ステーキ「かわむら」で 甘露なるコンソメと軽やかなるステーキ

kawamura.jpgある日の昼下がり、親分から連絡がありました。 「かわむら、行きません?」。 いやーずっと気になってはいたものの、自ら臨むには御足が心配ゆえ敷居の高い状態のままでおりましたと率直に応えます。 またヒロキエさんのお誘いとあらば、「かわむら」を訪れる千載一遇の機会ですね、とも。
既知のおふたりともうひと方が一緒だということで、向かった数寄屋通り。 「かわむら」のある路地へと入り込むと、その先に親分の姿が見つかった。 どうもどうもと話していると、じゃぁと手を振るヒロキエさん。 あれ? ご一緒なんだろうと思い込んでいたので、少々びっくりしたけど、改めて話を回想・整理してみると、なるほど、予約を入れていた方の代わりに声を掛けてくれたってことなのでした。 わざわざ引き合わせのために足を運んでくれた親分の背中を見送って、正対する「かわむら」の扉。 銘木の表札なくして、それと気づかぬ隠れ家の匂いが漂います。 オーセンティックなバーに足を踏み入れる時と似た気分が過ったりして。 このこぢんまりとした8席のL形カウンターが、あの「かわむら」の舞台なのねとコートを肩から外しながら眺める。 そして、想像以上に柔和な表情の河村シェフに会釈でご挨拶です。 「かわむら」定番というオードブル。kawamura01.jpg鮮やかなオレンジが目を惹くは、タスマニア産だというサーモン。 しっとりと張り付くような舌触りの中から清澄な旨みが解け出る。 ふわっと甘い帆立に、きゅっと締まった平目の身、むにっと柔らかな食感にらしい香りを含む鮑。 おまけのように添えられた、均質なサシを魅せる肉の刺身は、舌の温度で上品な脂が溶け出す感じが愉しめます。 続いて、なんとも素敵な琥珀色をみせるスープカップが眼前に。kawamura02.jpgこのコンソメは凄いなぁ。 なんと表現すればいいンだろねぇと隣の表情を探ると、お隣さんは前回のコンソメの味わいを反芻して比べてみたりしている模様。 見た目の色合いからも連想し易い、蓮華の蜂蜜のような仄甘さの印象も感じつつ、そんな植物性なものには留まらないコクが透明感を伴って迫る。 牛のコンソメであろうことは容易に判っても、この濁りのなさと深い旨みを生み出す手間と工程は容易には想像し難い。 ああ、甘露哉。 kawamura03.jpg と、いよいよロースターのスリットの上に超肉厚の肉塊が載せられた。 前後してサービスされたお皿には、サラダ。kawamura04.jpg15種類だという野菜たちにベーコンのフレークがたっぷりと。 カリカリサクサクとしたベーコンの食感が、軽快なリズムをサラダに盛り込んでくれています。 そしてそして、やってきました羨望なる「かわむら」のステーキ。kawamura05.jpgそのお皿からの標高が一種の気高さを誇るような気配もありますが、ただただ飾らぬ実直な優しい力持ちが照れながらも堂々と胸を張っているようにもみえる佇まい。 いやはやと見惚れているところへ、「肉の側面を指先で触れてみてください」と河村シェフ。kawamura06.jpgkawamura07.jpgえ、どゆこと?と思いつつ、云われるまま指先をその脇腹へ。 うわ、あ、いや、あの、その……。 つまりは、物凄―く、官能的な触感。 云い倦ねて思わず、そのまんまな感想を口走ってしまいました。 「なんだかとっても、イヤラシーぃ感じ?」(汗笑)。 肉を転がして焼いたりしていないからのことなのかもしれないね。 それでも、中から肉汁が滲んだりはしないところがまた凄い。 ナイフを入れた肉の上下は香ばしく、柔らかな中から艶めかしき紅色が顔を出す。kawamura08.jpg最初は、お勧めの福岡の煮切り塩で。 脂由来だけのそれでない、赤身肉の旨みがじっくりじっくり焼き上げることで濁らず活性化している、うはは、そんな味わい。 ホースラディッシュや檸檬を継ぎ足して作っているという、お醤油のソースもまた、肉の旨みをさらに引き立てる。 特別ブランドに拘ったりはしないという、河村シェフ曰く、この日ステーキは宮崎牛、200g也。 なにより、ひとくちひとくちが軽やかなのが印象深いのだ。 ウチにも愉しみを持ち帰ってしまおうとの魂胆で、所要な量のお肉を残したお皿をお渡ししたところで、〆のメシでもいかがです?と河村シェフ。 カレーという手もあるけど、まずはどうしても「かわむらの牛丼」に手を挙げてしまう。 kawamura09.jpg 今度は、山形産だという大きなブロックからスライスを生み出すシェフの包丁。 優しくさっと煮された肉たちを盛り込んだ、ちょうどいいサイズの器を手に、いざ。 一転して、肉の脂の甘さを堪能する仕立てに唸る。kawamura11.jpgううう、なんと贅沢な牛丼なのでありましょう。 デザートは、プリンにヨーグルトアイスなど。kawamura12.jpg大人な甘さのプリンのたっぷりしたコクを愉しんでいいると、さっきのステーキの軽やかさが反射的に思い浮かんできて面白い。 肉を供するお店でありながら、その食後感の中に淀みのない軽やかさを思わせるのが「かわむら」の真骨頂で、ひとを繰り返し訪れさせる要因になっているのかもしれません。

知る人ぞ知る、8席のカウンターが迎える肉料理のサロン、銀座「かわむら」。kawamura14.jpgkawamura13.jpgお土産にしてもらったサンドイッチを冷たいままいただいてみる。 肉やその脂がさらりとしているような、そんな気がする。 そして、余程のことがない限り、あのカウンターをふたたび自腹で訪れることはないであろうことを切なく思うのでありました。


「かわむら」 中央区銀座7-3-16 東五ビル1F[Map] 03-3289-8222
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「ステーキ「かわむら」で 甘露なるコンソメと軽やかなるステーキ」への2件のフィードバック

  1. 羨ましい!
    いつかチャンスがあれば行ってみたいと思い続けておりますが
    なかなかチャンスがなくて・・・

  2. Re:Rさま
    ですよねー。
    常連さんがチェーン予約をしてるみたいなので、予約そのものも難しくなってるそうです。
    でも、遅い時間に空きがあることもありますよ、とも河村さん云ってました。
    庶民としましては、なによりも御足の心配が真っ先にありますけど(泣笑)。

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