「軽井沢から甲信越」カテゴリーアーカイブ

Restaurant「Domaine de Mikuni」で蝦夷鮑ヴルーテ夏鱈炙り焼き追分の別荘地にて

夏の軽井沢。
避暑が良く似合う、木々に囲まれたレストランはきっと、軽井沢に少なからずある。
長倉の別荘地の中にある「エルミタージュ・ドゥ・タムラ」へお邪魔した時は、折り悪く土砂降りの中だった。
記録的な連日の雨に見舞われた今年の東日本では、気持ちよく晴れた軽井沢はなかなかなかったのかもしれません。

ご多聞に漏れず、霧雨の舞う軽井沢のバイパスを往く。
オリジナル商品も愉しくて、
いつもお世話になっている「ツルヤ軽井沢店」を横目に通り過ぎ、
いつの間にかそう呼ばれていた日本ロマンチック街道へと合流。
追分宿の交叉点の先を斜めに逸れて、
グランドエクシブ軽井沢南側の別荘地で車を降りました。

小さな看板を頼りに覗き込むように(笑)。落ち着いた、避暑地の別邸然とした佇まいに誘われて。

何方かのお宅のようでいて、
両開きの硝子扉の中には立派なコンシェルジュの什器が据えてある。折り目正しき支配人殿が迎えてくれます。

底冷え厳しき軽井沢の邸宅には暖炉が必需品。広々とした芝生の庭に面したダイニングには、
5卓程の円や四角のテーブルが並んでいました。

口開きは「佐久鯉のジュレー仕立て、
オランデーズソース・辛子酢ミソ風味、焼尻産・天然青ノリ添え」。泥臭いイメージが仕勝ちな鯉には、まったくその気配なし。
それを複層的なソースが「おっ!」と思わせる前菜に仕立てている。
まったく知らかったのだけれど、”佐久鯉”というのは、
古くからの歴史があり、登録商標にもなっている模様。

続いて「北海道産エゾアワビのグリエと北海ダコ、帆立貝と夏野菜、
平爪カニのヴルーテ合え、シークワーサーの香り」。柑橘の香りを纏うエスプーマの泡を戴いた褐色のスープ。
蝦夷鮑を軸にした魚介のエキスが滑らかに味わえて、旨い。

出来れば日本産の食材でと選んだのが、
「北海道産・夏鱈の炙り焼き、信州産完熟トマト ビネガー風味ソース。タラの癖して、身肉はしっとりとして旨味が濃く感じる。
焼き目のついた皮目も美味しい。
魚偏に雪と書く鱈ゆえ、冬のものかと思うも、
白子や卵巣に栄養をとられることのない時季なので、
冬場よりもイケルというのが通り相場であるらしい。

メインの後には、
「筑西産マスクメロンのソルベ、信州産ルバーブのスープ」。鮮やかな紅のルバーブ一色かと思いきや、
その中に潜んだマスクメロンの甘さや香りも負けてない。

デセールのお皿は、
「信州産カシスのパルフェとブルーベリーのジュレ、
佐久産アカシアの香り」。板状にしたブルーベリーのジュレを載せたアイスクリームがいい。
一見鮪赤身の握りかと思ったけれど(笑)。

ダブルのエスプレッソをいただいて、
ゆるゆると時間を過ごす。庭先が少し明るくなってきたような気がします。

軽井沢は追分地区の別荘地に、
三國シェフの精神を受け継ぐレストラン「Domaine de Mikuni」がある。「ドメィヌ・ドゥ・ミクニ」はこの9月で10周年を迎えたそう。
今度はすっきりと晴れた蒼空の下、
テラスのテーブルでのランチをいただきとう御座います。

「Domaine de Mikuni」
北佐久郡軽井沢町大字追分字小田井道下46-13 [Map] 0267-46-3924
http://domaine-de-mikuni.com/

column/03735

純手打ちそば「奥村本店」で登美の丘ワイナリーの葡萄畑そこがゆえの日本ワインたち

okumura中央本線の特急に乗って何処かへ出掛けるなんてことは、うン十年なんとか生きてきてほとんど機会がなかったのだけれど、ここ数年で何度も特急列車に乗っている。
とっ始めは恐らく、初めて白州蒸溜所へお誘いいただいたことなのかもしれないなぁと思いつき、その時のことを思い出す。
昨年二度目の白州に訪れた時は、甲府まで特急に乗り、そこからレンタカーで小淵沢方面へ向かうルートをとった。
その際考えたプランのひとつが、甲斐市にある「登美の丘ワイナリー」に寄り道しての見学。
でもね、レンタカーで行ったら試飲できないじゃん!ということで(笑)、見送ることにしたりなんかしたのでありました。

そんな風に気掛かりだった「登美の丘ワイナー」に、
冬晴れの休日にやって来た。okumura01甲府駅からタクシーで30分弱くらいの、
まさに丘を背にした醸造所のゲートが迎えてくれました。

スイッチバックを含んだ坂道を案内いただいて、
丘の上の見晴台から晴々とした葡萄畑を心地よく眺める。okumura02okumura04春を待ち兼ねた様子の葡萄の木の列の先に、
甲府盆地の市街がみえる。
そのずっと向こうにはまだ真っ白な富士山のフォルムが望めます。

剪定されたメルロの樹からは、
丘の斜面から吸い上げた水分が、
雫となって滴ろうとしてる。okumura05陽当たりの良い、南向きの斜面の連なる高台の丘は、
標高が高いがゆえに冷涼で、それがワイン用の葡萄に好適地。
収穫時期の昼と夜の寒暖差が、葡萄の糖度熟度を高めてくれる。
一見すると作業性が悪そうな斜面や尾根を葡萄畑とするのは、
水捌けの良さを考慮してのことでもあるという。

石積みのセラーが格好いい。okumura06okumura07区画毎の葡萄を可能な限り別々に醸造を行うという。
ウイスキーのシングルバレルではないけれど、
同じ品種の葡萄であっても、条件等が少しづつでも異なることで、
それぞれに微妙に異なる表情を見せてくれるのでしょう。

何処かに続くトンネルにも思える薄暗がりの空間が、瓶熟庫。okumura08okumura09金網の閉じた棚がずらっと並んでいて、
栽培している品種それぞれの、それぞれの年次の、
早摘み遅摘みなどといった特長を湛えたボトルが、
整然と並べられています。
登美の丘が醸す貴腐ワインを大事そうに保管した棚も見付かります。

「登美の丘ワイナリー」は、
1890年(明治23年)に六代目川上善兵衛が開いた、
「岩之原葡萄園」がその起源。
後に「マスカット・ベーリーA」を生み出した善兵衛は、
“日本のワイン葡萄の父”と呼ばれているという。okumura30ただ、岩之原葡萄園のワインの販売は広がらず、
経営に窮した葡萄園の危機を救ったのが、
当時「赤玉ポートワイン」で甘味ワインのブームを作り出していた、
ご存知、サントリー創業者の鳥井信治郎氏であったという。
その後ふたりが、
ドイツのラインガウに似ていると評された「登美農園」と出会い、
今の「登美の丘ワイナリー」へと繋がっていく。
紆余曲折や停滞時期を含みつつも百数十年に亘って、
日本の気候風土にあった品種への改良・研究が、
積み重ねられてきているのですね。

瓶熟庫から引き返してご案内いただいたのは、
これまた葡萄畑や甲府市街、そして富士山を見晴らす、
その名も「眺富荘」。okumura10okumura12okumura11窓には葡萄の房や葉をモチーフにしたステンドグラス。
アプローチの階段には、もうひとつのシンボルツリーのような桜の木。
時季には最高の花見場所となることでしょう。

富士見ホールと名付けられた一室のテーブルには、
「登美の丘ワイナリー」が誇る、
主要銘柄のワインボトルが並べられました。okumura17白からロゼ、そして赤。
まさにワイナリーのバラエティを感じさせる光景です。

青柚子の一片を噛んだ時のような香りの、
「ジャパンプレミアム<甲州>」のグラス。okumura13-1グラス越しに富士山が望めるなんて、
なんて素敵なシチュエーションなのでしょうと、
小さくときめきます(笑)。
成る程、青魚や酢の物にさえ似合いそうな、
香りと酸味の<JP甲州>に対して、
遅摘みした葡萄を用いるという「登美の丘 <甲州>」は、
酸味が比較的柔らかで、
ゆったりとした中に仄かに渋みを感じる印象がします。

ずっとずっと昔、
勝沼あたりの某ワイナリーを訪れた時に試飲した白ワインは、
薄っぺらくて硬い酸味がするだけとしか思えなかったのだけれど、
きっと今は、山梨のワイナリー全体で、
味わいの底上げがされてきているかもと、
そんなことを思ったりもする。
此処「登美の丘」でも営まれている、
ワインに適したこの丘、この風土が醸す魅力を、
十二分に引き出そうとする努力とこだわりが、
“ここがゆえ”のワインを生み出しているのですね。

そして、兎にも角にもイチオシなのが、
花見の季節も連想させる穏やかにして艶やかな色合いのロゼ、
「マスカット・ベーリーA <ロゼ>」。okumura15-1仄かな甘みが華やかなベールとなって、
鼻腔や味蕾をそっと包む。
単独で呑むのも勿論のこと、
揚げ物や脂を含む和食系に添えても邪魔をしない気がする。
オールマイティに美味しいワインだと思います。

試飲させていただいのは他に、
柔らかな余韻がすーーっと続く「登美の丘 <シャルドネ>」に、
ロゼ同様、冷やしていただくのが美味しい「マスカット・ベーリーA」。
焼き鳥にイメージするような醤油を使った、
タレ味にも似合う「塩尻マスカット・ベーリーA」に、
程よい渋みを含む「登美の丘 <赤>」。
日本固有品種でありながら、
どこか欧州系品種のようにも響く「マスカット・ベーリー」には、
和名の愛称があってもいいのではなんてことも思います。

少し冷えてきたワイナリーを後にして、
やってきたのはやや遠く見下ろしていた甲府の市役所近く。okumura18問屋街入口という交叉点近くの蕎麦店「奥村 本店」。
なんと、江戸・寛文年間の頃に創業したという。
16代360年に及ぶ老舗の風格が今の佇まいにも滲み出ています。

使い込んだ木箱の積まれた麺打ち場。okumura19okumura20“登美の丘 ジャパンプレミアム”を刻印した樽が迎えてくれました。

テーブルにはふたたび、
「登美の丘 <シャルドネ>」をはじめとするボトルたち。okumura21それらが居並ぶ立ち姿は、
老舗蕎麦店が紡ぎ出す料理たちとの出会いを、
待ち侘びているようにも映ります。

繊細な白髪葱をいただいたオクラの和え物には、
「登美の丘 <甲州>」が良く似合う。okumura22自然と頭の中で日本酒との呑み比べをしてみたりするけれど(笑)、
これはこれでいい、ということに変わりはありません。

味噌ダレを添えた皮に包んだまま蒸し焼いた若筍に、
これまた春を思わせる蛍烏賊には酢味噌の風味。okumura23味噌の風味には例えば、
「登美の丘 <シャルドネ>」も嬉しい組み合わせ。
そしてそれは、魚介の滋味や貝類の風味ともすんなりと、
互いを盛り立てるようにしてくれます。

山葵の花をあしらった鯛や鮪、烏賊のたたきは、
卵の黄身に若布に刻んだ茗荷と一緒になって、
口に含めば色々な風味香気が小さく弾ける。okumura24「登美の丘 <甲州>」「登美の丘 <シャルドネ>」は勿論のこと、
オールマイティな「マスカット・ベーリーA <ロゼ>」の、
すっきりとほの甘い華やぎもまた、
面白い程の相性の良さを魅せてくれます。

「マスカット・ベーリーA <ロゼ>」の八方美人っぷり(笑)は、
こってりめに味噌ダレに包まれた牡蠣にだって如才なし。okumura25牡蠣には兎に角専ら白だとばっかり思い込んでいると、
ちょっと間違っちゃうこともあるのかもしれません。

鴨は鴨でもローストなどとは趣の異なるその仕立ては、
ふっくらとした治部煮の器。okumura26出汁に醤油を用いた和仕立ての鴨料理には、
登美の丘の葡萄と長野県は塩尻の葡萄とを合わせた、
「ジャパンプレミアム 塩尻マスカット・ベーリーA」もいい。
やや紫色がかった滴が成る程、
醤油ダレで焼いた焼き鳥にも似合いそうです。

料理の皿たちでも十分に思わせてくれた、
老舗蕎麦店としての地力を確信に仕上げてくれたのが、
漆の鉢に盛られたお蕎麦。okumura28程よく張りのある歯触りから滋味の滲む蕎麦が、
美味しくて小さく唸ってしまいました(笑)。

甲府の街の中心に、
江戸・寛文年間に創業の純手打ちそば「奥村 本店」がある。okumura29初代当主が”山奥の村から来た”からと、
「奥村」と名付けたという蕎麦店は、
16代360年に及ぶ老舗の風格堂々とした料理店として今に至る。

これからは、甲府の街を見下ろす「登美の丘」の葡萄畑と、
ワイナリーの様子を思い起こしながら、
“そこがゆえ”の日本ワインを愉しみたいなと、
帰路の特急に揺られながら思うのでありました。

そんなサントリーの日本ワインに詳しくは、
コチラ”日本ワイン サントリー”
手っ取り早く日本ワインを手に入れるには、
amazonのサントリー 日本ワイン特集 のサイトがいいみたい。

「奥村 本店」
甲府市中央4-8-16 [Map] 055-233-3340
http://www.okumura-honten.jp/

column/03666

味処「きく蔵」で大雪渓と特上馬刺しおやき的名物筍饅頭つらら麺松本の宵の口

kikuzo路上に雪が積もり残って凍り付いていても、こっちの人達は平気な顔で自転車を乗り走る。
一面に雪が凍り付いた札幌の舗道上でピンヒールのおねえちゃん達が闊歩していた光景よりは驚かないものの、ちょこちょこコケたりしないのかな、なんて思う松本市街の一日。
時刻が夕方に差し掛かってくるとやっぱり、地べたの底の方から冷気が上がってくるような気がする。
完全防備で訪れていたので、身体や足許は寒くないものの、風に晒した頬っぺたは流石に冷たい。
晴れていてよかったと、冬空の松本での仕事を終えました。

市街地を流れる田川という河沿いを往き、
蕎麦店はおひる時のみの営業の店が多いのだなぁと、
そんなことを思い乍ら例によって路地へ路地へと迷い込む。

ナワテ横丁と示す小さなアーチを掛けた、
妖しげで断然惹かれる路地にも、
灯りを点している店は余り多くない。
一度お邪魔したことのあるビストロ「橋倉」の店先の空気を確かめて、
路地の角にある居酒屋をちらっと覗き込んだりする。kikuzo01その先へと抜けて、大正ロマンの街なんて、
そんなフレーズを掲げた上土通り辺りを徘徊します。

枯れた風情がいい味わいの「本郷食堂」の店先を掠めて、
まだまだ雪の残る裏道を往くと、
右手に料理屋の灯りが見えてくる。kikuzo02「きく蔵」とひらがなに崩した名の看板の横には、
「菊蔵」と篆書体風の書体で藍の暖簾に白抜いてある。
店先の黒板には、本日のお勧め品が並んでいます。

開店早々、混み合う前のカウンター。kikuzo03おばんざいよろしく、
大皿の幾つかがカウンターの上に載せられています。

店先の黒板で認めていた「特上馬刺し」。kikuzo04滋味深そうな見栄えも、
届いたばかりはまだ凍っていて、
つまりはほぼルイベ状態。
暫く放っておいてから愉しみましょう。

御髪もびしっと決まった姐さんに、
「筍まんじゅう」とはと訊ねると、
当店の名物のひとつで、
刻んだ竹の子のあんを包んで揚げた、
自家製の饅頭だという。kikuzo05火傷しないようにしてくださいねと受け取った、
笊の真ん中に鎮座した「筍まんじゅう」。
そこには「きく蔵」と刻印が焼かれている。

どれどれと半切した饅頭の中には成る程、
湯気を上げる竹の子のあん。kikuzo06そぼろな肉や椎茸、
そして竹の子が濃い目の味付けで包まれている。
うんうん、酒のあてにもなるイケる口の饅頭、
いや、饅頭というより謂わば”揚げおやき”でありますね。

冷えた頬っぺたを温めようと、
信州安曇野の山の酒と謳う「大雪渓」の燗酒を舐めていたら、
お品書きの「白子天ぷら」が気になった。
kikuzo07信濃の国で呑る信濃の国のお酒に海のものもよく似合う。
期待通りの生き生きとした白子のクリーミーが、
揚げ立ての衣の中から弾け出ます。

ふと卓上の鉢の中に置かれたムック本の背表紙が目に留まる。kikuzo08その内のひとつは、太田和彦先生の一冊。
先達にはいつもお世話になっております(笑)。

カウンターの向こうで大将が、
いそいそと拵えているものがある。
チーズ状のものを臙脂色のあんで巻いているのだ。kikuzo09それって何です、いただけます?と訊くと、
何か特別な膳に添えるもののようだったけれど、
お裾分けをいただけました。
マスカルポーネと松の実を杏子飴のような生地で巻いて、
それを切り分けると妙にそそる断面。
こふいふのもオツ、というのでしょうね。

お代わりしちゃったお銚子のお相手に、
もう一品とお願いしたのが「新じゃが照煮」。kikuzo10コロコロっと丸くて小さめの新ジャガが、
皮付きのまま、味醂控えめの割とキリっとした煮汁に絡んで。
ホクホクがホイホイと食べれてしまいます(笑)。

新宿へ向かうかいじ号に乗る前に、
〆てしまおうと品書きのお食事欄を眺めると、
「つらら麺」なんて聞き覚えのないフレーズが目に留まる。kikuzo11訊けば、松本から北上した大町温泉郷で、
つららの出来るような寒いところで作っている、
塩を使わず納豆菌で打った麺なのだという。
成る程、このツルルンとした滑らかさはもしかして、
納豆菌の仕業なのかしれません

市街から松本城側に田川を渡る、上土通りとかつて呼ばれた裏道に、
割烹にして季節料理の味処「きく蔵」がある。kikuzo12店内に掲示された「フグ営業届出済証」には、
ご主人のお名前が示されていて、
そこには”菊”の文字がある。
今度もしも機会があるなら、
奥の個室で「ぼたん鍋」なんぞをいただきとう御座います。

「きく蔵」
松本市大手4-7-10 [Map] 0263-36-3728
http://www.matsumoto-kikuzou.com/

column/03663

カレーの店「デリー」で蔵のある町の黒塗りの蔵にあの有名店の看板を見付けたら

delhi松本といえば、新宿からあずさ号に乗って行く所な気がしてる。
昨夏にサントリー白州蒸溜所へと小淵沢を訪ねた時と同じく、JR新宿駅の中央本線特急のホーム、10番線あたりからスーパーあずさ号に乗り込めば、ちょうど2時間半ほどの旅程になる。
都内に降雪の心配もあった冬の或る日。
席を得たのは中央本線特急の一番電車、スーパーあずさ1号。
偶数号車の「あずさ2号」は残念ながら新宿発の下りではなく、松本始発の通勤特急になっているらしく、新宿発8時ちょうどの特急は、スーパーあずさ5号である。
そんなことをポチポチ調べながら、列車は一路、松本へと向かうのでありました。

小淵沢あたりは雪景色なのかと思っていたら、
予想は外れて塩尻あたりでやっとこ風景に白が占めてくる。
降り立った松本駅は、吹く風はキリリと冷たいものの、
豪雪の地とはまた違う。
どうやら余り雪が多い土地柄ではないみたい。

ちょうどひる時となったあたりで、
いつぞやお邪魔した「源智のそば」のある、
髙砂通りをふたたび歩いてみる。delhi01まったく雪のないシーズンもあると聞く松本だけど、
この日は道の両脇にしっかりと雪が残ってる。
尻餅搗かないように気をつけながら、
辺りを束の間の散策と洒落込みます。

髙砂通りからぐるりとして、
中町通りという通りに回り込む。
中町通りを歩けば成る程、
“蔵のある町”のキャッチフレーズが頷ける街並みだ。

有名そば店の筆頭に挙げられる、
「野麦」の表情でも拝もうと歩みを進めると、
ちょうど「野麦」のある筋との角で蔵造りの建物が目に留まる。delhi02何気なく近づいて小さな突出看板をみるとなんと!
カレーの店「デリー」と書いてある。
あの”デリー”が松本にあるなんて噂でも訊いたことがありません。

「野麦」で手打ちの蕎麦を啜る筈が、
気がついたら蔵の中のカレー専門店にいた(笑)。
どこぞの喫茶店のようにすっきりとした店内です。delhi03カレーメニューは〆て7種類。
マイルド、中辛、辛口と例によって唐辛子マークが附されています。

お願いしたのは中辛の人気メニュー「インドチキンカレー」。delhi04カレーを湛えた器にはチキンな具がその身を潜めていて、
なんとなくジャバジャバな右の本格派のインドカレーの気配も漂う。

どうなんでしょうと考えつつ、
小さめのお皿から零れないように一気にライスの上へと注ぎかける。delhi05ジャバジャバかと思ったカレーには小麦粉の表情もしっかりあって、
「デリー」に連想するエッジの利いた味わいではない。
簡単に云うと、とっても普通に穏やかなカレーなのでありました。
まぁ、辛いから刺激的だから、本格的だとか美味しいだとか、
そんな風には思わないのだけどね。

松本の蔵のある町、中町通りの角地に建つ、
黒塗りの蔵にカレーの店「デリー」がある。delhi06明治時代の蔵を利用したカレー専門店は、
1970年(昭和45年)の創業であるらしい。
一応、念のため、訊いてみた。
湯島のデリーとは関係ないのですよね(笑)?

「デリー」
松本市中央2丁目4-13 [Map] 0263-35-2408

column/03657

蕎麦処「源智のそば」で擂鉢の荏胡麻が引き立てる笊蕎麦の美味しさ名水の傍らで

genchiこの日の松本は、すっきりと晴れ渡っているものの、爆弾並みの低気圧の影響で強い風が吹いていました。
建物の屋上に上がると、周囲を囲む山並みの木々の色付きがくっきりと眼に映り和ませます。
丁度ひる時となり、然らば蕎麦でも所望いたそうと有名処らしきお店の一軒へと市民芸術館の向こうにある「浅田」に足を運ぶも、仕込みの都合とやらで臨時休業。
もっとも、もしも並んでいたりしたら避けようと次の候補も頭にあったので、そのまま気のないで素振りで通り過ぎます(笑)。

駅前に至るバス通りを渡りとある裏道へ入り込む。
落ち着いた街並みの所々に気になるお店が在り、
何気ない散策が愉しくなってきます。

高砂町通りと呼ぶ裏道の界隈を歩いては、
立派な枝振りの松の木をシンボルツリーにした、
料亭の如き造作の「まつか」という鰻店の佇まいに見惚れたり、
今はもう営っていないらしき、
軽食堂「ブンブク」の旧きルックスを愛でてみたり。

そのまま東進すると小さな水路が現れて、
其処の街路樹に木札が揺れているのが目に留まる。genchi01吹流しが受ける風で、時に激しくはためく木板には、
“そば“とだけ書かれています。

その先に緑青色の大屋根。
手前にも井戸屋形風の屋根がある。genchi02お店の前を素通りして近づくとそこには、
まつもと城下町湧水群と示す立て札。

軒下の扁額には、
史跡、源智の井戸とあります。
説明書きを読むとこの井戸は、
松本に城下町が形成される以前から飲料に用いられてた名水で、
そもそもの持ち主は小笠原氏の家臣、河辺縫殿助源智で、
その名をとって源智の井戸と呼ばれるようになったのだそう。genchi03お蕎麦をいただく前に、ちょっと口や手をこちらで濯ぎましょう。

井戸を背に振り返って、
通り過ぎたそばの店の佇まいを眺める。genchi05壁を伝う蔦が緑の頃はまた表情が違うのかもしれません。

「源智の井戸」の並びの蕎麦店は、
その名もそのまま「源智のそば」。
店先の品札を眺めつつ、暖簾を払いましょう。

格子を挟んで通りに向かうカウンター席に腰掛けて、
一枚の品書きを凝視する。genchi06黒板もどうぞとの声に促されて、奥の壁を振り返ります。

註文を済ませて、白菜のお新香に箸を伸ばす。genchi07こふいふちょっとしたものが嬉しいのでありますね。

到着したのは、大盛りのざる蕎麦に、
舞茸の天麩羅。genchi08genchi09ただのざる蕎麦とちょっと違うのは、
小さな摺鉢が添えてあること。
そこには既に、えごまが摺った状態で用意されているのです。

つけ汁をお猪口に注ぎ、
まずはそのまま少な目の蕎麦を手繰る。
うんうん、妙な甘さもベタつきもなく、
かといって醤油の角もなく、
すっきりとした旨味の汁がいい。

そこへ半量ほどの摺り荏胡麻を汁に投入。
どれどれとふたたび蕎麦の先を浸します。genchi10つっ、ず、つ。
成る程、仄かな荏胡麻の風味が、
蕎麦の風味を後押ししてくれるような、
そんな気がする。

決して打ち消しあうことなく、
相乗効果を齎らしているような。
そして、食べ進むにつれて、
脳裏が蕎麦と荏胡麻の風味でどんどん満たされてくる。genchi11ああ、こんな体験初めてだ!

そんな素敵な蕎麦の所々で加減のいい合いの手を入れてくれたのが、
冬の味覚、舞茸の天麩羅。genchi12ひとつだけ添えてくれていたカリフラワーの天麩羅も、
面白美味しいヤツ。

そしてそして、美味しい蕎麦は勿論蕎麦湯も旨い。genchi13どこまでもすっきりした旨味は、
名水で打ち湯掻いた蕎麦の醍醐味のひとつなのかもしれません。

松本の城下、高砂町通り。
名水との呼び声高き「源智の井戸」の傍らに「源智のそば」はある。genchi14蕎麦の美味しさってこふいふことだったんだって、
やっと気付いたような。
そんな秘かな歓びを味わわせてくれました。

「源智のそば」
長野県松本市中央3-7-8 [Map] 0263-33-6340

column/03634