「巡る半島伊勢国紀伊国」カテゴリーアーカイブ

浦村かき直売「中山養殖場」で水に濯ぐ採れ立て生牡蠣と手焼きの焼牡蠣に感服

ふわっとした量感のある麺とコックリとしたたまりの汁の「ちとせ」の伊勢うどんとか、居酒屋「一月家」の「鮫だれ」とか。
「美鈴」の絶品焼餃子とか、蔵に潜んだ居酒屋「虎丸」の佇まいと「かき土手ねぎ焼き」とか。
おかげ横丁の賑わいの先にある、神宮の宇治橋を超えたところで包まれたなんとも云えない神聖な空気もまた印象的な伊勢の街とその表情たち。

日本全国から、いや世界からも人々が足を運ぶ伊勢だもの、
三重県の県庁所在地でもあるのだよねなんて思いがちなのは、
ワタシだけでありましょか。

この日は、伊勢市でも四日市市でもない、
三重県の県庁所在地、津の駅を通り過ぎ、
更に近鉄伊勢市駅や宇治山田駅さえも通過して、
やって来ました鳥羽の町。

寄らせてもらった駅前の古びた旅館の窓からは、
伊勢湾の入口から遠州灘が見渡せる。駅前からの通りに面した男性用大浴場は、
思い切り素通しの硝子張りでありました(笑)。

その旅館から目と鼻の先にあるのが、
ご存知ミキモトの真珠島。
今もさぞかし、質のいい真珠を育んでいるのだろうと思っていたら、
予約しておいたタクシーの運転手のオヤジさん曰くは、
もう随分前から鳥羽では真珠をつくっていないそう。
こんなに綺麗に見える海でも、
真珠養殖に求められる海水の清澄さとか温度とかがきっと、
すっかり変わってしまっているのでしょう。
昨夏またまた大きな被害となった珊瑚の白化を思い出させます(泣)。

そんな現状に照らすと少々物悲しくも響く、
“パールロード”を辿って辿り着いたのは、
永らく気になっていた「中山かき養殖場」。小屋の裏手は生浦湾。
まだ午前9時だというのに人が集まり始めています。

まずは、引き戸の硝子に貼られている表に、
名前と個数を書き込むところから一日が始まる(笑)。これは焼き牡蠣の註文リストとなっていて、
中にはひとりで、20も30も喰らうひともいるようだけど、
控えめが美味しいと心得ているところ。
そんな個数を書き込みました。

焼き牡蠣の註文を済ませたら、小屋の中の列に並ぶ。
そのすぐ脇でお姐さんがせっせと殻を剥いてくれている。積み上げた駕籠の中は勿論、
採れたての牡蠣牡蠣牡蠣。
売るほどあるとはこのことだ(笑)。

お姐さんに剥いてもらった生牡蠣五つ。浜から揚がったばかりとも思う、
剥きたての牡蠣をいただくのは久し振り。

牡蠣剥いてくれたお姐さんの食べ方ご指南はなんと、
殻から外した牡蠣の身を一緒に添えてくれたお椀の水に泳がせて、
塩っ気を濯いでから召し上がれというもの。
海水が塩辛いのは至極当然のことなので、
こうすることでしょっぱさの呪縛から解き放たれて、
塩梅のいい具合で新鮮な牡蠣を堪能できるんであります。
いやぁ、いいね、旨いね。

卓上にはポッカレモンの用意もあるけれど、
ここはひとつ、前夜慌てて探して、
鳥羽のコンビニで見つけた檸檬をちょいと搾りたい。 そして、同じコンビニで仕込んでおいた、
カヴァの小瓶を周囲の目を盗む気分で傾ける。
いやはや、朝っぱらから御免なさい(笑)。

旨い旨い生牡蠣とカヴァをスルンといただいた後は、
註文していた焼き牡蠣の順番待ちの時間となる。
湾の水辺まで降りていってしばし佇んだりなんかしているうちに、
自分の順番が近づいてきてちょっとドキドキしたりいたします(笑)。

ドラム缶を半裁したコンロにふたりが付きっ切りで、
金網に牡蠣を並べ、牡蠣の様子を見えては殻を外す。手馴れた所作と焼き具合の見極めはきっと、
数をこなして自ずと体得したものなのでありましょう。

待ちに待った手焼きの焼き牡蠣が、
ひとつまたひとつと手許のお皿に届く。周囲の汁がまだ沸いていて、
その真ん中にふっくらとした牡蠣が湯気を上げる。
はふはふ、ほふほふ。
なはははははは(笑)。
生もいいけどやっぱり火を入れた牡蠣は最高、いやホント。
お願いしていた控えめの数も絶妙な設定だったと、
自画自賛するのでありました(笑)。

鳥羽駅から南下すること車で20分ほど。
かき直売「中山養殖場」は生浦湾見下ろす浦村町にある。きっと今日も駐車場を埋める車と牡蠣の焼き上がりを待つひと達で、
大いに賑わっていることと思います。

「中山養殖場」
三重県鳥羽市浦村町1208-1 [Map] 0599-32-5053

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伊勢うどん「つたや」で 伊勢玉子うどん古き佳き河崎の町並み散策

tsutaya.jpg伊勢市駅駅前、外宮参道の角にある、 昭和なお食事処・和洋食喫茶の「若草堂」で、 伊勢うどんな朝ご飯をいただいて。 お宿の部屋に戻ってちょっとまったりしてから、 前日に伺った神宮内宮へと向かうバスに、 ふたたび乗り込みました。 内宮への参道、伊勢街道は、 初秋の煌く陽射しに明るく照らされています。

終点の内宮前のバス停を降りて、 そのまま宇治橋の鳥居へと向かう。tsutaya01.jpg前日同様のいい天気。 早くもひとが多く行き来している宇治橋の上には、 綺麗なうろこ雲が浮かんでいました。

ふたたび内宮を訪れたのは、御祈祷をお願いするため。 前日は、受付時間に間に合わなかったのです。tsutaya02.jpg神楽を奉納する神楽殿と並ぶ御饌(みけ)殿へと案内いただき、 足の痺れに耐えながら、お祓いを受け、 御神札と神饌とが供えられた御神前に祝詞が奏上される様子を、 共に畏まって拝聴します。 御神札と神饌(おさがり)を拝受して、御饌殿を後にしました。tsutaya03.jpg神馬が控える外御厩(そとのみうまや)に廻って、ふたたび宇治橋の鳥居の下へ。 一礼をして此処を辞しましょう。

伊勢市駅にバスで戻ってから、前日伺った「山口屋」の近くを通って、 別宮の月夜見宮に参拝します。 月夜見宮でもご朱印をいただこうと脇にある社務所に立ち寄りました。

そして、その足で、JRや名鉄の踏切を渡り、勢田川沿いにある河崎地区を散策します。 所々にみる町屋や土蔵が昼にしてなかなかの情緒。 二年半振りの訪問叶わなかった蔵の居酒屋「虎丸」の表情を確かめます。

河崎本通りをさらに川に沿うように北上すると、 みえてきたのが、伊勢うどん「つたや」の姿。tsutaya04.jpgコカ・コーラの看板もどこか懐かしい古き町の食堂にお邪魔です。

ほぼ満席の店内の中程のテーブル席に居場所を得て、 じっと眺めるお品書き。 伊勢うどんに一般的なうどんにそば、きしめん、そしてラーメン。 カツ丼にチャーハン、オムライスなんかもラインナップされています。 「焼豚伊勢うどん」なんかに気を惹かれつつ、 「伊勢玉子うどん」をお願いしました。

明治の頃に河崎で作られていたという「エスサイダー」、ではなく、 ビールのグラスを傾けつつ振り返ると、開いた扉から厨房が覗けた。tsutaya05.jpgオヤジさんが湯釜からうどんを掬っている光景のようです。

「伊勢玉子うどん」の丼が到着しました。tsutaya06.jpgたっぷりのおつゆに玉子が半熟に解かれ、 そこにお伊勢なうどんが浮かんでいます。

うーむ、美味しそう!tsutaya07.jpgそっと箸の先を動かして、丁寧にいただきたい。 そんな気分になってきます。

玉子を纏ったふんわり具合もまた素敵なうどん。tsutaya08.jpg焼豚に走るよりこれが佳かったとひとり言ちる、 そんなご満悦であります(笑)。

相方さんは、ザ・中華そばとも謳いたい「ラーメン」のドンブリ。tsutaya09.jpg澄んだスープには、 鶏がらのベースに魚介の旨味やらなにやら意外なコクが潜んでいて、美味し嬉し。 ストレートな細麺が良く似合います。

ドンブリの目線を壁に向けると、水彩画を収めた額が目に留まる。tsutaya10.jpg通りの古き佳き情景が想起されるようで、ほのぼのしてきます。

嘗て勢田川の水運を利用した問屋街として栄えた河崎の本通りに、 伊勢うどんの店「つたや」がある。tsutaya11.jpg散在する土蔵や町屋を含めた町並みが、 活かされつつ残っていけばよいのだけどなぁと思います。

口 関連記事:   お食事処「若草堂」で 伊勢うどんの朝御飯外宮参道に昭和の匂い(14年10月)   名代伊勢うどん「山口屋」で ごちゃいせうどんと淳素な伊勢うどん(14年10月)   居酒屋「虎丸」で 蔵中の気になる魚介酒肴たちかき土手ねぎ焼(12年05月)


「つたや」 伊勢市河崎2-22-24 [Map] 0596-28-3880
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お食事処「若草堂」で 伊勢うどんの朝御飯外宮参道に昭和の匂い

wakakusado.jpg伊勢神宮の外宮、内宮とお参りして、 居酒屋「一月家」、餃子「美鈴」を訪ねた日の夜は、 駅と外宮の中程にある旅館のお世話になりました。 伊勢市街は、お伊勢参りへと沢山のひと達が大挙してやってくるというのに、意外と宿泊施設が多くない。 やっとこ見つけた旅館は、 朗らかマイペースなおばちゃん営む宿でありました。

お宿には素泊まりであったので、夕食はもとより朝食も付いてない。 そこで、おばちゃんに「朝飯、行ってきます~」と声を掛けて、 朝の少々ひやっとした空気の中へ繰り出しました。

ガンダムの待つ高柳商店街の喫茶店のモーニングもいいねと思うも、 まだ営業していない。 ここはやっぱり前日に認めたあの店で朝食をと、 伊勢市駅から外宮へと真っ直ぐ伸びる外宮参道を駅方向へと向かいます。wakakusado01.jpgwakakusado02.jpg駅からすぐの角地にあるお食事処「若草堂」は、 朝の6時半から営業しているのです。

覗いたショーケースは、 埃を被り変色したサンプル達がなかなか無惨な状況に置かれてる。wakakusado03.jpg左隅で焦げたソフトクリームの隣で崩れ落ちているのは、 もしかしてケーキの類でありましょか(笑)。

恐る恐る闖入した店内にひと影はなし。wakakusado04.jpgただ、雑然とした様子は余りなく、 古き食堂に嘗てちょっと気の利いていた調度が設えてある感じ。

真珠ムードのパールコーナー新設!!を知らせるプレートに導かれて、 こっそりその一角を覗くと、 壁に真珠層を切り抜いたようなシートが沢山貼られてる。wakakusado15.jpgいつ頃新設したものかは訊けませんでしたが(笑)、 ここでのテレビ番組の収録もあったようです。

ここで、改めて厨房らしき方向に声を掛けると、 ゆっくりと女将さんらしきおばさまがご登場。

お品書きには、 ずららっと100品を超える数のメニューが並んでいて迷わせる。wakakusado09.jpgモーニングサービスの「和定食」か、 折角なので朝から奮発して「お伊勢参り定食」か。 いっそのこと、「伊勢海老ラーメン」「伊勢海老カレー」、「伊勢海老そば」か。 伊勢海老に”ロブ”と手書きで添えてあるのは、 近海の伊勢海老とはちょと違うという但し書きでありましょか。 うーむと悩んで、前日の「山口屋」に引き続き、 こちらでも「伊勢うどん」をいただくことに。

振り返って見つけた「御案内」看板がいい表情。wakakusado06.jpg wakakusado07.jpgwakakusado08.jpg その横にも庭を見渡すテーブル席があり、 その窓辺には順番の違うトリコローレなテントの庇。 そして、広間や家族室が今も二階にあるのか、気になったりいたします(笑)。

なかなか凝った意匠だよねと床を眺めているところへ、 おばさまが「若草堂」と筆文字の入った長角の膳を届けてくれました。wakakusado10.jpg矢張り、伊勢うどんには、シンプルな盛り付けが一番似合います。

たまり醤油のつゆがほとんど見えない、 その程度は今まで出会った伊勢うどんの中では筆頭だ。wakakusado11.jpg汁なし担々麺か油そばか。 そんなことを考えながら、 ジロリアンお得意の天地返しの要領で、たまり汁を麺に纏わせます。

比較的出汁風味よりも醤油強めのつゆ。wakakusado12.jpgぷにん!という口元の感触がなかなかよろしい。 どちらの製麺所のものかなぁとこれまたそんなことも考えながら、 一気に美味しくいただきました。

伊勢市駅駅前、外宮参道にきっとずっとある、 お食事処・和洋食喫茶の「若草堂」。wakakusado13.jpgwakakusado14.jpg清掃清潔には気をつかっておられるものの、 そこには昭和の匂いが芬々とする。 素っ気ない建物に建て代わってしまう前にお邪魔できたことを何気に嬉しく思います。

口 関連記事:   居酒屋「一月家」で お伊勢参りと御酒鮫だれふくだめ老舗の風格(14年10月)   焼ぎょうざ「美鈴」で 絶品餃子に一礼野菜の甘軽さ薄皮の芳ばしさ(14年10月)   名代伊勢うどん「山口屋」で ごちゃいせうどんと淳素な伊勢うどん(14年10月)


「若草堂」 伊勢市本町5-1 [Map] 0596-24-3210
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焼ぎょうざ「美鈴」で 絶品餃子に一礼野菜の甘軽さ薄皮の芳ばしさ

misuzu.jpg伊勢の地元居酒屋「一月家」。 老舗の風格をすっかり堪能して、 その暖簾を背中にする。 もう一軒行こうとほろ酔いの足取りで歩き出す。 さっき来たのは、アーケード「しんみち」の入口辺り。 それとは逆の方向へと進んで、 県道の曽弥という信号を渡り、 公園のブランコや滑り台を冷やかしつつ(笑)、 その先の宮町の交叉点へと近づきました。

暗闇囲む横断歩道の向こうに点る灯り。 白い暖簾がおいでおいでと誘(いざな)うように風に揺らぐ。misuzu01.jpg既にほぼ満腹であるのに、 引き寄せられるようにその灯りの下へと辿り着いていました。

件の暖簾を払えば、その拝殿は大賑わい。 たまたま隅の胡床二脚に空きがあり、そのまま腰を降ろします。misuzu02.jpg変形に厨房を囲む、朱塗りのカウンター。 対面の壁の御札が示すは、「ぎょうざ」「おにぎり」「から揚げ」、そして「カニコロ」だ。

厨房の中央では、割烹着姿の姐さんを含む四人がかりで、 餃子を包んでくれている。misuzu03.jpgせっせと黙々と、でも気負いなく、何処となく楽し気でさえあるけれど、 ずっと立っているだけでもしんどいのではと思ってしまう。 まぁ、座って調理する方の料理に美味しいイメージはないけどね(笑)。

手前に視線を下ろすと、 カウンターの内側に5つの業務用の瓦斯炉が並んでる。misuzu04.jpgその上に据えられているのは全て、同じ口径のフライパンだ。

と、そこへアルミの盆に載せられていた餃子が、 向かって右手のフライパンの上へと綺麗に並べられる。misuzu05.jpg

焼き手さんは、今度は向かって一番左のフライパンを手にして蓋を開け、 焼き上がった餃子をヘラで掬って、その脇に積んでゆく。misuzu06.jpgmisuzu07.jpgそして、ひとつづつフライパンを左にズラすと、一番右のコンロが空くという寸法だ。 成る程だよね!

と、焼き立ての「ぎょうざ」がやってきた。 まさに今の今までフライパンの上にいたことが、 焼き目の縁取りに現れています。misuzu08.jpgお皿にまず一礼。 これが不味かろう筈がないよなぁとは思いつつ、 タレもつけずに、ふーふーとだけしていただきます。

うほほほほひー(笑)。misuzu09.jpg野菜の甘さが、想像を越える軽さで飛び込んでくる。 それが極々薄い皮の芳ばしさと一緒になって、あっと云う間に旨味に昇華する。 大蒜の利き具合も意外と繊細でいて、ぐっと勘所を掴んでくる。 ほひひ、こりゃ堪らん。

ほぼ満腹であったのに、一気呵成に喰らってしまって、まだ食べられそう。 追加しちゃう?と訊き合うなんて、可笑しいよね。

伊勢を貫く県道沿いの暗がりに、絶品餃子の店「美鈴」がある。misuzu10.jpgこうなると「から揚げ」や「カニコロ」も、「おでん」までもが気に掛かる。 のむちゃん、水先案内をありがとう。 また此処にお詣りする機会のあらんことを願います。

口 関連記事:   居酒屋「一月家」で お伊勢参りと御酒鮫だれふくだめ老舗の風格(14年10月)


「美鈴」 伊勢市宮町1-2-17 [Map] 0596-28-8602
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居酒屋「一月家」で お伊勢参りと御酒鮫だれふくだめ老舗の風格

ichigetsuya.jpg外宮の別宮であるところの月夜見宮近くの、 名代伊勢うどん「山口屋」でおひるご飯。 そこをご馳走さまっと離れて、 建物のあちこちに看板・店名表示だらけの、 喫茶「ナナ」の佇まいを可笑しく眺めたり、 まるで高級旅館のような「畑肛門医院」の威容を 手入れのされた立派な植木越しに拝見したり、 三色のサインポールを掲げた古民家を見付けては、 玄関の土間に理容椅子がある様子を覗いたり。 そんな風に束の間の散策をしながら、外宮の御橋までやってきました。

神宮の外宮は、豊受大御神をお祀りされている豊受大神宮。 豊受大御神は、神々に奉るたてまつる食物、御饌を司る、 御饌都神とも呼ばれているそうで、衣食住から広く産業の守護神として崇められている。ichigetsuya01.jpgまだ強い陽射しに照らされながら、 手水舎を経て、鳥居を潜ると次第に厳かな気分になってくる。 ご正宮に参拝し、多賀宮、土宮、風宮の別宮でも二拝二拍手一拝の拝礼を行いました。

そうそう、勾玉池の畔に建つ「せんぐう館」は、意外と見応えがあったね。 神宮式年遷宮が伝えて来た技術や精神、 未来への継承を続けてゆくそのたゆみない営みには、 ただただ感嘆するばかりであります。

外宮前、御幸道路のバス停で乗り込んだ三重交通の路線バスは、 五十鈴川駅を経由して、伊勢街道へ。 神宮会館前で降りれば、大混雑の「おかげ横丁」が目の前だ。 そして、「赤福」本店前から曲がり入ったおはらい町通りも驚く程の大賑わい。 沿道の誘惑に靡きながらも、なんとか宇治橋の前までやってきました。

お辞儀をして鳥居を潜り、宇治橋を渡り、お辞儀をしてまた鳥居を潜る頃には、 不思議と畏まった神妙な心持ちになってきます。ichigetsuya02.jpg前年(’14年)に遷宮なった皇大神宮ご正殿は、 3年前に参拝した古殿よりも手前の位置に遷っていました。 正殿を見上げる階段には、沢山のひとが拝礼の時を待っています。

ふたたび、宇治橋を渡って、おはらい町通りへ。 「お豆腐ソフトクリーム」なんかを手に漫ろ歩き(笑)。 復路でのおかげ横丁では、 伊勢うどん「ふくすけ」前の太鼓櫓での神恩太鼓の好演が印象的です。

外宮近くの旅館に荷物を降ろして、夕餉の前のひと休み。 河崎の蔵の居酒屋「虎丸」は、矢張りの人気で予約叶わず。 そこで、のむちゃんおススメの居酒屋へ向けて、町中を散策しながら向かいます。 目標は、尼辻という交叉点。 高柳商店街のアーケードには、ガンダムはいたけれど、ひと通りはない。 それとは別のアーケード、 伊勢銀座新道商店街「しんみち」の入口を尻目に左手に逸れました。

目の前に現れたのは、なんとも素敵な佇まい。ichigetsuya03.jpg二間の広い間口の格子戸の前に白い暖簾。 そこには、左から読む「生ビール」に「御酒さかな」と標してる。 頭上には、四つの清酒の銘柄を刻んだ看板が、扁額よろしく凛々しく迎えてる。 伊勢周辺蔵元の「初日」「東獅子」「鉾杉」に、神宮御料酒の「白鷹」だ。

がらりと戸を引けば、盛況の店内はゆったりとして、 左手にカウンター席、右手に続くテーブル席の先には座敷がみえる。 お姐さんに、「ここ、如何?」と相席含みで手前のテーブルに案内されました。

お品書きはどこでしょうと振り向くと、壁にずらっと並んだ品札たち。ichigetsuya04.jpg早速目線を走らせれば、あれこれ気になるフレーズに気も漫ろ。 「値段が一切書いてないけどご心配なく」との助言を予め得ているので、 その点はクリアだけれど、既に裏返っているヤツも気になって困ります(笑)。

陽射しの強い日だったねと、ジョッキのビールで乾杯して、 まずお迎えしたのが、「かしわきも煮」。ichigetsuya05.jpgこっくりとした滋味に顔が綻ぶ、そんな味わいが、いい。

「さば酢」と迷ってお願いしたのが、「いわし酢」。ichigetsuya06.jpgやや大振りの鰯の青みがかった風味が酢〆に凝縮して、旨い。

こいつぁやっぱりお酒だねと、冷やのお銚子にコップを添えて。ichigetsuya07.jpgそうそう、こちらでの酒肴の注文は、 卓上のメモ用紙に自ら品名を書き込んで手渡すスタイル。 注文を厨房に手短に通すには合理的で、 思案しながら書き込むのもちょっと愉しくて良いのだけれど、 お会計し難いんじゃないかとふと心配になったりします。

これまた「穴子フライ」と迷って決めた、「あじフライ」。ichigetsuya08.jpgほとんどマヨネーズの(笑)タルタルをたっぷしつけて、 火傷に気をつけつつ、がぶりと大口でいくのが宜しいようです。

ダレヤメは知ってても、サメダレは初めて聞いた。 それって一体なんだろうと、興味津々の「鮫だれ」。ichigetsuya09.jpgどれどれと齧ればまるで、炙った鱈のよう。 はて、鮫って云ってるけど実は鱈の仲間なんじゃないのと訝るけれど、 その種類は不明ながら、どうやら正真正銘、鮫の身である模様。 味醂干しにした鮫を炙ったものと思われます。 鮫に思いがちなアンモニア臭的な匂いもなく、ほろっと甘くて、お酒によく合う感じ。 鮫は、古代以来の伊勢地方の郷土食であるという。 神宮の祭典では、今も変わらぬ神饌品のひとつであるようです。

ふと時計の下に掛けられた色紙に目が留まる。 「いろいろとちがいはあれどげにここは つきにいちどはやはりこのいえ 杢太郎」と、 色紙にはある。ichigetsuya10.jpg黄ばんだ色紙ではないので、そんな昔のものではないようにも見える。 でも、”月に一度は矢張りこの家”はまさに、店名「一月家」を表しているね。 杢太郎とはどなたなのでしょう。

「鮫だれ」と並んでもうひとつ、 それってなんだろうと気掛かりだったのが、「ふくだめ」。ichigetsuya11.jpg届いたのは、立派に大振りな床臥(とこぶし)。 じっくりと汁が滲みていて、柔らかな身に香り深くて、実に旨い。

「わかめ酢みそ」には、身の厚い若布にとろっと八丁味噌の酢味噌。ichigetsuya12.jpg沢山食べれてしまいそうな、乙な魅力を何気に潜ませています。

「焼きあげ」は、そのまま焼いたお揚げだよねと云うなかれ。ichigetsuya13.jpgこれまた少し身の厚いお揚げがぱりっとして、 齧って滲む油っけも妙にイケるんであります。

1914年(大正3年)創業という、 伊勢の地元の老舗居酒屋「一月家(いちげつや)」。ichigetsuya14.jpgここまでの風格は一朝一夕には成せないものだよなぁと、 お会計をお願いしたおやじさんが弾く算盤の手元を眺めながらそう想う。 建て直す前の店にはより枯れた風情が備わっていたのだろうなぁとも。 ぐっと寒い頃に、「湯豆腐」や「カキフライ」、 そして三重のお酒の燗を目当てにまた訪れたい、そんな気分です。

口 関連記事:   名代伊勢うどん「山口屋」で ごちゃいせうどんと淳素な伊勢うどん(14年10月)   伊勢うどん「ふくすけ」で 内宮参りにプニっと甘い感触伊勢うどん(12年05月)   居酒屋「虎丸」で 蔵中の気になる魚介酒肴たちかき土手ねぎ焼(12年05月)


「一月家」 伊勢市曽祢2-4-4 [Map] 0596-24-3446
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