バー「カルバドール」で ジャック・ローズとカルヴァドスの基礎知識

calvador.jpg千本中立売の銘居酒屋「神馬」。 その世界にじっくり浸り、 大満足の体でタクシーに乗り込みました。 向かった先は、鴨川を西へと渡った二条通りが、 寺町通りでクランクする辺り。 以前、二階のフルーツパーラーにお邪魔してパフェをいただいた、梶井基次郎の小説「檸檬」の舞台のひとつ「八百卯」の前で車を降ります。

「八百卯」はどうやらもう、閉めてしまったようですね…。 そこからほんの数十歩、角のコンビニ方向へ。 一階はシャッターの閉じた雑居ビル。 そこから上のファサードは、洋館のそれのような煉瓦積みの意匠。calvador01.jpgその一角に小さく切りとった窓がある。 額縁のようなその窓に飾られた、妖艶に紅い一輪の花が印象的だ。

その額縁の在り処を探すように、雑居ビル二階の狭い通路に出る。 通路の突き当たりにあるドアには誘うような気配があるものの、そこに店の名はない。 その代わりに、Apple社よろしく、林檎を象った白抜きのロゴマーク。 それが、バー「カルバドール」への入り口となる。

ファサードの煉瓦と繋がるデザインに思うシックなインテリアの店内は、 ゆったりとした変則L字のカウンター。 「カルバドール」は、ご存じ林檎の蒸留酒、カルヴァドスのラインナップ漲るバーなのだ。

calvador02.jpgオーナーバーテンダーの高山さんに正対して、お邪魔しますとペコリ。 矢張り折角なのでカルヴァドスを何杯かいただきたいと告げると、 カクテルから始めてみては如何でしょうと、そう仰る。calvador03.jpgそしてシェイクしてくれたのが、柘榴とカルヴァドスのカクテル「ジャックローズ」。 柘榴の酸味と独特の香気がカルヴァトスと素敵に融和して、美味しい。 ちょっと垂らした「Carib」が全体を円やかに纏めてくれています。

カウンターに並んだボトルたちは、クラシカルでアンティークな雰囲気と表情を魅せている。calvador05.jpg訊けば、カルヴァドスだけで200本以上のストックがあるそう。

全部がそうという訳ではないけれど、 壁一面のボトルの多くがカルヴァドスのそれであり、なかなか壮観な眺め。calvador04.jpgと、バックバーの棚に飾られた一枚のコースターに気がついた。 それは、今はなき、新橋のオーセンティック・バー「Tony’s Bar」のコースター。

あれって、「Tony’s Bar」のコースターですね。 そう問い掛けられた高山さん曰く、 老舗バー「Tony’s Bar」とは、「サンボア」他のマスター共々交流があって、 閉店に際しても足を運んで、終末を見守りました。 寂しいものですけどね、と。

柔和で温厚な表情に、素朴で真摯なリスペクトが混じる高山さんに、 今度はストレートでおススメをとお願いします。calvador06.jpgcalvador07.jpgハーフショットで試してみてくださいと手にしたボトルには、 煙草で焦がした跡のような虎縞バックのエチケット。 「アドリアン・カミュAdrien Camut」の蒸瑠元が、 「カルバドール」のために瓶詰めしてくれたものだという。 成程、エチケットをよく眺めると、「Bar Calvador」とある。 舐めるようにいただくとこれが、意外なほどに丸くメローな呑み口で、 ふわっと林檎由来の香りが過って、イケる。

もう一杯はと、高山さんが選んでくれたのが、 「ルモルトン ヴュー・カルヴァドスLemorton Vieux Calvados 1968」。calvador08.jpgcalvador09.jpg 恥ずかしながら、 カルヴァドスは林檎のみで作るものとばかり思い込んでいたけれど、 このグラスの滴のように洋梨のジュースを多く含んで仕込むカルヴァドスも少なくないそう。 これは襟を正して、カルヴォドスの基本の基本を知らねばなりません。

高山さんのお話を要約すると、 カルヴァドスは、フランス北西部のノルマンデー地方でつくられる、 林檎を主原料とした蒸瑠酒。 例えばシャンパンと同様に原産地呼称規制(AOC)の対象で、 ノルマンデーの所定の地域でつくられたものしかカルヴァドスとは呼べない。 中には洋梨を含むものも少なからずある。 ということになる。 しまった今まで縁遠かったものなぁと、少々後悔したりして(笑)。

一杯だけと訊ねた別の夜。 ほぼ満席のカウンターの隅でいただいたのは、「ビュネルBusnel VSOP Pays d’Auge」。calvador10.jpgcalvador11.jpgトニックで割ってみれば、 ウイスキーのそれとは勿論また違う、オツな一杯だ。


カルヴァドスに力点を置いた稀有なオーセンティック・バー「カルバドール Calvador」。calvador12.jpg高山さんに訊けば、店の名「カルバドール」は、 スペインの無敵艦隊「カルバドール」からいただいたもの。 スペイン軍艦「エル・カルバドール」が英国艦隊に敗れ、 座礁したのがノルマンディー海岸近く。 ノルマンディーに漂着した乗組員が故郷の製法でアップルブランデーをつくった。 それが後に、その地方で作られるようになったリンゴのブランデーを「カルヴァドス」と呼ぶようになったと云う。 「カルヴァドス」が、遡れば軍艦の名であったとは、これまた知らなかったなぁ。

口 関連記事:   フルーツパーラー「八百卯」 で小説檸檬とフルーツパッフェ(08年03月)   Bar「Tony’s Bar」で 酩酊の帳に訊く埼玉モルトIchiro’s Malt(09年09月)


「カルバドール」 京都市中京区妙満寺前町446 若林ビル2F [Map] 075-211-4737
column/03316

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください