料理祖神「高家神社」で 糧の供養の庖丁式となめろうさんが焼き

takabe.jpg南房総に行きませんか。 そうお誘いをいただいたのは確か、 東京湾大華火祭りの夜でした。 当日、八重洲口のバス乗り場から乗り込んだのは、 安房白浜行きのJRバス「なのはな号」。 バスはするするとアクアラインを抜け、木更津を通過して、館山自動車道から富浦へ。 我々がまず降り立ったのは、道の駅とみうら。 南房総への入口、2000年に道の駅グランプリ最優秀の評価を受けたという「枇杷倶楽部」に寄り道です。 ここはその名の通りの枇杷づくし。takabe01.jpgジュース・ジャムにはじまり、ムース&ゼリー、羊羹にゴフレットに枇杷カレーなどなど。 店内には、枇杷を使ったさまざまなスーベニアが棚ぞ狭しと並べられています。 「枇杷倶楽部」初心者は、まず「枇杷ソフト」から。takabe02.jpg道の駅「枇杷倶楽部」で感心しちゃうところは、施設内に加工工場を持っていること。 特別に見学させていただいたけど、当地で収穫した枇杷を洗浄し、果肉を剥いたり、煮詰めたりする様子が容易に想像できる。 観光地の土産物売場では、当地とは全く別の場所で作られ運ばれたものであることに幻滅することが少なくないもんね。 「ここで作ってます!」がなんと真っ当なことか。 ちなみに枇杷の収穫期は5月末から7月初め頃だそう。 さて、枇杷倶楽部を後にして向かったのが、「高家神社(たかべじんじゃ)」です。 内房から外房へと半島を横断して、千倉駅付近を通って辿り着いた谷津地区。 石造りの鳥居の向こうで石段が登り、その先にお社が望めます。takabe03.jpg 山裾から千倉の町と太平洋を見下ろす「高家神社」は、日本で唯一、料理の祖神を祀る神社。 日本書紀に記されている、御食津神「磐鹿六雁命(いわかむつかりのみこと)」を主祭神として祀り、今では広く調理関係者や醤油・味噌などの醸造業者からの崇敬を受けているという。 お札には、左手に堅魚(かつお)、右手に白蛤を抱える磐鹿六雁命のお姿が描かれています。 まずは、お参り。takabe04.jpgtakabe05.jpgtakabe06.jpgtakabe07.jpg 包丁づかいが上手になりますように、健康で幸せな食道楽ができますようにと欲張りなお願いごとをして(笑)、「庖丁塚」にも手を合わせます。 そして、この日特別に披露していただいたのが、「庖丁式」。 「庖丁式」とは、平安時代から宮中行事のひとつとして行われてきた「庖丁儀式」を継承し、その古式に則った所作と熟練の包丁さばきで日本料理の伝統を今に伝える厳粛神聖なる儀式。 料理に造詣の深かった五十八代光孝天皇の命を受けた、側近で”日本料理の中興の祖”といわれる四條中納言藤原朝臣山蔭卿が様々な料理作法をまとめ、「犠牲となった生き物を供養し、霊を鎮める儀式の形にできないか」という天皇の想いを受け、儀式として定めたものが「庖丁式」のはじまりとされているそう。 拝殿から階段を降りたところにある庖丁式殿がまさに庖丁式を執り行うために設えられた舞台。 雅楽が流れ、厳かな空気に包まれはじめたところで、烏帽子(えぼし)を戴き、三宝(さんぽう)を額まで掲げた介添(かいぞえ)が現れた。takabe09.jpgtakabe08.jpgtakabe10.jpg 「名所」と呼ぶ俎板の四隅に緑・赤・白・黒、そして中央に黄と五色の包みをゆっくりと置いていく。 蛤を包んだ四隅の四色が四季を表わし、天下太平・五穀豊穣を祈る。 直垂(ひたたれ)の大袖を捲って、幣束を縄に結んだ俎板を清めるように中央に塩を置き、青竹で挟んだ紙で拭い、布で磨く。 入れ替わるようにして俎板の前に立った介添が、右手の式庖丁と左手の真魚箸(まなばし)とを宙に翳した。 それは、庖丁の曇りなき煌きを光に試すように。takabe11.jpgtakabe12.jpgtakabe13.jpg 両の手を巧みに使って、三宝に運んだ魚を額に拝むようにしながら俎板へと移す。 魚には鯛を用いることが多いというが、俎板にあるのは千倉の沖で獲れたイナダだ。 料理食材の命を尊び、その霊を慰めることを意味する献花を俎板に配して、ふたたび式庖丁と真魚箸を眼前に掲げる。 そして、一式の揃った俎板に向けて深々と頭を下げて、礼を伝える。 そして、刀主(とうしゅ)が俎板の前に背筋を伸ばして厳かに。 式庖丁と真魚箸を直角に重ね、間合いを量り魚の両側に立てて。takabe14.jpgtakabe15.jpgtakabe17.jpgtakabe16.jpgtakabe18.jpg 古式に則った所作に引き込まれるように見詰めると、真魚箸で抑えたイナダに式包丁がグイと刺し込まれた。 腹の部分を切り取り、胴を均等に輪切りにしていく。 一切魚に触れることなく、式包丁と真魚箸とでさばいていく技に日本料理の伝統と精神を伝えんとする想いが宿る。 庖丁を大きく頭上に翳し、礼によって奉納が終わった。 さばかれたイナダは俎板の上で、ヒレの切れ込みを花弁に菊の花を象っている。takabe19.jpg包丁式が「菊花の鰍」と題されているのは、舞台を遠目にしては分からない、俎板の上の表現によるものなンだ。 ※「高家神社」の「庖丁式奉納」は、5月17日の大漁祈願祭、10月17日の旧神嘗祭、11月23日の旧新嘗祭の年三回執り行われるものです。
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一同は、神社に隣接する「千倉町社会福祉センター」の料理教室用と思しき調理室へと移動して、 本題の試食会。 今回、「なめろう」「さんが焼き」を中心とした房州の郷土料理を準備してくれたのは、 千倉の寿し・割烹処「ちどり」さん、民宿「政右ヱ門」さん、泊まれるお鮨屋「銀鱗荘ことぶき」さん、富浦の民宿「曳船」さんの4軒。 さっきまで「庖丁式」の披露をしてくれた直垂姿から料理人姿に早替わりして対応してくれているご主人もいて、恐縮です。 順不同で振り返ると、やっぱりまずは「なめろう」のあれこれ。 「たたき」と違って、季節の地魚などをねっとりとするまでたたいて、大葉、葱、生姜に味噌で調味するのが「なめろう」の基本形。takabe20.jpg海況が優れず、前日の鯵となってしまったというのは残念だけれど、地の魚介を愉しむというのはそういうことと裏腹のことだもんね。 ただ、船上で獲り立ての魚をナタでたたいた漁師メシが起源の「なめろう」としては、まさに鮮度が生命線であることは間違いがない。 他に、鮑とあおり烏賊の「なめろう」も用意する予定だったのだけれど、と漁師町の料理人の気風に溢れる「ちどり」の大将。 それでも、鯵以外の「なめろう」を用意してくれていて、鯵に三分ほどの烏賊を織り交ぜて歯触りに変化を加える工夫もあれば、 takabe21.jpgtakabe22.jpg 「鰹のなめろう」や「イサキのなめろう」という手もある。 大葉を添えるのでなくて、茗荷を載せて握り風にするというのも悪くない。takabe23.jpg なるほどの出色だったのは、「栄螺のなめろう」。takabe24.jpg富浦産だというサザエの身がしこしこと柔らかで、たたき加減よろしく食感の嬉しい。 磯の風味に旨味の凝縮感があって、こいつぁお酒をいただかねばと周囲をきょろきょろ(笑)。 こうしてみると、魚介の旬を追って、なんでも「なめろう」にしてみちゃおうよ! なんてやや乱暴な想いも過ぎる。 青魚を対象とするのが「なめろう」の基本線かもしれないけれど、他に意外や「なめろう」にぴったりの魚介はないだろか。 脂を補うもの、食感を愉しくするもの、磯っぽさを添えるもの、甘さを足すもの、クリーミーさを助けるものなど、色々な二種類の魚介の掛け算で「なめろう」にたたいてみたい気もしてくる。 カルパッチョに仕立てる?オードブルに仕立てる?ユッケに仕立てる? そして、南房総の「なめろう歳時記」ができないかな。 その中からキラー・アイテムが生まれればもっといい。 あ、そうそう、「なめろう」になってるこのサザエ。 これってきっと、過日お邪魔した銀座「ヤマガタ サダンデロ」で奥田シェフのスペシャリテの食材となったサザエと同じ出自のものに違いない。 今回のプロジェクトの皆さんに対して奥田シェフが勉強会を行っていて、勉強会を終えたシェフはそのまま幾つかの食材を銀座へ持ち帰ったという。 それが、くにちゃんに水を吹き掛けた、そして「サザエと小松菜のみどりのスープ」に昇華したあのサザエなンだ。 いやはや、こんな偶然って、ないよねー(笑)。 そして、主題その二が「さんが焼き」。takabe25.jpg云わば、「なめろう」を大葉で挟んで炙り焼いたもので、これまた酒の肴にはもってこい。 鯵ばかりでなくて、例えば飛び魚の「さんが焼き」なんて手もある。 ご飯の友としても、文句なく旨いのだけれど、わざわざ足を運んで食べに来るような動機付けには確かに不足がある。 「さんが焼き」のドンブリを出す店もあるようで、ライスバーガーの具にもなったりしているらしい。 う~む。 「なめろう」「さんが焼き」以外にも、色々と郷土料理を用意いただいた。 鯵の「たたき」に「水生酢」、素朴かつ滋味深い「かつおの擂り流し」、鯖のエキスで仕立てた汁「かけのえ」にジャッジャと鍋を煽った浅蜊、地蛸のぶつ切り、しみじみする出汁と磯風味の浅蜊のお椀、 などなど。 takabe26.jpgtakabe27.jpgtakabe28.jpg アクアラインの値下げですっかり日帰り圏になった南房総だけれど、そこを敢えて一泊の宿をとり、ひとっ風呂浴びてから、こんな海辺の料理たちで一杯呑りたいものでありますなぁ(笑)。 4軒のご主人はじめ、プロジェクトの皆さん、お世話になりました。 プロジェクトではいよいよ、「南房総なめろう研究会」を立ち上げたようですね。 振り返り、鳥居越しに見上げる「高家神社」拝殿。takabe31.jpg料理の祖神のお膝元にはやはり、命を糧とすることへの感謝の念が滲むような、素材の魅力をより活かした、奇を衒わない実直な料理が似合うような、そんな気がいたします。 秋の一日のご一緒多謝は、 「日本食べある記」のぶれいぶさん 「築地市場を食べつくせ!」の築地王さん 「くにろく 東京食べある記」のくにさん 「春は築地で朝ごはん」のつきじろうさん 「フェティッシュダディーのゴス日記」のGenetさん 「Tokyo Diary」のromyさん 「色々だらだら」の魯さん の皆さんでした。お疲れさまでしたー。 口関連記事:山形イタリアン「YAMAGATA San-Dan-Delo」で山形食材じっくり(09年09月) 「高家神社」 南房総市千倉町南朝夷164 [Map] 0470-44-5625(社務所)  ※高家神社にお食事処はありません
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「料理祖神「高家神社」で 糧の供養の庖丁式となめろうさんが焼き」への4件のフィードバック

  1. なめろう歳時記は、ナイス発想!
    全部制覇したらナントカ・・・みたいなスタンプラリーみたいなのやったら楽しそうかも♪

  2. まさぴ。さま。
    きましたねっなめろう!
    烏賊も混ぜて食感をおもしろくするんだ。。
    ミョウガで握りになってるヤツにめちゃくちゃ惹かれます。そのまま蒸しても上品な薫りが立ちそうです。
    それにしてもまさぴ。さんの人物の写真が大好きです、動きがあって、緊張感が伝わってくるようです。

  3. Re;romyさま
    なんでも「なめろう」にしてみちゃえ!からの発想なんだけどね(笑)。
    4シーズンのなめろうを制覇したら、なんだろ、なにが貰えたらいいかな。
    高家神社の刻印のある庖丁?
    実物大なめろう携帯ストラップ(笑)?

  4. Re;laraさま
    茗荷のっけのヤツもいいよね~。
    そうか、なめろうを焼くんじゃなくて、蒸すっていう手もある!
    それって、やんが焼きじゃないよなぁ、なめろう蒸し、かなぁ(笑)。
    人物写真?いやいや、ありがとです。
    あういふ場面の写真って難しいねー、空気感がなかなか拾えないもんね~。

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