「旅は陸奥国出羽国」カテゴリーアーカイブ

OSTERIA ENOTECA「ダ・サスィーノ」で弘前城の桜と自ら育む食材自家製ワイン

もう随分と前のことになったけれど、takapuのお陰で足を向けることが出来た青森という土地。
雪の青森市街を巡り、煮干し中華そば店を辿り、夜は豊盃が迎える酒場へ。
八戸では、銭湯の朝湯に浸かり、朝市に潜入したりなんかして。
そして、太平洋側の南部とも北海道と本州を繋ぐ港町であった青森ともまた違う雰囲気を持つ弘前。
弘前と云えば、「しまや」の女将さんの佇まいが真っ先に思い浮かぶ。
そんな弘前へは、桜の時季にもいつか訪ねたいとずっと考えていました。

例年の開花時期よりも早いタイミングで、
旅の予定を組んでしまう勇み足。
花咲く前の弘前城の散策もきっと悪くないさとそう開き直っていたら、
史上一番を争うような早い開花に巡り合う。
勇み足が功を奏して、満開の弘前城を訪ねることが出来ました。 さくら祭りも”準”さくら祭りと呼ぶ前倒し。
城内での飲酒や食べ歩きが禁じられているのは残念ながら、
岩木山を望むお濠周りに連なる桜やアーチ状に迫る桜のトンネル、
内濠の工事のために移設されている天守周りのしだれ桜。
はたまた、れんが倉庫美術館前の色合いの違う桜などなど。
気の早い弘前の桜の満開を存分に堪能したのでありました。

早めの夕方から「しまや」の女将さんにお久し振りのご挨拶。
その翌日には、五所川原まで足を伸ばして立佞武多の館。
久々に津軽鉄道に乗り込んで、太宰治疎開の家から斜陽館を巡る。
太宰治の生家であり実家あるところの斜陽館よりも、
実家の離れを移築した、家族ともども疎開の時季を過ごし、
太宰晩年の作品群の書斎となった邸宅の方が趣がある。
思わず文庫本「走れメロス」を購入したりして(笑)。

五能線で戻った弘前の夕刻に訪れたのが、
本町の弘前大学医学部の通りを挟んで向かい側の路地。
薄暗い径の左手にぼんやりと浮かぶサインの文字が示すは、
「OSTERIA ENOTECA DA SASINO(ダ・サスィーノ)」の在り処だ。

予約で満席との店頭の表示を横目に、奥のテーブルへとご案内。
メニューの片扉には、レストランの心意気を示す文章がある。
それは、「サスィーノの仕込みは、農園での種植えから始まります。」
の一文からはじまっています。

土を耕し、種を植え、育て、収穫する。
烏骨鶏の世話をして、卵を採る。
自家製の生ハムを仕込み、熟成させる。
近隣牧場のミルクから自家製チーズを作る。
手入れを続けていた葡萄を収穫し、ワインを醸造する。
嗚呼、素晴らしい。
なかなか真似の出来ることでは、ない。

文章の後段では、カンパニリズモCampanilismoに言及していて、
サスィーノでは、食のカンパリニズモを弘前で表現してまいりました、
と綴る。
いい意味での偏狭的な弘前に対する郷土愛が発露する。
きっとそんなレストランなのでしょう。

あら美味しい、と思わず呟く、
グラスのスプマンテをいただきつつ、
恭しくひとくちの前菜をお迎えします。

新玉葱のピューレに載せた青森サーモンの40℃の燻製。
小さいくせして滋味深きサーモンから一瞬の薫香が追い掛ける。 地蛤、雲丹、鶏出汁で炊いた筍の冷製は、
蛤の出汁がジュレに利いている。
春の山菜のひと品は、パイ生地の上にパルミジャーノクリーム。
たらの芽のフリット、自家菜園のむかご、食用花、 雪菜の菜花のマリネ、法蓮草のパウダーが彩る。

迎えたグラスは、自家栽培の葡萄による自家醸造の白、
「Hirosaki Malvasia 2019」。 すーっと喉に入りつつ、複雑な滋味がする。
いやー、素晴らしい!
日本でも美味しいワインが出来るんだと改めて思うところ。
イタリア原産の葡萄マルヴァジアを工夫しながら栽培し、
ワインの販売まで行っているのは、こちらだけではあるまいか。

青森県産鴨の胸肉の生ハムに、
ピスタチオ、ブラックペッパーを含ませた、
ボローニャソーセージ、モルタデッラ。 十和田の奥入瀬ガーリックポークの三品を
辛味のあるルッコラセルパチカが彩る。
周囲を飾るのは、渋柿のドライフルーツあんぽ柿だ。

真鯛のソテーでは、時に淡泊に過ぎる真鯛が、
ふっくらとした甘さ香ばしさでぐっと迫る。 2018年のHIROSAKI BIANCOは、
マルヴァジアにシャルドネをブレンド。
ソーヴィニヨン・ブランなぞも少々織り込んで、
爽やかに仕上げたヤツ。
爽やかだけど、爽やかなだけではない。
うん、これもいい(笑)。

前菜のラストは、ブリオッシュに載せたフォアグラムース。 蕗の薹のピューレのソースで軽やかにいただくってのが、
このお皿の趣向であります。

そして、パスタその1は、カルボナーラ。 パルミジャーノに黒胡椒、そこへ溶いた卵黄を回しかける。
さらには、黒トリュフをスライスして散らす。
自ら混ぜ合わせれば、
ちんちんに熱くしたお皿の熱で卵黄に少しづつ火が入ってゆく。
トリュフが薫る。
なはは、旨い旨い。

パスタその2は、鴨のリゾット。 鴨の腿肉のコンフィとで炊いており、
ワインレッドに染めているのは、そう、ビーツだ。

メインに合わせて届けてもらったのが、SASINO ROSSO 2016。 メルローとバルデッラの赤。
同様のデザインのエチケットで、自家栽培自家醸造であることが判る。
芯がしっかりしつつ柔らかだ。

そして、メインは、七戸で育てられているという「健育牛」。
火入ればっちりのサーロインのローストは勿論、
自家製ワインのソースでいただきます。 牛そのものが香り高く旨味がしっかりしているのは、
玉葱などでマリネして、低温湯煎で浸透させているかららしい。
うんうん、美味しいぞ。

デザートは、林檎のスープに浮かべたアーモンドのブランマンジェ。
杏仁のリキュール、アマレットでアーモンド風味を添えている。
月桂樹のジェラートを載せ、ミルクチップが突き刺さる。 黒い円盤のプレートには、
お手製のマカロンなぞのプティフール、ミニャルディーズ。
それを自家菜園のミントティーで摘んで、大団円であります。

弘前の横丁に知る人ぞ知るイタリアン、
OSTERIA ENOTECA「DA SASINO(ダ・サスィーノ)」がある。 店で提供する食材の一部を自ら栽培し、
さらには葡萄を育て、自らワインを醸造する。
素材を育む一方で、調理方法の工夫にも怠りがない。
相方にも、全部美味しかった!をいただきました(笑)。

OSTERIA ENOTECA DA SASINO(ダ・サスィーノ)
青森県弘前市本町56-8[Map]0172-33-8299
http://dasasino.com/

column/03841

そば処「庄司屋」山形本店で外一と更科の相盛り天板蕎麦旨し老舗の居心地や佳し

山形市を生まれて初めて訪れたのは、夏の或る日こと。
併結を解き、福島を出て奥羽本線に乗り入れたオレンジラインのミニ新幹線車輛は、スピードを落としてトコトコと在来線のレールの上を進む。
あの、米沢牛を思い出す米沢駅から高畠、赤湯、かみのやま温泉と経由して山形駅に到着する。
そこから新庄まで延伸したのは、1999年(H11年)12月と20年も前のことになるのですね。

十四代やくどき上手、楯野川、上喜元、辯天などなど。
山形県下には、著名な銘柄を持つ酒蔵数多く、
“吟醸王国山形”とも呼ばれている、らしい。

山形駅に降り立ったその夜、酒菜「一」でいただいたお酒は、
山形市内の秀鳳酒造場が醸す「秀鳳」純米大吟醸山田穂45。
山形市内には他に、新政酒造、寿虎屋酒造、そして男山酒造がある。

早めのおひるをと向かった店への途次。
道の突き当りに「男山」と認めた大きな文字が見えた。蔵見学も突然では失礼だろうと思い直して、外観からの様子を眺める。
こんなにご近所の蔵なのですものきっと、
これから訪ねる店にも「男山」のお酒があるのだろうと想像しつつ、
西へと足を進めます。

到着したのは、そば処「庄司屋」山形本店。店先の行燈には「板天」の文字。
大箱過ぎず、飾り気のない実直そうな佇まいが、いい。

囲炉裏を囲む入れ込みのテーブルに案内いただき、ひと心地。店の奥に向けて、座敷が続いているようです。

“山形そば屋の隠し酒”と銘打った、
「男山」の限定特別純米酒「五薫」をお品書きに見付けて早速。小皿に添えてくれた蕎麦味噌が嬉しいじゃぁありませんか(笑)。

葱背負ってやってきた「かも焼き」が美味い。
厚切りにして柔らかな鴨の肉から忌憚のない旨味が零れる。此方では、出汁巻きではなくて「厚焼き玉子」。
自然な甘さのふっくらした味わいもまた、
柔らかな吞み口のお猪口によく似合います。

ご註文は、相盛りの「板天」であります。
新潟だったなら”へぎ”と呼ぶべき長方形の木枠を山形では”板”と呼ぶ。
出汁の旨味が活き活きとしつつ、さらっとした辛汁に浸す、
風味よき外一(といち)の蕎麦、いと旨し。
かと思えば、更科の繊細さに併せ持つ力強さに思わず唸ります。

椎茸に大葉、茄子に隠元、そして海老。天麩羅の揚げっ振りも熟練の仕立て。
こうなると、蕎麦湯の塩梅の良さも自ずと納得のゆくと云うものです。

山形の老舗筆頭の蕎麦処「庄司屋」山形本店は、
居心地も蕎麦も佳し。Webサイトによると「庄司屋」の創業は、慶応年間のことという。
江戸時代末期から明治、大正、昭和、平成、そして令和。
つまりは、150年を超える歴史を刻んできたことになる。
そんな老舗蕎麦店が、
今も生き生きとそこにあることを喜ばしく思います。
近所のひと達が羨ましくてなりません(笑)。

「庄司屋」山形本店
山形市幸町14-28[Map]023-622-1380
https://www.shojiya.jp/

column/03825

白河手打中華そば「いずみや」で雲呑叉焼麺ツルツル縮れ太麺に澄んだコクスープ

北陸新幹線の車輛基地が水浸しになり、何編成もの新幹線車輛が水没している衝撃的な光景を齎したのは、台風19号による大雨によって生じた千曲川の氾濫でした。
比較的身近な入間川や小畔川が合流する荒川系の越辺川が氾濫し、茨城の久慈川水系でも氾濫があった。
日本の全国各地に被害を及ぼした台風19号は、福島県から宮城県へと流れる阿武隈川流域にも多数の氾濫個所を発生させたのでした。

「春木屋」までお願いします。
郡山駅前で乗り込んだタクシーの運転手さんにそう告げてから、
そう云えば時々臨時休業があるのだよねと調べると、
あれま、ビンゴ、お休みだ。
そこで、春木屋さんお休みなので、
何処か他におススメの中華そば店がありませんかと、
運転手のオヤジさんに訊いてみたのです。

「いずみや」という手打ち中華の店があるので其方へ向かいますね。
そう告げた運転手さんはハンドルを左に切る。
道中、阿武隈川の氾濫について様子を訊いてみると、
郡山駅の東側一帯が水浸しになり、
同業者の中には商売道具の車が水没してしまった方もいて、
難儀していると云う。 うーむ。

程なくして辿り着いたのは、七ツ池町の住宅地。
下見張りの板壁を回した平屋が「いずみや」。
白河手打中華そば、と謳う幟が飾られています。入口入って正面に数席のカウンター。
左手に畳敷きのスペースが広がっていて、
裏庭を眺める窓に向けて横並びに胡坐を掻く席に座り込みました。

まず註文したのは、欲張りなメニューの「ワンタンチャーシュー麺」。醤油の色も割りとしっかりしていつつ、
とても綺麗でクリアな見映えのスープ。
慌て気味に啜れば成る程、見た目の印象通りの雑味のない、
でも動物系の旨味やコクを十分に含んだ美味しいスープだ。
叉焼は、三種ほどの部位のものを載せてくれていて、
こちらも期待通りのしっとりジューシーでスープとの相性もよし。

手打ち麺も太さも縮れ具合も加減のいい太麺ツルツル。
やはり青竹踏みをしているのかな。皮を味わうタイプのワンタンからも小麦の風味が漂ってくる。
そう云えば、大井町の麺壱「吉兆」へも随分と、
ご無沙汰しちゃっているなと思い出したりなんかして(笑)。

裏を返すように訪れたおひる時には「ワンタン麺」。
未だ残念ながら「とら食堂」にお邪魔したことはないので、
比較のしようもないけれど、自分には十分充足の一杯だ。そこへ「チャーシュー丼」を加えれば、
大満足の大満腹で御座います(笑)。
タレで食べさせるチャーシューじゃないのがいい。

またまた郡山を訪れた機会に乗じて「味噌ワンタンチャーシュー麺」。赤味噌っぽい仕立ても悪くない。
コクが増して、炒め挽肉のトッピングも嬉しいところ。
ツルツル手打ち縮れ太麺は、味噌にも十分似合うけど、
どっちと訊かれたならやっぱり醤油仕立てだね。

郡山は七ツ池町の住宅地に白河手打中華そば「いずみや」はある。手打ちらーめん「いっぽん」という店の跡に出来たお店であるらしい。
手打ち麺を供する白河ラーメン店が、
福島県内に一体全体何軒あるのか判らないけれど、
これはやっぱり、まず「とら食堂」を訪ねなければいけないぞと、
郡山駅方面に戻るタクシーの車窓にそう思うのでありました(笑)。

「いずみや」
郡山市七ツ池17-22 [Map] 024-933-1239

column/03813

ラーメン本舗「末廣」秋田駅前分店で中華そばヤキメシ富山のそれとは違うブラック

何を隠そう、生まれてこの方秋田という土地を訪れたことがありませんでした。
仙台を過ぎてなお北進した新幹線のレールは、盛岡から分岐して日本海側に折れ入って走る。
粉雪の舞う山間をうねる様に進む車輌に揺られ、雫石、田沢湖、角館と辿る。
大曲でスイッチバックした新幹線は、秋田駅のホームへゆっくりと到着しました。

冬場の秋田ともなればと、
街の雪景色を思い浮かべていたものの、
雪の名残もない様子に、残念なような安堵するような(笑)。
でも、吹き抜ける風は流石に冷たいものでした。

そんな初秋田の駅近くで、
どこか見慣れた黄色い看板が目に留まる。今はなき仙台は国分町店や、
アーケードの一角に潜む仙台駅前分店にも行った。
東京にも出来たかと高田馬場分店にも足を運び、
煮干中華の誘惑の中、青森の分店にも酔った足を向けたこともある(笑)。

東北四県に跨るように店を置くラーメン本舗「末廣」は、
創業の昭和13年から続く、思えば老舗の中華そば店だ。壁には「秋田ブラック」なる書を収めた額がある。
確かに”富山ブラック”ばりにスープは黒いけれど、
攻撃的な塩辛さを伴った、ネガティブを含んだ”ブラック”と、
「末廣」のブラックが持つ持ち味とを並べて称するのは、
どうも合点がいかないぞと思いつつ、
食券を紅いカウンターの上に並べます。

カウンター越しに眺める厨房には、幾つかの大きな寸胴が並んでる。
なみなみとスープのネタたちを浮かべた寸胴の中へ、
棒状に干された昆布をどんどん差し込んでいく。しっかりとスープをひいている様子を垣間見たような心持に、
どんぶりが届くのがより待ち遠しくなるのでした。

使い込まれたひら皿に載せてどんぶりがやってくる。
そうそうこの景色この景色。
ブラックなばかりじゃないことをボクは知っている(笑)。

優しくてしっかり旨味を含んだスープを醤油のまろみがまあるく包む。加水の低いパツっとしたストレート麺がそんなスープに良く似合う。
起源となった京都「新福菜館」のどんぶりよりも、
もしかしたら美味しいのじゃないかと、
そう思うのはきっと、
自分の体調が頗る良かったからなのかもしれません。

「末廣」に来たら「ヤキメシ」も欠かせない。これもタレ色に”ブラック”だけれど、勿論塩辛くはなく、
さらっと甘味を含む味付けなのであります。
今度は「黄身のせ」にしなくっちゃだ。

ラーメン本舗「末廣」の黄色い看板は、秋田駅前でも誘ってる。次に秋田を訪れたならば、
宵の一献を供してくれた料理居酒屋「酒盃」を後にして、
ほろ酔いのまま同じ山王地区にある秋田本店に寄ってやろうかと、
いつになるか分からないその日を今から愉しみにしています。

「末廣」秋田駅前分店
秋田市中通4-15-1 [Map] 018-825-1118
http://www.fukumaru.info/suehiro/

column/03798

文化横丁「源氏」で横丁の奥の路地の縄暖簾お通し付きのグラス4杯がしみじみ佳い

全国的にみても大規模なことで知られる仙台駅西口のペデストリアンデッキ。
此処の上に立つと、その視界のずっと先にある国分町通り沿いの歓楽街の喧噪を思い出す。
復興景気に沸いていた通りでは、目の血走った客引きが酔客を搦め捕ろうと躍起になって右往左往していて、異様な雰囲気だったのであります。

今は落ち着きを取り戻しているように映る国分町。
そのひと筋手前のアーケード、サンモール一番町から、
脇道を覗けば拝める情景がある。そうそれは、文化横丁(ブンヨコ)の薄暗がりとゲートの灯り。
誘われるまま足を踏み入れるのが、正しい挙動でありますね(笑)。

左右の店々の表情を愛で乍ら、横丁をクランクして進み、
左手の様子に気をつけ乍ら歩みを進めると見付かるものがある。間口一間もない、これぞ路地という狭い通路の入口に燈る看板には、
文化横丁「源氏」とあります。

突き当って更に左に折れる狭い路地の奥に縄暖簾。
恐る恐る縄を払って半身に身体を入れ、
少々ガタつく気配の引き戸をずずっと開ける。

薄暗がりに眼が慣れるまでほんの一瞬。
お好きな場所へどうぞと女将さんが目配せしたような気がして、
その晩の気分に従って、コの字のカウンターの右へ行ったり、
正面の椅子に腰掛けたり、左の奥へ回り込んだり。使い込まれたカウンターの造作がいい。
それを眺めるだけで一杯呑めそうであります(笑)。

壁には「お通し付き」に始まるお品書き。一番最初はどふいふことなんかなと一瞬戸惑ったけれど、
日本酒三種と生ビールから選ぶ盃に、
それぞれ酒肴を添えてくれるという、
そんな流れに身を任せるのが、
「源氏」でのひと時の基本形なのであります。

梅雨の終わりにお邪魔した際には、
まず生麦酒を所望した。
業務用の樽には「モルツ」の文字。
「プレモル」ではなくて「モルツ」であるところが、
「源氏」のちょっとした拘りなのでありましょう。

「浦霞 特別純米 生一本」を冷やでとお願いすると、
一升瓶から手馴れた所作でグラスに注いでくれる。コの字に囲むカウンターには20人程が腰掛けられそう。
厨房にどなたかが控えているものの、相対するのは女将さんひとり。
そんな女将さんの一挙手一投足も酒肴のひとつに思えてくる。
そこへ例えば、ホヤの酒蒸しなんが添えられます。

酒肴の定番が冷奴。
木綿豆腐一丁がどんと何の衒いもなくやってくる。
それがいい。二杯目の盃は例えば、
「高清水 初しぼり」がいい、それでいい。

定番と云えば、小鉢に載せた刺身の盛り合わせも、
定番の酒肴のひとつ。鯛の湯引き、鰆、鰤、鮪、帆立、銀鱈、蛸、サーモン等々。
日により時季により、その内訳は勿論違ってくる。
棚で出番を待つ一升瓶たちを眺めながらグラスを傾けます。

勝手が次第に判ってくると、
半切した半紙に筆文字で示した、
壁の品書きたちが俄然気になってくる(笑)。
「自家製しめさば」もある日ない日が勿論あって、
三度目の正直であり付けた。艶っぽい〆鯖をいただきたつつ、
高清水のお燗をぐびっと呑る。

呑み比べる中で一番のお気に入りになったのが、
「浦霞 特別純米」の燗酒だ。寒くなってくれば、壁の品書きから例えば、
二杯酢に洗った「かき酢」を選ぶ。
場所柄、三陸の牡蠣なのでありましょう。
「のどぐろ一夜干」なんかもオツであります。

コの字カウンターの左手奥に席を得て、
振り向けばピンク電話が控えてる。カウンターの隅に据え付けられていた珍妙な機器は恐らく、
電話代をカウントするものではなかろうかと思うのだけど、
どうでしょう。

そして、定番の流れの最終コーナーでは、
おでんか味噌汁のどちらお好きな方が供される。なんとなく味噌汁で仕舞うというのが粋じゃないかと、
そう勝手に合点して(笑)、
味噌汁をいただくようにしております。

文化横丁と呼ばれる横丁のさらに路地の奥に居酒屋「源氏」はある。訊けば、1950年(昭和25年)の創業であるという。
なかなか得がたい枯れた雰囲気と女将さんの所作がいい。
そして、それぞれにお通し付きとしたグラス4杯がまた、
しみじみと佳い。
「仙台文化横丁」のWebサイトには、
横丁の店々が紹介されていて、気になる店が幾つもある。
でも結局また、此処「源氏」に来てしまうような、
そんな気がいたします(笑)。

「源氏」
仙台市青葉区一番町2-4-8 [Map] 022-222-8485

column/03765