさんが笑った。」は、NHKの高知発地域ドラマで、
安藤サクラ、倍賞美津子をはじめ、
田中要次、戸田昌宏なんかが出演している。
帰ったら早速観なくっちゃと云いつつ、
恐る恐るドアを引き開けました。

店内は如何にも焼肉店であります、
という風情はほとんどなくて、
中央のテーブル席を挟んで左にカウンター、
右手には小上がりがある居酒屋風。
奥には座敷等があって、なかなかのキャパを擁しています。一方、メニューはというと正しき焼肉店仕様。
「汁」はもとより「お茶漬け」なんてのも定番みたい。
何故か一瞬怒られているような気分になるのは、
「コーラー」の所為でしょう(笑)。

メニューの頭から「ロース」「カルビ」辺りを手始めに。うん、うん、素直に美味しい。
テーブルにビルトインされている無煙ではなくて、
ガスホースに繋げて卓上に置くこの手のロースターに、
ほんの少し郷愁を憶えてしまいます。

ウーロンハイ出来ますかと訊ねたら、
それは亀甲ジョッキでやってきた。ソーセージもおススメよーと女将さんが仰るので、
然らば早速と炎の上に載せる。
いい具合にジューシーで香りもよいですね。
女将さん、「レバ」も旨いであります。

「汁」はと云えば、
ありそでなさそな掻き玉子味噌汁。なんだかより穏やかーな気分にさせてくれる一杯です。

と、そこへ、お裾分けの小皿が届く。
瑞々しくも蠱惑的な甘さの葡萄のひと粒ひと粒。供してくれたのは、
真ん中のテーブルで朗らかなオーラを発していた女性。
訊けば、「わっはっは!」という観光農園を営んでいる社長さん。
気風よく豪快な「ワッハッハ」を幾度となく聞く度に、
元気のお裾分けもいただいているような気になって、
より愉しい時間となりました。

女将さんに映画やドラマのロケ地になったンですねと訊くと、
奥の座敷に飾られたパネルの写真やポスターを見せてくれた。
実に印象的な「だるま夕日」。
なんと当の女将さんが、
その「だるま夕日」撮影の第一人者なのだという。
撮影となれば、ごっつい望遠レンズを装着したカメラを手に、
颯爽とレンズを覗く様子を思い浮かべます。市のWebサイトによると、
「だるま夕日」は、宿毛湾の冬の風物詩で、
「日本の夕日百選」に選ばれている。
大気と海水との温度差が大きく冷え込みが厳しい晴れた日に、
海面から立ち上がる水蒸気によって光が屈折して出来る、
一種の蜃気楼現象。
11月中旬から2月中旬にかけての期間中に、
わずか20回程度しか観ることが出来ず、
綺麗な「だるま」になるのはその半分程度の機会しかないため、
「幸福の夕日」とも呼ばれているそう。
店の雰囲気もいい味出しているし、
高知発地域ドラマ「ダルマさんが笑った。」のロケ地となるのも、
必然な成り行きだったのでしょうね。
※残念ながら「NHKLオンデマンド」でも観られないようです。

今は静かな宿毛の港町に、
朗らかなる焼肉店「かなざわ」がある。この港町は実はココを中心に回っているのではないかと、
そんな錯覚を一瞬憶えたりなんかいたしました(笑)。
美味しく愉しいひと時をありがとうございます。

「かなざわ」
宿毛市片島9-24-4 [Map] 0880-65-8125

column/03739

食堂「まこと」で旧き港町宿毛の風情と中華そば焼めしに和む

とてもお久し振りの高知空港に降り立って早速、空港近くのレンタカー店にてクルマを借りる。
嗚呼、初めて高知を訪れて、はりまや橋の事実に衝撃を受けたのは果たして、いつのことだったのだろうか。
そんなこともふと思いながら、愚図ついた空の下、高知自動車道を西へ西へと走らせました。

土佐、須崎、四万十町、黒崎、
そして四万十を経て、一路やって来たのは、
高知南西端の町のひとつ、宿毛(すくも)です。

静かな港の防波堤の脇にクルマを停め、
港に面した、民泊でお世話になる部屋に荷物を降ろして、
遅いぃおひるへと近くを散策します。ひと気のない海辺の路上の空気に、
営っているお店なんてありそうもないなぁと半ば諦めつつ、
すぐご近所の様子から探りを入れる。
硝子越しに覗き込んで、ひとの姿がないのを確かめて、
その先へと歩き始めたその時、
当の食堂へと入っていくひとのあるのを目に留めました。

営ってるのですよね?とおずおずと入り込み、
真ん中のテーブルに席を得る。
「乾いた喉に染みわたる」。
目の前の柱に貼られていた貼紙がなかなかいい。店内を見渡しながら、
そうだそうそう、早速ビールをいただかなければと、
急に急いた気持ちになります(笑)。

店奥に置かれた木臼のようなフォルムのコンロに載せられた、
如何にも使い込まれた風情の鍋が目に留まる。鍋の中にはセルフサービスのおでんがお待ち兼ね。
此処でおでんお供に麦酒が呑めるとは、
なんと幸せなことでしょう(笑)。

麦酒のグラスを傾けながら壁の品札を改めて眺める。丸っこい文字がなんだかよい。
「中華そば」に「焼めし」をお願いしましょう。

届いたどんぶりは期待に違わぬ素朴な佇まい。ふわんと甘いスープに柔茹での細麺が揺蕩う。
トッピングは、ピンクに縁取った蒲鉾にモヤシ、木耳。
チャーシューというよりは、
炙った豚バラであるというのも特徴でありましょう。
ああ、なんとも和む味わいです。

北京鍋を煽って煽ってしたチャーハンとは、
明らかに路線の違う「焼めし」もいい。中華そばのスープとの相性頗るよろしく、
一心同体となって和ませてくれます。
ご馳走さまでした。

宿毛・片島港に面して佇む食堂「まこと」に情緒あり。映画のロケにそのまま使えそうな、
そんな、旧き港町の風情がいい。
営っててよかった(笑)。

「まこと」
宿毛市片島4-46 [Map] 0880-65-8211

column/03738

サントリーバー「露口」でハイボールとふたつの笑顔のカウンターに癒される

四国松山と聞いてまず思い浮かべるのが、写真や映像に観る道後温泉本館の佇まい。
そして、坊ちゃんスタジアム、坊ちゃん列車などと公共機関に冠された”坊ちゃん”の名でも判るように、夏目漱石に縁のある土地であること。
正岡子規が確か松山出身で、漱石との交流もあったのではなかったかな、といった感じでしょうか。

道後温泉へは成る程、
松山空港から直行するリムジンバスが組まれている。
バスを降り立てばそこが道後温泉駅。
伊予鉄道城南線、つまりは松山市内を走る軌道、
市内電車の終着駅だ。坊ちゃん列車の終着駅ともなっていて、
駅舎の前には当の坊ちゃん列車用の展示線があり、
夜間の駐機場所となっているらしい。

日本三古湯のひとつとして夙に知られた道後温泉。
そのアイコンたる本館に相見える。本館に至るアーケードや本館前の広場も、
想定外のコンパクトさではあるものの、
建物全体から揮発するオーラのような存在感は、揺るぎない。
神の湯、霊の湯とふたつに分かれている風呂もなかなかの風情。
大衆浴場として現役だというのがなにより素晴らしい。

投宿したホテルから二番町の「たにた」さんへと向かう道すがら。
いい感じに飲食店の建ち並ぶ通り沿いに、
今はもう朽ちてしまったけれど、
きっと往時は味のあるバーだったのだろうなぁと、
そんな風に思わせる建物がありました。

「たにた」さんを辞して同じ通りを戻ってくるとなんと、
その古びた建物に灯りが点っている!
見上げた成型ものの看板には”サントリーバー”の文字。暗がりに浮かぶ樽のディスプレイ。
目を凝らしてみると、
店の額に渡した幕板に店名の名残りが見つかります。

恐る恐る扉を押し開けてさらに驚いた!
奥へと伸びるカウンターが既にぎっしりと満席なのだ。
ちょっと待ってね!と奥から発してくれたお姐さんの声を頼りに、
止まり木が空くまで待ってみようという気になる。
バーの前で席が空くのを待つなんて、なかなかないことだ。
と、そこへ次から次へと客が訪れる。
成る程、そんなに愛されてる店なのか。

暫し後、オニイサンどうぞーと招き入れられて、
カウンターの一隅へ。
古色がこんなにも艶っぽくも穏やかに映るのものなのだなぁと、
ペンダントライトとその上の天井を見上げます。ふと見た壁の額には、
佐治敬三氏の色紙が飾られていました。

ご註文はやっぱり、ハイボール。目を閉じていても同じようにできそうな、
そんな所作でグラスをつくるマスターは、
飄々としつつも実直さが滲み出てしまうとお見受けする。
一体今まで何杯のハイボールをつくってきたのでしょう。

決して薄めではないのに、
なんだか円やかに感じるハイボール。そんなグラス越しにふたつ笑顔が浮かんでいます。

Torys Barの名もあるコースターの縁には、
58th Anniversaryと金の文字で綴られている。
こちらサントリーバー「露口」は、
創業来なんと半世紀を疾うに超える歴史を刻んでいるのですか!
カウンターの中を行き来しするご夫妻おふたりの笑顔からも、
それを素敵に表現したイラストの笑顔からも、
そんな歴史の長さ重さを思わせない、
屈託のない魅力が存分に伝ってきます。

正面のバックバーにラフロイグのボトルを認めて、
もう一杯と所望する。両側のお客さんたちと自然と会話を交わす格好になるのもまた、
カウンターのおふたりの朗らかさによるものに他なりません。

松山の二番町に半世紀超えのサントリーバー「露口」がある。居心地のいいカウンターのひと時に癒されたひと達が、
それはそれは沢山おられることは想像に難くありません。

「露口」
松山市二番町2-1-4 [Map] 089-921-5364

column/03726