「ぐるっと関東伊豆鎌倉」カテゴリーアーカイブ

海辺ダイニング「Funny Dining HAYAMA」でテラスにて車海老タルタル葉山牛

京浜急行電鉄の逗子線は、金沢八景から分岐しての4駅で構成する、謂わば盲腸線。
現在の終着駅は、逗子・葉山駅。
京急が2020年03月に実施した駅名変更の6つの駅のひとつで、新逗子駅から逗子・葉山駅となった。
逗子市内に所在しつつも、葉山町への玄関口でもあり、”葉山ブランド”にのっかろうとした京急の戦略を含め、その是非の声が逗子市民と葉山町民とを分断しているかのように聞こえてきて、ちょっと面白い(笑)。

一度合併した東急から分離して京浜急行電鉄として発足した頃には、
もう少し海寄りにあった逗子海岸駅を終着駅としていた時期もあるそう。
wikiによると、
湘南逗子駅→湘南逗子葉山口乗降場&湘南逗子沼間口乗降場
→湘南逗子駅→逗子海岸駅&湘南逗子駅→逗子海岸駅&京浜逗子駅
→新逗子駅→逗子・葉山駅(現行)
といった変遷を経ている模様。

そんな鉄道ネタはさて置いて(笑)、
久々の新車の足慣らしにと葉山までドライブ。
あ、ドライブってのも今の若者にはもう死語なのかな。

R134沿いの駐車場に車を停めて、
行列のあるカレー「南葉亭」の脇道を海へと下る。
右手に建つのは小洒落てリッチな別荘か保養所か。
その向かい、左手の平屋建ての建物が目的地。
「FUNNY」と示す黒板が迎えてくれます。

元々は調理場に接する勝手口であったであろう入口から、
鉄板焼き台に向かうカウンター席の後ろを擦り抜けると、
海を見晴らすテラスに出る。
前面の海は、秋谷海岸。
左手には、久留和の漁港が見渡せる。
そこが4テーブルだけの海辺のダイニングになっているのです。ノンアルコールのワインってどうよと思いつついただけば、
これがなかなかどうして、悪くない。
それはそのワインが優れモノなのか、
はたまたシチュエーションのなせるコトなのか(笑)。

ランチコースのスタートは、葉山牛の炙り。
おろし山葵が良く似合う葉山牛のローストビーフが、しっとり旨い。
そして、オトナにはこのくらいの量がちょうど良い(笑)。

季節のスープは、黄人参と雲丹のポタージュ。クリーミーにした人参の味わいの後に雲丹の風味がふわっときて、いい。
塩パンは、さっきその脇を通り抜けた鉄板焼き台で、
丁寧にトーストしてくれています。

鮮魚のカルパッチョ~佐島漁港よりの、本日のお魚は、勘八。ほんの少しコクを足すようにしたマリネが刺身を表情豊かにする。
イクラのアクセントが実にいい。

魚介のお皿は、車海老のタルタルグラタン風。そう云えば、背中越しにジュッと鉄板で火を入れる音がしていた。
伊勢海老のような大味なところがなく、程よく旨味が凝縮していい。
全部イケちゃいます!のおススメ通り、
頭から尻尾まで綺麗に平らげたのでありました。

お口直しには、ベリーとヨーグルト風味。ベリーの風味に柔らかな酸味がいい。

お肉のメインは、特選葉山牛の鉄板焼ステーキ。この日は稀少な雌が入手出来たという。
冒頭の炙りで覚えた好感を遥かに上回って、あら!旨い。
塩胡椒ちょんでもおろし山葵でも、どちらでもいい。
そしてふた切れのボリュームもやっぱりちょうど良いのであります(笑)。

心地よく海を眺めながら、黒トリュフリゾットのお皿を迎える。仕上げは、白胡麻のブランマンジェ。

食事を終えて、建物の脇にある階段から波打ち際に降りる。
今まで佇んでいたテラスを見上げると、
護岸と建物が一体となっているのが判る。「HAYAMA Funny house」のWebページによると、
そもそもの建物は、
日本の近代建築において数々の名作を手がけたという、
建築家 吉村順三氏が設計。
1965年にふたつの家族のために建てられた家屋は、
その後、幾人かの著名人たちに引き継がれてきた。
「湘南秋谷の家」として知られるようになったそんな建物を、
2015年に会員制ブランドFunny hoursが受け継いでリノベーション。
家族や客人と眼前の海を見遣りながら優雅に過ごしていたであろう、
往時のダイニングを成る程、彷彿とさせます。

葉山は秋谷海岸に面して隠れ家のようにして建つは、
海辺のダイニング「Funny Dining HAYAMA」。勝手知ったる知人の別荘の勝手口から潜り込む感じも悪くない(笑)。
西日の当たり具合は気になるものの、
黄昏近くのテラスもきっと素敵なのでありましょう。
West side Villa、South side Villaとある、
ふたつの”家”に泊まることも勿論、出来るようです。

「Funny Dining HAYAMA」
横須賀市秋谷5296[Map]046-874-9992
https://hayama.funnyfunny.jp/dining/

column/03818

活魚料理「観音食堂」で東丼鰺フライ方々刺に鰯つみれ牡蠣バター此処がかんのん

JR東日本の東海道線、横須賀線に根岸線・京浜東北線、横浜線さらには湘南新宿ラインと多くの路線が乗り入れていて、湘南モノレールの起点ともなっている大船駅。
ぼんやりと横浜市内であるような鎌倉市内であるような気がしていたけれど、どうやら横浜市と鎌倉市の境界にある模様。
2006年に共用を開始したという北側の笠間口を出ると横浜市栄区で、西口や東口を出るとそこは鎌倉市だ。

西口を出ると目に飛び込んでくるのが、大きな観音様の横顔。
大船観音は、曹洞宗の寺、大船観音寺に築造されたもので、
大船のシンボルのひとつになっているという。
駅前を柏尾川が流れ、静かな印象の西口に対して、
比較的賑やかな商店街となっているのが東口側だ。

東口の交番の脇を抜けてすぐの角地のお店の暖簾が気に掛かる。
木造モルタルの二階家の額には、
昭和の懐かしさを漂わすコークとスプライトの広告看板に挟んで、
活魚料理「かんのん」とあります。紫色の暖簾の先、建物左手を眺めると、
ああ、鮮魚店があるではないですか。
活魚料理「観音食堂(かんのん)」は、
鮮魚店が併設する居酒屋のようです。

門前仲町の「富水」を思い出しつつ、
壁沿いの小さな小上がりに上が込み、
おひるの品書きを物色します。「東丼」に「あら汁」を添えて。
ホールの姐さんにそう註文の声をかけました。

成る程、赤身の漬けの鉄火丼という表情ではなくて、
中落ちを含めて鮪の身の端材を大切に上手に寄せて軽く叩いた感じ。
そんな鮪を惜しげもなく満載してくれていて、いい。あら汁もまた具沢山で、
あらがいい出汁のためにあるに留まらない、
素直に嬉しい一杯だ。

別のおひる時には鰺フライ。まだちょっと小振りの鰺の身は、ふっくらとして軽やか。
こんな素朴な鰺フライの定食をふと、
豊かで贅沢なものだと思うのは、変でしょか(笑)。

用事の済んだ黄昏近く、
とうとう「かんのん」で一杯呑る機会に恵まれたのはまだ春浅い頃。ホワイトボードにぎっしりと書き込まれたおすすめ品書きを眺めながら、
まずは瓶の麦酒から始めましょう。

いただいたお造りは「方々」。
淡い桜色の身は如何にも淡泊そうで、
どこか愛想のないようなフリをしつつ、
じわじわっと脂の甘味や淡い旨味を滲ませてきて美味しい。汁物も欲しいなとお願いしたのは「鰯のつみれ汁」。
挽き立てを思わせるつみれはふわっと滋味旨い。

燗のお酒も良いけれど、此処ではコップ酒もよく似合う。ご同輩たちの丸まった背中も、
何処か少し愛おしく眺められてしまいます(笑)。

こんなメニューを品書きに見付けたら思わず註文してしまう。
それは「かきねぎバター焼き」。バターの風味で包むようにほど良く焼いた牡蠣が、ただただ旨い。

鮮魚店営むであろう活魚料理「観音食堂」は、大船駅東口すぐにある。常連さんたちはもとより周辺のみんなもきっと、
「観音食堂」とは呼ばずに「かんのん」と、
短い愛称で呼んでいるに違いない。
そう、大船で「かんのん」と云えば今や、
此処の暖簾のことなのです(笑)。

「観音食堂」
鎌倉市大船1-9-8 [Map] 0467-45-1848

column/03817

BAR「THE BANK」でヨロッコビールにkilchoman銀行出張所が今も佇む六地蔵

うろうろ徘徊したお陰か、断片的乍らもなんとなくはその様子が脳裏に浮かぶようになってきた鎌倉・小町通り界隈。
やっぱり路地が好き!な性分が、狭い道や暗い横丁に足を向けさせるためか、野菜料理とワインの店「binot」のクローズ移転を寂しく思ったりする。
そんなにこまめに通えるわけでもないのにね、ホント(笑)。

鶴岡八幡宮の裏手東方、岐れ道と名付けられたY字路の先にも、
色々と気になるお店があるのだなぁと思う一方で、
偶に江ノ電に乗る旅情にも、慣れてなお魅かれるものがあります。

観光客には割りと縁遠いぃと思うは、
鎌倉駅からひと駅目の和田塚駅。
線路に交差する細い通りを南に見下ろせば海の気配。
そちらとは逆に海を背にして踏切を渡り、
六地蔵交叉点方向へとゆっくりと歩きます。

変則六叉路とも思う交叉点に接した細長く尖った三角地。
その敷地の特性を活かすかのように小さくも悠然と佇む建築物。
レトロな色彩も多分なその景色の良さに思わず足を止める、
そんなひともきっと少なくないでしょう。

隅切り部は美しくRを描く。
その壁面には右から左へ”由比ガ浜出張所”と緑青色の文字。その下に据え付けられた硝子の庇には、
「THE BANK」と緑青と同色の文字が載せられている。
味わい深いこの建物は、1927年(昭和2年)に、
鎌倉銀行・由比ガ浜出張所として建てられたものだという。
こんな姿の出張所を建てる銀行ってなんだか実にいい(笑)。

そんな鎌倉銀行・由比ガ浜出張所は、
再編を繰り返す金融機関の定石により、
横浜興信銀行(今の横浜銀行)の出張所となり、
1945年(昭和20年)に閉店した模様。
その建物が、名のあるアートディレクター氏の手によって、
バーへとリニューアルされ、
銀行店舗転じて「THE BANK」という名のBARとなったのです。

これまた緑青色基調の扉を開けば、
正面に石張りで化粧したカウンターの腰壁と、
足置きの所謂バーが目に留まる。銀行の店舗に足置きのバーがあったとは考え難いけど、
もしかしたらカウンターそのものは銀行時代からのものだったりして、
なんて想像を巡らすのがなかなか愉しい。

テラコッタ風の壁や天井の仕上げ、
照明器具などはリニューアルによるものであろうけれど、
それはそれで心地よい雰囲気に仕立ててくれている。入口扉の右の壁に埋め込まれていた”BB”は、
コースターの図案にもアイコンとして収められています。

まだ明るい外の光を硝子越しに受けつついただいたのは、
クラフトビールの「Peninsula Saison」。屈託のない華やかな甘みと香りに思わず刮目してニヤリ(笑)。
「Peninsula Saison」は鎌倉市岩瀬に所在する、
「ヨロッコビール」のレギュラー銘柄のひとつだという。
三浦半島で育った小麦を原料の一部に使用していることから、
Peninsula=半島の名を冠しているとある。
「富山産ほたるいかのスモーク」が意外とよく似合います。

いつぞやこちらでも一度いただいたことのある、
「知多のハイボール」をふたたび。いつもの「角」もあの「白州」のハイボールも勿論美味いけれど、
グレーンウイスキーの「知多」も負けずに美味いのはご承知の通り。

想定外に高根の花になりつつある日本のウイスキー。
そこが最近の悩みの種なんだよなぁなんてひとりごちる。アンチョビとトマトとケッパーの本日のピザをお供に。
冷凍の生地とアンチョビをウチにも常備しなくっちゃと思った次第(笑)。

改めてまだ明るいバックバーに目を凝らす。
右上の棚の左寄り。
見慣れないラベルが色違いで並んだボトルたちに目が留まる。「kilchomanキルホーマン」のsanaigサナイグというヤツ。
キルホーマン蒸溜所の創立はなんと、2005年。
124年ぶりにアイラ島に新しく誕生した蒸溜所だという。
新しくアイラ島に蒸溜所が出来ていたなんて知らなんだ(笑)。
アイラらしいピート香は背景にあって、
メローな妖艶な味わいが主旋律。
こんな美味いアイラを今まで知らなかったなんて、嗚呼。

そんなアイラを舐めながら壁の額に目を遣れば、
恐らく建設直後の往時のものであろうモノクローム。そして陽が傾き、窓から入っていた明るさが減衰して、
カウンターが次第にアンバーな色合いを濃くしてゆきます。

鎌倉から江ノ電でひと駅目。
和田塚駅から辿る六地蔵交叉点にBAR「THE BANK」は佇む。アートディレクターにして店主の渡邊かをるさんという方が、
2000年にレトロな銀行店舗をBARへとリニューアル。
ただ、渡邊さんが2015年に亡くなったことで、
一時クローズしてしまっていたという。
その後、再興する後継者が現れたということがまず素晴らしい。
往時の空気感もきっと素敵に紡がれているのだろうとそう思います。

「THE BANK」
鎌倉市由比ガ浜3-1-1 [Map] 0467-40-5090

column/03803


野菜料理とワインの店「binot」で自然派ワインと定番のお皿たちまた遠からず

鎌倉駅は東口の小町通り。
週末ともなれば、ここは竹下通りか!というくらいに混み合う印象がある。
イワタコーヒー店の佇まいを横目で見乍らゆっくりと歩けば、左手頭上にいつぞやの「なると屋+典座」の横顔が窺える。
その先を踏切の方へと左折するとCafé「vivement dimanche」のある辺りだなぁと思ったりする。
小町通りと交差して、若宮大路の段葛へと抜けていく横筋にも沢山の観光客の姿がみられます。

そんな小町通り界隈も、夜の帳が下りて暫くすると、
急速に行き交うひとも疎らに静まってくる。
鎌倉駅からの鳥居を潜って一本目の路地ともなれば、
ひっそりとした暗がりの細道となる。細道が二の鳥居前へと抜けるその手前に「binot」はあります。

滑らかにL字を描くカウンターの左隅辺りに居場所を得て、
「アンヌマリー」というカヴァで口開き。突出看板に描かれているものと同じタッチの図柄が、
サーブされたお皿にも描かれている。
ちょっとしたセンスが何気なく好感を抱かせます。

定番中の定番のひとつと思しき「白インゲン豆とピスタチオのパテ」。
白隠元の柔らかい風味の中にピスタチオが緑の縁を覗かせて、いい。いぶりがっこは、青かびチーズにもとても良く似合うのです。

毎日6種から7種のボトルが用意されている模様。
その中から札幌は藤野ワイナリーの「KOHARU」。
成る程、色味のイメージを裏切らない、
クランベリーやピンクグレープフルーツの風味のするロゼだ。ふと右手の壁に掲げられた小さなキャンバスに、
“満月ワインバー”とあるのが目に留まる。
それは、満月の日に開催する自然派ワインのイベントであるらしい。

別の宵には「ローラン・ルブレ」という地品種ムニュ・ピノの発泡。
熟成感がなんだか嬉しい(笑)。「ニコルの牡蠣」のニコルってなんです?と訊けば、
仙台ののんびり酒場「ニコル」提供の東松島産の牡蠣オイル漬け。
旨味が穏やかに凝集していて、うん、美味しい。
仙台で機会があったら「ニコル」にも寄ってみよう。

ちょうど正面に見据える壁に黒板がふたつあって、
それを右へ左へ視線を迷わせるのもまた愉し(笑)。右手黒板筆頭の「14ヶ月熟成生ハム」もきっと定番中の定番。
ホロホロとしたそれでいてしっとりして優しい塩気が旨味を包む。
「パーラー江古田」のパンを齧りつついただくのもまたオツなものです。

時には日本のワインをと甲州の醸しワイン「金茶色」。
成る程、中国茶のような風味がして面白い。黒板に楕円の囲みを見つけたそれは「イタリア風おでん」。
豚スネに鶏モモにソーセージ、大根にカブ、じゃが芋から選べる。
とろんとしつつも煮崩れないカブがいい。
ストックでじっくり煮込んで沁み沁みにしたって感じでしょうか(笑)。

鎌倉は、小町通りを入って一本目の横筋を右に折れ。
二の鳥居前へと抜ける細道に「binot」はあった。「binot(ビーノ)」とはフランス語で、犂(すき)を意味する。
掘り起こしたり、耕したりする道具を店の名に冠したことになるね。
あったと過去形なのは、
この1月下旬をもってこの場所での営業を終えてしまったから。
元々定期借家での契約だったそうで、契約の更新されなかった模様。
移転を模索しつつの店主阿部さんは、
この2月から週末の鎌倉彫会館一階にて、
binot第二幕をスタートさせたようです。
その様子も覗きたい、また遠からず。

「binot ビーノ」
鎌倉市小町1-5-14 [Map] 0467-50-0449
https://www.facebook.com/Binot.kamakura

column/03799

鮨「伊とう」で相模湾地物魚介の肴鮨伊藤家のつぼは今真鶴の粋な佇まいの中に在る

伊豆というと真っ先に思い出すのがずっとずっと若い頃のこと(笑)。
多分大学に入って最初の夏だったと思うのだけど、多々戸浜か碁石浜辺りの、浜からちょっと離れた山間に建つ別荘を仲間でお金を出し合ってひと晩かふた晩借りた。
夏の陽射しガンガンであっという間に真っ黒になり、日焼けした背中にひーひー。
砂浜に腰掛けてずっと眺めていた夏の海の光景がずっと印象に残っています。
海っていいもんだなぁってね。

それ以来、
道路の渋滞に嵌りつつもちょこちょこ下田白浜方面へ出掛けたり、
会社の先輩たちのクルーザーで西伊豆や南伊豆へ向かったり。
すっかり南の島系リゾートダイバーになっちゃたので、
伊豆のポイントを沢山知っている訳ではないものの、
海の中もやっぱりいい。
そうそう、シュノーケリングも愉しいヒリゾ浜も素敵な場所でした。

話は替わって昨年の晩夏のこと。
「伊豆半島太鼓フェスティバル」というイベントが、
南伊豆の松崎町で催されました。

松崎海岸の防波堤の向こうに夕陽が沈みゆく。
松明が炊かれ、そんな海辺の夕景をバックに太鼓が響く。ロケーションも手伝って、街中の祭り太鼓とはひと味違う臨場感。
地元以外の太鼓団体も招聘し、
例年4組のそれそれに特徴のあるグループが競演する。
既にもう20回近くの開催を数える、
晩夏恒例のイベントとなっているようです。

なかなか素敵なひと時だったし、
遅い夏の伊豆の浜辺で寛ぐのも悪くないぞと、
今年も伊豆行き、松崎町詣でを計画。
ところがなにやら秋雨前線の活動活発により雨予報。
フェスティバルの実行委員会が下した開催の決定にほっとして、
ふたたび松崎海岸の特設ステージ前に陣取りました。
ところがところが、太鼓の演奏中に暗雲垂れ込め雷鳴轟き雷光閃く。
あっという間に物凄い土砂降りとなって、
急遽イベント中止と相成りました。
ずっと多量の雨が打ち続ける中を合羽を頼りにとぼとぼ歩く。
この夏を象徴するような極端な天候を身をもって味わったのでした。

土砂降り雨の翌朝は、
予報が外れて台風一過のような清々しい空。堂ヶ島の並びにある田子瀬浜海水浴場に寄り道してひと泳ぎ。

さっと着替えて長駆、伊豆の尾根を跨いで向かったのは、
湯河原のお隣、真鶴半島のど真ん中。細い半島ゆえの狭隘な道から急坂の先を見上げると、
よく見知った扁額が目に留まる。
八丁堀・入船の市場通り沿いにあった「伊藤家のつぼ」は、
2017年の夏で移転のため店仕舞いしていたのです。

移転先はどんな様子なのだろうと、
駐車場から更に坂道の上を見遣ればなんと、
格式ある旅館のような佇まい。玄関の土間に履物を脱いで板敷きの廊下に上がり、
すぐ脇の引き戸の先へと案内いただく。
忽ち目に飛び込んでくるのは、窓枠を額縁とした紺碧の海と空だ!

そして、柔らかく迎えてくれるのはいつぞやのご尊顔と、
デデンと横たわる一枚板のカウンター。地元の路地物柑橘で作った「真鶴果実のザクザクサワー」が、
すっきりと美味しい(らしい)。
運転手は呑めないねと悔しがる(笑)。

カウンターも然る事乍ら建具や調度もとてもいい。思わずきょろきょろした先には、
スポットライトを浴びた素麺南瓜や台湾茄子、冬瓜なぞの飾りが映る。

口開きは坊ちゃん南瓜の天麩羅に落花生。清澄白河の「リカシツ」で仕入れたという硝子の器に盛り込んだのは、
地のメジナに築地から届いたつぶ貝。
そして、藁で炙った地物の鰹。
辛味を添えたおろし玉葱と実によく合います。

立派な陶板への盛り込みがやってきた。穴子の手毬鮨はもとより地物の蛸に煮付けた床臥がいい。
どうやって蛸を柔らかく煮るのかと大将に訊くと、
なんでも一度冷凍するのもコツのひとつなんだそう。
嗚呼、お猪口をきゅっと合せられないのがなんとももどかしい(笑)。

と、大振りで活きのいい伊勢海老の顔見世興行(笑)。ちょっと可哀想な気にもなるけど、
さてどんな姿で供されるのか愉しみが膨らみます。

握りの手始めは、地の笠子。
カサゴらしい品の良い甘さが口腔にすっと広がります。皮目も艶やかな奴はと云えば、これまた地物の金目。
相模湾の深いところに潜んでいた奴なんでしょう。

島寿司よろしく芥子をちょんと戴いた鮪の酸味。白鯛は昆布〆にすることで艶が出て、
利かせた梅酢もまた粋な仕事になっています。

ひと呼吸置かせてくれた椀の中心には、真薯がある。
そのネタは嘗てスミヤキと呼ばれたクロシビカマスだそう。
相模湾周辺でよく食べられるもののようだけど、
初めていただくお魚であります。そして、障泥(アオリ)烏賊が旨い。
麺状に切りつけたものを纏めて、胡麻をあしらい檸檬を搾って。

旨いと云えば藁炙りしたトロがいい。秋刀魚も炙れば、実山椒の似合う味の凝集をみる。

巻物に続く大トリがお待ち兼ねの伊勢海老。身包み剥がされ、こんな姿になってしまって!と一瞬思うも、
そんなことはすっかり忘れて、
口に含んだ素敵な甘さにただただにんまりしてしまいます(笑)。

時季や海況により左右されてやりくりする必要は勿論あるのだけれど、
相模湾周辺から眼下の真鶴港に揚がる地物の魚介を極力供したい。
そう、大将は仰る。
それを八丁堀で鍛えた(笑)、手練で繰り出してくれるし、
そのステージや背景が素晴らしい。
加えて、大将や女将さんから自ずと滲み出るひと当たりの良さも、
大きな魅力なのであります。

八丁堀・入船で人気を集めた「伊藤家のつぼ」は今、
真鶴半島の真ん中の粋な佇まいの中に在る。此処が「伊藤家」「伊とう」となる前は、
旅館をリノベーションして、
岡本太郎作のユニークな「河童像」が出迎える、
アートミュージアムであったらしい。

アートミュージアム閉鎖後の建物を手に入れて、
あちこち傷みのきていた内外装に手を入れて、
雰囲気に似合うアンティークな家具を揃え、
大きなカウンターを重石に据えた鮨「伊とう」には、
なんとお泊りが出来る。宿泊場所となる二階の肘掛け縁からも勿論、
相模湾の青に臨むことが出来る。
そう、お泊りしちゃえば、車の運転の心配もないまま、
お酒をお供に大将の料理や握り、お喋りを堪能できるのです(笑)。

「伊とう」
神奈川県足柄下郡真鶴町真鶴1200-18 [Map] 0465-87-6460
http://manadurunoitoke.blog.jp/

column/03757